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7-9月期の経済成長減速が明らかとなり、マクロ経済政策の重点は「インフレ抑制」から「経済成長の維持」に大きくシフトした。その経過を紹介したい。
はじめに
7-9月期の経済成長減速が明らかとなり、マクロ経済政策の重点は「インフレ抑制」から「経済成長の維持」に大きくシフトした。その経過を紹介したい。
1.金融政策の動向
10月8日、人民銀行は10月9日から1年物預金・貸出基準金利を0.27ポイント引き下げ、10月15日から預金準備率を0.5ポイント引き下げることを発表した。この措置により、1年物預金基準金利は3.87%、貸出基準金利は6.93%となり、預金準備率は17%となった(中小金融機関は16%)。預金準備率引下げにより2200億元の流動性が増加するものと試算されている。
また、同日、10月9日から預金利子への個人所得税課税が暫時停止される旨が発表された[1]。
(1)人民銀行の説明
スポークマンの李超は、新華社に対し今回の措置を次のように説明している[2]。
①世界経済の一体化構造の下、中国経済と世界経済の発展・金融市場の状況の関係は日増しに密接となっている。外部環境の急激な変化に対して、関連政策措置を適時調整することは必要なことであり、これは柔軟で慎重な経済政策実施の具体的な体現でもある。この政策は、わが国国民経済の平穏で比較的速い発展に有利であり、資本市場を含むわが国金融システムの安全な運行と健全な発展に有利である。
②今回の金融危機に対し、各国は正に救済措置を採用し積極的に対応している。しかし、今回の国際金融危機がどのように変化するか、金融機関に更にどのようなリスクをもたらすか、実体経済にどのような影響をもたらすかについて、更に密接な観察を要する。この種の複雑な情勢に対して、我々は転ばぬ先の杖で臨む必要があり、内外経済の新たな変化に基づき、柔軟で慎重な政策措置で対応してよい。
③今回の国際金融危機が世界経済にどの程度の衝撃を及ぼしたかは、まだ語るのは時期尚早であるが、その影響の下、国際研究機関は次々に世界経済の成長鈍化を予測している。世界経済が下降すればわが国への外需は減退し、中国経済に一定の影響を及ぼすことは避けられない。しかし、我々はこの国際金融危機に対応し、経済の平穏で比較的速い発展の勢いを維持する自信と能力を有する。
④現在、中国の経済発展の基本面は変わっておらず、経済はマクロ・コントロールの予期する方向へ発展している。わが国の国内市場は巨大であり、かなり大きな挽回の余地がある。市場の流動性は余裕があり、我々が有力な措置を採用し、構造を調整し、不断に内需とりわけ消費内需を拡大しさえすれば、中国経済は持続的に成長するかなり大きな潜在力を有する。
⑤中国の金融システムは総体として穏健・安全である。現在把握している状況から見ると、国内金融機関の有する海外投資商品には一定の損失が出ているが、金融機関全体の収益状況から見ると、損失割合は小さく、リスクはコントロール可能であり、中国の金融システム全体に非常に大きな影響を及ぼすことはない。中国の預金金融機関の預金の基礎は強固であり、比較的豊富であり、リスク防御能力も比較的強い。
(2)今回の措置の特徴
①経済成長の下支えに重点が移っている
9月の調整が中小企業の融資難に重点が置かれていたのに対し、今回は貸出・預金金利を同時に同率調整しており、期間や金融機関の規模で差をつけていない。この意味で今回の措置は経済成長維持に軸足を移してはいるが、スポークスマンが言うとおり「適時の調整」であり、この段階における金融政策の基本的姿勢は「柔軟かつ慎重」とインフレへの警戒を緩めてはいなかった。これが1-9月期の統計公表後、大きく変化することになる。
②国際協調
今回の措置は世界の中央銀行が一斉に利下げを行うタイミングに合わせている。人民銀行は本来であれば、9月の物価動向を確認してから金融政策を検討したかったのであろうが、もし世界が利下げを行うなかで預金金利水準を維持すれば、ホットマネーが中国に集中し、過剰流動性問題を激化させるおそれがある。このため、このタイミングで利下げを打ち出さざるを得なかったのであろう。9月9日には、預金準備率引上げを前にして人民銀行は公開市場操作により市場から1500億元を回収しており、過剰流動性対策を緩めてはいない(京華時報2008年9月10日)。
