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中央経済工作会議のポイント

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

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2004年12月14日

<マクロ経済>
中央経済工作会議のポイント

田中修

はじめに

 2004年12月3−5日に党中央・国務院共催による中央経済工作会議が開催された。以下、その主要なポイントにつき、解説することとしたい。

(1) 開催時期、出席者

 2003年の中央経済工作会議は11月27−29日に開催されたが、今回は12月初頭にずれこんでいる。これは、11月に胡錦涛国家主席がAPEC首脳会議に出席し、温家宝総理がASEAN+3首脳会議に出席するなど指導者の外遊が多く、案文の調整に手間取ったためではないかと想像される。

 今回は9人の政治局常務委員が全員出席した。これまでは、9人の姓名だけが発表されていたが、今回は9人の党・国務院・全人代・全国政協における具体的役職が列挙されている。江沢民が党中央軍事委主席を退き二重支配体制が一応解消されたのを受け、このように各組織の枢要なポストを占めている者こそが最高指導部構成メンバーであることをはっきりさせたかったのかもしれない。

(2) 国際情勢認識

 2003年までは、「世界の多極化と経済のグローバル化が国際構造の変化における2大主要傾向である」という認識が示されていたが、今回は「世界構造は、多極化に向けた重要な過渡期にあり、経済のグローバル化は曲折の中で発展している」とされており、多極化・グローバル化が思うように進展していないとの認識が示されている。

 また、2003年は、「国際情勢は総体としてはなお平和・緩和・安定の状況にあるものの、局部的には戦乱、緊張、激動が存在し、世界平和の維持と共同発展の方面で、世界各国は新たな挑戦に直面している」としていたが、今回は「総じて見ると、平和・発展・協力は情勢の主流であるが、世界平和と発展に影響を及ぼす不安定・不確定要因も増加している」とし、国際情勢が一層流動化しているとの認識を示している。これは、米国がイラク問題の短期解決に失敗し、中東情勢やウクライナ情勢が混迷を深めていること等を念頭に置いているのであろう。

 2003年は、世界経済については、「世界経済が徐々に回復し、構造調整が加速していることは、わが国経済発展にとって総体的に有利である。同時に、国際環境の変化により、わが国は新たな挑戦に直面している。世界経済構造の深刻な調整において、各国の総合国力・競争力にもあるものは衰え、あるものは栄えるという変化が出現している。大調整は大きな挑戦であるとともに、大きなチャンスであり、チャンスをしっかり掴んでこそ、歴史的発展を勝ち取ることができるのである」とややハイテンションな記述が見られた。

 しかし、今回は「現在の世界経済情勢と発展趨勢からして、来年わが国の経済発展が直面する国際環境は、なおチャンスと挑戦が並存し、総体としてはなおチャンスの方が挑戦よりも大である」と落ち着いたトーンになっている。2003年末は中国の「平和台頭」に関する内部議論が高まった時期であり、それが会議にも反映していた可能性があるが、その後2004年半ばから「平和台頭」論が表舞台から退場したことにより、表現も落ち着いたのであろう。

(3) 経済引締めの正当性

 会議は、「経済生活中出現した新状況・新問題に対し、中央はマクロ・コントロールをさらに強化・改善する政策措置の採用を決定し、経済運営中の不健全・不安定な要素を抑制し、乱高下が出現することを回避し、経済発展の良好な勢いを保持した」とする。

 そして、その成果として、食糧生産に重要な転機が出現したこと、農民収入の速い伸びが実現したこと、一部業種の投資の急速な伸びを抑制することができたこと等を列挙し、「1年余り中央が採用してきたマクロ・コントロール政策措置は、時機にかなっており、正確で、有効であることが、実践から証明された」と強調する。ここまで政策の正当性を強調しているということは、それだけ今回の経済引締めに異論が多かったことの証左でもある。

 そして、今回の措置でさらに重要なことは、「全党同志に科学的発展観という認識を深化させ、科学的発展観がわが国経済社会の全面的発展にとって重要な指導思想であるという認識を一層深めさせ、社会主義市場という経済条件下において経済成長の大幅な波動の出現を防止するという認識を一層深めさせ、市場メカニズムの作用の発揮とマクロ・コントロールの強化の関係についての認識を一層深めさせ、わが国の国情と新たなタイプの工業化の道を進むことへの認識を一層深めさせ、社会主義市場経済を制御する技量を高めたことである」とし、このことは「長い目で見れば、我々の思想認識上獲得した収穫は、さらに貴重であり、影響はさらに深遠である」とする。

