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中国輸出の「変調」

中国ビジネスレポート 金融・貿易
馬 成三

馬 成三

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2008年4月8日

記事概要

 高い増加率を示し続けていた中国の輸出は、今年に入ってから「変調」が生じた。増加率の低下、中でも対米輸出の低迷がそれである。その背景として個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題で米経済の不振など海外市場環境の変化のほか、物価と賃金上昇、人民元高、輸出振興策の調整(輸出税還付率の引き下げ)など輸出コストの上昇も挙げられる。

高い増加率を示し続けていた中国の輸出は、今年に入ってから「変調」が生じた。増加率の低下、中でも対米輸出の低迷がそれである。その背景として個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題で米経済の不振など海外市場環境の変化のほか、物価と賃金上昇、人民元高、輸出振興策の調整(輸出税還付率の引き下げ)など輸出コストの上昇も挙げられる。

中国の輸出を巡る内外情勢からみれば、今年中国輸出は増勢を維持できるものの、増加率の大幅低下は避けられない。中国にとって、輸出増加率の低下は、経済成長に大きな影響をもたらす一方、対外不均衡の是正や成長方式の転換につながることも期待される。

 

輸出は伸び悩み、貿易黒字は大幅減

2002年以来、中国の輸出は年平均で30%の高率で伸び続けてきたが、今年(2008年)に入ってから前年同期比伸び率は大幅に低下した。中国税関によると、今年1-2月の輸出の前年同期比増加率は16.8%、うち2月の同伸び率は6.5%と、2007年通年のそれ(前年比25.7%増)より、大幅に低下した。なかでも最大の輸出市場である米国への輸出の前年同期比伸び率は、1-2月の累計で0.4%、2月には5.2%減と「マイナス成長」さえ記録した。

輸出増加率の低下と対照的に、輸入の前年同期比増加率は1-2月で30.9%、2月には35.1%という高い数字を示した。これにより、近年増加の一途を辿っていた貿易黒字は、前年同期より29.1%(1-2月の累計)も縮小した。うち対米輸入は前年同期比40.5%も増加したため、中国の対米貿易黒字は同14.6%も減少した。

 

表1 2008年1-2月の中国貿易動向(単位:億ドル)

  2月 1-2月累計
輸出入総額 1,661.8(18.4) 3,659.3(23.0)
輸出額 873.7(6.5) 1,969.9(16.8)
輸入額 788.1(35.1) 1,689.4(30.9)
貿易黒字 85.6(-63.9) 280.5(-29.1)

注:カッコ内は前年同期比伸び率(%)。

資料:中国税関統計。

 

これまで中国の研究者の間に米国のサブプライムローン問題は中国の輸出への影響は限られるものにとどまるではないかとの見方が多かったが、1-2月の実績からみると、その影響は相当深刻なものがあると認めなければならない。その証拠として、中国の対米輸出の増加率が大幅に低下している中、ロシア、インドと韓国への輸出は大幅増をみせた(1-2月の前年同期比増加率はそれぞれ46.9%、45.3%と28.6%)ことが挙げられる。

これまで中国の最大の輸出市場だった米国は、2007年にその座をEUに譲り渡し、中国輸出全体に占める米国向け輸出のシェアは、2005年の21.4%をピークに、今年1-2月には17.6%に低下したものの、中国にとって最も重要な輸出市場の一つであるという事実は変わっていない。そのため、米国向け輸出の減速は中国輸出全体に大きな影響をもたらしかねない。

中国商務省が昨年秋に発表した報告書では、2008年の中国貿易の前年比伸び率は15%と2007年よりやや低下するだろうとの予測が出されているが、1-2月の実績や内外情勢からみれば、輸入は予想より高い伸び率を示し、輸出のそれは予想より低くなる可能性が強いとみられる。

内需不足もあって、中国の多くの企業にとって、輸出拡大が死活にかかる問題となっているだけに、輸出が減少すれば、失業の増加、ひいては社会不安につながりかねない。そのため、温家宝首相はさる3月の全人代における政府活動報告の中で貿易発展方式の転換や輸入の促進などを強調したと同時に、「輸出の安定的拡大」にも言及している。

 

11年ぶりの高率を示した物価上昇率

中国商務省は今年1-2月の輸出減速をもたらした要因として、春節(旧正月)や南方の自然災害の影響を挙げているが、実際、昨年以来の輸出環境の変化、特に輸出還付税率の引き下げ、物価と賃金の上昇、人民元高による輸出コストの増大などの影響がより大きいとの見方が一般的である。

国家統計局の発表によると、昨年中国の住民消費物価指数は前年比4.8%上昇し、うち食品の上昇率は12.3%にも達している。消費財価格にとどまらず、投資財価格(固定資産投資価格)、工業品出荷価格、原材料・燃料価格や農産物生産価格も上昇している。なかでも原材料・燃料価格、農産物生産価格の前年比上昇率はそれぞれ4.3%と18.5%に及んでいる。

