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国務院内部の権限配分

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

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2008年5月2日

記事概要

 政府機構改革を踏まえた「2008年活動要点に関する国務院通知」が3月29日に公布された。これによって、新設された部がどのような事務を所管するのかがある程度明らかになった。以下、その事務分担の概要を紹介する。

はじめに

 政府機構改革を踏まえた「2008年活動要点に関する国務院通知」が329日に公布された。これによって、新設された部がどのような事務を所管するのかがある程度明らかになった。以下、その事務分担の概要を紹介する。

 

1.国務院の事務分担

 57の事務が次のように分担されている。

 

 1.1 マクロ・コントロールをうまく行い、経済の平穏でかなり速い発展を維持する

(1)マクロ・コントロールの強化・改善:国家発展・改革委主導

(2)穏健な財政政策を引き続き実行:財政部、国家発展・改革委、国家税務総局

(3)引締め気味の金融政策を実行:人民銀行、銀行業監督管理委、外貨管理局等

(4)物価総水準の速すぎる上昇を防止:国家発展・改革委主導

(5)寒波・氷雪災害の復旧作業:国家発展・改革委主導

 

 1.2 農業の基礎建設を強化し、農業の発展と農民の増収を促進する

(6)穀物生産の発展と農産品供給の保障に注力:農業部、国家発展・改革委、財政部等

(7)農業と農村インフラ建設を強化:国家発展・改革委、水利部、農業部、国土資源部

 等

(8)農民の増収ルートを開拓:農業部、国家発展・改革委、扶貧弁公室等

(9)農業の支援政策を強化・整備:財政部、国家発展・改革委、農業部等

10)最も厳格な耕地保護制度を堅持:国土資源部主導

11)農業科学技術の普及とサービス体系の整備:農業部、科学技術部等

12)農村改革の全面的推進:農村総合改革工作小組

 

 1.3 経済構造調整を推進し、発展方式を転換する

13)投資と消費の関係を調整:国家発展・改革委、財政部、商務部、国土資源部、工商総局等

14)産業構造の改善・グレードアップの推進:国家発展・改革委、工業・情報化部

15)国家中長期科学・技術発展計画要綱の真剣な実施:科学技術部、国家発展・改革委、工業・情報化部等

16)国家のイノベーション体系の建設推進:科学技術部、国家発展・改革委、工業・情報化部等

17)国家の知的財産権戦略の実施:知識財産権局主導

18)地域の調和ある発展の促進:国家発展・改革委、財政部、扶貧弁公室等

 

 1.4 省エネ・汚染物質排出削減・環境保護を強化し、製品の質の安全活動をしっかり行

  う

19)省エネ・汚染物質排出削減・環境保護を強化:国家発展・改革委、環境保護部主導

20)土地の節約・集約使用を大いに推進:国土資源部主導

21)製品の質の安全活動を強化:衛生部、国家質検総局等

 

 1.5 経済体制改革を深化し、対外開放水準を高める

22)国有企業改革を推進:国有資産監督管理委、工業・情報化部、財政部

23)財政・税制体制改革の深化:財政部、国家税務総局、国家発展・改革委

24)金融体制改革の加速:人民銀行、金融監督管理機関等

25)対外貿易発展方式の早急な転換:商務部、財政部、国家発展・改革委、税関総署等

26)外資の一層上手な利用:商務部、国家発展・改革委

27)企業の対外投資・協力の発展を誘導・規範化:商務部、国家発展・改革委

 

 1.6 社会建設を一層重視し、民生の保障・改善に力を入れる

28)義務教育費用の免除を普遍的に実行:教育部主導

29)職業教育を大いに発展:教育部主導

30)高等教育の質の向上:教育部主導

31)教育の改革・イノベーションの推進:教育部、財政部、人力資源・社会保障部

32)都市・農村住民をカバーする医療保障制度の速やかな建設:人力資源・社会保障部、衛生部、民生部、財政部

33)公衆衛生と都市・農村医療サービスシステムの整備:衛生部、国家発展・改革委、財政部、人力資源・社会保障部等

34)人口・計画生育活動の強化:人口計画生育委員会主導

35)就業拡大に努力:人力資源・社会保障部、財政部、教育部

36)都市・農村住民の所得増加:国家発展・改革委、財政部、人力資源・社会保障部、国有資産監督管理委

37)社会保障体系の整備:人力資源・社会保障部、財政部等

38)社会救助システムの健全化:民生部主導

39)住宅保障システムの早急な確立:住宅・都市農村建設部主導

 