 一方で、「我々は、マクロ・コントロールの強化・改善によって得た成果は、まだ段階的なものであり、経済運営中の矛盾・問題はなお比較的際立っており、長期にわたり累積し全局を制約する矛盾・問題がなお少なからず存在することを、冷静に見てとらねばならない」とする。この具体的な中身については、会議では明言していないが、12月5日付けの人民日報社説「科学的発展観を用いて経済社会発展の全局を統率しよう」(以下「社説」)では、経済発展過程で出現した際立った問題として、具体的に、
a 食糧需給関係の逼迫
b 固定資産投資の猛烈な伸び
c 貨幣信用貸出し量が多すぎる点
を例示している。

(4)2005年の基本方針

 会議は、2005年は「科学的発展観を貫徹実施し、マクロ・コントロールの成果を強固にし、経済社会の良好な発展態勢を維持するカギとなる1年」であり、「第10次5ヵ年計画の計画目標を全面的に実現し、第11次5ヵ年計画の発展につなげる重要な1年」であるとの認識を示している。

 そして、社会主義市場経済を統御する能力をさらに高め、マクロ・コントロールを強化・改善し、改革開放の推進に力を入れ、経済構造調整・経済成長方式の転換を加速し、重要な戦略的チャンスの時期をうまく利用して、経済社会の全面的で調和のとれた持続可能な発展を実現することを要求している。

 そして、その要求に照らし、「最も根本的なことは、科学的発展観によって経済社会の発展の全局を統率し、経済社会の発展の各方面に貫徹実施することである」とする。2003年の会議もSARSの深刻な反省を踏まえ、これまでの経済発展至上主義・GDP至上主義の発展観から「人を根本とし、全面的で調和のとれた持続可能な」発展観への転換がうたわれていたが、今回はその趣旨が「科学的発展観」という形でより徹底されている。

(5) 2005年経済政策の主要任務

1.マクロ・コントロールを引き続き強化・改善し、経済の平穏で速い発展を確保する
 全党同志は、「社会主義市場経済下におけるマクロ・コントロールの必要性・長期性・困難性を十分認識し、中央の各種政策措置を貫徹実施するという自覚を強化し、容易ではない今の良好な情勢をさらに強固に発展させなければならない」とする。

 まず、「経済の平穏で速い成長を保持するため、経済成長の予期目標を合理的に確定しなければならない」としており、従来の機械的な7%成長目標に何らかの修正が入る可能性もある。

 マクロ政策については、「穏健な財政政策と金融政策を実行しなければならず、固定資産投資の速すぎる伸びを引き続き抑制しなければならない」とし、98年8月以来継続していた積極的財政政策の転換がようやく最終決定した。そもそも固定資産投資の抑制を主張しながら政府投資の拡張を続けるのは全くの政策矛盾であり、この決定は遅きに失したといえよう。

 また、「マクロ・コントロールの強化・改善の各種政策措置を実施するに際しては、区別して対応し、あるものは保護し、あるものは抑えるという原則を十分体現しなければならない」としている。これは経済引締めを強化した過程で、過熱業種以外の非公有制企業までもが資金難に陥ったこと等を踏まえ、適切な配慮を促しているものと考えられる。

 さらに、「市場の資源配分の基礎的な作用を発揮させ、経済手段と法律手段の運用を更さらに重視しなければならない」とするが、これは経済引締め強化の段階で行政指導が多用され、「市場経済にそぐわない」との内外の批判を受けたことへの反省であろう。

 投資と消費の関係については、「都市・農村住民の消費能力を高め、経済成長に対する消費の牽引作用を強化しなければならない」とする。ただ、これは言うは易しであり、消費を真に回復させるには、「三農」(農業・農村・農民)問題への対策、雇用対策、社会保障制度の整備をはじめ多くの困難な課題に取り組まなければならない。

2.「三農」への支援を引き続き強化し、農業・農村の良好な発展の勢いを保持する
 「『三農』問題の解決を全党活動の重点中の重点とすることを堅持し、いかなるときも疎かにしてはならない。来年の各種農業支援措置は、強化こそすれ、弱めてはならない」と注意を喚起している。近年、財政収入は強化されてきているが、「農業への財政投入を着実に増加させ」るとともに、「農村税・費用改革を引き続き深化させ、農村支援の新たな資金ルートを絶えず開拓しなければならない」とする。財政政策が積極から穏健に転換する中で、今後農業関係の予算が拡充していくことが予想される。

