こんにちわ、ゲストさん

ログイン

2007年中央経済工作会議のポイント

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

無料

2008年1月7日

記事概要

12月3日から5日にかけて、共産党中央・国務院共催により、2008年の経済政策の基本方針を決定する中央経済工作会議(以下「会議」)が北京で開催された。また、新華社等もこれに関連した論評を発表している。本稿では、これらのポイントにつき解説することとしたい。

はじめに

 12月3日から5日にかけて、共産党中央・国務院共催により、2008年の経済政策の基本方針を決定する中央経済工作会議(以下「会議」)が北京で開催された。また、新華社等もこれに関連した論評を発表している。本稿では、これらのポイントにつき解説することとしたい。

 

1.17回党大会の成果

 

 会議は、「17回党大会が円満に成功したことは、引き続き思想を解放し、改革開放を堅持し、科学的発展を推進し、社会の調和を促進し、小康社会の全面的な建設に新たな勝利を勝ち取り、中国の特色ある社会主義事業の新局面を切り開くために前進の方向を指し示した」と評価する。

 

2.経済運営上の問題

 

 会議は、「現在、わが国の経済運営において、長期にわたって累積した際立った矛盾・問題が根本的な解決を見ておらず、同時に注意に値する新状況・新問題が出現した」とし、具体的に次の点を挙げている。

①経済成長がかなり速い(状態)から過熱に転化する傾向が未だ緩和されていない

②価格の上昇圧力が増している

③農業の基礎が依然脆弱である

④省エネ・汚染物質排出削減の情勢が相当峻厳である

⑤人民大衆の切実な利益に関わる問題がなお比較的際立っている

 

3.経済発展方式の速やかな転換と中国の特色ある新たなタイプの工業化の道

 

(1)意義

 会議は、「わが国は正に改革発展のカギとなる段階にあり、工業化・現代化の重要な時期にある」とし、「現在経済発展において出現した多くの状況・問題は、かなりの程度わが国の基本的な国情と発展の段階的特徴を客観的に反映したものである」とする。

 17回党大会で強調された、経済発展方式の速やかな転換と中国の特色ある新たなタイプの工業化の道を歩むことには、具体的には次の3つの転換を促進することが含まれる。

①経済成長が主として投資に依存することから、消費・投資・輸出が協調して牽引することへの転換

②経済成長が主として第2次産業に依存することから、第1次・第2次・第3次産業が協同で牽引することへの転換

③経済成長が主として物質・資源の消費増に依存することから、主として科学技術の進歩・労働者の資質の向上・管理のイノベーションに依存することへの転換

 そしてこの方針は、「わが国の現代化建設の長期にわたる実践から得た重要な結論」であり、「16回党大会以降、我々が科学的発展観を貫徹実施してきた重要な経験」であり、「現段階でのわが国の発展の客観的現実に基づいて提起された重大戦略思想」であり、「わが国経済社会の発展を推進するため堅持しなければならない正確な方向」であり、「小康社会の全面的建設において新たな勝利を勝ち取り、中国の特色ある社会主義の新たな局面を切り開くことにとって、重大な戦略的意義と緊迫した現実的意義を有する」とする。

(2)重点的に把握すべき重大問題

 次の5点を堅持しなければならないとする。

①イノベーションによる駆動

 「発展方式の転換と産業構造のグレードアップに有力かつ持続的な技術的支えを提供し、工業大国から工業強国に転換する歴史プロセスを加速させなければならない」とする。

②都市と農村の統一的企画

 「都市・農村の経済社会発展の一体的構造を形成し、都市・農村の共同繁栄の実現に努めなければならない」とする。

③資源節約・環境保護

 「現代化推進と生態文明建設を有機的に統一させ、資源節約型で環境にやさしい社会の建設を工業化・現代化発展戦略において際立った位置づけとしなければならない」とする。

④内外の協調

 「国内と国際の2つの市場・2つの資源を統一的に利用し、わが国の発展と各国の発展との良好な相互作用を促進しなければならない」とする。

⑤人間本位

 「民生の改善に一層重点をおき、最も広範な人民の根本的利益を適切にしっかりと実現・擁護・発展させなければならない」とする。

 

