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ログイン2008年3月28日
3月5日、全人代が開催され、温家宝総理が政府活動報告を行った。その主要なポイントは以下のとおりである。
はじめに
3月5日、全人代が開催され、温家宝総理が政府活動報告(以下「報告」)を行った。その主要なポイントは以下のとおりである。
1.構成
今回は政府の交代期に当たるため、第1部は5年間の政策回顧である。第2部では2007年の大テーマ別分類を止め、2008年の政策を個別に列挙している。
2008年 | 2007年 |
1.マクロ・コントロールをうまく行い、経済の平穏でかなり速い発展を保持
2.農業の基礎建設を強化し、農業の発展と農民の増収を促進 3.経済構造調整を推進し、発展方式を転換 4.省エネ・汚染物質排出削減と環境保護を強化し、製品の質・安全活動を実施 5.経済体制改革を深化させ、対外開放水準を向上 6.社会建設を一層重視し、民生の保障・改善に注力 7.文化体制改革を深化させ、文化の大発展・大繁栄を推進 8.社会主義民主法制建設を強化し、社会の公平正義を促進 9.行政管理体制改革を加速し、政府自身の建設を強化 10.その他 ・民族・宗教・在外華僑政策 ・国防・軍隊建設 ・香港・マカオ・台湾 ・外交 |
1.経済の良好で速い発展の促進
・マクロ・コントロールの強化の堅持 ・現代農業の発展と社会主義の新農村建設の 推進 ・省エネ・省資源・環境保護・土地の効率利 用に力を入れる ・産業構造改善と自主イノベーションを速やかに推進 2.社会主義の調和のとれた社会建設を推進 ・教育・衛生・文化・スポーツ等社会事業の発展を加速 ・就業・社会保障施策を強化 ・安全生産活動の強化と市場秩序の整頓・規範化 ・社会主義民主法制建設を強化 ・社会の安定と調和を擁護する 3.改革を深化させ、開放を拡大する 4.政府自身の改革・建設を強化する 5.その他 ・国防 ・香港・マカオ・台湾 ・外交 |
大テーマの順位をみると、2007年は発展・安定・改革の順となっており、改革の位置が後退していたが、2008年は発展・改革・安定と2006年までの順に戻っている。これは、2007年10月の第17回党大会を前にして再び新左派・保守派が改革批判を行い、これに対応して胡錦涛総書記が党大会報告において改革の継続を強調する事態に至ったことを反映するものであろう。
項目で見ると、①製品の質・安全活動、②民生の保障・改善、③文化体制改革、④行政管理体制改革が強調されている。①は最近の中国製品に対する内外の批判に対応したものと考えられ、②③は前年の党大会報告、④は今回の全人代の大きなテーマが政府機構改革であること、をそれぞれ反映したものであろう。
2.5年間の回顧
(1)省エネ・環境改善の実績
2007年については、GDP当たりエネルギー消費は前年比で3.27%低下し、化学的酸素要求量は同3.14%、二酸化硫黄排出総量は同4.66%それぞれ低下した。
(2)5年間の教訓
次の各項目を堅持しなければならないとしている。
①思想の解放
②科学的発展観の実施
③改革開放
④マクロ・コントロールをうまく行う
⑤民のための執政
⑥法に基づく行政
(3)経済運営において際立った問題と深層の矛盾が存在する
①ここ数年、固定資産投資の伸びが速すぎ、貸出が過剰であり、国際収支が不均衡となっている。
②長期に形成された構造的矛盾と成長方式が粗放という問題は、依然際立っている。
③投資と消費の関係が不調和であり、投資率がかなり高い状態が続いている。
④第1次・第2次・第3次産業の発展が不調和であり、工業とりわけ重工業の比重がかなり大きく、サービス業の比重がかなり低い。
⑤農業の基礎が依然脆弱であり、農業の安定的発展と農民の持続的な増収の困難が増している。
⑥都市・農村、地域間の発展格差の拡大傾向が未だ反転していない。
⑦経済発展に影響を及ぼす体制メカニズムの障害が相当際立っており、改革の堅塁攻略は荷が重い。
(4)大衆の切実な利益に関わる問題が解決されていない
①物価上昇・インフレ圧力の増大が、広範な大衆の最大関心事となっている。