③預金者への配慮
とはいえ、物価の上昇傾向がおさまらないなかで預金金利を引き下げることは、実質金利のマイナス幅を拡大し、庶民の不満を増大させることになる。このため、預金利子に対する個人所得税課税を暫時停止し、預金者に配慮したのである。
④党3中全会対策
10月9日からは党3中全会が開催された。人民銀行の引締め路線には党内部でもかなり反発があり、一部には周小川行長解任説も飛び交っていた。党3中全会の主たる議題は「三農」問題であるが、中全会では1年間の活動報告も審議されるので、これまでのマクロ経済政策の評価を避けるわけにはいかない。景気対策を何ら打ち出さないまま3中全会に突入することにはリスクがあり、各国中央銀行の協調行動は渡りに舟であったろう。
2.国家発展・改革委員会による経済情勢座談会
10月初めに南京において、江蘇・安徽・山東・上海・重慶・南京・杭州の7省市から発展・改革委総合処長が召集され、開催された[3]。会議において、国家発展・改革委の石剛総合司長は、次の4点を要求している。
①現在の経済情勢を正確に取り扱う
経済がグローバル化している今日、わが国経済と世界経済の間の連携はますます緊密になっており、わが国経済が適度に反落することは正常である。各地が今の発展を維持できていることは容易なことではなく、勝ち取った成果は我々がタイムリーにマクロ・コントロール政策を調整していることの正しさを示すものである。
②チャンスであるという意識を樹立する
各地はマクロ環境の変化を契機として、発展方式を早急に転換し、経済構造のグレードアップを推進しなければならない。
③敏感性を増強する
今後数ヶ月経済予測・モニターを強化し、萌芽的・傾向的問題をできるだけ早期に発見し、タイムリーにコントロール措置を採用して、経済の平穏で比較的速い発展を維持しなければならない。
④来年の施策の重点を早急に明確にする
各地は今後の発展について信念を強固にし、「経済成長維持、インフレ抑制」を主たる基調とすると同時に、構造調整と産業のグレードアップを加速し、改革開放の歩みを加速して、民生と社会安定の関係をうまく処理しなければならない。
このほか、参加者は経済運行が総体して平穏であると認識した。マクロ経済の逼迫傾向の影響を受け、多くの省の経済成長率はいずれも異なる程度に反落しているが、発展の基本面は変わっておらず、なお高位に運行されている。
同時に、参加者はサブプライムローン危機の影響がまだ底を打っていないため、国内の株式市場・不動産市場・自動車市場は三すくみであると認識しており、各地は年間経済の動向について異なる程度の心配を抱えており、経済成長予想を次々に下方修正している。例えば、上海・安徽は、年間GDP成長率をそれぞれ10%、13.7%と予想しているが、これは上半期よりそれぞれ0.3ポイント、0.5ポイント低下している。
3.党3中全会コミュニケ(10月12日)
(1)現状認識
経済は比較的速い成長を維持し、金融業は穏健に運営されており、わが国の経済発展の基本態勢は変わっていない。現在、国際金融市場の動揺は激化し、世界経済の成長は明らかに鈍化し、国際経済環境における不確定・不安定要因は明らかに増加している。国内経済の運行にも一部際立った矛盾・問題が存在する。我々は、憂患意識を強め、試練に積極的に対応しなければならない。
(2)当面の対応
最も重要なことは、わが国自身の(やるべき)ことをしっかりやるということである。発展という党の執政・興国の最重要任務を更に自覚をもって断固としてしっかり行い、科学的発展を更に自覚をもって断固として推進し、確固たる信念で冷静に観察し、多くの部門が一緒に取り組み、有効に対応し、柔軟で慎重なマクロ経済政策を採用し、内需とりわけ消費需要を拡大に力を入れ、経済の安定・金融の安定・資本市場の安定を維持し、社会の大局の安定を維持し、民生の保障・改善活動をしっかりと行い、引き続き経済社会の良好で速い発展を推進しなければならない。