4.2つの大局

 

 会議は、「経済社会の良好で速い発展を推進するには、国内と国際の2つの大局の統一的企画を更に重視し、世界経済の動向を正確に把握し、経済政策の系統性・予見性・主動性をしっかり増強させなければならない」とする。各方面からの試練に適切に対応し、対外経済活動の質・水準を高め、対外開放の主導権をしっかりと掌握することが要求されるのである。

 

5.2008年の経済政策の総体要求

 

 会議は、2008年は、17回党大会で決められた戦略配置を全面的に貫徹実施する第1年であり、第11次5ヵ年計画の実施にとっても重要な1年であり、しかも改革開放30周年と北京オリンピックを迎えることから、2008年の経済政策をしっかり行う意義は十分重大であるとする。

 そして、2008年の経済政策の総体要求は、「17回党大会の精神を全面的に貫徹し、中国の特色ある社会主義の偉大な旗印を高く掲げ、鄧小平理論と『3つの代表』重要思想を指導とし、科学的発展観を深く貫徹実施し、経済発展方式の転換と社会主義市場経済体制の完備をしっかり中心に据え、引き続きマクロ・コントロールを強化・改善し、改革開放と自主的な創造・革新(イノベーション)を積極的に推進し、経済構造の改善と経済成長の質の向上に力を入れ、省エネ・汚染物質排出削減・生態環境保護を適切に強化し、民生の改善と社会の調和を更に重視し、国民経済の良好で速い発展を推進する」ことであるとする。

 さらに、「この総体要求の基本立脚点は、全面的で調和のとれた持続可能な発展を実現させること」であり、「『良好』を優先させることを堅持し[1]、速度の質と効率の協調、消費・投資・輸出の協調、人口・資源・環境の協調、改革・発展・安定の協調の実現に努め、経済社会の良好で速い発展の新局面を不断に切り開かなければならない」とする。

 

6.2008年の経済政策の主要任務

 

 6.1 マクロ・コントロール政策を整備・実施し、平穏でかなり速い発展という経済の好ましい勢いを維持する

 「経済成長がかなり速い(状態)から過熱に転ずることを防止し、物価が構造的な上昇から明らかなインフレに変化することを防止することを、当面のマクロ・コントロールの第1の任務とし、総量のコントロール・物価の安定・構造調整・均衡の促進を基調として、マクロ・コントロールをしっかりと行わなければならない」とする。

(1)金融政策

 2008年は引締め気味の金融政策を実施するとし、「マクロ・コントロールにおける金融政策の重要な役割を更に発揮させる」とする。具体的には、「貸出の総量とテンポを厳格に抑制し、社会の総需要と国際収支均衡の改善状況を更にうまく調節し、金融の安定・安全を維持する」としている。

(2)財政政策

 2008年も穏健な財政政策を実施し、「財政支出の規模を引き続き合理的に把握し、構造調整と調和のとれた発展の促進に力を入れ、支出構造を改善する」とする。具体的には、「社会保障・衛生・教育・住宅保障等の方面の支出をかなり大幅に増加する」としている。

(3)投資

 「プロジェクト新規着工を厳格に抑制し、投資の反動増を防止し、経済成長が合理的水準を維持することを促す」とする。

(4)物価

 「有力な措置を採用し、物価総水準の速すぎる上昇を抑制しなければならない」とする。具体的には、「穀物・食用植物油・肉類等の基本的な生活必需品とその他非常に欠乏している商品の生産を強化し、備蓄システムを整備し、物価コントロールの予見性を向上させ、物価モニターを強化し、市場監督管理を強化し、基本的な生活必需品の価格上昇に伴う低所得層への補助の方法をタイムリーに整備・実施しなければならない」とされる。

 