国内農産品価格・国際市場の一次産品価格の要因に加え、生産財価格の不断の上昇、不動産等資産価格の急上昇があるため、インフレ防止の任務は相当困難である。
②労働就業、社会保障、教育、医療・衛生、所得分配、住宅、製品の質と安全、安全生産、社会治安等の面でも真剣な解決を要する少なからぬ問題が存在する。
(5)国際経済環境の変化の不確定要因と潜在リスクが増加している
以下のものはいずれも中国の経済発展に不利な影響を与えるものであり、国際環境の変化に十分備え、リスク防止能力を向上させなければならない。
①世界経済の不均衡が激化し、成長が鈍化しており、国際競争は更に激烈になっている。
②米国のサブプライムローン危機の影響が蔓延し、ドルは下落を続けており、国際金融市場のリスクが増大している。
③国際市場の穀物価格が上昇し、石油等の一次産品価格が高止まりとなっている。
④貿易保護主義が激化し、貿易摩擦が増大している。
⑤国際上の一部の政治要因の世界経済の動向に与える影響も軽視できない。
(6)政府自身の建設・管理を強化する必要がある
政府活動は、時代の要請・人民の期待と小さからぬ隔たりがある。
①政府機能の転換が不十分であり、社会管理と公共サービスが比較的薄弱である。
②一部の部門は職責が交錯し権限がちぐはぐであり、相互に責任転嫁を行い事務効率が低下している。
③一部の政府関係者の服務意識が強くなく、素質が高くない。
④権力に対する監督・制約メカニズムが不健全で、形式主義・官僚主義の問題が比較的際立っており、虚偽・奢侈・浪費・腐敗現象が比較的深刻である。
3.2008年の施策の基本方針
2008年は17回党大会の精神を全面的に貫徹する第一年であり、改革発展の荷は重く困難であり、政府活動をしっかり行う意義は重大である、とする。
(1)経済諸指標
①GDP成長率 構造改善・効率向上・省エネ・省資源・環境保護の基礎の上に8%前後
これは「主として内外の多様な要因を考慮し、経済の平穏でかなり速い発展に着眼し、各方面が主要な精力と活動の重点を発展方式の転換と改革の深化・社会建設の加速に振り向けるよう誘導し、経済成長速度を片面的に追求し盲目的に競い合うことを防止して、経済社会の良好で速い発展を実現するものである」とする。
②消費者物価上昇率 4.8%前後(前年は3%以内)
これは「主として昨年の物価上昇が今年の物価に与えるタイム・ラグの影響がかなり大きく、物価を押し上げる要因がかなり多いため、物価上昇を抑制する難度が増しており、同時に庶民・企業・社会各方面の受容能力を考慮し、物価の上昇幅が大きすぎることを避けようと努力するものである」とする。
③都市部就業者新規増加数 1000万人(前年は900万人)
④都市部登録失業率 4.5%前後(前年は4.6%以内)
⑤国際収支 やや改善
物価目標は2007年の実績と同レベルとされた。雇用については経済の高成長により改善が進んでいるため、目標がより楽観的になっている。経済成長率は前年と同じであるが、科学的発展観の理念を踏まえ前提条件が色々と付けられている。
(2)政策の基本原則
①安定の中に前進を求めることを堅持し、経済の平穏でかなり速い発展を促進する。
②「良好」を優先することを堅持し、経済発展方式を速やかに転換する。
③改革開放を堅持し、制度の建設・刷新を重点的に推進する。
④人間本位を堅持し、民生の改善に重点を置いた社会建設を加速する。
「報告」は、「2008年の経済政策は、経済成長がかなり速い(状態)から過熱への転化の防止、物価が構造的な上昇から明らかなインフレへの変化の防止をマクロ・コントロールの最重要任務とする。現在の内外経済情勢の発展には不確定要因がかなり多く、新状況・新問題を密接にフォロー・分析し、状況の変化をよく観察して現実から出発し、タイムリーかつ臨機応変に適切な対策をとり、マクロ・コントロールのテンポ・重点・程度を正確にグリップし、経済の平穏でかなり速い発展を維持し、大きな起伏の出現を避けなければならない」とする。
4.2008年の施策
4.1 マクロ・コントロールをうまく行い、経済の平穏でかなり速い発展を維持する
「内外経済情勢とマクロ・コントロールの任務の要請に基づき、2008年は穏健な財政政策と引締め気味の金融政策を実行しなければならない」とする。
(1)穏健な財政政策を引き続き実行する
