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インフレ・経済過熱防止の諸施策(4)

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2008年3月22日

記事概要

 1月の経済指標は、今後のインフレの昂進を予想させるものであり、人民銀行の出方が注目されている。一方で、スタグフレーションの懸念から人民銀行関係者の中でも慎重論が出始めており、金融政策は難しい舵取りを迫られている。

はじめに

 1月の経済指標は、今後のインフレの昂進を予想させるものであり、人民銀行の出方が注目されている。一方で、スタグフレーションの懸念から人民銀行関係者の中でも慎重論が出始めており、金融政策は難しい舵取りを迫られている。

 

1.1月の経済情勢

(1)物価

 1月の消費者物価は7.1%上昇し、1997年以来の高水準となった。

内訳では、都市は6.8%、農村は7.7%の上昇、食品価格は18.2%の上昇となった。食品価格のなかでは、穀物5.7%、油脂37.1%、肉類及びその製品41.2%、豚肉58.8%、卵10.3%、水産品8.7%、生鮮野菜13.7%、果物10.3%の上昇となっている。

(2)金融

 1月のM2は18.94%、金融機関の貸出は16.74%の伸び。新規貸出増は8036億元(年間目標の22.3%)と、再び銀行貸出が急増している。中長期の貸出は3900億元であり、歴史的な高額となった。

 人民銀行は2008年の新規貸出増を前年同額の約3.63兆元に抑え、1-3月期はその35%にあたる1.27兆元を抑制目標としていた。しかし、1月だけで目標の63%に達してしまったため、第1四半期目標の達成は困難となっている(中国証券報2008年2月19日)。ここ数年の1月の新規貸出増は4000-5000億元程度であり、今年は倍増したことになる(金融時報2008年2月18日)。

 人民銀行上海総本部によれば、1月の上海における新規貸出増は昨年1年の貸出額の5分の1を超え、個人住宅ローンは30.1億元増加し、昨年12月の2倍となった(金融時報2008年2月18日)。

(3)対外貿易等

 過剰流動性の原因となる1月の貿易黒字は194.9億ドル(前年同月比22.6%増)で、昨年4月以来9ヶ月ぶりに200億ドルを下回ったが伸びは依然高水準である。輸出は26.7%増、輸入は27.6%増であった。1月の直接投資実行額は112億ドル(前年同月比109.78%増)とこちらも高水準である。

(4)株式市場

 2007年10月16日の上海市場総合株価指数6124.04をピークに下落を開始した。1月15日から更に大幅下落が起こり、28日までの10日間に1100ポイント下落し、上海・深圳A株市場の損失は6.37兆元にも及んだ。

(5)大雪・寒波

 2月23日の発表では直接経済損失は1516億元に膨らんだ。被害は21省、死亡129人、行方不明4人、緊急避難166万人である。農作物被害面積は約1200万haに及ぶ。倒壊家屋は48.5万軒である(共同2008年2月25日)。

 

2.消費者物価上昇の原因

 国家統計局の姚景源チーフエコノミストは、次の3点を挙げている(新華網2008年2月19日)。

①春節(旧正月)の要因

 例年、春節の前は食品類の価格が一定程度上昇している。今年の春節は2月であったため、価格要因が1月に反映した。

②雪害

 1月は、稀に見る雨・雪・凍結災害要因が発生した。

③昨年1月の要因

 2007年1月の消費者物価上昇率は2.2%にすぎず、ベースが低かった。

 

3.貸出急増の原因

(1)金融時報2008年2月18日

 次の5つの要因を指摘している。

①商業銀行のパフォーマンス

 毎年、商業銀行は早く貸し出して早く収益を得ることを望んでいる。一般的には、年初に貸出が集中するという傾向が顕著である。

②引締め気味の金融政策

 昨年末に開始された引き締め気味の金融政策により、最後の2ヶ月の新規貸出増は前年同期比で伸びが2718億元減少し、12月の新規貸出増は400億元にすぎなかった。少なからぬ商業銀行が、圧縮された貸出を年初に振り向けた可能性がある。