4.国家発展・改革委 杜鷹副主任記者会見(10月16日)
次のように語っている(中国証券報2008年10月17日)。
(1)下半期以降、沿海地域の輸出入、工業企業の成長速度、工業企業の付加価値及び工業収益すべてに下降傾向が現れている。これは既に国務院の高度な注意を引き起こしており、現在一連の措置を検討・準備しているところである。
(2)米国のサブプライムローン危機の深刻化、国際経済環境の動揺の中国経済への影響は、まだ完全には現れていない可能性がある。これらが中国にもたらす困難・試練を十分推し量ると同時に、国務院は正に一連の措置を検討・準備している。今回の試練に打ち勝って以後、中国経済は新たな段階に上るものと信じている。
(3)沿海経済発達地域は契約の減少により、中小企業に経営困難が出現している。わが国は、一面において企業の再編・企業の技術進歩を推進するとともに、他面では金融においてこれらの中小企業に新たな貸出支援を行わなければならない。
5.国務院常務会議(10月17日)
(1)現在の問題
「物価総水準の上昇幅はコントロールできた」としながらも、「経済成長の鈍化傾向が明らかになり、企業の利潤・財政収入の伸びが下降し、資本市場が引き続き波動・低迷している」とし、「我々は、国際環境の複雑性・峻厳性を十分推し量り、わが国経済の平穏で比較的速い発展を維持することの重要性と困難性を深刻に認識し、憂患意識を増強し、同時に我々の有利な条件と積極的要因を正確に認識し、信念を強固にし、冷静に観察し、多くの部門が一斉に取り組み、有効に対応し、良好な情勢を強固に発展させていくよう努力しなければならない」としている(中国政府網2008年10月19日)。
(2)10-12月期の経済政策
「第4四半期の経済政策をしっかり行うことは、今年の任務を全面的に達成し、来年の発展のための良好な基礎を打ち固めるためにとりわけ重要である。科学的発展観の要求に基づき、柔軟かつ慎重なマクロ経済政策を採用し、対応する財政・税制・貸出・貿易等の政策措置を早急に打ち出し、経済の平穏で比較的速い成長を引き続き維持しなければならない」とし、次の10項目を挙げている。
①17期3中全会の手配を真剣に貫徹し、農業の強化・農村への恩恵政策を強化する
食糧最低購入価格をかなり大幅に引き上げ、各種農業補助の方案を制定・公布し、補助範囲を拡大し、補助基準を引き上げる。
②中小企業の発展を促進する
中小企業の担保システムを整備し、金融機関の中小企業向け貸出を奨励し、中小企業への直接融資のルートを開拓し、中小企業の技術イノベーションへの財政支援を強化する。
③輸出入の安定的な伸びを維持する
アパレル・紡績等労働集約型製品、高付加価値電機製品の輸出税還付率を引き上げ、比較優位の企業・製品の輸出を支援する。国内で必要とする製品の輸入を増加し、国際収支の基本的均衡を促進する。
④投資を強化する
地震被災地域の復興を加速し、農業・水利・エネルギー・交通・都市等のインフラ及び民生等の分野の重大プロジェクト建設をしっかり行い、合理的な投資規模を維持する。
⑤物価上昇を引き続きコントロールする
主要な農産品・エネルギー等の基礎産品の需給関係を改善し、物価モニター・検査を強化する。価格改革を積極的に推進し、重要エネルギー・資源製品の価格関係を早急に合理化する。
⑥省エネ・汚染物質排出削減活動を推進する
省エネ・省資源・汚染物質排出削減の目標責任静を全面的に実施し、省エネ・汚染物質排出削減活動への監督・行政執行を強化する。地方・企業の落伍した生産能力の淘汰を督促し、環境保護の監督・コントロールを厳格化し、重点汚染源の監督管理を強化する。
⑦財政の増収・支出節約活動をしっかり行う
税の徴収管理を強化し、税外収入の管理を規範化する。民生問題を解決するために用いる支出については、資金が期限通りに全額交付されることを確保しなければならない。一般的支出を厳格に抑制し、とりわけ年末の突撃的予算消化を防止し、各種の大盤振る舞い・浪費を断固として制止する。
⑧金融の監督管理を強化し、金融リスクを防止する
資本市場の基礎的制度の建設を引き続き強化し、資本市場の安定した健全な発展の維持に努める。
⑨食品の安全と安全生産活動を真剣にしっかり行う