①財政政策の連続性・安定性を維持し、構造調整・調和のとれた発展を促進するうえでの財政の重要な役割を十分発揮し、脆弱部分・民生の改善・改革の深化等の面への支出を増加させなければならない。
②財政赤字と長期建設国債を更に減少させる。
具体的には、中央財政赤字を1800億元とし(前年度比650億元減)とし長期建設国債の発行額は300億元(前年度比200億元減)とした。また、建設国債に頼らない中央予算内公共投資総額を1521億元(前年比217億元増)としている。
③財政支出と投資構造を引き続き調整する。
「三農」、社会保障、医療・衛生、教育、文化、省エネ・汚染物質排出削減、低家賃住宅の建設等の面への支出をかなり大幅に増加させる。
④法に基づき税の徴収管理を強化し、税外収入を規範化し、一般支出を抑制する。
⑤政府投資の管理方式を改革し、投資の使用効率を高める。
(2)財政の超過収入を合理的に配分する
2007年度の超過収入は年度予算比で7239億元であり、うち中央財政の超過収入は4168億元に及んだ。この超過収入の使用原則は、次のとおりである。
①財力を民生・制度建設に関わる事に集中し、構造を調整し、脆弱な部分を強化する。
②法に基づき地方への2税(増値税・消費税)還付・一般的移転支出を増加する。
③農林・水利、教育、文化、科学技術面への支出を増加する。
④社会保障、医療・衛生、司法保障、低家賃住宅建設の支出を増加する。
⑤省エネ・汚染物質排出削減・環境保護の支出を増加する。
⑥農村義務教育に関わる債務・国有食糧企業の累積赤字等歴史的懸案問題を解決する支出に充てる。
⑦財政赤字を450億元削減し、中央予算安定調節基金を1032億元増額する。
(3)引締め気味の金融政策を実行する
これは主として「現在固定資産投資の反動増の圧力がかなり大きく、貸出は依然かなり多く、過剰流動性の矛盾がなおも緩和されておらず、物価上昇圧力が明らかであることを考慮したものであり、金融コントロールを強化し、マネーサプライと貸出の速すぎる伸びを抑制しなければならない」とする。
①公開市場操作・預金準備率等の方式を総合的に用いて不胎化を強化する。金利の調節作用を合理的に発揮する。人民元レートの形成メカニズムを整備し、レートの弾力性を増強する。
②貸出構造の改善に力を入れ、貸出条件を厳格に執行し、保持するものと抑制するものを区別する。
中長期貸出とりわけエネルギー多消費・高汚染企業と生産能力過剰業種への貸出を抑制する。「三農」・サービス業・中小企業・自主的なイノベーション・省エネ・環境保護・地域の調和のとれた発展の方面の貸出支援を強化する。
③外貨管理体制改革を深化する。
為替決済・販売制度を整備し、国境を越える資本流動の管理を強化し、資本項目の兌換可能性を徐々に推進する。外貨準備の使用ルート・方式を開拓する。同時に、総合的な措置をとり国際収支状況の改善に努める。
(4)物価総水準の急速な上昇の防止が、今年のマクロ・コントロールの重大任務である
①穀物・食用植物油・肉類等基本的な生活必需品とその他不足商品の生産に力を入れる。
②工業用穀物の輸出を厳格に抑制する。
③備蓄システムを早急に健全化する。
④政府の価格調整のタイミングと程度をうまく把握する。
⑤取引の多い農産品・一次産品の需給と価格変動をモニターし事前警告する制度を健全化する。
⑥市場・価格監督管理を強化する。
⑦低所得層への補助を速やかに整備・実施する。
⑧農業生産財価格の急上昇を抑制する。
⑨「米袋」の省長責任制と「買い物かご」の市長責任制の実行を堅持する。
(5)低温・雨・氷雪災害
①引き続き災害復旧をしっかり行い、災害損失を最小限にする。
②経験・教訓を総括し、応急システムとメカニズム建設を強化し、防災・減災能力を向上させる。
4.2 農業の基礎建設を強化し、農業の発展と農民の増収を促進する
(1)重点
①穀物生産に力を入れ、農産品の供給を保障する。
②農業のインフラ建設を強化する。
③農民の増収ルートを開拓する。
(2)主要措置
①投入の増加に力を入れる。
中央財政は「三農」に5625億元計上する(前年度比1307億元増)。
②農業支援策を強化・整備する。
③最も厳格な耕地保護制度を堅持し、とりわけ基本的な田畑の保護を強化する。
④農業科学技術の普及・サービス体系を整備する。