 

 1.7 文化体制改革を深化させ、文化の大発展・大繁栄を推進する

40)文化体制改革・文化事業の発展を推進:文化部、ラジオ・テレビ・映画総局、新聞出版総署等

41)スポーツ事業の積極的な発展:体育総局、北京オリンピック組織委、中国障害者連

 

 1.8 社会主義民主法制建設を強化し、社会の公平正義を促進する

42)民主制度建設の強化:民生部、法制弁公室

43)法に基づく行政の全面的推進:法制弁公室、財政部、司法部等

44)社会治安の防御システムの整備:公安部、国家安全部

45)大衆の合法権益の適切な擁護:信訪局主導

46)安全生産活動の強化:安全監督管理総局主導

 

 1.9 行政管理体制改革を加速し、政府自身の建設を強化する

47)政府機能の速やかな転換:中央編制弁公室主導

48)政府機構改革の深化:中央編制弁公室、国務院機関事務管理局

49)行政監督制度の整備:監察部、審計署等

50)応急管理活動の一層の強化:国務院弁公庁主導

51)廉潔政治建設の強化:監察部主導

52)人事政策・人材隊伍建設の積極的推進:人力資源・社会保障部主導

 

 1.10 民族・宗教・華僑事務、香港・マカオ・台湾、国防・外交活動を強化する

53)民族・宗教・華僑事務を更にしっかり実施:国家民族事務委、宗教事務局、僑務弁公室

54)国防・軍隊建設の積極的支援:民生部、人力資源・社会保障部、国家国防動員委等

55)香港・マカオ工作を強化:香港・マカオ事務弁公室主導

56)祖国の平和統一プロセスを推進:台湾事務弁公室主導

57)全方位外交の積極的展開:外交部主導

 

2.留意点

 国務院工作要点は2006年も公開されており、これと比較すると次のことが分かる。

(1)国家発展・改革委員会の影響力は依然大きい

 2006年において、国家発展・改革委員会が所管ないし主導しているものは58政策中23であった。2008年は57政策中20であり、依然国家発展・改革委の存在感は大きい。特に、マクロ経済政策と経済構造調整に関しては、主導ないし主管(第1順位に記載)のものが多く、今回の機構改革の1つの目玉であった工業・情報化部はどの分野でも国家発展・改革委に劣後している。これからすると、産業政策面での国家発展・改革委の優位性は今回の機構改革によっては左右されなかったということであろう。

今回の国務院首脳人事で、国家発展・改革委員会は経済担当副総理を送り込むことには失敗したものの、馬凱を秘書長に送り込んでおり、政府の権限再配分において既得権益の擁護に成功したものと思われる。

ただ、若干の影響力後退が見られなくもない。例えば、国有企業改革の項目では、2006年には国家発展・改革委は第2順位につけていたが、今回ははずされている。これは工業・情報化部の新設に伴い、もはや国家発展・改革委は国有企業改革に口出しできなくなったことを示している。また、中国企業の海外進出への権限は2006年は国家発展・改革委が主、商務部が従であったが、今回は立場が逆転している。これも工業・情報化部の新設により、国家発展・改革委の個別企業への影響力が後退した現れと見ることもできる。

(2)農業政策は多くの官庁に分散している

 農業部のみならず、国家発展・改革委、財政部、水利部、国土資源部、扶貧弁公室、科学技術部、農村総合改革工作小組に分散されている。しかも、インフラ建設は国家発展・改革委に、耕地保護政策は国土資源部に主導権を奪われているのである。これでは、統一的な農業政策を農業部中心に打ちたてることは困難であろう。

(3)新設官庁の影は薄い

①工業・情報化部

産業政策では国家発展・改革委の後塵を拝している。それだけでなく、2006年には国防・軍隊建設の項の筆頭に国防科学技術工業委があり、この軍事工業関連部分は工業・情報化部に移管されているはずにも関わらず、今回は全く記載がない。「等」に隠れているのかもしれないが、所管替えだけで筆頭から一気に「その他」に格落ちするのは不自然である。従来の軍事工業関連部分は工業・情報化部内の国家国防科学技術工業局に位置づけられることになっているが、実はこの局は実質的に工業・情報化部から独立しているのかもしれない。

