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董事(非居住者)に関する個人所得税の納税義務について

中国ビジネスレポート 税務・会計
水野 真澄

水野 真澄

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2005年3月20日

<法務>

董事(非居住者)に関する個人所得税の納税義務について

中国非居住者が、中国企業(外資企業を含む)の董事となっているケースは、非常に多いのですが、この場合、董事の中国における個人所得税の納税義務はどうなるのか、中国滞在日数や董事報酬の負担の仕方によって、納税義務や納税計算はどの様な影響を受けるのか、というご質問をよく受けます。

ここでは、日本居住者が、中国企業の董事をとなる場合の個人所得税の納税義務について、解説します。

1)董事報酬の考え方

董事報酬は、租税条約上の役員報酬に該当するものです。

役員報酬は、通常の賃金・給与とは所得源泉の判定方式が異なっており、報酬を受け取る人間の滞在地ではなく、会社の所在地に一義的な課税権が与えられています。

これは、役員報酬が「経営」という特殊な役務の対価として支払われるもので、その所得の源泉が役務提供地とは必ずしも一致しない(その場にいなくても役務提供ができる)ことを勘案し、賃金・給与の様に183日ルールを適用するのではなく、企業の所在地をベースに所得の源泉地を判定することとしているものです。

したがって、この考え方に基づけば、中国の会社(外資企業を含む)の董事に任命されている日本居住者は、たとえ年間1日も中国に滞在していなくても、董事費用を取得すれば、中国で納税義務が発生することになります。

<日中租税条約第16条>
一方の締約国の居住者(日本居住者)が、他方の締約国である法人(中国の企業)の役員の資格で取得する役員報酬その他これに類する支払金に対しては、当該他方の締約国(中国)において租税を課することができる。

2)中国の国内規定

中国の国内規定でも、おおむね、この考え方に基づいて、董事の納税義務が判定されます。
関連規定に基づけば、非居住者が中国企業の董事を務めている場合は、以下のルールに基づいて中国での納税義務を判定することとしています。

1.董事報酬を中国の企業が支払う場合
  中国の企業が、非居住者である董事に報酬を支払った場合、その董事が中国外で職務を履行したか否かにかかわらず、全て中国で個人所得税を納税することが義務付けられています。

2. 董事報酬の全額、もしくは一部を中国外の企業が支払う場合
  董事報酬を中国内の企業と中国外の企業が支払う場合は、以下の計算式に基づいて、納税額を算定することとしています。
  つまり、「国外の企業が支払った報酬であり、かつ、国外の仕事に相当する部分」を課税の対象から除外することを認めるものです。

● 計算式
 納税額 =(当月の給与総額 x 適用税率−速算控除額)x(1−A)

         当月国外支払給与   当月国外労働日数
    A = —————-x ——————
           当月給与総額         当月日数

● 計算例
 月額報酬 40,000元(日本企業支払額30,000元/中国企業支払額10,000元)
    月に2日中国滞在(28日は日本滞在)

  (1) 国外企業が支払い、かつ、国外の仕事に相当する部分の算定
     (30,000元÷40,000元)x(28日÷30日)= 0.7

  (2) 納税額の判定
     {(40,000元 – 4,000元)x 25% – 1,375}x(1-0.7)
     = 2,288元
     ⇒ 課税所得36,000元(基礎控除適用後)に対応する税率及び速算控除額で判定

つまり、董事報酬を、全額中国外企業が負担し、かつ、中国滞在が一日もなければ中国での納税は不要ですが、それ以外の場合は、中国で個人所得税の納税義務が必要になります。

3)実務上の問題点

上記の国内規定の対応は、おおむね租税条約の内容と同じ(国内規定の方が、若干寛容)ですので、董事の納税義務は、上記の国内規定に基づいて行われることになりますが、運用上は、以下のような問題点が生じます。

1. 兼務の場合
中国企業の董事を務める非居住者が、その業務(董事としての業務)のみに従事している場合はよいのですが、兼務を行っている場合は、報酬の配分がどのように合理的に行われるか、という実務的な問題が生じます。

