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インフレ抑制・経済成長の現状維持(6)

中国ビジネスレポート マクロ経済
田中 修

田中 修

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2008年10月31日

記事概要

 本稿では、財政収支の状況、株価対策、及び6月の中央・地方責任者会議に次いで開かれた特別会議等について紹介する。

はじめに

 本稿では、財政収支の状況、株価対策、及び6月の中央・地方責任者会議に次いで開かれた特別会議等について紹介する。

 

1.財政収支

(1)8月の状況

 8月の全国財政収入は3847.93億元で、前年同期比10.1%増であり、伸び率は7月より6.4ポイント低下した(7月は6月より伸びが14.2ポイント低下)。18月期の全国財政収入は44729.64億元であり、前年同期比8.4%増であった[1]

8月の全国税収は3551.22億元であり、前年同期比11%、353.32億元増であった。しかし、伸び率は前年同期より31.9ポイント低下し(7月は前年同期より19.3ポイント低下)、17月期の伸びよりも19.2ポイント低下した。

税目別では、8月の営業税は502.35億元で前年同期比4.3%増であったが、伸び率は前年同期より27.3ポイント低下し、総税収のウエイトは14.15%であった。これは、証券業・不動産業・郵政行・保険業の営業税収入がそれぞれ前年同期比、-36.4%、-20.8%、-15.7%、-6.7%となったためである。総税収の7.26%を占める個人所得税は257.73億元で、前年同期比11.5%であったが、伸び率は前年同期より16.9ポイント、17月期より13.2ポイント低下した。企業所得税は230.84億元で、前年同期比116.5%増、17月期より85ポイント増加した。しかし、税還付要因を控除した実際の税収は232.97億元であり、前年同期の261.84億元に比べマイナス11%であった。証券取引印紙税の税収は、7月に前年同期比で71.8%減少したが、8月は更に前年同期比で89.9%減少している。

 財政部税政司は8月の特徴として、次の点を指摘している[2]

①税収の絶対額及び伸び率は、今年に入って単月では最低水準である。

②国内増値税だけが好調であり、主要な税収源となっている。

③営業税・輸入関連税・個人所得税等の主要な税の伸びは全面的に反落している。

④税還付要因控除後の企業所得税・証券取引印紙税は引き続きマイナスであり、契約税・車両購入税が新たにマイナスとなった。

 また8月の税収の伸びが反落した原因については、次の点を指摘する。

①緊縮的なマクロ・コントロール措置の効果が更に顕著になっており、国民経済はすでに成長鈍化の傾向が現われている。

②新たな企業所得税法の実施、証券取引印紙税の税率引下げ、個人所得税の費用控除基準の引上げ、預金利子所得税の税率引下げ等の政策調整の減収効果がさらに顕著となってきた。

③上半期の税収の速すぎる伸びを生み出した、企業所得税の集計清算徴収、昨年1012月期ないし12月分の企業所得税が今年1月に国庫に納入されたこと、2007年に輸出税還付率を引き下げ証券取引印紙税の税率を引き上げたことの後年度への影響等一時的な特殊増収要因がもはや存在しない。

 これに対し、8月の全国財政支出は4035.74億元であり、前年同期比609.07億元、17.8%増となっている(7月は40.9%増)。18月期の全国財政支出は、31479.2億元であり、前年同期比6895.98億元、28.1%増である。

(2)財政科学研究所のコメント

財政科学研究所の劉尚希副所長は、「中国経済の減速リスクの出現に伴い、下半期の減収圧力がますます顕著になってきた」とし、「財政政策はわが国の経済の平穏で比較的速い発展を保証する重要な手段であり、経済の安定的成長が保証されてこそ財政収入の安定的成長を保証できる」として証券取引印紙税の改革は税収を減らすものの、資本市場の健全な発展を支援するものであり、非常に必要だと肯定しつつも、他方で財政支出の効率性を保証する必要があるとし、「下半期の支出構造には一定の調整がなされてしかるべきである。まず、所要の社会保障・民生面の支出を保証すると同時に、政府自身の運営を維持するための行政的支出をできる限り圧縮し、支出を節約すべきである」と主張している[3]

 

2.住宅価格

 8月の全国70大中都市建物販売価格は、前年同月比で5.3%上昇し、伸び率は7月より1.7ポイント低下した。

 新たに建設された住宅の販売価格は、前年同期比6.2%の上昇であり、伸び率は7月より1.7ポイント低下した。上昇幅が大きかった都市は、海口16.5%、銀川12.4%、北京11.7%、宜昌11.4%、岳陽11.3%である。逆にマイナスとなったのは、深圳-4.1%、広州-3.3%、恵州-0.4%である。