⑤農村改革を全面的に推進する。
郷村債務を積極かつ穏当に解決する。中央・地方財政は財政投入を増加し、3年前後の時間をかけて農村義務教育の歴史的債務を基本的に解決する。
4.3 経済構造調整を推進し、発展方式を転換する
(1)内需拡大の方針を堅持し、投資と消費の関係を調整し、経済成長が主に投資・輸出の牽引に依存することから、消費・投資・輸出の協調的な牽引に依存するように転換する
「カギは、固定資産投資の規模を合理的に抑制し、投資構造の改善に力を入れることである」とし、「土地・貸出のバルブと市場参入基準をしっかりグリップし、とりわけ新規着工プロジェクトの管理を強化・規範化し、プロジェクトの着工条件を厳格に執行しなければならない」としている。
また、エネルギー多消費・高汚染・生産能力過剰業種の盲目的投資と重複建設を断固として抑制し、違法なプロジェクトは断固として建設を停止するとしている。
(2)自主的なイノベーションの推進を発展方式の転換の中心部分とすることを堅持する
中央財政は、科学技術支出に1134億元計上する(前年度比134億元増)。
(3)産業構造の改善・高度化を推進する
情報化と工業化を融合させ、現代サービス業の発展を加速し、現代エネルギー原材料産業及び総合輸送システムを積極的に発展させる。
(4)地域の調和のとれた発展を促進する
主体的機能区の計画・政策を制定・実施する。
4.4 省エネ・汚染物質排出削減・環境保護を強化し、製品の質・安全活動をしっかり行
う
2008年は「第11次5ヵ年計画の省エネ・汚染物質排出削減の拘束性目標の達成のカギとなる1年であり、緊迫感を増強し堅塁攻略を強化し、更に大きな成果を勝ち取らなければならない」とする。
(1)省エネ・汚染物質排出削減
①電力・鉄鋼・セメント・石炭・製紙等の業種の落伍した生産能力の淘汰計画を実施する。
②重点企業の省エネ・重点プロジェクトをしっかり建設する。
③資源の節約・代替・再利用と汚染処理の先進応用技術を開発・普及し、省エネの重大技術・モデルプロジェクトを実施する。
④重点流域[1]の汚染防止・処理をしっかり行い、渤海環境保護全体計画を実施する。
⑤農村飲料水の水源地保護を強化し、農村の生活汚染処理を推進し、農村地域の工業汚染を厳格に規制する。
⑥循環経済の発展を奨励・支援し、再生資源の回収利用を促進する。
⑦土地・水・草原・森林・鉱産等の資源保護と効率利用を強化する。
⑧気候変化に対応した国家方案を実施する。
⑨エネルギー・資源節約、環境保護の賞罰メカニズムを整備する。
⑩全社会の生態文明観念を増強し、資源節約型・環境友好型社会の建設に全人民が一層積極的に身を投ずるよう動員をかける。
(2)製品の質・安全活動
①製品の質・安全基準を早急に制定・改定する。
2008年は、7700余りの食品・薬品・その他消費品の国家安全基準を制定・改定する。
②製品の質・安全の法制的保障を整備する。
③製品の質・安全の監督管理システムを健全化する。
人民大衆が必ず安心して食べ、用いることができきるようにし、輸出商品に良好な信用と名声を享受させなければならない。
4.5 経済体制改革を深化させ、対外開放水準を高める
報告は「2008年は改革開放30周年であり、改革開放は中国に歴史的で巨大な変化を生み出した。わが国はなおも長期にわたり社会主義初級段階にあり、さらに生産力を解放・発展させ、社会の公平正義をさらに促進し、小康社会を全面的に建設し国家を現代化させるというマクロ目標を実現するには、改革開放を引き続き断固推進しなければならない」と強調する。
(1)国有企業改革を推進し、所有制構造を整備する
国有企業については、再編の推進、株式会社化の深化、コーポレート・ガバナンスの整備とともに、国有資産の流出防止が述べられている。
個人・私営等の非公有制経済については、引き続き発展を奨励・支援する各種政策を実施し、とりわけ市場参入・融資支援の問題を解決しなければならない、とする。
(2)財政・税制改革を深化させ、公共財政システムの建設を加速する
財政面では、予算制度改革、財政移転支出制度における一般的移転支出の規模・比率の上昇、省レベル以下の財政体制改革の積極的推進が挙げられている。
