こんにちわ、ゲストさん

ログイン

2004年の経済指標

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

無料

2005年2月8日

<マクロ経済>
2004年の経済指標

田中修

はじめに

 1月25日、国家統計局は2004年の主要経済指標(速報)を発表した。以下、その主要なポイントにつき、紹介することとしたい。

(1) GDP

 2004年通年では、名目13兆6515億元、9.5%の実質成長となった(2003年9.3%)。これを四半期別に見ると、第1(1―3月)9.8%、第2(4−6月)9.6%、第3(7―9月)9.1%、第4(10−12月)9.5%となっており、経済引締めにもかかわらず年末にかけて次第に経済が上昇傾向となっている。
 この点につき、李徳水国家統計局長は、1)食糧生産は秋が全体の60%を占めるが、これが10.35%の伸びを示した、2)第3次産業の伸びが好調だった点を挙げている。とはいえ産業別では、第1次産業2兆744億元、9.5%増、第2次産業7兆2387億元、11.1%増、第3次産業4兆3384億元、8.3%増となっており、第2次産業に偏重した成長構造に変化はない。

(2) 投資・消費

 全社会固定資産投資額の伸びは、25.8%(2003年26.7%)であり、これを四半期で見ると、1―3月期43%、1−6月期28.6%、1―9月期27.7%となっている。また、都市部では、27.6%(2003年28.4%)であり、産業別では第2次産業が38.3%(2003年46.3%)と高水準を維持しており、経済引締めにより都市部・工業を中心とした今回の投資過熱が終息したとは言い切れない。
 これに対し、社会消費品小売総額の伸びは名目13.3%(実質10.2%、2003年は名目9.1%)であり、2003年よりは消費が伸びたとはいえ、中国経済が抱える構造問題である投資と消費のアンバランスは依然大きい。これを金額で見ても、名目GDPが13兆6515億元であるのに対し、投資が7兆73億元、消費が5兆3950億元と、成長が投資に依存する傾向が続いている。

(3) 物価

 消費者物価指数の上昇は3.9%(2003年1.2%)と、前年よりかなり上昇した。都市部で3.3%であったのに対し、農村部は4.8%となっている。
 これまでは、物価上昇の主原因は農産物価格の上昇と言われており、確かに食品価格は9.9%(うち食糧価格は26.4%)上昇となっているが、経済過熱を背景とした原材料・エネルギーの逼迫により、原材料・燃料・動力購入価格指数が11.4%の高い伸びとなり、工業品出荷価格指数も6.1%上昇となっている。これが産業の川下に波及すれば消費者物価のさらなる上昇要因となりうるし、波及が難しければ川上産業の収益圧迫要因となる。また不動産価格が依然9.9%と高い伸びを続けていることも、経済過熱が完全に終息していないことの証左である。

(4)所得

 都市部平均可処分所得は、9422元(実質7.7%増、2003年は実質9.3%増)、農村部平均純収入は2936億元(実質6.8%増、2003年は実質4.3%増)である。2004年は農産物価格の上昇による収入増加に加え、農村の所得向上のため減税(農業税と農業特産税の減免で300億元余)・公共投資(2000億元超)・補助金(食糧リスク基金から116億元、農民の大型農機具購入に20−30億元)等の施策を集中したこともあり、都市・農村部の所得の伸びの格差は多少縮まった。しかし、絶対的な格差が大きいので、都市・農村部の所得格差の拡大傾向に歯止めがかかったわけではない。
 また、2005年の農民収入の伸びについては、専門家の中でも楽観視できないとの観測が強い。例えば、国務院発展研究センター農業部の崔暁黎は、6%・2110元を下回ると予想しており、彼及び同僚の肖俊彦はその理由として次の点を挙げている(2004年1月24日付け中国経済時報)。

  1. 2005年の食糧価格上昇の余地には限度がある。
     各地方は、作付け面積を拡大しており、コントロールがうまくいかなければ、食糧価格の下降が出現する。
  2. 化学肥料・マルチフィルム・農薬等農業生産財価格の上昇が農民の増収に影響を与える。
     昨年末以来、農業生産財価格の高騰が、収入を大幅に減少させ、甚だしきは少数の地域で支出超となっている。
  3. 国家のマクロ・コントロールが、農民の非農業収入に影響を与える。
     郷鎮企業の一部業種の過熱と低水準の重複建設が有効に抑制されれば、一部企業の建設・生産停止は免れず、農民の就業が減少する。
  4. 基本農地保護法の実行が、一部の農民の収益に不可避的に影響を与える。
     一部の地域の農民が土地を譲渡したり、経済作物に植え替えたりすることが厳格に制限されるようになる。