 6.2 農業の基礎的地位を適切に強化し、農業・農村経済の発展活力を増強する

 「『三農』(農業・農村・農民)工作をしっかり行うことは、経済社会の発展の大局を安定化させるうえで、とりわけ重要な意義を有する。『三農』工作をしっかり行うことの緊迫感を増強し、食糧安全の警鐘を絶えず鳴らし、農業の基礎の弦をぴんと張りつめ、『三農』問題をしっかり解決することを全党活動の重点中の重点とするという要請を始終堅持しなければならない」とする。具体的には、次の政策が挙げられている。

(1)都市・農村の発展の統一的企画を強化する

 農業・農村への支援優遇政策をより強固に整備・強化する。

(2)社会主義新農村建設の推進

 農村インフラ建設を際立てて強化し、農業の総合生産能力を高め、農民の収入増加ルートを開拓し、農村民生問題の解決に力を入れる。

(3)穀物生産の良好な収穫を勝ち取る

 農業生産に力を入れ、広範な農民の農作業・作付けへの積極性を発揮させる。

(4)自然のリスクに対する農業の防御能力を高める

 水利を重点に農業の生産条件を適切に改善し、農業の科学技術のイノベーションを加速する。

(5)広範な農民に発展の成果を一層享受させる

 農村の最低生活保障制度を整備し、貧困扶助のための開発を深く推進する。

 

 6.3 自主的な創造・革新(イノベーション)能力を高め、産業構造の改善・グレードアップを推進する

 「需要による誘導を堅持し、経済社会の発展の制約を打破するコアな技術・カギとなる技術に力を入れ、国家重大科学技術特定プロジェクトを速やかに組織的に実施し、優位な領域における戦略的ブレークスルーの実現に努めなければならない」とする。

 具体的には、次の点が挙げられる。

(1)政策の強化

企業の主体的地位を強化しつつ、技術イノベーションと科学技術の成果の産業化を奨励するための法制保障・政策体系・奨励メカニズム・市場環境を整備する。自主的な創造・革新における国有企業の重要な役割を発揮させる。知的財産戦略に力を入れる。

(2)国際競争力の強化

科学技術進歩・イノベーションと産業構造の改善・グレードアップを緊密に結合させることにより、中国の比較優位を発揮させ、現代産業体系を発展させ、国際競争力を増強させる。

 

 6.4 堅塁攻略を強化し、省エネ・汚染物質排出削減が重大な進展を勝ち取ることを確保する

 「2008年は、第11次5ヵ年計画の省エネ・汚染物質排出削減の拘束的目標を達成するためのカギとなる1年であり、省エネ・汚染物質排出削減を科学的発展促進の重要な力点とし、政策を強化し、困難に向かって突き進み、政府が主導し、企業が主体となり、全社会が共同で推進する活動の構造を速やかに形成し、省エネ・汚染物質排出削減の堅塁攻略戦・持久戦を勝ち抜かなければならない」とする。具体的には、次の政策が挙げられる。

(1)政策・法規の整備

 奨励・規制のメカニズムを強化し、法律手段をより重視して省エネ・汚染物質排出削減を促進し、省エネ・汚染物質排出削減に資する価格・財政・税制・金融等の奨励政策を早急に提起・実施する、とする。また、省エネ・汚染物質排出削減を促進する市場参入許可基準・強制的なエネルギー効率基準・環境保護基準を早急に制定・実施する。

(2)企業の社会的責任の強化

 重点業種・重点領域の省エネ・汚染物質排出削減に際立って力を入れ、先進適用技術の広範な応用化を加速し、エネルギー多消費・高汚染業種の速すぎる成長を有効に抑制し、落伍した生産能力を断固として淘汰し、活動の責任制を真剣に実施し、省エネ・汚染物質排出削減目標の達成状況を経済発展の成果の検証の重要な基準とする。

(3)社会意識の向上

 全社会の省エネ・環境保護意識を増強し、省エネ・汚染物質排出削減の全国民による行動を深く展開する。

 

 6.5 地域の調和のとれた発展を促進し、積極かつ穏当に都市化を推進する

 「国家の地域発展の総体戦略を引き続き推進し、市場メカニズムを健全化し、行政区画の制約を打破し、生産要素の秩序立った流動と産業の合理的な配置への誘導を促進し、地域の発展の協調性を高めなければならない」とする。具体的には、次の政策が挙げられる。