「乳製品の質・安全監督管理条例」を早急に実施する。重点業種・重点領域の隠れた安全への弊害の調査・除去を強化し、安全生産を確保する。
⑩民生に関する問題の解決に努める
低所得層・特殊な集団の基本生活を保障する政策措置を打ち出し実施する。高等教育機関の家計が苦しい学生に臨時の食費補助を給付し、地震の被害が重度の地域の家計が苦しい学生に特別資金援助を交付する。社会保障的性格をもつ住宅の建設規模を増加し、住宅取引の税・手数料を引き下げ、庶民の住宅購入を支援する。困難な大衆の就業支援活動を引き続きしっかり行い、とりわけ被災地域の労働力就業と倒産・産業転換企業の従業員の社会保障をしっかり行わなければならない。被災地域の公共施設の建設を加速し、大衆が安全に冬を越せるよう確保する。
6.1-9月期の経済状況(10月20日発表)
6.1 概況
(1)経済成長率
1-9月期は9.9%(1-6月期は10.4%)、7-9月期は9%であった。1-3月期10.6%、4-6月期10.1%に比べ、四半期ごとの成長減速が加速している。
(2)物価
①消費者物価
1-9月期の前年同期比上昇率は7.0%(1-8月期は7.3%)、9月は4.6%(8月は4.9%)であり、安定傾向が強まっている。うち1-9月期の都市の上昇率は6.7%(1-8月期は7.0%)、農村は7.7%(同8.0%)である。また1-9月期の食品価格の上昇は17.3%(1-8月期は18.1%)、居住価格は7.0%(同8.9%)となっている。
②工業品工場出荷価格
1-9月期の前年同期比上昇率は8.3%(1-8月期は8.2%)、9月は9.1%(8月は10.1%)で、単月で初めて上昇幅が反落した。1-9月期の原材料・燃料・動力購入価格は12.4%
1-8月期は12.2%)の上昇であり、9月は14.0%(8月は15.3%)である。
③住宅価格
1-9月期の70大中都市の建物販売価格は前年同期比8.5%の上昇であり、9月は3.5%(8月は5.3%)であった。
(3)投資
1-9月期の全社会固定資産投資は前年同期比27.0%(1-6月期は26.3%)の増加であり、うち都市は27.6%(1-8月期は27.4%)の増加であり、9月の都市は29.0%(8月は28.0%)の増加である。投資はやや加速傾向にある。
(4)消費
1-9月期の社会消費品小売総額は前年同期比22.0%(1-8月期21.9%)、9月は23.2%(8月は23.2%)の増加である。消費は7月の23.3%で頭打ち傾向となっている。
(5)工業
1-9月期の一定規模以上の工業付加価値は前年同期比15.2%(1-8月期15.7%)増であり、前年同期より3.3ポイント伸びが反落している。9月は11.4%(8月は12.8%)の増加である。工業の付加価値の伸びは反落傾向にある。
(6)収入
1-9月期の都市住民可処分所得は前年同期比実質7.5%(1-6月期は6.3%)の伸びであり、農民現金収入は実質11.0%(1-6月期は10.3%)の伸びとなっているが、2007年の都市住民12.2%、農民9.5%と比べると、都市住民の収入の伸びが鈍化している。
(7)対外経済
1-9月期の輸出は前年同期比22.3%の伸び(1-6月期は21.8%)であり、前年同期より4.8ポイント伸びが反落した。輸入は29.0%の伸びであり(1-6月期は30.6%)、前年同期より9.9ポイント加速している。貿易黒字は1810億ドルであり、前年同期より47億ドル減少した。9月の輸出の伸びは21.5%(8月は21.1%)、輸入は21.3%(8月は23.1%)である。
1-9月期の対米輸出は前年同期比11.2%増で、1-8月期より0.6ポイント加速し、対日輸出は16%増で2.2ポイント加速した。
1-9月期の外資利用実行額は744億ドルであり、前年同期比39.9%増(1-6月期は45.6%)となり、前年同期より29.0ポイント加速している。9月は26.03%増(8月は20.4%)である。
(8)金融
9月末のM2は前年同期比15.29%の伸び(8月は16.0%)であり、人民元の貸出残高は14.48%の伸び(8月は14.29%)であった。1-9月期の新規貸出増は3.48兆元であり、前年同期より1201億元増加している。