つまり、日本居住者が中国の現地法人の董事を務める場合、通常、その人間は主要業務を日本で行っており、中国法人の董事として提供する役務は、非常に低い割合のものであると言えます。また、その様な状況で受け取る報酬に付いては、全額、もしくは大半が日本で提供する役務の対価であり、中国法人の董事という役職は、無償奉仕の形で行っている場合が少なくありません。

したがって、本来的には、当該非居住者の報酬を、董事として受け取る報酬部分と、それ以外(日本企業のために提供した役務の対価)に分けて、個別の対応をすることが理論的には適切といえます。

実務的には、中国企業が報酬を支払わない限り、非居住者の董事が中国で課税されるケースは、あまり見受けられません。ただし、課税が行われることとなった場合、この判断がどのように行われるかが問題になってきますし、対応が難しいところです。

2. 適用税率
「個人所得税徴収についての若干の問題」に関する規定の配布に関する通知(国税発[1994]089号)では、董事報酬は、賃金・給与としてではなく、「労務報酬」として課税することが規定されていますが、上記算式を適用すると、結果として賃金・給与として課税されることになります。

このような問題点に対する実務的な運用を、上海・広州の税務局に確認しましたが、結果として、以下の通りの回答がありました。

・非居住者が中国法人の董事となる場合、中国法人が董事報酬を負担しない場合は、中国で個人所得税を支払う必要はない。

・非居住者の董事であっても、理論的には労務報酬として課税すべきであるが、ほとんど納税実例はない。

上記は、ヒアリングした税務局の実務的な見解ですので、参考に留めていただきたいのですが、基本的には、中国の企業が董事報酬を負担しない場合、その董事としての役務は無償奉仕(課税対象の報酬はない)という考え方が主流で、結果として、非居住者の董事が課税された実例があまりない、という結果に繋がっていると判断されます。

4)根拠となる規定

最後に、本件に関連する規定とその概要をご紹介します。

1. 日中租税条約
概要:賃金・給与については、滞在地をベースに所得の源泉を判定し、183日ルールを適用して課税権の有無を判定することを規定。
一方、取締役報酬については、会社の所在地に一義的な課税権が認めている。

2. 個人所得税法及び同法実施条例
概要:個人所得税の根拠法

3. 「個人所得税徴収についての若干の問題」に関する規定の配布に関する通知(国税発[1994]089号)
概要:董事報酬については、賃金・給与としてではなく、「労務報酬」として課税することを規定。
労務報酬の場合は、都度毎の収入の20%を基礎控除とした上で(4,000元を超えない場合は800元)、20%の税率を適用して個人所得税額を算定。
なお、一回に受ける役務報酬が著しく高い場合(20,000元を超える場合)は、要納税額の5〜10割が加算される。

4. 中国国内に住所を有しない個人が取得した給与所得の納税義務の問題に関する通知(国税発[1994]148号)
概要:董事、高級管理職員(総経理、副総経理など)の取得する報酬で、中国国内の企業が支払ったものについては、日数ルール(183日ルール等)を適用せず、全て中国で納税申告することを義務付けている。
一方、中国国外の企業が支払った報酬については、日数ルールを適用し、納税義務・納税額を判定することを規定している。

5. 中国国内に住所を有しない個人が個人所得税を計算納付する事に関する若干の具体的問題の通知(国税函発[1995]125号)
概要:董事、高級管理職員の報酬に関し、国内及び国外で支払われ、かつ、国外で役務提供した日がある場合の計算方法として、以下を規定。

   (計算式)
   納税額 =(当月の給与総額 x 適用税率−速算控除額)x(1−A)

             当月国外支払給与   当月国外労働日数
       A = —————-x ——————
              当月給与総額        当月日数

6. 「中国内に住所のない個人に対して租税協定及び個人所得税法を施行するにあたっての若干の問題に関する通知(国税発[2004]97号)
概要:4・5では、董事と総経理・副総経理の報酬を、租税条約上の役員報酬に準じて扱っているが、この規定により、この対応は、各国と結んでいる租税条約の内容に応じて判断することを規定。
日本居住者については、董事報酬は租税条約上の役員報酬として、一方、総経理・副総経理が取得する報酬は、賃金・給与として扱われることとなります。

以上

(2005年3月記・3.717字)
丸紅香港華南会社コンサルティング部長・広州会社管理部長
水野真澄

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