(1)基本的な公共サービスの均等化

 未発達地域に対する国家の財政移転支出を強化し、旧革命根拠地区・民族地域・辺境地域・貧困地域の経済社会発展の支援に力を入れ、地域間の公共サービス水準の格差縮小に力を入れる。

(2)主体的機能区[2]

 主体的機能区の形成を推進し、計画と政策誘導を強化する。

(3)中国の特色ある都市化の道

 計画による誘導を強化し、土地利用の節約・効率化を強化し、都市の総合的な受容能力の引上げに努め、持続可能な発展能力を際立たせて増強し、都市化の健全な発展を促進する。

 

 6.6 改革を全面的に深化させ、科学的発展を推進し社会の調和を促進する体制メカニズムを整備する

 「過去に得た成果は正に改革によるものであり、今後の発展も依然として改革によらなければならない」とする。具体的には以下の項目が挙げられる。

①政府機構改革を深化させ、政府機能の転換を加速する。

②国有企業改革を引き続き推進し、所有制構造を更に整備する。

③財政・税制・価格・投資体制の改革を深化させ、経済発展方式の転換を促進する。

④金融体制改革を深化させ、現代金融システムを構築し、金融監督管理を強化・改善し、金融リスクを防止する。

⑤社会管理体制の改革を加速し、公共サービスの体制を整備する。

 

 6.7 開放型経済の水準を引き上げ、対外開放の新たな局面を切り開く

 「対内・対外の経済活動を統一的に企画・配置し、『海外からの導入』と『海外進出』をうまく結合させ、対外開放政策の思考を刷新し、開放領域を拡大し、開放構造を改善し、開放の質を高め、経済のグローバル化の条件下における国際経済協力への参加と競争における新たな優位を形成しなければならない」とする。具体的には、以下の項目が挙げられる。

①対外貿易の成長方式を早急に転換し、輸出入商品の構造を改善し、品質により勝利を勝ち取ることを堅持し、国際市場の波動への対応能力を増強する。

②外資利用の方式を刷新し、外資利用の構造を改善する。

③「海外進出」戦略を引き続き実施し、対外投資と協力の方式を刷新する。

④FTA戦略を引き続き実施し、バイ・マルチの経済貿易協力を強化する。

 

 6.8 民生の改善に力を入れ、社会の調和を促進する

 「17回党大会が民生方面の改善で提起した明確な目標・要求は、わが党の人民大衆に対する厳粛な誓約である。人民の最も関心をもち、最も直接的で、最も現実的な利益問題から着手し、民生改善への投入を強化しなければならない。各種の民生問題に対しては、軽重・緩急を区分し、重点を際立たせ、しっかりと解決しなければならない」とする。具体的には、次の政策が挙げられる。

(1)就業

 就業拡大の発展戦略を実施し、創業による就業増を促進し、創業へのサービス体系を健全化し、職業訓練制度を健全化し、大学・高等教育機関の卒業生の就業対策を積極的に実施し、就業者ゼロ家庭を即時支援して就職難を解決する。

(2)所得分配の調整

 国民の所得分配を合理的に調整し、都市・農村住民の所得水準を引き上げ、第1次分配における労働報酬の比重を高め、低所得者の収入を増加させ、企業従業者の賃金の正常な増加メカニズムと支払いを保障するメカニズムを確立する。

(3)社会保障

 社会保障体系を整備し、都市従業者の基本年金保険と基本医療保険のカバー率を拡大し、農村年金保険制度の確立を模索し、都市住民の基本医療保険のテストを拡大し、新型農村共同医療制度を普及させる。

(4)教育

 教育に対する財政の投入を強化し、都市・農村における義務教育の無料化を全面的に実施し、農村の就学条件の改善に力を入れ、国民の素質を更に引き上げる。

(5)衛生

 公共医療衛生の公益性を堅持し、医薬・衛生体制の改革を徐々に実施し、人民大衆によりよい医薬・衛生サービスを提供する。

(6)住宅

 住宅保障システムを整備し、低家賃住宅の建設を加速し、エコノミー型住宅制度を改善・規範化して、都市の低所得家庭の住宅難の解決に力を入れる。

(7)その他

 全社会をカバーする公共文化サービス体系を早急に構築する。社会管理を整備し、安定・団結を維持する。

 

