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個人所得税改革による「格差是正」

中国ビジネスレポート 政治・政策
劉 新宇

劉 新宇

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2011年6月24日

中国で今、最も注目を浴びている話題の1つは、個人所得税改革である。近年の急速な経済発展に伴い、社会全体としては富の蓄積を続けているが、個々に目を向けると持つ者、持たざる者の「二極化」が激しく、この傾向はますます深刻化している。この問題が改めて社会の注目を集めるようになっている今、公平さの実現と密接に関わる個人所得税制に対しては、中低所得者層の税負担を軽減し、これを高所得者層にシフトさせる調節力が不足しているなどとの批判が寄せられている。

こうした背景のもと、2011年3月1日、国務院常務会議において、「中華人民共和国個人所得税法修正案(草案)」が「原則可決」された。

中低所得者層は、いくつもの収入源を有する高所得者層と異なり、通常は勤務先からの給与しか収入源がなく、金額的にも個人所得税は重い負担としてのしかかる。個人所得税にかかる国家税収の大半を支えているのは、こうした中低所得者層であり、社会における富の流れを調整し、中低所得者層の負担を軽減するため、前述の草案は、ひと月あたりの個人所得税の非課税枠(基礎控除額)を現在の2,000人民元(日本円では約25,000円に相当)から3,000人民元(日本円では約38,000円に相当)に引き上げるとともに、9段階の累進税率制度を7段階へと改めるものとした。

この2つの改正点について、大衆の間では、個人所得税基礎控除額の引き上げ幅が小さく、その効果は一部の中低所得者層に限定され、所得格差の是正を実現するには程遠い、という意見が広がっている。全国人民代表大会常務委員会の審議においても、非課税枠3,000人民元は、社会一般の普遍的な期待に応える基準とはいえず、数年後の再調整は避けられないのではないかとの意見があった。大衆の多くは、税率5%の上限を5,000人民元(日本円では約63,000円に相当)に調整すれば、中低所得層のほとんどが所得の5%を納めるだけでよくなり、その税負担をはっきりと引き下げることが可能になるとして、非課税枠を少なくとも5,000人民元に引き上げるべきと見ている。ただし、この点については専門家の間で、「大衆の個人所得税に対する理解には偏りがあり、関連部門が個人所得税法の改正を、もっぱら基礎控除額の引き上げに頼っている点も誤りである。実際、公平な税制度実現のために重要な点は、基礎控除額の引き上げではない。基礎控除額の調整は表面的に分かりやすく、受け入れられやすいが、その効果は限定的なもので、ほかにもっと有効な制度がある」という見解がある。例えば、個人所得税制度の改革のために、一番大切なことは家庭の収入を含めた総合課税制度を実施すべきとの提案もなされている。

個人所得税は、国家、法治の基盤を支える重要な税収であるが、中国の税制には脆弱な部分も若干残されており、不完全な財務支払制度と財産公開制度、健全性を欠く信用体系は、個人所得税制発展の妨げとなっている。今回の個人所得税改革の最終的な形が定まるまで、まだ時間はかかるかもしれないが、今回の改革が「民情を察し、民意に従う」ものとなるか、期待を寄せつつ今後の展開に注目していきたい。

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