③商業銀行の貸出衝動

 商業銀行の超過準備率が3%に接近する背景の下、経営圧力の影響を受け、中央銀行が貸出をかなり厳格にコントロールしても、商業銀行はなお貸出衝動を抑制できなかった可能性がある。

④企業の資金需要

経済に内在する成長への動力が依然強く、企業の資金需要がかなり高い。

⑤災害対策・再建

 5大国有商業銀行だけでも100億元近い貸出を行っている。

(2)中国証券報2008年2月19日、2月15日

 1月の新規貸出の大幅増の原因は、昨年2-3ヶ月貸出を抑圧した分が1月に集中的に貸し出されたことにある。多くの銀行は、今年の下半期に管理層が再び貸出制限を行うのではないかと心配し、年初に急いで貸出を行ったのである。春節は資金需要が大きく、金融が緩和されるので、銀行はこの機会を利用して貸出を行った。

 あるアナリストは、季節的要因を除けば上に述べたような行政のコントロールと銀行の予想が、貸出の猛烈な増大であると考えている。「行政のコントロールは効果が速く現れ、一刀両断の効き目があるが、容易に反動増が生じるのが特徴であり、乱高下が容易に発生してしまうのである。今後数ヶ月、貸出の引締めを引き続き行政コントロールにより実施すべきか、反省する必要がある」とする。

 国泰君安収益アナリストの林朝暉は、「新規貸出の急増は、一面において経済に内在する成長への動力が依然強いことを表しており、他面では銀行が元々の『年末に貸出を圧縮し、年初に貸し出す』対抗戦略を『四半期末に圧縮し、四半期の初めに貸し出す』策略に調整することによって、中央銀行のコントロールの効力を弱体化させたのではないか」と指摘している。

(3)上海証券報2008年2月15日

 ある銀行業の上層部は、「1月に新規貸出増が空前となった主要原因は、昨年第4四半期に開始された緊縮的な貸出抑制政策によって、すでにサインは行ったがまだ貸出が行われていなかった契約がストップとなり、新年度開始によりこの元々の契約による貸出が集中的に行われたことによる」と語っている。

 

4.輸出の伸びの鈍化の原因

 国家発展・改革委員会のエコノミストである王小広は次のように指摘している(上海証券報2008年2月21日)。

(1)緩慢化の4大要因

①主動的な輸出政策の調整が、輸出入の鈍化を促した

 わが国製品の比較優位は依然かなり明白なので、構造的な輸出税還付率の調整は2つの積極的効果を生み出した。第1に、輸出の推進力を減じ、一般貿易の伸びを合理的に調整した。第2に、「エネルギー多消費・高汚染・資源性」製品の輸出を抑制し、国内の資源・環境保護圧力を緩和した。

②米国の経済成長の巨大な不確定性が、2008年の輸出調整の深度を決定する重要要因とな

 る

 2007年、米国のわが国製品に対する需要は明らかに緩慢となり、わが国の対米輸出の伸びは14.4%と2006年に比べ10ポイント鈍化し、ここ数年で最低となった。我々は2008年も引き続き鈍化すると予想している。また間接的にEU・日本などのわが国への輸入需要も鈍化するだろう。2008年の対米輸出の伸びは10%以下に低下する可能性があり、対EU・日本輸出も同歩調で鈍化するならば、わが国の輸出の伸びの調整は激化することになろう。

③周期的な要因の影響により、輸出の伸びが世界経済のサイクルと明らかに連動している

 これは加工貿易の伸びにかなり明白に反映している。加工貿易輸出は2005年以降伸び幅が鈍化したが、これは米国・世界経済の調整と一致している。一般貿易輸出の伸びは依然高止まりであるが、これは主として国内投資が長期にわたり速すぎる発展をとげた結果形成された生産能力過剰が輸出を通して消化されているためである。我々は一般貿易輸出の伸びに周期的変化が現れたと考えており、2008年は徐々に鈍化するが反落の余地はさほど大きくはないとみている。