7.2008年の経済政策の目標・任務を達成するための留意点

 

 会議は次の諸点を堅持しなければならないと指摘する。

(1)安定の中に前進を求め、経済の平穏でかなり速い発展を維持する

(2)「良好」を優先し、経済発展方式の転換を加速する

(3)改革開放を堅持し、体制メカニズムの整備において新たなブレークスルーを勝ち取

 る

(4)人間本位を堅持し、民生改善を更に重視する

 これを具体化すると、「現代農業の発展と農村経済の繁栄を社会主義新農村建設の首位に置き、固定資産投資規模を抑制し消費需要を拡大し、経済発展方式の転換と構造調整を加速し、省エネ・汚染物質排出削減・製品の質と安全の施策をしっかり行い、物価の基本的安定を保持し、民生改善を重点とする社会建設の推進を加速し、経済体制改革を深化させ対外開放水準を高め、行政管理体制改革と政府自身の建設を推進」することであると会議は解説している。

 

8.幹部の心構え

 

 会議は、最後に「2008年の経済政策の各種任務を達成するためには、経済社会の良好で速い発展を推進し、科学的発展の能力を不断に高めなければならない」とし、次の心構えを要求する。

(1)学習を強化する

 指導者の科学的発展の思想水準と業務の素質を絶えず引き上げる。

(2)各方面を併せ配慮する

 科学的発展観の根本的な手法を絶えず把握する。

(3)深く調査研究する

 科学的発展による主導権を絶えず掌握する。

(4)しっかりと実施する

 科学的発展の実際の成果を絶えず勝ち取る。

 そして、「全社会の発展の積極性を科学的発展と経済発展方式の早急な転換に誘導し、思想解放の継続と改革開放の堅持の面で更に大きく踏み出すよう努力し、科学的発展の推進と社会の調和の促進の面で更に大きな成績を上げなければならない」とする。

 

9.会議の特徴

 

 以下の点が挙げられる。

(1)「安定の中で前進」「『良好』の優先」

 新華社2007年12月5日は、文中の「穏中求進」と「好字優先」に着目し、この8文字の核心的意義は、「経済の平穏でかなり速い発展という好ましい勢いを維持し、全面的で調和のとれた持続可能な発展を実現すること」であるとする。

 同記事は、「『穏』は経済発展の基礎であり、『進』は経済発展の方向である。『良好で速い』という言い回しに比べ、今回『良好』がより際立った位置づけとなったが、これは、速度の質と効率の協調、消費・投資・輸出の協調、人口・資源・環境の協調、改革・発展・安定の協調の実現に努めなければならないことを意味する」と解説する。

 前年の中央経済工作会議において、従来の「速く良好な発展」が「良好で速い発展」に順番が改められたが、17回党大会で科学的発展観が党規約に盛り込まれたことを受け、発展の内容をより重視する姿勢を示したものであろう。

 「良好」の中身を代表するものは、省エネ・省資源・環境保護である。2008年は、第11次5ヵ年計画(2006-2010年)のGDP単位当たり20%の省エネと主要汚染物質排出量の10%削減という拘束目標が達成できるかどうかを占う要の年となる。これが達成できなければ科学的発展観は画餅に帰することになり、このため会議は「省エネ・汚染物質排出削減目標の達成状況を経済発展の成果の検証の重要な基準とする」旨を明らかにしている[3]

(2)「1つの防止」から「2つの防止」へ

 2007年夏頃までは、中央の言い振りは「経済成長がかなり速い(状態)から過熱に転じることを防止する」という1つの防止のみを主張していた。これに対し、消費者物価の上昇傾向を受け8月に、全面的なインフレへの転化の防止をも経済政策の目標に加えるよう、多くの学者が中央に建議した[4]。この結果、「物価が構造的な上昇から明らかなインフレに変化することを防止する」ことが、2008年のマクロ政策の第1の任務に追加されたのである[5]