 

3.株価対策

金融政策の微調整が銀行の利潤を縮小する方向であったため、政策発表直後から銀行株を中心に株価の下落に拍車がかかった。このため、政府は918日に次の3つの政策をまとめて打ち出した。

(1)証券取引印紙税の課税方法の修正

 918日、財政部・国家税務総局は国務院の承認を得て、919日から、売買・継承・贈与の両サイドに0.1%課税していたのを改め、譲渡した側のみ課税する旨を決定した。これは、424日の税率引下げ(0.3%から0.1%に)以来の軽減措置であり、片側のみへの課税は1991年以来のことである[4]

(2)銀行株の買い支え

 新華網北京電2008918日は、中央匯金公司からの情報として、工商・中国・建設銀行等国有重点金融機関の株主としての地位を確保し、国有重点金融機関の安定した経営発展を支援し、国有商業銀行の株価を安定させるため、中央匯金公司は流通市場において自主的に工商・中国・建設3行の株を購入し、即日関連市場操作を開始すると伝えた。

(3)株買戻しの支援

 新華網北京電2008918日は、国有資産監督管理委員会の李栄融主任へのインタビューの内容として、「国有資産監督管理委は、国有企業とりわけ中央管轄企業が資本市場の安定的発展の推進のための積極的原動力となるべきだと一貫して強調している。国有資産監督管理委は現在の株式市場の低迷に際し、中央管轄企業が持ち株を増やし、或いは上場会社の株を買い戻すことを支援する。大部分の国有企業とりわけ中央管轄企業は、現在絶対的な持ち株数を維持しなければならず、相当長期にわたり持ち株を大量に減らすことは不可能である」と強調した旨を報道した[5]

 

4.省部級主要指導幹部専門課題検討班(91920日)

 全党で科学的発展観を深く学習・実践する活動動員大会の一環として、中央党校で開催された。この19日の開班式で胡錦涛総書記が重要講話を行い、20日には温家宝総理が報告を行った。開班式は習近平が主催し、20日の会議は李克強が主催している。会議には各省区市の責任者、党中央と国家機関の各部委・各人民団体・軍隊の各大単位の責任者が出席しており、613日の会議につづく大掛かりなものであり、その内容も科学的発展観にとどまらず、経済政策にまで及んでいる。

 

4.1 胡錦涛総書記重要講話[6]

(1)党建設の新たな課題と試練

 改革開放と社会主義市場経済が不断に発展し、党の執政期間が長くなり党の陣容が変化するに伴い、党自身の建設は新たな課題と試練に直面している。党が直面する執政の試練、改革開放の試練、社会主義市場経済発展の試練は、長期にわたり複雑なものである。党を管理し治めることは、過去のどの時期よりも任が重いものとなっている。

①党の執政能力は新たな情勢・任務の要求と完全には適応・符合していない。

②一部の党員・幹部の思想観念・能力素質は党の先進的要求と完全には適応・符合していない。

③一部の末端党組織の管理手段・刷新能力は経済社会の発展任務と完全には適応・符合していない。

④一部の地方の党組織・指導部・指導幹部は党性・党風・党紀面で、様々な問題を抱えている。

今年に入り、一部の地方で重大な生産安全事故と食品安全事故が発生し、人民大衆の生命・財産に重大な損失を与えている。これらの事件は、一部の幹部が主旨を忘れ、大局・憂患・責任意識が欠落し、作風が上っ調子で管理がたるみ、仕事をきちんとしていないことの反映である。ある者は、はなはだしきは大衆の声・困苦に耳を塞ぎ、大衆の生命の安全に関わるこのような重大問題に対して無関心になっているのである。

(2)科学的発展観を学習・実践する活動の重点

①科学的発展観の重大な意義を更に深刻に理解し、貫徹実施する。

②発展という党の執政・興国の第一の任務を、よりしっかりと把握する。

③最も広範な人民の根本利益を、更にしっかりと実現・擁護し発展させる。

 科学的発展観の貫徹実施のプロセスが、不断に人民に幸福をもたらし、不断に人民の生活の質・水準を向上させ、不断に人民の思想道徳素質・科学文化素質・健康素質を高め、不断に人民の経済・政治・文化・社会権益を保障するものであり、これにより発展の成果が広範な人民大衆に恵みをもたらすものでなければならない。