税については、新しい企業所得税制度の全面実施、資源の税・費用制度の改革、増値税の転換改革テストの推進と全国実施案の研究・制定が挙げられている。
(3)金融体制改革を加速し、金融監督管理を強化する
①銀行関係
農業銀行の株式制改革、国家開発銀行の改革、預金保険制度の確立が挙げられている。
②農村金融改革
農業銀行・農業発展銀行・中国郵政貯蓄銀行の対「三農」サービスの機能強化、農村信用社の改革深化、新型農村金融機関の発展の積極推進が挙げられている。
③資本市場
株式市場の安定かつ健全な発展の促進、上場会社の質の向上、公開・公平・公正な市場秩序の維持、創業ボード市場の確立、債権市場の発展加速、先物市場の着実な発展が挙げられている。
④保険
農業保険の範囲拡大、政策性農業保険のテストが挙げられている。
⑤その他
各種金融違法行為の法に基づく厳格な処罰、金融リスクの防止・除去、金融の安定・安全の維持が挙げられている。
(4)対外開放の範囲・深度を拡大し、開放型経済の水準を高める
輸出製品の質の向上(独自の知的財産権とブランドを有する製品の輸出を奨励)、先進的な技術設備・重要原材料・重要部品等の輸入の積極拡大を図るとともに、外資利用の産業構造・地域配置を改善し、エネルギー多消費・高汚染・一部の資源性外資プロジェクトを制限・禁止するとしている。また、企業の海外進出を支援する政策措置を整備・実施するとしている。
(5)その他
現代市場体系の建設を加速し、現代流通を大いに発展させ、市場秩序を深く整理・規範化し、社会信用制度の建設を推進しなければならない、としている。
4.6 社会建設を更に重視し、民生の保障・改善に力を入れる
(1)教育
①全国の都市・農村で、義務教育の無料化を普遍的に実施する。
経済困難家庭・出稼ぎ農民の子女についても、義務教育が平等に受けられるよう措置を真剣に実施する。
②職業教育を大いに発展させる。
③高等教育の質を高める。
このため、2008年は次の3点の重点を置く。
①素質教育を全面的に実施し、教育の改革・刷新を推進する。
②教師陣とりわけ農村教師陣の建設を強化し、教師に対する給与・手当制度を整備・実施する。
③教育事業への投入を増加する。
中央財政は、教育に1562億元計上する(前年は1076億元)。
(2)衛生
①都市・農村住民をカバーする医療保障制度の建設を速やかに推進する。
新型農村共同医療制度については、財源徴収基準額を1人毎年50元から100元に引き上げ、うち中央・地方財政の補助分を40元から80元に引き上げることにしている。
②公衆衛生サービス体系を整備する。
③都市・農村の医療サービス体系の建設を推進する。
④国家の基本的な薬物制度・薬品供給保障体系を確立し、大衆が薬を安全に使用することを保証し、薬価の上昇を抑制する。
中央財政は、衛生事業の改革・発展に832億元計上(前年度比167億元増)し、重点を農村と末端に傾斜させる。
⑤医療衛生体制改革
「改革の基本目標は、公衆医療衛生の公益的性質を堅持し、基本的な医療衛生制度を確立し、大衆に安全・有効・便利・廉価な基本医療衛生サービスを提供することにある」
(3)人口政策
出生人口の性別がかなり偏っている問題を総合的に処理する。
(4)就業
就業促進法・労働契約法を真剣に貫徹執行する。
(5)所得政策
「カギは、国民所得分配構造を調整し、所得分配制度改革を深化させ、国民所得分配における個人所得の比重を徐々に引き上げ、1次分配における労働報酬の比重を引き上げることである」、「経済発展の成果を合理的に大衆の手中に分配してこそ、広範な大衆の擁護を得ることができ、社会の調和・安定を促進できるのである」とする。
①多様なルートで農民の収入を増加させ、出稼ぎ農民の賃金が期日に全額支払われることを確保し、貧困扶助基準を適切に引き上げる。
②企業従業員の給与を引き上げ、企業従業員の給与が正常に増加し支払を保障するメカニズムを確立する。
他方で、一般庶民から「高すぎる」との批判がある国有企業の給与総額の管理方法を改革し、独占業種の企業給与の監督管理を強化するとしている。
(6)社会保障
「広くカバーし、基本を維持し、多層にわたり、持続可能であるという方針の実行を堅持する」とする。
①社会保険のカバーを拡大し、基金の財源徴収をしっかり行う。