 上記新華社記事は、「『1つの防止』から『2つの防止』に至ったことは、2008年の経済政策が複雑な情勢に直面していることを示したものであり、中国の発展任務に新たな変化が生じたことを浮き彫りにしたものである」と論評している。

(3)「穏健な金融政策」から「引締め気味の金融政策」へ

 1997年、景気後退が鮮明になった頃、財政・金融政策は「適度に引締め気味」に運営されていた。しかし、実際には人民銀行は10月に利下げを行い金融緩和に転じていた。1998年8月、財政政策が「積極的」に転じると、金融政策も「穏健」に表現を改めた。その後、2003年に経済が過熱傾向を示しても「穏健」という表現は改められなかったが、2003年9月の預金準備率引上げ以降金融政策はじりじりと引締めに転じ、2004年10月の利上げでその方向はかなり明瞭になった。同年12月には、財政政策が「積極的」から「穏健」に転換したが、金融政策の「穏健」という表現は維持された。

 しかし、2007年に至り、6月13日の国務院常務会議において金融政策は「穏健な中にも適度に引締め気味」という表現に改められ、続いて人民銀行第3四半期貨幣政策執行報告では「適度に引締め気味」に変化していた。そしてついに今回「引締め気味」となったのである。しかも、会議は「マクロ・コントロールにおいて金融政策の重要な役割を更に発揮させる」としており、財政政策よりも金融政策に経済引締めの期待をかけている。それを象徴するかのように、財政政策は「穏健」のままとなっているのである。

 これは、胡錦涛指導部が17回党大会で「調和社会」実現の一環として「民生の改善」を強調したこともあり、今後この方面への財政支出拡大が予想されるからであろう[6]

 会議を受け、12月5日、人民銀行の党委員会書記でもある周小川行長は中央銀行党委員会会議を開催し、「2008年、中央銀行は引き続きマクロ・コントロールを強化・改善し、マクロ・コントロールにおける金融政策の重要な役割を更に発揮し、引締め気味の金融政策を実施する。多様な金融政策手段を総合的に運用し、有力な措置を採用して流動性の管理を強化し、人民元レート形成メカニズムを更に整備し、社会総需要の調節と国際収支の均衡状況の改善を更にしっかり行い、国民経済の良好で速い発展を促進する」と強調した(証券時報2007年12月6日)[7]

(4)品質による勝負

 従来は、「輸出拡大を奨励・支援する」という表現が多く用いられていたが、17回党大会以降「品質により勝利を勝ち取る」という表現が用いられるようになった。これは最近の自主的なイノベーション能力の増強、国際競争力をもつ自国ブランドの育成戦略に対応するものである。

(5)主体的機能区

 これまで、地域発展戦略は東部の更なる発展と西部大開発・東北地方等の旧工業基地の振興・中部興隆を相互に連動させることが強調されてきた。しかし、このようにどの地方に対しても総花式に発展を約束する表現は、結果的に全国的な乱開発・環境破壊をもたらすことになりかねない。

 これに対し、主体的機能区の構想は第11次5ヵ年計画において新たに提起されたものであり、全国を最適化開発区・重点開発区・開発制限区・開発禁止区に4区分し、最適化開発区から重点開発区に工場を移転し、開発制限区・開発禁止区から重点開発区に人口を移動させることにより、開発と自然・環境保護を両立させようとするものである。ただ、重点開発区に指定された地域には工場・人口が集中することになるので、大きな財源を確保できることになる。かつて日本の新産業都市が激しい誘致合戦を招いたように、重点開発区指定をめぐる地方の激烈な競争が発生する可能性があるし、重点開発区に指定される地域が発表されたとたんに、かつての列島改造のような土地投機が吹き荒れる可能性もある。

(6)民生の重視

 民生の改善は、「社会主義の調和のとれた社会」の根幹をなすものであり、17回党大会以来重視されている。民生の中身は就業・所得分配・社会保障・教育・衛生・住宅等であるが、これについて全て財政で対処すれば、相当の支出を伴うことになる。このため、会議は「軽重・緩急を区分し、重点を際立たせる」よう指示しているのである[8]