9月末の外貨準備は1兆9056億元であり(6月は1兆8088億元)、前年同期より32.92%増加した。
(9)財政
1-9月期の全国財政収入は4兆8946.86億元、前年同期比25.8%増であった。うち、中央レベルは2兆7098.51億元、25.5%増、地方レベルは2兆1848.35億元、26.1%増である。しかし、7-9月期の財政収入は前年同期比10.5%増(1-6月期は33.3%)であり[4]、月別では7月16.5%、8月10.1%、9月3.1%と伸びが急減している(新華網北京電2008年10月20日)。
これを税目別に見ると、1-9月期は国内増値税21.4%、国内消費税17.4%、営業税19.2%、企業所得税31.8%、個人所得税21.7%、輸入貨物増値税・消費税32.9%、関税36%の増となっている。
1-9月期の財政支出は3兆6428.14億元、前年同期比25.5%増である。これを支出額の多い項目で見ると、環境保護50.5%、社会保障・就業40.4%、工業・商業・金融関連36.4%、医療・衛生35.8%、農林水産関連33.3%、都市・農村・コミュニティ関連31.1%、科学技術26.4%、教育21.2%増となっており、これらの重点支出の増加額は同期の財政支出増加額の70%を占めている。このほか、中央から地方への税返還と移転支出は1兆4961億元であり、前年同期より4250億元、39.7%増加した。
6.2 国家統計局 李暁超スポークスマンの記者会見(10月20日)
(1)輸出の経済成長への影響
初歩的な試算では、1-9月期の貨物・サービスの輸出入が経済成長に及ぼした貢献割合は12.5%であり、前年同期より8.9ポイント低下した。経済成長を1.2%牽引したが、これは前年同期より1.2ポイント低下している[5]。
(2)世界金融危機の中国経済への影響
①外資導入への影響、②輸出の伸びへの影響、③投資家・消費者の信念への影響、に注意する必要がある。
7.留意点
(1)9%へのダウンは想定外
おそらく指導部は7-9月期の経済成長率が9%台後半にまで減速することは覚悟していたものと思われる。しかし、9%と一気に1ポイント以上減速したことは想定外であったろう。これは、統計発表前に国家発展・改革委の杜鷹副主任が慌しく会見し、経済対策の準備を行っていることを表明し、続いて国務院常務会議が開催されたことからも窺える。
それではなぜここまで急速にダウンしたのか。清華大学中国・世界経済研究センターの李稲葵主任は、オリンピックの開催が経済の正常な運営に一定の悪影響を与えたと指摘する(上海証券報2008年10月21日)。しかし、国家発展・改革委研究院のある専門家は、「オリンピックの今年、とりわけ7-9月期経済への悪影響を控除しても、国内経済は総体として下振れ傾向が現れている」としている(南方日報2008年10月21日)。
輸出の不振とこれに伴う関連工業の不振、不動産市場の低迷による関連工業・投資の不振(投資財価格の高騰により、投資の実質の伸びは17%程度に落ちているとされる)により中国経済は減速傾向にあり、これにオリンピック準備・開催期間の工場操業停止・電力制限が拍車をかけたということであろう。
(2)マクロ経済政策の中心は経済成長の維持に
国務院常務会議の決定を見ると、人民銀行・財政部の主張を反映した「マクロ経済政策の連続性・安定性の維持」「物価の速すぎる上昇のコントロール」という表現が消え、「柔軟かつ慎重」なマクロ経済政策により「経済の平穏で比較的速い成長の維持」することが第一となっている。マクロ経済政策の「1つの維持、1つの抑制」の2目標のうち「インフレの抑制」が後退し、各論10政策の1項目に格下げとなった。
これは、9月の消費者物価が更に安定傾向を示し、懸念された工業品工場出荷価格も頭打ち傾向が現れたからであろう。予想外の経済減速の加速で、マクロ経済政策のウエイトづけが変わったのである。
(3)中央経済工作会議の前倒し