②社会保険制度改革(企業従業員の基本年金、出稼ぎ農民の年金、農村の年金、失業、労災、生育等)を推進する。
③多様な方式を採用して、社会保障基金を充実させる。
④社会扶助システムを健全化する。
中央財政は、社会保障関係に2762億元計上(前年度比458億元増)。
(7)住宅
①低家賃住宅制度を健全化し、建設を加速する。
②中低価格帯・中小タイプの普通分譲住宅の供給を増加する。
③税制・融資・土地等の手段を総合的に用いて、住宅公的積立金制度を整備する。
住宅の有効な供給を増やし、不合理な需要を抑制し、住宅価格の速すぎる上昇を防止する。
④市場の監督管理を強化し、不動産企業の市場への参入・退出の条件を厳格化する。
4.7 文化体制改革を深化させ、文化の大発展・大繁栄を推進する
「人民のために服務し、社会主義のために服務するという方針を堅持し、百花斉放・百家争鳴の方針を全面的に貫徹する」とされる。北京オリンピックへの言及はあるが、記述は控えめである。
4.8 社会主義民主法制建設を強化し、社会の公平正義を促進する
①政治体制改革を深化し、社会主義政治文明を発展させる。
②法に基づいて国を治める基本方略を全面的に実施する。
③社会管理を整備する。
「際立った治安問題と治安混乱地域を集中的に処置する」との記述が見られる。
④安全生産活動を強化する。
4.9 行政管理体制改革を加速し、政府自身の建設を強化する
「行政管理体制改革は改革を深化する重要部分であり、政治体制改革の重要内容であり、社会主義市場経済体制を完備するための必然的な要求である」とする。
(1)政府の機能転換を加速する
「これは、行政管理体制改革を深化させる核心である」とする。サービス型政府の建設が強調され、「経済調節・市場の監督管理を強化・改善すると同時に、社会管理・公共サービスを重視し、社会公正と社会秩序を維持し、基本公共サービスの均等化を促進する」としている。
(2)政府機構改革を深化する
「今回の国務院機構改革案は、主として機能の転換、マクロ・コントロール部門の機能の合理的配置、業種管理機関の調整・整備、社会管理・公共サービス部門の強化、機能が有機的に統一された大部門体制の実行の模索を重視している」とする。
(3)行政監督制度を整備する
行政許可行為の規範化、監察・会計検査の役割の発揮、社会各方面の監督の受容、行政門責制度・政府の業績評価管理制度の推進・政府活動の透明度の向上等が挙げられるとともに、「法規・行政規律を厳格化し、命令があっても実行せず、禁止しても止めないという現象を断固として改める」としている。
(4)廉潔政治の建設を強化する
「特に、権力の過度の集中と制約が欠如している問題を解決しなければならない」とする。また、「根本から制度建設を強化し、財政移転支出・土地及び鉱産資源の開発・政府購入・国有資産の譲渡等の公共資源の管理を規範化」するとともに、「環境保護・食品薬品の安全・安全生産・土地収用・家屋立退き等の面で大衆の反応が強烈な問題を重点的に解決し、大衆の利益に損害を与える不正の気風を断固として正す」としている。
4.10 その他
少数民族・宗教政策、国防[2]、香港・マカオ・台湾[3]、外交は最後に一括して簡潔に記述されている。
まとめ
今回の政府活動報告の主要なポイントは以下のとおりである。
(1)改革の順位の繰上げ
2007年の構成では、改革は発展・安定の後順位に位置づけられていたが、今回は発展・改革・安定の順となり、改革の位置が向上している。これは、前年の17回党大会直前に保守派・新左派からの改革開放批判が再燃し、胡錦涛総書記が党大会報告において改革開放の重要性を再強調する事態に至ったことを反映するものであろう。
(2)インフレ懸念
「大衆の切実な利益に関わる問題」として、新たに「物価上昇・インフレ圧力の増大」が追加された。これを受け、「物価総水準の急速な上昇の防止が、今年のマクロ・コントロールの重大任務である」とされている。
とはいえ、2008年の消費者物価上昇率の抑制目標は4.8%であり、前年の目標3%から大きく上昇し前年実績と同率になっている。これは次の理由に基づくものであろう。
①足元2月の消費者物価上昇率が8.7%に達しており、3%を抑制目標に設定することは非現実的である。