 また、「わが国は、現在総体として、すでに工業が農業を促進し、都市が農村の発展を促す段階に到達した。我々はこの趨勢に適切に順応し、さらに自覚的に国民所得分配構造を調整し、『三農』の発展をさらに積極的に支援しなければならない」とする。このためには、中央から財政力の弱い地方への財政移転支出を一層強化するとともに、現在の中央から有力都市へ行われている租税還付を大幅に削減する必要があるが、それには上海市など有力都市の大きな抵抗が予想される。

3.構造調整の推進に力を入れ、経済成長方式の転換を促進する
 具体的には次の4点が指摘されている。

A 自主革新能力を向上させることは、構造調整推進の中心的部分である
 「技術研究と開発システムを健全化し、先進技術の導入と消化・吸収・革新を相結合し、革新を奨励する政策体系を完備」しなければならないとする。2003年と異なり、先進技術の「消化・吸収」を強調しているのは、最近外資批判の一環として、「外資導入は、何でも外資を崇拝・模倣する観念を助長し、中国企業の自主革新能力を喪失させる」との意見が出ていることを踏まえたものであろう。

B エネルギー・資源の節約は、構造高度化の重要目標である
 「高消耗・高汚染・低産出の状況を反転させ、経済成長方式を全面的に転換させなければならない」とし、節約を首位におき、循環型経済を大いに発展させなければならない」とする。現在のエネルギー・資源多消費型の成長を2020年まで継続させることは不可能であり、第11次5ヵ年計画においては、循環型経済社会の構築が最大のテーマとなろう。

C 都市化の健全な発展を推進することは、構造調整の重要な内容である
 「わが国は、正に都市化が急速に発展する重要時期にあり、都市化の健全な発展を有効に導き、都市・農村の関係を妥当に処理し、都市・農村二重構造を徐々に改変するメカニズムを確立しなければならない」とする。ただ、「土地の保護節約に注意し、農民の合法権益を擁護し、都市化の進度を合理的に掌握しなければならない」とも述べており、都市化の過程でしばしば発生する、農民からの土地収奪の問題がうまく解決できていない事情を物語っている。

D 地域経済の協調発展の促進は、構造調整の重大な任務である
 ここで西部大開発の実施、東北等旧工業基地の振興、中部地域の興隆促進が述べられている。中部地域については、2003年は「中部地域の総合優勢を有効に発揮し」と述べられていただけだったが、今回「中部地域の興隆促進」となったのは、この地域に農業が集中しており、「三農」を重視する現指導部としては、西部・東北とともに積極的な位置づけを与えざるを得なくなったのであろう。

4.経済体制改革の推進に力を入れ、健全で全面的に調和のとれた持続可能な制度保障を確立する
 「現在改革は堅塁攻略の段階にある」とし、4つの着眼点を指摘している。

A 活力・競争力を増強し、企業改革を引き続き深化させる

 「国有資産の監督管理体制を完備し、健全な現代企業制度を早急に確立し、国有経済の配置・構造調整を積極的に推進し、国有資産流出を防止」するとしている。2003年にはなかった「国有資産流出防止」の記述が入ったのは、2004年8月以降、国有企業の所有権改革について、一部の学者から「国有資産流出を加速している」との批判が出ていることに対応したものであろう。

 非公有制経済については、「発展を積極的に奨励・支援・誘導する」という従来の表現が述べられているが、2003年にはない「非公有制経済の産業階層・企業素質を不断に向上させる」という記述がある。2004年の経済引締めで、非公有制経済の経営基盤の脆弱性が改めて浮き彫りになっており、その体質強化が急務になっている事情が窺える。

B マクロ・コントロールの体系を完備し、コントロールの有効性を強化する
 「財政・税制体制改革、金融体制改革、行政管理体制改革を引き続き深化させ、投資体制改革方案を実施する」としている。投資体制改革に関する記述がやや弱いのは、実施段階で地方政府の抵抗を受け、思うような進捗が見られないからではないかと想像される。