②住宅・都市農村建設部

1項目のみ主管として記載がある。2006年は2項目に建設部の記載があったが、いずれも他官庁の後塵を拝しており、今回1項目を主導できたことは地位向上ととれなくもない。

③交通運輸部

1項目も記載がない。2006年は、産業構造調整の項に交通部・民間航空総局が記載されていたことからすれば、むしろ地盤沈下である。これに合わせて、残る鉄道部の記載もなくなった。

④環境保護部

2006年のときは環境が1項目立てられ環境保護総局主導となっていたが、今回は省エネと環境保護が1項目にまとめられたため、国家発展・改革委の風下に立つ格好になっている。

⑤人力資源・社会保障部

今回8項目に名が挙がっている。2006年は人事部が5項目、労働・社会保障部が3項目に記載されていた(重複は1項目)ことからすれば、特に社会保障面での項目が増加している。

つまり、今回は胡錦涛指導部2期目が民生重視を打ち出しているため、これに乗った住宅・都市農村建設部と人力資源・社会保障部は存在感を強め、他の新設官庁はさほど存在を主張できなかったということであろう。

(4)金融体制改革のメインから財政部がはずれる

 2006年は3番手につけていたが、今回は「等」に格下げとなっている。金融分野は国家発展・改革委も進出を狙っており、権限争いの面倒を避けたのであろう。

(5)地域開発の後退

 2006年は、大項目として「地域の調和のとれた発展推進」があり、西部大開発・東北地方等旧工業基地振興・中部興隆・東部の率先発展それぞれが1項目となっていた。しかし、今回は1項目に集約されている。各地域に愛想をふりまく総花式発展戦略では資源の消耗と環境破壊を加速するだけであり、国土開発の重点が主体的機能区の設定にシフトしつつある状況を反映したものであろう。

(6)新たな官庁の台頭

 2006年には記載のなかった官庁が登場している。

①知識財産権局

 1項目を主導している。内外の知的財産権保護の要求に応えたものであろう。

②外貨管理局

 金融政策の一角を担うことになった。外貨準備が急増し、その管理・運用の役割が重要になったことの反映であろう。

③信訪局

 地方政府に不満をもつ民衆の陳情活動が激増したことが背景にあろう。ただ、2008年に信訪局に求められるのは、陳情をできるだけ現地で解決させ、北京オリンピック開催時に陳情団が大挙して上京する事態を未然に阻止することと思われる。

④国家国防動員委員会

 2006年の国防・軍隊建設では記載のなかった機関である。国防科学技術工業委員会の廃止とともに新たに登場した。筆者は中国軍事の専門家ではないので、この委員会の役割について知見はないが、これが国防科学技術委の代替機関という位置づけであれば、単なる人的動員にとどまらず、かつての国家総動員法のようにその範囲は経済分野にまで及ぶことになろう。国防科学技術委所管の企業は、原子力発電系統が国家発展・改革委傘下の国家エネルギー局、その他が工業・情報化部傘下の国家国防科学技術工業局に移管されたが、これらの企業を国防目的のために軍がいつでも動員できる仕掛けを担保したということかもしれない。

 

3.国家発展・改革委と工業・情報化部、商務部、環境保護部との権限調整状況

 東方網200849日は、次のように報じている。

 

 3.1 「2司1局」と工業・情報化部が交錯している

 「国務院機構改革方案」は、工業・情報化部の主要な権限を、工業の計画・産業政策・標準の策定と組織的実施、工業の日常運営のモニター、重大な技術装備の発展と自主的なイノベーションの推進、通信業の管理、情報化推進の指導、国家の情報安全の擁護等と定めている。

 このため、国家発展・改革委の工業管理権限と工業・情報化部の権限を調整する必要がある。記者[1]の理解では具体的な調整は司・局に及び、国家発展・改革委の中小企業司・工業司が全部工業・情報化部に組み入れられ、経済運行局の一部の権限も組み入れられる可能性がある。

 中小企業司の主要な権限は、中小企業・非国有経済へのマクロ的指導・総合調整・サービスである。具体的には、関連政策を検討・制定・実施し、実施状況を監督検査し、中小企業が法に基づいて経営を行うよう督促し、その合法権益を擁護する等である。