④思想の解放と改革刷新を更に堅持する。

 重要な分野・カギとなる部分の改革の歩みを加速する。

⑤党員・幹部の陣容の素質を更に高める。

⑥広範な人民大衆を更に動員し、科学的発展の偉大な実践に身を投じさせる。

(3)その他

①各地域・各部門・各単位は学習・実践活動において、中央が提起した、思想の解放を堅持し、実践の特色を際立たせ、大衆路線を貫徹し、正面からの教育を主とするという原則をしっかり把握し、思想認識を向上させ、際立った問題を解決し、体制メカニズムを刷新し、科学的発展を促進するという目標の実現に努めなければならない。

②中国の特色ある社会主義理論体系で、全党を武装することを堅持しなければならない。

③今回の学習・実践活動の重点は、県レベル以上の指導部・党員・指導幹部である。

 

4.2 温家宝総理の報告

 「科学的発展観を深く貫徹実施することに関する若干の重大問題」と題する報告を行った。そのポイントは以下のとおりである[7]

(1)科学的発展観を深く貫徹実施するために必要なこと

①マクロ・コントロールを強化・改善し、経済の長期にわたる良好で速い発展を促進する。

②都市と農村の発展を統一的に企画し、「三農」問題の解決を全党活動の重点中の重点とすることを堅持する。

③自主的なイノベーションの推進に力を入れ、経済構造の戦略的調整を加速する。

④資源節約と環境保護を基本的国策とすることを堅持し、持続可能な発展能力を増強する。

⑤改革開放を深化させ、科学的発展に資する体制メカニズムを構築する。

(2)経済政策

 経済の平穏で比較的速い発展を維持し、大きな起伏を防止することは、科学的発展を促進する第一の目標である。

 今年は、ここ数年来の経済発展で最も困難な1年である。国際経済情勢は複雑で変化に富み、国際金融は動揺し、世界経済は明らかに減速しており、情勢は更に激化する可能性がある。これらの変化がわが国にもたらす影響を我々は過小評価してはならない。国内経済の運営上も、際立った問題が少なくない。物価上昇圧力は未だ根本的に緩和されておらず、一部の地域・業種の成長速度が反落している。

 これに対し、我々は情勢の変化を密接に観察し、冷静沈着に対応し、一連の対応するコントロール措置をタイムリーに採用し、現在積極的な成果を上げつつある。我々は広範な国内市場を有し、比較的豊富な資金と素質が不断に向上している労働力の優位性をもっており、更には改革開放30年で打ち固められた物質的・体制的基礎と長年蓄積したリスク対応経験を持ち合わせており、経済発展の良好な勢いを強固にする自信・能力を完全に備えている。

 我々は、マクロ・コントロールの方向・程度・テンポを正確に把握し、ポイントをしっかり掴み、重点を際立たせ、区別して対応し、維持するものと抑制するものとを区別し、コントロールの有効性・対応性・柔軟性を高めなければならない。とりわけ、経済の平穏で比較的速い発展とインフレ抑制の均衡点をしっかり把握し、マクロ経済の安定・金融市場の安定・証券市場の安定を維持しなければならない。

(3)安全問題

 最近一時期、一部の地方で連続して食品安全事件と生産安全事故が発生しており、人民の生命健康へ深刻に損害を与え、極めて劣悪な社会的影響をもたらしており、教訓は十分深刻である。

 各レベルの党委・政府は食品安全と安全生産活動を重要な日程に載せ、いかなるときも疎かにしてはならない。これは科学的発展観を貫徹実施するうえでの要求である。決して、人民の生命健康への損害を引き換えに企業の発展と経済成長を求めてはならない。

①行政問責制を強化し、問題が発生した場合には指導責任を厳格に追及しなければならない[8]

②公民道徳・職業道徳・企業道徳・社会道徳建設を強化し、全社会に信義誠実・法遵守の良好な環境を形成しなければならない。

③食品の研究開発・生産・流通・消費各段階における監督管理を強化し、食品業の市場秩序の整頓に力を入れ、違法犯罪活動を断固として罰し、食品の質の安全を確保することにより、人民大衆が安心して食べられるようにしなければならない。

 

5.人民銀行の動向

5.1 蘇寧 人民銀行副行長・上海本部主任

 91921日に開催された「中国国際金融フォーラム」で次のように語っている[9]