C 現代市場体系を完備し、資源配分の高度化を促進する

 「資本、労働力、技術等の要素市場と社会信用体系の建設を加速する」としている。

D 経済関係の秩序を正し、規範化し、経済法律制度を完備する

5.国内の発展と対外開放を統一企画し、国際競争力を増強する
 「対外開放水準の不断の向上」を説いてはいるが、「外資利用の質の向上に力を入れ、自主革新能力の向上を出発点とし、外資利用構造を不断に高度化し、産業高度化と技術革新を促進しなければならない」とする。2003年にない「自主革新能力の向上を出発点とする」という一文が挿入されたのは、2004年3月から9月まで展開された外資導入の是非をめぐる論争を反映したものであろう。この記述からすれば、中国の産業高度化や技術革新に寄与しない外資は、今後歓迎されない可能性もある。
(6)人を根本とすることを堅持し、社会主義と調和のとれた社会の建設に努力する

 このような表題がつけられたことは、すでに社会の現状が社会主義の精神から大きく乖離していることの証左であろう。政策としては具体的には、発展の中で就業問題を解決すること、社会保障体系を徐々に完備すること、農村貧困人口の生活難の問題解決を高度に重視すること、所得分配の秩序を整頓・規範化し、国民所得分配構造を合理的に調整すること等が列挙されている。

(6)2005年の主要経済活動項目

以上の重点を踏まえ、次の8項目に集約されている。

  1. マクロ・コントロールを引き続き強化・改善し、コントロールの力の入れ具合・重点を正確に把握し、経済の平穏で速い発展と物価の基本的安定を保持する
  2. 「三農」工作を一層強化し、農業総合生産能力を高め、食糧増産と農民増収を促進する
  3. 固定資産投資の総規模を抑制し、投資構造を高度化し、投資と消費の関係を調整する
  4. 新しいタイプの工業化の道を進むことを堅持し、経済構造調整と成長方式の転換を加速する
  5. 東部・中部・西部が互いに作用し、優位な部分で互いを補い、各地域の共同発展を実現する
  6. 科学・教育による興国戦略を更に実施し、各種社会事業の発展を加速する
  7. 人を根本とすることを堅持し、人民大衆の利益に関わる各種工作を立派に行い、社会の安定を維持する
  8. 経済体制改革の推進に力を入れ、対外開放水準を全面的に高める。同時に、第11次5ヵ年計画と2020年長期目標の制定工作をしっかり行う

むすび

 最後に会議は、「全党が科学的発展観を貫徹実施することへの自覚と決意を一層強化し、発展観念を転換し、発展思考を調整し、思想・行動を科学的発展観の貫徹実施という要求に適切に統一しなければならない」と再度強調する。

 これを見ても分かるように、今回の会議は科学的発展観一色であり、これを党・政府関係者に徹底することが最大の目的だったように見える。事実社説においても、科学的発展観により経済社会の全局を統率することが全編強調されているのである。科学的発展観の内容は、すでに2003年の党3中全会や中央経済工作会議においてほぼ固まっており、ただ名称が定まっていなかっただけであった。

 これを今回再度強調したことは、2004年の経済引締め過程において、地方政府がその内容を十分に理解せず従来型の成長志向を追求し、当初引締めの効果がなかなか上がらなかったこと、5月に一層の締付けが始まって以降も上海を中心に地方から強い異論が出るなど、中央の政策意図がなかなか地方に浸透しなかったことが背景にあろう。

 注意すべきは、この科学的発展観がすでに党の重要指導思想と位置づけられていることである。江沢民は、自らの指導思想を確立するまでに、まず95年秋から96年前半にかけて「政治を重んずる(講政治)」運動を試みて失敗し、99年に再度「三講」学習運動を展開して権力基盤を強化した後、2000年初にようやく「3つの代表」論を提起している。

 しかし、「3つの代表」が指導理論として体系を確立したのは、2001年7月1日の重要講話においてであり、これが正式に党の指導思想となるのは、2002年11月の第16回党大会においてである。これに比べ、科学的発展観はかなりスピーディに重要指導思想の地位を獲得しており、江沢民の引退により胡錦涛総書記の権威が急速に高まりつつあることを示唆している。

 なお、2003年には「全党全国は胡錦濤同志を総書記とする党中央の周囲に緊密に団結し」という表現はなく、社説の方で述べられていたが、今回は会議本文の方ではっきりと述べられている。これも江沢民の引退により二重支配構造が解消されたことを反映しているのであろう。

(2004年12月8日記・7.383字)
信州大学教授 田中修

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