中央政策研究室の鄭新立副主任は、清華大学で「11月に開催される中央経済工作会議で米国金融危機・経済の下降・需要不足等の問題に対応する新たな重大な手配が行われる。ここでは、政策の連続性を維持するのみならず、新状況に対応した新たな政策決定が行われる。これには不動産対策も含まれ、現在検討段階にあり、中央経済工作会議において重大な政策決定が行われる」と語っている(南方日報2008年10月21日)。
これまで中央経済工作会議は12月初旬に開催されることが多かったが、事態の急変を受け、前倒しが決まったのであろう。12月は「改革開放30周年」の政治イベントがあるため、当面の経済政策の議論は11月までに済ませ、12月はより中長期の議論を展開したいという指導部の意向の現れと思われる。
(4)財政政策へのプレッシャー
経済成長の下支えのためには金融緩和だけでは不十分であり、財政政策へのプレッシャーが高まることになろう。
財政部もそれを既に覚悟しているようであり、財政科学研究所の賈康所長は「経済総量のコントロールを緩和すべきであり、産業構造のグレードアップへの対応性を高め、減税等の措置を通じた経済刺激を考慮すべきである。減税は確かに財政収入の更なる下降をもたらすが、今年の財政収入の伸びは20%を維持し、GDPに占める比重もおおよそ10%となり、往年よりは上昇する。これは経済の受容能力の範囲内であり、心配には及ばない」と述べている(新京報2008年10月21日)。
他方、財政収入の先行きが不透明となるなか、中央財経大学税務学院の劉桓副院長は、「単純に積極的財政政策を実行するのは正しくない。下半期の財政収入が大幅に下降するので、財政は選択的に支出をすべきであり、できるだけ慎重に財政支出を行うべきである」と主張している(前記新京報)。
(5)国家発展・改革委の発言力強化
人民銀行の影響力が後退するなか、国家発展・改革委の力が増しているように思われる。例えば、10月12日に発表された党3中全会コミュニケの段階では、内需の中でも消費需要の拡大が強調されていた。しかし、17日の国務院常務会議では、政策の各論において「投資の強化」が「物価上昇のコントロール」より上位となっている。重大プロジェクトは国家発展・改革委が所管しているのである。16日に杜鷹副主任がわざわざ会見を行っていることからしても、この間にGDPの数値が明らかになり、指導部が動揺するなかで国家発展・改革委がマクロ経済政策の主導権を確立したのではないか。
(6)中国自身のやるべき事の強調
「最も重要なことは、わが国自身の(やるべき)事をしっかりやるということである」という表現を最近よく目にする。
この点につき、新華網北京電2008年10月18日は、「わが国が自身の事をしっかり行うことに精力を集中するということは、わが国の改革開放の偉大な実践における基本的経験であり、わが国が国際市場の動揺において経済の平穏で比較的速い発展の勢いを維持した基本的経験である」とし、90年代のアジア通貨危機をうまく乗り切った例や今回の国際金融の動揺・エネルギー価格の波動・穀物価格の上昇への指導部の対応を挙げながら「基本国情に立脚し、わが国自身の事をしっかり行うことを堅持することは、中華民族が世界民族の中に屹立することを基本的に保証するものであり、わが国が世界の平和発展に対する重要な貢献であることを、事実が証明している」とする。これは、指導部が今回の世界的金融混乱の中で、実力以上の役割を担わされることへの警戒心を反映しているように思われる。
(2008年10月記・9,672字)
[1] 利子への個人所得税課税は、1998年11月に20%の税率で導入されたが、2007年8月15日から税率が5%に引き下げられていた。
[2] 新華網北京電2008年10月10日。
[3] 証券日報2008年10月8日。
[4] 人民大学財政金融系の安体富教授は、実質ベースでの財政収入の伸びは、すでにGDP成長率を下回り逆転現象が発生していると指摘している(新京報2008年10月21日)。
[5] この点につき新華網2008年10月20日は、1-9月期の経済成長率が前年同期より2.3ポイント反落したうち、1.2ポイントが輸出の鈍化によるものであり、残る1.1ポイントは投資と工業の伸びの明らかな反落によるものだとしている。
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