④内外の企業所得税の統一政策が実施されることにより、外資の輸出の伸びにも一定の圧力が加わる

 以上の要因の影響を総合的に分析すると、2008年の輸出の伸びは18%前後に反落し、輸入の伸びは19%前後に鈍化すると予想される。貿易黒字は引き続きある程度拡大するが、伸び幅は明らかに鈍化し、2008年の貿易黒字は3200億ドル前後(22%の伸び)と予想される。

(2)貿易均衡のための政策提言

 次の4方面での政策の採用を提言する。

①国内の投資の速すぎる伸びを引き続き抑制し、強すぎる輸出推進力を減殺する

②「エネルギー多消費・高汚染・資源性」製品の輸出税還付水準を引き続き引き下げ、あるいは生産能力過剰が明らかな「エネルギー多消費・高汚染・資源性」製品の輸出関税水準を引き上げる

③人民元の切り上げ速度を緩和し、人民元レートの変動区間を適切に拡大する

 もし外部の衝撃が強すぎる場合には、人民元の合理的な切り下げを促進してもよい。

④外資導入の観念を速やかに転換し、地方政府の外資導入嗜好を徐々に減殺する

 

5.樊綱の慎重論

 中国経済改革研究基金会国民経済研究所の所長であり、人民銀行の貨幣政策委員でもある樊綱は、人民日報の取材に対し状況の変化に応じた引き締め気味の金融政策の調整の可能性を示唆し、株価が一時反発する等の波紋を呼んでいる(人民日報2008年2月14日)

(1)操作の上では、金融政策は2007年にすでに引き締めに向かっていた

 穏健な金融政策は、マネーサプライの成長速度を経済成長の需要に符合させるものであり、総需要を拡張するのか収縮させるのかは不明確である。しかし、引き締め気味の金融政策は、マネーサプライを適度に収縮し、総需要の規模を抑制するものである。現在、外貨準備が大規模に増えている背景下で、マネーサプライの成長速度が過度に速まることを防止しなければならない。

 操作の面では、流動性の伸びが速すぎインフレのリスクが増大する現実状況が出現したため、2007年の金融政策は実際のところ既に引き締めに向かっていた。10回の預金準備率の引上げ、6回の利上げ、大がかりな公開市場操作による不胎化政策、人民元レートの切上げといった金融政策は、いずれも「引き締め気味」の特徴を備えている。高次の政策決定面では、2007年初の「穏健な金融政策」から、年度途中に「穏健な中にも適度に引き締め気味の金融政策」が提起され、年末には「引き締め気味の金融政策」が提起されたが、これは政策決定者が情勢の変化に基づき政策の方向を適切かつ明確に調整したのである。「引き締め気味の金融政策」の提起は、現在の金融政策の具体的操作の方向を是認したものであり、今後の金融政策の調整方向を明確にしたものである。

 近年、経済運営において相互に関連する3つの問題が出現した。

①対外貿易黒字と貯蓄がかなり速く伸びているため、外貨準備の増大がかなり速くなり過剰流動性の可能性を生み出した。

 毎年4000-5000億ドルの外貨準備の増大によりベースマネーの放出が過剰となっていることに対応するため、引き締め気味の金融政策を実行しなければならないのである。

②貯蓄率が高すぎるため、投資が高水準で行われ、経済成長速度がかなり速くなっている。

 過熱への転換を防止するため、引き締め気味の金融政策を実行し、貨幣購買力の下支えによる総需要の急速な伸びを防止しなければならないのである。

③今からすると、昨年の物価上昇は主として外部からの輸入コストがプッシュした価格上昇に属するものであったが、マネーサプライの伸びが速すぎると貨幣の購買力が総需要の膨張をもたらし、物価上昇が他の領域に波及する可能性がある。

