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中国経済下降への不安

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2008年5月11日

記事概要

 4月1日に公表された「国務院2008年活動要点」では、これまでの「経済過熱の防止」と「インフレ防止」に加え、新たに「経済の下降の防止」がマクロ政策目標として盛り込まれました。この背景について、解説します。

はじめに

 国家統計局は410日、2006年の実質成長率を11.6%、2007年を11.9%と、それぞれ0.5ポイント上方改定した[1]。どちらも0.5ポイントというのはいかにも不自然であり、2007年の改定値が高すぎたため、2年間に均等配分したのではないかとの疑問が残るが、いずれにせよ、2007年の成長は12%に迫っていたわけである。

 他方で、41日に発表された「国務院2008年活動要点」は、これまでの2つの防止(経済過熱防止・インフレ防止)に加え、「経済下降の防止」を始めて打ち出した。これについて、中国証券報200849日は詳細な解説を加えている。中国経済のどこに懸念が出ているかがよく整理されているので、以下記事の内容を紹介しておきたい。

 

 41日に発表された「国務院2008年活動要点」の中で、国務院は「経済の下降を防止しなければならない」と提起した。これは、近年初めてのことである。これは、わが国の政府が最近の内外経済環境を総合的に考慮し、マクロ・コントロールの任務について下した最新判断であり、今年のマクロ・コントロールが更に柔軟性を重視しなければならないことを体現するものである。

 

1.新たな状況・新たな問題は注意に値する

 わが国のマクロ・コントロールの目的は、経済のかなり速く、平穏で健全な発展を維持することにある。「高インフレ・高成長」を防止しなければならないが、「高インフレ・低成長」はなおさら避けなければならない。現在、内外に出現した新たな状況・新たな問題は我々が高度に重視するに値する。

(1)世界の経済成長は明らかに鈍化しており、米国経済は後退に陥る可能性がある

 数々の事象は、今年の世界経済の成長速度が明らかに鈍化していることを示している。米国のサブプライムローン危機に代表される外部リスクの上昇は、わが国の経済成長に対する重大な試練となっている。FRBのバーナンキ議長は42日議会において、国内不動産市場と金融市場の危機に足をとられ、米国経済に後退が出現する可能性があることを初めて公式に認めた。わが国の経済は対外依存度が高く、世界経済とりわけ米国の経済成長が鈍化すると、中国の輸出を大幅に下降させ、わが国経済の高成長にも影響を与えることになる。

(2)国際的な穀物・燃料価格が不断に上昇している

 世界銀行が41日に発表した「東アジア経済半期報」は、「不断に上昇する穀物・燃料価格は、東アジア地域の目下の最大の試練であり、この試練は米国の金融危機と世界経済の鈍化以上に大きい」と指摘している。確かに、現在のサブプライムローン危機はなお底をうっていないが、これと同時に東アジア各国の物価上昇は警戒水準に達しており、商品価格は日増しに高くなり一向に緩和されていない。専門家の予測では、商品市場は近いうちに波動が生じる可能性があるが、国際市場の金属・穀物・原油価格はかなり長期に高止まりするだろうとされている。これはまぎれもなく、わが国経済の健全な発展に不利である。

(3)わが国の経済成長を牽引してきた3頭立ての馬車の1頭―輸出が重大な試練に直面している

 上述のように、世界経済の成長減速は中国への外需を明らかに低下させる。加えて、輸出税還付政策が何度も調整され、国内の労働力コストが上昇し、人民元レートの上昇が加速し、燃料・原材料価格が上昇し、貸出金利が上昇し、国際運賃が上昇する等の一連の要因により、現在わが国の沿海地域の輸出志向型企業の困難は激化している。一部の中小企業は存続の危機に直面しており、輸出が直面する情勢は十分峻厳である。

(4)3頭立て馬車の2頭目―わが国の投資の伸びは厳格に抑制されている

 今年の引締め気味のマクロ・コントロールにおいて、投資の伸びが速すぎることが重点的な抑制の対象となっている。このほか、わが国の株式市場の持続的大幅な下落も一定程度企業の投融資に影響を与えることになる。

(5)3頭立ての馬車の3頭目―わが国の消費の伸びには一定の障害がある

①株式市場の激烈な動揺は、ある程度都市住民の消費支出意欲を減退させる

 今年の第1四半期、上海証券取引所総合指数は37.63%下落し、ここ15年で四半期としては最高の下げ幅となり、同時期に世界で最も大幅に下落した。株式市場の大幅な下落は、投資家が所有する株式の市場価値を急激に縮小させており、彼らの消費支出傾向も明らかに低下している。ACニールセンが最近発表した調査データは、この推論を証明している。