今年に入ってから、物価上昇はさらに加速化している。国家統計局によると、1-2月の住民消費物価指数の前年比上昇率は7.9%と11年ぶりの高水準を記録した。1月と2月にわけてみると、2月のそれは8.7%と、1月より1.6ポイントも高くなった。なかでも庶民生活に深く関係している食品の価格上昇は際立って深刻である。1月の上昇率は20.7%、2月は23.3%(うち豚肉は63.4%、野菜は46.0%)に達している。

 

表2 中国の住民消費物価上昇率の推移(単位:前年同期比、%)

年月 上昇率 年月 上昇率
2007年1月 2.2 2007年8月 6.5
2007年2月 2.7 2007年9月 6.2
2007年3月 3.3 2007年10月 6.5
2007年4月 3.0 2007年11月 6.9
2007年5月 3.4 2007年12月 6.5
2007年6月 4.4 2008年1月 7.1
2007年7月 5.6 2008年2月 8.7

資料:中国国家統計局。

 

食品の価格上昇率は、賃金上昇率と定年退職者の年金上昇率を大きく上回り、低所得者はもちろん、普通の市民からも不満の声が上がっている。さる3月の全人代で、温家宝首相は消費者物価指数の上昇率を、2005年以降の3%より約2ポイント高い4.8%前後に設定しているが、内外の諸環境からみれば、この目標を達成することはかなり厳しいと、温首相をはじめ中国政府関係者も認めている。

全人代期間中、中央から地方までの政府関係者がそろって物価対策の重要性を強調し、物価上昇抑制を今年の最重要課題としていることは、政府の危機感を如実に物語っている。商務省をはじめ、中央官庁や地方政府は計画経済時代を彷彿させる「行政手段」の行使に踏み切った動きも出ている。

消費財価格、投資財価格、工業品出荷価格、原材料・燃料価格、農産物生産価格などの上昇の相互波及のほか、消費者物価の上昇→賃金の上昇→中国の輸出コストの増大→輸出競争力の低下→一部の輸出商品の伸び悩みまたは輸出減少といった循環に陥る恐れも指摘されている。

 

賃金上昇と人民元高

中国の輸出コスト増大をもたらす要因に賃金上昇と人民元高もある。中国経済が2003年から2007年にかけて5年連続で二桁の成長を達成したことはよく知られているが、実質賃金の二桁上昇は1999年より実に9年間も続いていた。

消費者物価上昇の加速化もあって、今年の賃金上昇率は二桁になるのがほぼ確実である。「民工荒」(農民出稼ぎ労働者の供給不足)の発生を契機に、2005年から華南地区と華東地区など沿海部を中心に、各地方政府は相次いで最低賃金を引き上げてきたが、今年に入ってから最低賃金の切り上げはさらに勢いを増している。

広東省政府は、今年2月20日に同省の最低賃金を平均で12.9%引き上げる(4月1日より実施)ことを公布した。調整後の最低賃金(月)は860元、770元、670元、580元と530元という五つのランクに設定されているが、うち最後ランクの引き上げ幅は17.8%にも達している。

昨年9月に最低賃金を前年より12%引き上げた上海市政府は、今年3月25日にはさらに同市の最低賃金を14%引き上げ、月額を960元(約1万3700円)にすると発表した(4月1日より実施)。月額960元(年額11520元)という数字は、2001年全国都市部平均賃金(年10870元)を上回り、現段階では中国一の水準となっている。

北京五輪を控えている北京市では、今年の最低賃金の引き上げをまだ発表していないが、昨年6月に2006年の640元(月額)から730元へと14%も引き上げたことから、今年の引き上げ幅は少なくとも昨年並みになるとみられる。

大都市の最低賃金の引き上げにつられて、他の省・市・自治区も最低賃金の引き上げを実施するものと予想される。また物価上昇を背景に、中国の賃上げは常態化する可能性も出ている。さる3月の全人代と、その前に開催された各省・市・自治区の全人代において、物価水準の上昇にあわせる賃金上昇システムの構築が提案されたことは、その前兆といえる。

近年人民元の切り上げも中国の輸出コストを増大させている。中国政府は2005年7月21日、実質的に米ドルと連動したドル・ペッグ(連動)制を、「需給を基礎とした、管理された変動相場制」に変更したと同時に、人民元の対米ドルレートを2%切り上げたが、2006年以降の傾向からみれば、変動幅は確実に拡大している。

2007年の切り上げ幅は約7%に達し、2008年には10%を超える見込みである。2005年に1ドル=8.19元だった対ドルレートは、今年前半にも1ドル=6元台(今年3月27日は1ドル=7.01元)へ、2015年までは1ドル=4元になるとの予測も出されている。これに輸出税の還付率の引き下げが加わり、多くの輸出企業はコスト増で悲鳴を上げていると伝えられている。(2008年4月記・3,472字)

 

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