 全面的なインフレへの変化を防止するため、引き締め気味の金融政策を実行しなければならないのである。インフレは結局のところ一種の貨幣現象であり、インフレを誘発する具体的・直接的原因が何であれ、マネーサプライの速度を抑制すればインフレを抑制する効果がある。

(2)状況が変化すれば、政策も当然相応の調整を行うべきである

 金融政策を含むマクロ経済政策はいずれも短期政策に属するものであり、状況が不断に変化するなかで総需給の均衡を維持しなければならない。このため、マクロ経済政策の重要な特徴は、時機を見て選択し、不断に調整を行うことである。国際・国内情勢に変化が発生すれば、我々は当然実情に基づき政策の方向・程度についてタイムリーに調整を行うべきであり、マクロ政策を長期戦略として実施すべきではない。以前我々はマクロ政策を過度に硬直化させた教訓を有している[1]。状況の変化には、その他の国家の経済政策による反応も含まれる。なぜなら、グローバル化の条件の下では、その他の国家の経済政策が一国の経済情勢に影響を与える重要要因であるからだ。私個人は、現在の金融政策の大きな方向はなお引き締め気味とすべきではないかと思っている。しかし、異なる時期には状況の変化に応じて程度を変えてもよい。私は政策決定者がこれを適切に把握していると信じている[2]

 同時に、我々は新たな変化に過度に反応し、パニックを起こすべきではない。米国の今回のサブプライムローン危機は深刻であり、不動産バブルの破裂の影響はまだ十分には現れていないが、米国経済・主要先進国経済に深刻なマイナス影響を及ぼし、わが国に波及する可能性がある。しかし、一面において米国政府・FRB・先進国政府は共同して経済を刺激するマクロ政策を発動しており、衰退(マイナス成長)は回避される可能性がある。他方で、対米輸出がわが国の総輸出に占める比重は既に20%以下に低下しており、アジア・太平洋地域・産油国(これらはわが国の輸出の約50%を占める)はかなり良好な成長を続けており、わが国の対EU輸出も為替レートの変化を要因に増加している。総じて言えば、外部市場の変化はさほど大きくはない。

 氷雪災害はわが国の一部の地域の生活・生産に大きな影響を及ぼしたが、総じて言えば短期的・局部的であり、災害救済・被災地域の再建はそもそも需要を拡大するものである。

 以上のことを総合的に考慮する必要がある。

 米国の金融危機は、貿易ルートを通じてわが国の成長を鈍化させる可能性があり、資本・金融面ではわが国は一層の過剰流動性と投資過剰問題に直面する可能性がある。米国の経済刺激策はドルの氾濫をもたらし、利下げは人民元レートの切り上げ圧力を増大させ、ホットマネーの流入規模が増大する可能性がある。これが、わが国の金融政策が緩和できず、流動性の伸びを抑制する措置を採用している1つの重要原因である。

(3)わが国の預金準備率は理論上、その他の国家よりいくらか高くできる

 多くの国家の中央銀行は、預金準備金に利息を付していないが、わが国は付しており銀行に与える損失は相対的に小さい。加えて、わが国の銀行システムには事実上「法定された」預金・貸出金利差が存在している。このため損益均衡点に基づき計算されたわが国の預金準備率は、その他の国家よりそもそもいくらか高くできるのである。当然、この所まで引き上げるか否かは、多くの具体的状況に基づき決定されるものである。

(4)金利を変動させるか否かの決定には多くの要因がある

 わが国の現在の金利水準は相対的にかなり低く、物価水準は相対的にかなり高い。一部の短期預金の実質金利はなおマイナスとなっており、この意義からすれば経済の利上げ圧力が存在する。

 しかし、利上げをするか否かはその他の要因を勘案しなければならない。開放経済の条件下では、一国の金融政策はその他の国家の金融政策を考慮しなければならない。例えば、FRBが持続的に利下げを行えば、わが国の金融政策の手段選択は影響を免れがたい。もしこの要因を考慮しなければ、国際投機資本の流動が増大する可能性がある。

