こんにちわ、ゲストさん
ログイン2005年3月21日
はじめに
3月5日、全人代が開催され、温家宝総理が政府活動報告(以下「報告」)を行った。その主要なポイントは以下のとおりである。
1) 構成
2004年の3部構成をやめ、全体が7章に大幅に再編成された。
第1章は従来どおり前年の政策回顧である。これまでは、第2部として当年の政策が列挙されていたが、今回の報告では第2章で2005年の政策の基本方針が述べられ、具体的政策については、第3章から第7章までに次の順に列挙されている
2005年
|
2004年
|
|
|
2004年の第3部「政府自身の建設強化」は第6章となった。
この2年の項目の比較から、2005年について次の特徴がうかがえる。
A 「発展」・「改革」・「安定」の観点から各政策を再整理
これまでも、経済政策を実行するに当たっては「発展・改革・安定の関係を正確に処理する」ことが常に強調されてきたが、今回は従来羅列的であった各種政策をこの3項目(第3章・第4章・第5章)に大きく再整理し、各政策の主たる目的がどこにあるかを明確にしている。
B 「調和のとれた社会」の強調
2004年の党4中全会で提起された「調和のとれた社会」の建設が大項目として登場した。これは、2005年の中央党校省部クラス主要指導幹部研修班においても胡錦涛総書記が強調しており(2005年2月19日付け人民網北京電)、2004年の「科学的発展観」に続き、2005年のキー・ワードとなることが予想される。
なお、「(社会主義の)調和のとれた社会」という概念は分かりにくいので、上記の研修班で胡錦涛総書記が行った定義を紹介しておきたい。彼は次の条件が満たされた社会を「社会主義の調和のとれた社会」としている。
2) 2004年の回顧
ここ2年で出現した新たな問題(食糧需給の逼迫、固定資産投資の膨張、貸出しの急拡大、石炭・電力・石油・輸送の逼迫)に対して適時にマクロ・コントロールの強化策を発動し、食糧増産、農民の増収、固定資産投資急拡大の抑制等に成功したこと、「これは、胡錦涛同志を総書記とする党中央が全局を統轄し、正しく指導を行ったたまものである」ことが強調されている。今回のマクロ・コントロール強化には上海などの強い反発があったと伝えられており、中央の政策の正しさが事あるごとに強調されているのである。
この部分については、以下の点を指摘しておきたい。
A マクロ・コントロールの教訓
報告は「豊富な実践を積み重ねる中で思想や認識を高めることができた」とし、具体的には次のことを体得したと強調している。
今回も2004年報告と同様、中央財政の支出額を以下のように具体的に挙げることにより、どこに施策の重点が置かれていたかを強調する説明方式がとられている。
C 経済社会の問題
経済社会の問題を次のように3分類している。
2004年の報告では、所得格差・貧困が先に出ていたが、2005年は三農、マクロ経済の問題が強調されている。また、経済社会の問題と政府の問題を切り分けたのも今回の特徴である。
3) 2005年の施策の基本方針
「科学的発展観を拠り所として経済と社会の発展の全局を統轄することを堅持し、マクロ・コントロールを強化・改善し、改革開放を原動力として諸般の仕事を推し進め、社会主義の調和のとれた社会を築き上げ、社会主義の物質文明、政治文明、精神文明がともに進歩するよう推し進めていくこと」が2005年の基本方針であるとする。
A 経済諸指標
これまで、経済指標は経済報告の中で言及されることが通常であり、一時は経済成長目標も政府活動報告から経済報告に移されたことがあった。今回は逆に政府活動報告に主要な目標を掲げている。
経済成長率の目標「8%前後」は2004年より1ポイント高い数字である。今回成立目標を引上げたことについて、政府活動報告は詳しく説明していないが、経済報告では3つの理由を挙げている。
報告は、以下の3方面に重点的に力を入れなければならない、とする。
A 引き続き経済の安定した比較的速い発展を維持する
a マクロ・コントロールの強化・改善を堅持する
指導部は、2005年を「改革の年」と位置付けており、具体的には次の項目が列挙されている。
「江沢民の国防・軍隊建設思想」にわざわざ言及しているが、これは党に引き続きこの全人代で政府の中央軍事委主席を辞職する江沢民へのはなむけであろう。情報化における部隊のトータルな防衛戦闘能力強化、科学技術による軍事訓練の実施、科学技術研究、武器装備の現代化に力点が置かれている。この結果、国防予算は2446.56億元(対前年比12.6%増)と高い伸びを示した。
2004年7月24日の党政治局集団学習会において、国防建設と経済建設の協調発展を全面的に貫徹する方針が打ち出されており、これが予算の大幅な伸びとなって現れたのであろう。他方、2005年中に20万人の兵力削減を併せて行うことも再確認されている。