(7)国内と国際の2つの大局の統一的企画

 17回党大会以来重視されている。新華社2007年12月5日は、「世界経済の成長は緩慢化する可能性があり、穀物・石油等の重要1次産品価格は持続的に上昇しており、国際金融市場の波動は大きくなり、貿易保護主義は激化しており、これらはわが国経済の発展に一定の影響を与える」としており、当局が海外経済の動向に敏感になっていることがうかがえる。

(8)食糧安全の強調

 「三農」問題の解決を全党活動の重点中の重点とすることは変わっていないが、「食糧安全の警鐘を絶えず鳴らし」、農業の基礎的地位を強化することが強調されている。これはトウモロコシ・大豆・小麦の国際需給が大きく変動するなかで、食糧安全保障の問題がクローズアップされていることの証左であろう。

(9)政府機能の転換

 改革項目の中で、政府機構の改革・政府機能の転換が第一にきている。上述の新華社記事は、「現在、各レベルの政府は依然多くの管理すべきでないもの、管理がうまくできないものを管理しており、政府が管理すべきものが少なからずしっかり管理されていない。一部の部門の間では職責が不明確であり、管理方式が立ち遅れており、事務効率が高くない。政府機能の転換は任重く道遠しである」と慨嘆しているのである。

(10)基本的な公共サービスの均等化

 未発達地域への国家の財政移転支出を強化するとしており、今後一般的財政移転支出の強化が図られることになろう。

(2007年12月記 10,269字)


 


[1]  原文では、「『好』の字を優先させることを堅持し」となっている。
[2]  全国を国土計画上、最適化開発区・重点開発区・開発制限区・開発禁止区に4区分し、最適化開発区からは工場を重点開発区に移転し、開発制限区と開発禁止区からは人口を重点開発区に移転することにより、開発と自然・環境保護を両立させようとするもの。
[3]  11月17日、国務院は「省エネ・汚染物質排出削減統計モニター及び考課実施方案・弁法」を公布し、省エネ・汚染物質排出削減の達成状況を各地の経済社会発展の総合評価体系に盛り込み、政府指導幹部の総合的な考課・評価及び企業の責任者の業績考課の重要内容とし、厳格な問責制を実行し、政府・企業の責任を強化することにより、第11次5ヵ年計画の省エネ・汚染物質排出削減目標の重要な基礎及び制度保障とする旨を明らかにしている(新華社北京電2007年11月23日)。
[4]  この建議に参加した学者からの筆者のヒアリングによる。
[5]  社会科学院世界経済・政治研究所の余永定所長は、「2008年のマクロ経済政策の第1の目標はインフレの抑制であり、その他の目標は二の次である。物価安定の目標は為替レートの安定の目標より優先すべきである」と述べている(証券時報2007年12月6日)。
[6]  人民大学財政金融学院の朱青教授は、「民生の改善、経済構造調整、省エネ・汚染物質排出削減、重点建設等の各種施策はいずれも財政の大きな支援が必要であり、2008年の財政支出は比較的大きくなろう。したがって、穏健な財政政策の実施がなお必要なのである」と解説している(国際金融報2007年12月6日)。
[7]  会議終了直後の12月8日、人民銀行は12月25日から預金準備率を1ポイント引き上げることを発表した。従来の引上げが0.5ポイントずつであったことからすると、この措置には金融引締めへの人民銀行の強い決意が看取される。
[8]  国務院発展研究センターマクロ経済研究部の張立群研究員は、「会議で①1次分配における労働者報酬の引上げ、低所得者の収入増、②農村年金保険制度の模索と新型農村共同医療制度の普及、③都市低所得家庭の住宅難の解決が強調されたことは、わが国が民生改善方面において低所得層・生活困難家庭をより重視していることを表明するものである」と解説している(新華社2007年12月9日)。

ユーザー登録がお済みの方

Username or E-mail:
パスワード:
パスワードを忘れた方はコチラ

ユーザー登録がお済みでない方

有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。

ユーザー登録のご案内

最近のレポート

ページトップへ