仮に、3%に設定した場合には、相当緊縮的なマクロ・コントロールを発動せざるを得ず、これは経済の先行きに不安をつのらせつつある各主体の行動を益々萎縮させてしまうことになる。
②資源価格の改革を進める必要がある。
第11次5ヵ年計画の省エネ・汚染物質排出削減目標を達成するためには、資源・エネルギーの浪費を抑えなければならないが、現在これらの価格は政府が市場価格よりも低めに設定しており、結果的に個人・企業のコスト意識を弱めている。したがって、これらの価格を改革し上方改定することにより社会のコスト意識を高める必要があるが、これは必然的にある程度の物価上昇を招くことになる。
すなわち、4.8%の物価上昇容認は、一定の成長率確保と省エネ・汚染物質排出削減目標を達成するためのギリギリの選択だったということであろう。
しかし、中低所得層は物価の急上昇に不満を深めつつあり、もしこの目標と現実に大きな乖離が発生した場合には社会不安が生じかねない。20年前の1988年も価格改革の発表によりインフレ期待が発生し、急激な物価上昇が発生したことが89年の天安門事件の伏線となっている。2004年の混乱を見ても、中国社会はデフレよりインフレに弱い傾向があり、マクロ・コントロールの課題は重い。
(3)不確定要因の増大
国際的な不確定要因と潜在リスクとして、世界経済の成長の鈍化、サブプライムローン危機、ドルの持続的下落、国際市場の穀物価格の上昇と一次産品価格の高止まり、貿易摩擦の増大等が挙げられている。
また国内を見ても、株価の下落、一部地域での不動産契約の低迷、1月の寒波・豪雪、輸出の落ち込み等先行き不安要因が増大している。このため、今回の全国政協・全人代開催期間において、「不確定性」が流行語のようになっているのである(新華網北京電2008年3月7日)。
(4)民生の重視
17回党大会で民生重視の方向が打出されたことを受け、1章が設けられた。具体的には、教育・衛生・人口政策・就業・所得政策・社会保障・住宅について、政策が列挙されている。物価上昇で庶民の不満が高まっている時期でもあり、民生の改善は急務であろう。
(5)穏健な財政政策と引締め気味の金融政策
財政政策は前年同様「穏健」であるが、金融政策は「穏健」から「引締め気味」に改められた。物価上昇が加速するなかで、金融を引締め気味に運営するのは当然といえよう。また、輸入インフレの増大を背景に「レートの弾力性を増強する」と、今後の人民元切上げの加速を示唆している。
他方、財政は「三農」、社会保障、医療・衛生、教育、文化、省エネ・汚染物質排出削減、低家賃住宅建設等の需要があるため、厳しい支出削減を行えない状況にある。前年度の超過収入もこの分野に重点的に充てられている。
ただ、これは全国財政収入が前年度比32.4%、1兆2543億元増という高い伸びであるからこそ可能なのであり、今後経済が減速し証券取引印紙税収入をはじめとする税収が減少すれば、既存のプロジェクトとの資金の奪い合いが生じることになろう。
(6)製品の質・安全の重視
最近の諸外国における中国製品のトラブルを受けて、見出しの項目となった。国家品質監督検験検疫総局の李伝卿副局長は、3月11日湖北省代表団に対し、6月前に食品安全法案を提出すると述べている(京華時報2008年3月12日)。
(7)省エネ・汚染物質排出削減
2007年については、GDP当たりエネルギー消費は前年比で3.27%低下(2006年は1.2%減)し、化学的酸素要求量は同3.14%低下(2006年は1.2%増)、二酸化硫黄排出総量は同4.66%低下(2006年は1.8%増)した。
しかし、第11次5ヵ年計画(2006-2010年)の目標である省エネ20%、汚染物質排出削減10%を達成するにはあと3年しかなく、初年度の成果が余りにも悪かったため、今後3年のノルマは大変にきつくなっている。
このため報告も2008年を「目標達成のカギとなる1年」と位置づけている。3月11日に開催された記者会見において、国家発展・改革委員会の解振華副主任は、「あと3年でGDP単位当たり省エネを毎年5%以上、汚染物質排出削減を計7%以上行うことを保証しなければならず、このノルマは非常に困難だ」としつつも、自らの所管の省エネについては、①国務院の重視、②地方各レベルの党委・政府の重視、③環境保護の監督管理能力の不断の増強により、「非常に自信がある」とした。