(1)中国経済の顕著な変化

①経済成長速度が高位から適度に反落した

 経済成長速度が適度に鈍化することは、総量の矛盾を有効に緩和し、物価上昇の抑制に資するものであり、構造調整と発展方式の転換を推進するものである。

②投資・消費・輸出の伸びは相対的にバランスがとれてきている

 内需とりわけ消費需要が経済成長にもたらす牽引作用が増大している。

③インフレ圧力がやや緩和した

 物価の前年同期比上昇率が6ヶ月連続で低下している。インフレ圧力をコントロールする政策は成果が著しい。

④金融市場は総体として平穏に運行している

 金融機関の人民元・外貨各種貸出残高は前年同期比14.9%の伸びであり、銀行システムの流動性はかなり豊富であり、人民元レートの切上げ速度は加速している。

(2)経済運営で特に注意を払うべき問題

①重大な自然災害が一部地域の農業インフラを毀損し、農業生産財価格が高位で上昇を続けており、穀物の作付けコストが増加している。

②一部の企業の生産経営が困難になっており、利潤が低下し、流動性がかなり逼迫している。

③インフレ圧力は依然存在し、現在の消費者物価上昇率は高止まりとなっており、川上製品価格の上昇が川下に伝播する傾向が以前よりやや強まっており、インフレへの警戒は依然緩めることはできない。

④エネルギー・資源が経済発展を制約するという矛盾が際立っており、省エネ・汚染物質排出削減の各種任務は依然非常に困難である。

⑤サブプライムローン危機の影響はなお継続しており、証券市場は激烈に波動し、不動産価格は低下している。金融市場の動揺は、徐々に金融経済領域から実体経済領域に蔓延する可能性がある[10]

(3)経済政策

 現在の内外の各種不利な要因の影響を克服するため、

①マクロ・コントロールを更に強化・改善し、

②マクロ経済政策の連続性・安定性を維持し、

③マクロ・コントロールの予見性・対応性・柔軟性を増強し、

④区別して対応し維持するものと抑制するものを区別することを堅持し、

⑤経済の重点分野と脆弱部分への支援を強化することにより、

国民経済の良好で速い発展を促進する。

 金融政策と財政政策・産業政策との協調的組合せを強化し、経済構造調整と発展方式の転換に力を入れ、経済発展の質と効果を高める。

 

 5.2 人民銀行第3四半期アンケート調査

(1)企業

 5000社の企業の回答では、17月期の実現利潤総額は482314億元、前年同期比7.61%増であったが、前年同期より伸び率は33.4ポイント低下した。石油加工・コークス業の大幅赤字と電気・熱業種の利益の顕著な減少が主な要因である。

(2)銀行家

 2900社の金融機関の回答では、現在のマクロ経済が「かなり熱気をおびている」「過熱している」と回答した銀行家は44.5%であり、前期より19.8ポイント低下した。「正常」と認識する者は41.6%であり、前期より9.4ポイント増加した。第4四半期(1012月)の経済動向については、35.3%が「かなり熱気をおびた状態が続く」と答えており、48.1%が「正常」、13.6%が「かなり冷え込む」としている。

 第3四半期の金融政策が「適度」と回答した銀行家は44.9%であり、前期より13.7ポイント増加した。しかし、株式制銀行と外資銀行は7割超ないし7割近くが「引き締め過ぎ」「かなり引き締まっている」と回答している[11]

(2008年9月記・6,502字)


 


[1]  新華網北京電2008922日。

[2]  新華網北京電2008919日。

[3]  新華網北京電2008919日。

[4]  新華網北京電2008918日。

[5]  これに呼応し、証券監督管理委員会は921日、上場会社が株を証券取引所で集中的に競争価格で買い戻す際に必要な行政許可を取り消す等を内容とした「補充規定(意見徴求稿)」を公表した(新華網北京電2008921日)。

[6]  新華網北京電2008919

[7]  新華網北京電2008920日。

[8]  これに基づき、粉ミルク汚染事件では922日に国家品質監督検査検疫総局の李長江総局長が辞任に追い込まれ、メーカーの存在する河北省石家荘市の書記・市長・主要幹部が更迭された。同日、河南省登封市では、大規模石炭事故の責任をとらされ、市長・副市長の免職が決まった。21日には、43人が死亡した深圳のナイトクラブ火災で地区指導者が免職になった。また、山西省の孟学農省長も2500人以上の犠牲者を出した土石流の責任をとらされ、辞任した。9月中旬以降の幹部更迭は約20人に及んでいる(日経2008923日、読売2008924日)。

[9]  上海証券報2008922日。

[10]  922日現在で、リーマンブラザースの債券について、現在データを公表しているのは7行である。うち建設銀行は19140万ドル(純資産の0.29%)、工商銀行は15180万ドル(グループ総資産の0.01%)、中国銀行は7562万ドル(純資産の0.19%)、交通銀行は7002万ドル(総資産の0.02%)、招商銀行7000万ドルである。人民銀行の馬徳倫副行長は、『金融時報』に寄稿し、中国の銀行は国際取引量が大きくないため、サブプライム関連は100億ドルを超えない可能性があるとしている(中国青年報2008922日等)。

[11]  新華網北京電2008922日。

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