 他面で金融政策の手段において、金利による作用と数量調節による作用の効果は時に一致することがあり、どうしても金利調整を通して目的を達成しなければならないとまでは言えない。その他の数量調節手段をより多く用い、金利手段をより少なく用いるかどうかは、政策決定当局が時機を見て選択する必要がある。

(5)人民元を一気に妥当な水準まで切り上げるのは不可能であり、安定的な発展政策に資する選択でもない

 人民元レートを一気にどこまで切り上げれば妥当な水準に達したといえるのか、言い換えれば安定的な均衡為替レートの水準はいったいどこなのかは、静態的な分析では確定できない。ある国家は人民元を27%切り上げるべきだと主張する[3]。しかし、本当に一気に27%切り上げてしまえば、生産活動はその国に戻るわけではなく(当然、その他の発展途上国に移転する可能性がある)、結果としてその国家の貿易赤字問題を解決はできない。すると、彼らは遠からず再度人民元の一層の切り上げを要求してくる可能性がある。更に重要なことは、ドルが不断に切り下がっていることであり、こちらが切り上げてもドルはまた切り下がる可能性があり、均衡レート水準は再び変化してしまうということである。

 第2に、均衡レート水準がどこかが分からない状況で人民元を大幅に動揺させると、大規模な投機性資本流動を誘発し、経済に大きなマイナス作用をもたらすことになる。わが国のように金融システムがまだ成熟していない発展途上国にとってみれば、このようなリスクは、現在の徐々に小幅にレートを切り上げ漸進的に調整する場合のリスクと比較して、少なくとも小さいとはいえないだろう。このため、私個人は人民元レートは経済発展に伴い漸進的にコントロール可能な方法で切り上げ、一定の時間をかけて相対均衡水準に徐々にもっていくべきであり、経済金融の安定の喪失を代償にしてまで一気に切り上げることはできないと考えている。

 そこで、「小幅の切上げ」の幅をどれくらいにするかを具体的に検討する必要がある。昨年の人民元の切上げ速度は社会の予想を上回っていたが、この重要な原因は昨年のドルの切下げが加速したことである。もしドルの切下げ要因を除けば、昨年の人民元レートは依然小幅に切り上がっており、これは「ホットマネー」の流入抑制に積極的な役割を果たした。

 今年人民元の切上げ速度をどれくらいにするかは、内外均衡関係の実情の変化に基づき時機をみて選択するとともに、ドルの切下げの速度も見なければならず、現在固定した数値を決定する必要はない。

(6)数量コントロール手段は応急措置であり、時にはなお必要である

 貸出に対する「窓口指導」は、確かに数量を直接コントロールするという特徴を備えている。市場経済体制が徐々に整備されていくプロセスにおいては、中央銀行はその他の政策手段を更に多く用いるべきである。この方向は明確にしておくべきである。しかし、我々の現行体制はまだ不完全であり、多くの投資主体は金利に敏感ではなく、銀行業も「行政措置」による保護(例えば預金・貸出金利差の存在)を受けている。このため、一定の状況下では直接の数量コントロール手段はなお必要である。これは一種の応急措置である。

 

6.人民銀行第4四半期貨幣政策執行報告

 2月22日、人民銀行は10-12月期の金融政策の報告を発表した。そのポイントは以下のとおりである。

 

 6.1 国際経済金融情勢の展望

(1)2007年1-9月期の力強い成長の後、金融市場の持続的な動揺の影響を受け、世界経済の拡張は鈍化をはじめたが、総体としての経済の基本面は依然穏健である。

(2)米国のサブプライムローンが爆発して以来、世界の金融市場の波動はかなり大きい。

(3)取り扱いの多い農産品・石油・金等の価格の大幅な上昇の影響を受け、世界のインフレ圧力は増大している。

(4)サブプライムローンの衝撃波に対応するため、FRBは連続して利下げを行い、ドルはユーロ・円等の主要通貨に対して持続的に切り下がっており、ドルの切下げはユーロ等の主要通貨の上昇圧力を増大させ、EU内部に保護貿易主義の感情が再び台頭している。