また、「人民武装警察部隊の整備を強化し、その執務能力及び突発事件への対処能力を増強させる」としており、軍のスリム化に伴い農民の集団抗議行動等に対する国内治安の確保における武装警察の役割拡大を図っている。
h 台湾
「今大会で審議することとなる『反国家分裂法』(草案)は、最大の誠意と最大の努力を尽くして、祖国の平和的統一を勝ち取ろうとする我々の一貫した立場を十分に反映したものであり、国家主権と領土保全を擁護し、『台湾独立』を企てる分裂勢力が台湾を中国から切り離そうとするいかなる名目、いかなる方式も絶対に許すことはない、という全中国人民の共通の意志と断固とした決意を明らかにしたものである」とする。
大会前日3月4日に全人代スポークスマンの姜恩柱は「この法律は決して対台湾武力発動法ではないし、戦争動員令でもない」と釈明し(2005年3月4日人民網北京電)、胡錦涛総書記も、4日午後に全国政協会議において重要講話を行い、「我々は引き続き最大の誠意をもって、平和的な統一の未来を勝ち取ることに最大の努力をはらう」と強調している(2005年3月4日新華社北京電)。これらは、この法律に対する日米をはじめとした周辺諸国の警戒心の高まりに中国なりに対応しようとしたものであろう。i平和的発展の道を歩みつづけ、独立自主の平和外交政策を堅持する
「国際情勢は複雑かつ深刻な変化を遂げつつある。平和と発展は依然としてこの時代のテーマである。中国の社会主義現代化建設の道は平和的発展の道を歩むことである」とし、この道は「永遠に覇を唱えず、永遠に世界平和の擁護及び共同発展の促進を図る確固とした力となることである」とする。今回の報告では「平和」がやたらに用いられており、これも「反国家分裂法」への釈明の一環であろう。
まとめ
政府活動報告の内容は多岐にわたるものであるが、何点かコメントをしておきたい。
A 郷・鎮レベルの行財政改革が急務となっている
農業税の撤廃を2005年に設定しているが、農業税は郷・鎮政府及び農村義務教育の主要な財源となっている。農民からの収奪を再燃させないためには、末端政府の簡素化と省以下のレベルの財政制度の確立が不可欠であり、併せて中央から地方へ、省から末端政府への財政移転制度を早急に整備する必要がある。金人慶財政部長は、3月9日の記者会見で、減収800億元のうち、20%は地方財政(主として東部地域)に負担させ、残る80%は中央財政が財政移転支出により県・郷に保証する旨を明らかにしている(2005年3月9日人民網北京電)。
B 地方レベルの政治体制改革が急務となっている
今回の投資過熱は地方政府主導であることは共通の認識となっており、地方政府が企業の投資決定や金融機関の融資決定に過度に干渉していることが最大の問題である。即ち、中央が市場経済を志向しているにも関わらず、地方政府が計画経済時代の思考・行動様式を改めていないため、中央のマクロ・コントロールが十分に働かず、結果として計画経済時代の行政指導を発動せざるを得ない事態に陥っているのである。地方政府は依然投資再開の機会を狙っていると言われており、この状況を改めるには中央の強いリーダーシップの下、地方における政治体制改革を徹底させる必要がある。
C 財政政策の転換は緩慢である
「三農」・社会保障・教育・衛生・地方への財政移転などこれから財政需要は益々増えるばかりであり、しかも西部地域・東北地方・中部地域がそれぞれ声高に優遇策を訴えている。また、国家重大プロジェクトを所管する国家発展・改革委員会は建設中のプロジェクトの継続的資金供給を求めている。このような状況で、財政赤字・国債発行規模の急な削減は困難であり、財政部は税の増収を引き続き図っていくことになろう。
ただ、増値税は今後の消費型への転換により増収は望めず、企業所得税も内外税率の統一により国内企業に関しては負担軽減となる可能性が高いため、所得分配構造の改革の観点からも個人所得税の課税強化が行われることになると思われる。ただ、これは同時に納税者の権利意識を高め、財政面からの民主化要求が高まることが予想される。2004年の「会計検査の嵐」は、その先触れともいえよう。
D 外資の選別化
2004年の外資批判を受け、外資に対し国内産業の高度化・技術レベルの高度化への貢献が要請されるようになってきている。また、地方政府の外資誘致も非難されており、これからは進出企業は地方政府の優遇策だけではなく、国家発展・改革委員会の打ち出す産業政策、地域開発計画の動向にも十分注意する必要がある。
また、最近環境保全・安全生産・労働者の権益保護にも政策の関心が高まっているので、こういう方面の施策にも注意を払う必要がある。
(2005年3月10日記・14.263字)
信州大学教授 田中修
有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。
2024年11月19日
2024年11月12日
2024年11月7日
2024年10月22日
2024年10月9日