 ある国家発展・改革委の官員は、「(中小企業司の仕事は)主として非公有制経済の発展を促進することである。非公有制経済であれ中小企業であれ、いずれも業種を発展させる領域の一部に属するものであり、これが工業発展・産業標準の専管部門に組み入れられることは、中小企業の調和のとれた発展に資するものである」とする。

 また、工業司は工業の発展情勢を総合的に分析し、産業政策を制定する部門であり、自ずと工業・情報化部に組み入れられる可能性がある。

 この2司以外にも、経済運行局の一部の権限も工業・情報化部に組み入れられる可能性がある。現在、経済運行局は国家発展・改革委のなかでも処・室・人員編制が比較的多い部門である。主要な権限は、工業・交通業の経済運営方面で出現する状況の予測・分析を行い、関連政策措置を制定し、これらの業種の発展戦略・計画・年度計画・価格調整・重大政策・体制改革等の方面に参画することである。

 所管が広範にわたるため、経済運行局内部の処・室は14に及び、総合処、運行処、石炭処、石油化学処、交通・物流処、医薬処、軽工業処、紡績・品質処、電力処、機械・電力設備処、冶金処、建材処処等がある。上述の官員は「石炭・石油化学・医薬・軽工業・紡績といった工業の細目領域は工業・情報化部に組み入れることになろう。」と分析するが、「しかし、これまで述べたような案については、現在緊迫した協議が続いている」とも付け加えている。

 

 3.2 商務部との交錯:取引高の多い商品輸出入の帰属権

 国家発展・改革委と商務部は、現在取引高の多い商品(原油・鉄鉱石・農産品など重要物資)の輸出入管理等多くの権限について新たな線引きを進めている。

 この領域については、国家発展・改革委の権限として、内外市場の状況の研究・分析、重要商品の総量の均衡とマクロ・コントロール、重要農産品・工業品・原材料の輸出入総量計画の策定、計画の執行状況の監督、経済運営の状況に基づき輸出入総量計画の調整等がある。商務部の官員は「2003年に商務部内の司・局設置と人員編制の許可を受けたとき、この方面の両組織の分担をわざわざ詳細に明確した。執行面で多少の問題が出たときには、状況に応じ適時調整を行うことになっていたが、これについての協議メカニズムはうまく機能してない」とする。

 記者の理解では、これらの領域についての権限調整は始まっているが、国家発展・改革委に属させるか、商務部に属させるかでまだ議論が続いている。商務部研究院の梅新育研究員は「国家発展・改革委が計画を策定し、具体的・組織的な実施は商務部が担当すべきだが、計画策定過程で商務部も参画し意見を提出できるようにすべきである。このような分業が合理的だ」としている。

 

 3.3 環境保護部との交錯:環境保護政策の制定・計画

 国家発展・改革委と新たに「昇格」した環境保護部との関連権限の線引きも、現在すり合わせ中である。

 環境保護と関連のある国家発展・改革委の権限は、主として流域環境保護、環境保護産業計画、工業汚染処理計画、循環経済政策、汚染物質排出への費用徴収価格であり、関係司・局は、資源利用・環境保護司、地区司、価格司、国家気候弁公室である。

 記者の理解によれば、国家発展・改革委の資源利用・環境保護司の権限と環境保護部との新たな線引きを調整中であり、中でも「環境保護政策・計画の策定」の権限についてさらに調整が行われる可能性がある。

国家気候弁公室の関連権限は環境保護部に組み入れるべきだが、専門家によれば、近いうちに調整が行われる可能性は大きくないとのことである。中国科学院政策研究所の王毅研究員は、「気候問題は汚染物質排出削減だけでなく、エネルギーにも関係する複雑な問題であり、気候管理の権限は総合部門に組み入れるべきであり、環境保護部門に組み入れるべきではない」としている。

 

3.4 その他

上述3部門と国家発展・改革委との権限の新たな線引き以外にも、その他財政部・中央銀行といった中央部門と国家発展・改革委との権限調整も視野に入りうる。

中国人民大学国民経済管理系の顧海兵主任教授は記者に対し、「権限調整は権力が1部門から他の部門に横へ移転することを防止しなければならない。政府の機能転換が核心であるべきであり、即ちミクロ項目の許認可からマクロ経済・社会管理に転換しなければならない」と注意を喚起している。(20084月記・6,815字)

 
 


 

  

    [1]   この記者は21世紀経済報道の聞立偉という人物である。

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