これに対し環境保護総局の張力軍副局長は、①高汚染・エネルギー多消費企業の急成長、②一部の地方の環境保護軽視・盲目的開発、③少数地域の末端指導者の環境保護・省エネ・汚染物質排出削減への軽視、④環境面の監督管理の力量の弱さ、により「3年で汚染物質排出を7%削減するノルマは相当困難であり、情勢は非常に峻厳だ」と弱気の応答を行っている。
これは両組織の権力の差を如実に物語るものであり、環境保護総局が部に格上げになっても、それに見合う力量を手にすることができるかは、未知数である。
(8)その他
①文化の強調
17回党大会で強調されたこともあり、1章設けられている。しかし、中身はこれというものはない。「百花斉放・百家争鳴の方針を全面的に貫徹する」という一見言論の自由を拡大するような記述も見られるが、「社会主義のために服務する」という条件付きであり、大きな期待はできない。
②治安の悪化
「際立った治安問題と治安混乱地域を集中的に処置する」との記述があり、治安がかなり混乱している状況が窺える。そのこともあってか、「人民武装警察部隊の建設を強化し、その執務能力、突発事件への対処能力、反テロ・安定維持の能力を高める」とされている。
③行政管理体制改革
政府機構改革は基本的方針を示しているのみである。
④台湾
総統選を意識して、表現は比較的穏やかである。恫喝的言辞は民進党を利するだけとの学習効果が働いているのであろう。
⑤北京オリンピック
記述は少なく、淡々としている。ダルフール問題をめぐり「オリンピックは政治と切り離すべきだ」と主張している手前もあり、過度な表現は避けたのであろう。
⑥外交
5年間の回顧の中で、「中日関係は改善を得た」とめずらしく日本に言及している。ただ、米国とは「関係が安定的に発展」、ロシアとは「戦略的パートナーシップが新たな水準に引き上げられ」、欧州とは「全面的協力が日増しに進化している」とされているのに比べると、トーンはかなり弱い。
(9)経済政策のジレンマ
最後に、現在の中国は経済政策の様々なジレンマに直面していることを指摘しておきたい。
①省エネ・環境保護、経済過熱・インフレ防止のためには、経済成長を減速させる必要がある。しかし不確定要因が増す中、過度な引締めは経済に急ブレーキをかける恐れもある。また、経済の減速は税収の減少をもたらすので、「三農」・民生改善のための財源が捻出できなくなる。
②省エネ・環境保護、経済過熱・インフレ防止のためには、面従腹背の地方政府に対して強い行政指導を発動せざるを得ない。しかしそれは、政府の機能転換(政府の役割の限定・市場メカニズムの重視)の方向とは矛盾する。
③省エネ・環境保護のためには、資源価格の改革(引上げ)により、社会にコスト意識を植え付ける必要がある。しかし、それはインフレを加速する可能性もある。
④インフレ防止のためには、食品価格を安定化させる必要がある。しかし、それは農民の収入を減らし、農村の消費を減少させるおそれもある。
⑤インフレが昂進する中、実質金利のマイナスは拡大している。しかし、これをプラスにするためには大幅な利上げが必要となり、経済にダメージを与える可能性がある。また、金利の急激な引上げは、ホットマネーの大量流入を招く可能性もある。
⑥利上げに一定の制約がかかる中で輸入インフレを防止するためには、人民元レートの切上げを加速するしかない。これは貿易黒字の削減にも一定の効果を有するが、輸出が急激に減少すると国内の生産能力過剰問題が顕在化するおそれもある。また、現在のように人民元が事実上ドルと密接にリンクしている状況では、多少対ドルレートを引き上げても、ドルの急落によりユーロや円との関係では人民元が切り下がる可能性もある。
⑦株価と不動産のバブル傾向は是正する必要があるが、株価の急落は一般株主に打撃を与え、都市部の消費を冷却化させるとともに、下落の程度によっては都市暴動を誘発するおそれもある。また、不動産価格の急落は金融機関の不良債権問題を再燃させ、預金保険制度が未整備の状況で金融システム危機を誘発する恐れがある。
(2008年3月記 13,799字)
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