②農村・農民の消費能力には明白な上昇が見られない

 昨年以来、国家はかなり大幅に「三農」への支出を増加させた。しかし、一部の地域では、「三農」支援の政策が未だ実施されておらず、「三農」支援の資金は各レベルの末端幹部の食い物となっている。加えて、各種の農業生産財・消費品が値上がりしており、農民が国家の関連政策から受ける利益は大きく減殺されている。これも、農民の所得水準と消費支出の上昇が緩慢な原因を側面から説明するものである。

 

2.下降を防ぐには、早急に準備を行う必要がある

 上述のように、わが国は依然経済のかなり速い成長を維持する基盤はあるものの、最近顕著となったわが国の経済成長に不利な新たな問題は軽視できない。マクロ・コントロールは、経済の過熱を防止するとともに、わが国経済のダウンサイド・リスクを防止しなければならない。

(1)マクロ・コントロールは柔軟・適度なものとし、人民元の切上げを過度に速めてはならない

 現在の内外経済情勢の発展には不確定要因がかなり多いため、マクロ・コントロールは新たな状況・新たな問題を密接にフォロー・分析し、情勢の動きをよく観察し、タイムリーかつ柔軟に対応策を採用しなければならない。マクロ・コントロールのテンポ・重点・程度を正確に把握し、経済に乱高下が出現することを回避しなければならない。

 このほか、わが国の輸出情勢は峻厳であり、人民元の切上げを過度に速めてはならない。我々が最近行った関連実証研究では、人民元の切上げは物価上昇に対して一定の抑制作用があるものの、効果はあまり明らかではないことが分かっている。短期間で大幅に切り上げることには、わが国の輸出と雇用情勢を悪化させるかもしれないというリスクが存在する。

(2)多様な政策を協調的に組み合わせ、コントロールの過程において出現した新たな問題をうまく解決しなければならない

 引締め気味の金融政策が解決するのは、主として総量問題である。今年の貸出の厳格な抑制策は、物価上昇と投資の速すぎる伸びを抑制するのに積極的な役割を発揮した。しかし、個人・中小企業といった弱体業種の合理的な投資需要にクラウディング・アウト効果をもたらした。貸出総量が抑制されている状況下では、商業銀行は必然的に中小企業・個人向けの貸出を減少させ、強者・大口顧客への貸出を増加させるからである。

 現在の実情は、交通・運輸、電力、重厚長大の製造業等の業種がなおも銀行貸出の重点であり、わが国の経済発展のために強化が必要な中小企業・自主的なイノベーション・省エネ・環境保護・三農等の脆弱部分は、依然として有効な融資支援が受けられ難くなっている。このため、厳格な貸出規模抑制の前提の下、その他の政策・措置を組み合わせることにより、貸出総量の抑制が国民経済の調和のとれた均衡発展にもたらすマイナス影響を減少させることを考慮すべきである。

(3)マクロ・コントロール政策の執行を適切に強化し、各種政策・措置が実施されることを確保しなければならない

 中央政府のマクロ・コントロール政策は正確・果断である。しかし、一部の地方政府は政策の執行に力を入れず、マクロ・コントロールの効果が大きく減殺されている。わが国政府は「三農」施策を十分重視してきた。しかし、その他の産業の急速な発展と比較すると、わが国の農業の基礎は依然脆弱であり、「三農」問題は克服困難な不治の病のようになっている。その重要な一因は、中央の関連政策が末端で真に実施されていないことにある。このため、関連政策の実施状況と農業への資金投入状況の審査を適切に強化し、農業・農民が真に利益を受けられるようにすることを建議する。

(4)「2つの手」を正しく位置づけるよう注意すべきである

 マクロ・コントロールのプロセスにおいて、「見えざる手」(市場調節)と「見える手」(政府の関与)の機能を切り分け、「見えざる手」の役割をより多く発揮させなければならない。物価の急上昇を抑制するに際しては、わが国の一部の生産要素の価格が相対的にかなり低く、現在の物価上昇にコスト・プッシュ要因が含まれているため、ひたすら行政手段により物価を抑制するべきではなく、精粗を工夫することに注意を払うべきである。

 一方では、独占業種に早急に競争を導入し、その製品・サービスの高価格を引き下げ、総体的な物価水準の引下げに貢献させなければならない。また、一方では市場に順応し、物価動向に基づき適時・漸進的に生産要素の価格管理規制を緩めていかなければならない。投資の伸びが速すぎることを抑制するに際しては、わが国の市場経済の発展の方向と国有投資と市場化投資の効率が異なることに照らし、国有投資・政府投資を重点的に抑制するとともに、市場化投資の管理規制を緩めることを建議する。

20084月記・3,781字)

 
 


 

  

      [1]  これに伴い、2006年の名目GDP211923億元(1次産業・2次産業・3次産業の構成比は11.348.740.0)、2007年は249530億元(同11.348.640.1)と訂正された。なお、2006年については最終確定値、2007年については初歩的な精査結果とされており、2007年の数値は更に変更される可能性がある。

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