(5)欧米は、新興ソブリンウェルスファンドに対する防御を強化し、貿易摩擦は不断に激化しており、世界経済の健全な発展と世界的アンバランスの秩序だった調整に不利な影響を与えている。

 

 6.2 中国マクロ経済の展望

(1)2008年、工業化・都市化・国際化と産業・消費構造のグレードアップ等の要因が共に推進されることにより、国民経済はなおかなり速い成長が維持できるものと見込まれるが、内外経済の不確定性が増大するに伴い、経済成長は高成長から適度に鈍化する可能性がある。

(2)投資の伸びの速すぎる勢いは鈍化が見込まれるが、なおかなり速い伸びを維持する。

 2007年下半期以降、新規着工プロジェクトの総投資計画額と施工中のプロジェクト総投資計画額が再び急速に伸びている。2007年の都市固定資産投資の施工中のプロジェクト総投資計画額は26.1兆元(前年同期比21.3%増)、新規着工プロジェクトの総投資計画額は8.6兆元(同28.7%増)となっている。

(3)消費需要は穏健な中で上昇に向かう

今後消費拡大・民生改善を中心とした各種政策の続々と打出され実施されることにより、消費環境は不断に改善し、庶民の消費意欲が更に強まることが期待される。しかし、注意しなければならないのは、物価上昇が一定程度庶民の消費需要を抑制する可能性があるということである。

(4)貿易黒字はなおかなり高水準を維持するが、速度は徐々に鈍化すると見込まれる

 今後一時期、わが国の貿易黒字の速度は鈍化する可能性はあるが、国際分業構造の調整と国内貯蓄率のかなりの高さという深層の構造的問題が根本的に解決されていない状況では、貿易黒字はなおかなり高水準を維持するだろう。

(5)インフレ圧力は依然かなり大きい

総体としてみると、外部からの価格伝播とインフレ期待がかなり強いことにより、今後一時期のインフレはかなり高水準を維持する可能性がある。

 

 6.3 2008年の金融政策の方向

 引締め気味の金融政策を真剣に実施し、コントロールの予見性・有効性を強化し、多様な金融政策手段を総合的に用いて、貸出の速すぎる伸びを抑制し、期待の誘導を重視する。かつ、内外経済金融情勢の変化に基づき、コントロールのテンポ・程度を科学的に把握し、適時適度に微調整を行い、経済成長と構造調整のために平穏なマネー・金融環境を作り上げるよう努力する。

(1)不胎化措置を総合的に用い、引き続き流動性の管理を強化する

 引き続き公開市場操作・預金準備率等の政策手段を組み合わせ、銀行システムの流動性を回収し、金融機関の貸出拡張能力を抑制する。マクロ・コントロールの要請に基づき、手段の組み合わせ・不胎化の程度を確定し、不胎化の効率を高める必要がある。

(2)価格的手段を合理的に用いてコントロールを実施する

 内外のマクロ経済・金融情勢の変化に基づき、金利を妥当に運用し、その需要膨張の抑制とインフレ期待の安定化における役割を発揮させる。同時に、金利の市場化改革を着実に推進する。

(3)管理された変動レート制度を整備する

 国際収支の調節と経済のバランスのとれた成長の促進における、為替レートの役割を更に発揮させる。

(4)金融機関に対する窓口指導と貸出政策のガイドラインを引き続き強化する

 金融機関に対し、貸出政策の管理とリスク防止を強化し、資金の貸出構造・進度・テンポを合理的に配置するよう提示する。不動産融資のコントロール政策措置を深く実施する。

 