(5) 雇用

 都市部就業機会は980万人分が新規増となり、目標を80万人上回った。また、年末時点の都市部登録失業率は4.2%(2003年4.3%)と過去13年間で初めて低下した。しかし、これが失業増大の転換点となるかどうかについては、李徳水局長は「以後引き続き(失業率が)下降するかは、まだ結論を出すことは難しい」としている。
 また、李局長は珠江デルタと長江デルタで発生した農民出稼ぎ労働者不足(民工荒)について、「昨年農村の情勢が良好で、農民の収入が増加しているのに、農民出稼ぎ労働者の賃金が元の水準に留まっていたとしたら、農民出稼ぎ労働者の供給は無限たりえない。一部の地域で発生した農民出稼ぎ労働者不足の根本原因は、彼らの賃金水準が低すぎることである。珠江デルタ地域では、平均賃金は月たったの600元前後であり、これは彼らの父母の時代である20年前の水準と変わらない。経済成長がこれほど速いのに、これが公平といえるだろうか」と経営者の姿勢を批判している。

(6)食糧生産

 農業生産は転機を迎え、食糧は豊作となり、4695億キロ(9.0%増)を達成した。連続5年の減産局面が反転したのである。李局長は、その成果を自賛しつつも、2005年については、天候が分からないとし、かつ2004年の増加は、1)面積増の貢献度は25%で、単位面積当たりの増産が75%貢献している、2)主として秋の収穫穀物に依存している、という点があるため、1)食糧の総量は消費量に比して依然不足している、2)食糧構造にはいくつか課題があり、トウモロコシの生産量は多いが、米とくに粳米には十分な余裕がない、と指摘している。

(7)対外関係

 輸出は35.4%の伸び、輸入は36.0%の伸びであったが、貿易収支は320億ドルの黒字(2003年は255.2億ドルの黒字)であった。1―4月までは貿易赤字が続いたが、その後経済引締めの影響で輸入拡大の勢いが鈍化したこともあり、黒字を維持した格好である。
 直接投資の実行額は、6099億ドル(13.3%増、2003年は1.3%増)と、SARSの影響から回復した。

(8)外貨準備

 2004年末の外貨準備は6099.32億ドルとなり、2003年末より2067億ドル(51.3%)増という著しい伸びを示した。貿易黒字が320億ドル、直接投資実行額が606億ドルでしかなかったことからすると、この伸びは大変大きい。むろん増加要因としては、ほかにもドル以外の外貨で保有する外貨準備のドル換算額がドルの下落により増加したことや、米国FRBの利上げでドル資産の運用益が増加したこと、短期外債が増加したことが挙げられよう。しかし、1−9月期までは、外貨準備の伸びは月平均120億ドルのペースであった(9月末の段階では5145億ドルで、前年末比1113億ドル増)のが、10−12月期になると、10月末5424.43億ドル、11月末5738.82億ドルと月平均300億ドルのペースで急増しており、これはいかにも不自然である。
 ある国有商業銀行の上海分行個人銀行部総経理の話では、人民銀行の利上げ以降ドルを人民元に交換し、人民元建ての借金を前倒しで返済するケースや、域外者が不動産を購入するケースが増加したという。特に12月20日以降は、1月1日に人民元が切り上がるという噂が広まり、ドルの人民元への交換による前倒し返済の傾向が更に強まったという。事実、人民銀行上海分行の統計では、内資銀行の外貨預金は9月末の317億ドルから年末には178億ドルに減少しているのである(2005年1月18日付け国際金融報)。
 しかし何よりも外貨準備急増の要因としては、人民元切上げを見込んだホット・マネーの流入が激化したことが考えられよう。昨年11月28日、ASEAN+3首脳会議に出席した温家宝総理が「人民元レートの切上げは重大な経済政策であり、中国は外圧に迫られて人民元切上げはできない。国際社会の人民元への投機が続くようであれば、切上げは不可能である」と強調した事(2004年11月30日付け国際金融報)は、投機の大きさを物語っている。
 しかし、国際金融の世界では人民元切上げは既定事実化しており、中国当局がいかに早期の切上げを否定しても資金の流れは容易に止まりそうにない。昨年であればまだチャンスはあったかもしれないが、中国政府の意図とは裏腹に、G7や投機資金の外圧に屈しない形で人民元レートを修正することは、益々困難になってきているのである。

(2005年1月27日記・3.762字)
信州大学教授 田中修

ユーザー登録がお済みの方

Username or E-mail:
パスワード:
パスワードを忘れた方はコチラ

ユーザー登録がお済みでない方

有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。

ユーザー登録のご案内

最近のレポート

ページトップへ