 6.4 構造改革の必要性

 不胎化政策と貸出抑制の強化等の措置は、流動性の不断の生成と経済の構造的問題を決して根本的には解決できず、主として経済成長と構造調整のために平穏なマネー・金融環境を作り上げることにあるということを見てとるべきである。構造改革を強化し、できるだけ速やかにバランスのとれた成長のための根本的解決において、新たな進展・ブレークスルーを勝ち取り、国際収支の均衡化を促すべきである。

 現在の経済がかなり速い成長を続け、財政収入が大幅に増加している好機をうまく利用し、消費内需の拡大を主とした一連の構造的政策を早急に実施し、具体的措置を深化・細分化・強化しなければならない。

(1)国民所得における庶民の所得の比重を高め、全方位的に消費市場を開拓する

(2)公共財政への転換を加速し、公共消費支出を増加し、社会保障体系を整備する

(3)個人総合所得税等の改革を推進し、科学的発展観に資する財政・税制を実行する

(4)政府貯蓄を徐々にコントロールし、投資における市場メカニズムの主導的な役割を発揮させる

 民間投資を医療・衛生・教育・文化等のサービス領域に参入させ、住宅供給を増加し、不動産産業の健全な発展の維持に配意する。

(5)企業の内部留保比率を適切に引き下げるよう奨励し、分配関係を改善する

(6)対外貿易・外資・産業政策の調整・規範化を引き続き強化する

(7)資源・要素価格メカニズムを改革し、環境保護・労働保護の基準を向上・強化して、経済発展の方式の転換を促進する

 

7.人民銀行 易綱副行長

 2月24日、次のように語っている(中国証券報2008年2月25日)

(1)インフレの防止は、依然として今年のマクロ・コントロールの第一の任務である

 米国のサブプライムローン危機の影響の更なる拡大と国内の氷雪災害に対しては、引き続き穏健な財政政策と引締め気味の金融政策を堅持しなければならない。中央銀行は、引締め気味の金融政策を実施し、経済の良好で速い発展を促進し、総合的に手段を採用してインフレを受容可能な範囲内に維持する。

(2)マネーサプライの伸びを密接にモニターし、多様な金融政策手段を総合的に運用して、貸出の速すぎる伸びを抑制しなければならない

①引き続き公開市場操作と預金準備率を組み合わせる方式により、流動性の不胎化に力を入れる。

②窓口指導を通じて指導と道義的勧告を行い、商業銀行が貸出を合理的に抑制するよう誘導する。

③農業・農村への貸出支援を強化し、災害後の生産回復と春季の耕作のための各種金融サービス活動を行う。

(3)経済総量が増大する前提の下で、2008年のM2の伸びは16%前後、銀行貸出の伸びは2007年より低く、2008年のGDP成長率は10%前後と予想している

(4)市場の需給を基礎に通貨バスケットを参考とした、管理された変動為替レート制度を引き続き整備し、人民元レート形成における市場需給の基礎的作用をさらに発揮させ、人民元レートの弾力性を増強し、合理的で均衡のとれた水準での人民元レートの基本的な安定を維持する

(5)資本規制は、資本の大規模な流入を根本的には排除できない

 局部的な資本規制は、開放経済においての作用は有限である。

(6)人民元の対外的切上げと国内での価値下落は矛盾せず、同方向へ調整するための2つのルートである

 今は価格が安いがもう少し高くしてもよいもの[4]については、人民元レート切上げと価格上昇の2つのルートで調整を行う。(2008年2月記・10,535字)


 


[1]  これは、5ヵ年計画の既定方針に基づき、97年の景気後退期に引き締め気味の財政・金融政策を継続し、2003年の経済過熱期に緩和基調の財政・金融政策を継続した反省を意味しているのであろう。
[2]  彼の属する貨幣政策委員会は、日本の旧日銀法時代の政策委員会に類似しており、金融政策の決定権は有していない。
[3]  これは米国を指しているものと思われる。
[4]  例えば、資源価格を指しているものと思われる。

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