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ログイン2005年12月18日
(前回に続く)
3.メガロ・ポリス
第11次5ヵ年計画建議にメガロ・ポリス構想が打ち出されたことにより、珠江デルタ・長江デルタ・環渤海それぞれの地域特性を分析する論文も多く提出されている。そのなかで興味深い論調を紹介しておきたい。
(1)中国地域経済学会陳耀副秘書長「3大経済圏の比較分析」(2005年11月8日付け人民網)
現在、長江デルタ、珠江デルタ、北京・天津・河北3大都市経済圏は、全国の6.3%の国土面積、24.2%の人口、48.3%のGDPを占める。
A 発展の基礎・総体水準
長江デルタの1人平均GDPと土地面積当たりGDPは、珠江デルタのそれぞれ1.27倍、1.81倍であり、北京・天津・河北のそれぞれ1.43倍、2.19倍である。人口平均でも土地面積平均でも、長江デルタ経済圏は経済産出効率・集約化の程度が最も高く、珠江デルタがその次、北京・天津・河北経済圏が3位である。
B 市場化・国際化の程度
a 所有制構造
北京・天津・河北経済圏は中国の政治文化の中心であるのみならず、旧工業基地であり、伝統的な計画体制の慣性の影響が大きい。
2004年の統計では、北京市・河北省の国有・国有支配企業が実現した工業付加価値は、一定規模以上の工業全体のそれぞれ51.8%、45.6%であり、天津市の公有制経済が実現した付加価値は、全市の総生産値の52%である。長江デルタ経済圏では、国有・国有支配企業が一定規模以上の工業に占める比重は、江蘇省が10.6%、浙江省が16.7%である。非公有制の付加価値が地域の総生産値に占める比重は、浙江省が63%、上海市が38.9%である。広東省の国有工業の比重は、わずか23.5%にすぎない。
b 就業構造
北京・天津・河北経済圏において国有単位の従業員が占める比重がなお13.8%であり、うち北京市と天津市はそれぞれ22.3%、21.8%である。これに対し、珠江デルタ・長江デルタはそれぞれ8.7%、8.1%にすぎない。上海市はやや高いがそれでも18.4%であり、最低の浙江省は5.8%である。
c 全社会固定資産投資の資金源
国家予算内資金の比重は、北京・天津・河北経済圏が最も高く、2.74%に達するが、長江デルタは1.51%、珠江デルタは1.37%である。自己調達資金の比重は、北京・天津・河北が50.2%であり、長江デルタ・珠江デルタは共に52%である。違いが大きいのは外資の比重であり、広東省の外資利用は12.4%、長江デルタは6.4%、北京・天津・河北はわずか3.4%である。
d 輸出入
2004 年の長江デルタ・珠江デルタの輸出入が全国に占める割合は、それぞれ36%、31%であり、外国貿易依存度はそれぞれ182.6%、100.1%に達するのに対し、北京・天津・河北は輸出入が13%、外国貿易依存度が17%にすぎない。
概括していえば、北京・天津・河北経済圏が他の2大経済圏と異なる特徴は、「弱い市場」「強い政府」ということであり、政治経済の色彩が濃厚である。
C 産業構造の全国経済への適応性
a 長江デルタ経済圏
産業部門が全部そろっており、軽・重工業が発達し、中国最大の総合的な工業区であり、伝統工業が全国で重要な位置を占めているのみならず、ミクロの電子機器・光ファイバーといったハイテク産業も際立っている。
b 珠江デルタ経済圏
主として加工貿易に導かれ、産品の多くは労働集約型であり、既に世界最大の電子・日用消費品の生産・輸出基地の1つとなっている。適度な重工業化戦略をとった結果、重工業の比重は57.3%にまで上昇した。
c 北京・天津・河北経済圏
中国の重化学工業・装置産業・ハイテク産業の基地である。ただし、国有経済の比重が高く、企業の負担が重く、メカニズムが不活発であるなどの問題が依然発展の妨げとなっている。特に、製造業の発展戦略上の打つべき手が決まっていないうえ、経済圏内部の産業の位置づけが不確定であり、合理的な分業と共同が欠けているため、産業全体のレベルアップの過程の足を引っ張っている。
3大経済圏の異なる産業構造とその発展思考は、異なる産業化の結果をもたらした。2004年の第2次産業の対GDP貢献率は、全国平均が61.8%であるが、珠江デルタと長江デルタはそれぞれ65.6%、61.6%であり、北京・天津・河北は最も低く57.36%にすぎず、中でも北京は48.1%である。
D 空間組織と地域一体化
a 長江デルタ
首位は上海であり、2004年の地域GDPは7450億元であり、第2位の蘇州3450億元である。周辺15都市中、上海のトップの地位は公認を得ている。上海は、長江デルタの核心都市として、一面では周辺都市の優秀な要素資源に対して巨大な吸引力を持ち、一面ではその大発展が周辺都市地域に強い放射・牽引作用を有している。
b 他の2大経済圏
それぞれの首位である北京の地域GDPは4283億元、広州は4116億元と接近している。2大経済圏の首位都市の首位度は高くないが、この原因は、各経済圏に経済実力が拮抗する都市(北京に対する天津、広州に対する深セン)が存在するからであり、理論界ではこれを「双頭」現象と呼んでいる。
E 北京・天津・河北経済圏が台頭する戦略的チャンス
a 地域経済構造の大調整
ここ10年来、長江デルタ経済圏は、初めて全体的な成長鈍化が出現し、同時に珠江デルタ権の企業利潤の伸びも大幅に下落が出現した。これに比べ、中国北方省の経済は、正に新たなチャンス・活力が出現している。
b オリンピック経済の牽引
北京は2008年のオリンピックに史上最大規模、総額2800億元の投資を行い、主として都市インフラ、都市環境改善、競技場の建設・運営、テレビ・メディアの放送・通信系統等に用いられる。国家統計局の予測では、2008年まで「北京オリンピック経済」は、毎年平均全国GDPを0.3−0.4ポイント引上げるとされる。
c 外資の北上が急ピッチである
近年来、外資が中国に投資する流れは、不断に南部沿海から中部沿海・北部沿海に移転しており、とりわけ日韓・欧米等の多国籍企業が北京に研究開発機関を次々に設立しており、北京・天津・河北経済圏の対外開放は急速な勢いを示している。2005年上半期における沿海3大都市県の外資実際利用額の全国シェアは87%で、前年同期比16.4%の伸びとなっている。注意すべきは、3大経済圏中、北京・天津・河北のシェアは最低の17%であるが、伸びは最高の23.24%であったことである。長江デルタは、シェアは51%、伸びが18.98%で、珠江デルタはシェアが19%、伸びは最低の5.3%であった。対外貿易も同様で、3大都市圏の輸出入貿易の全国シェアは77%、対前年同期比23.94%の伸びであったが、北京・天津・河北のシェアは13%、伸びは30.09%で最も速く、長江デルタはシェア36%、伸び26.91%、珠江デルタはシェア28%、伸び17.70%であった。
(2)北京市社会科学院経済研究所課題グループ「北京・天津・河北経済圏地域の調和ある発展の構想と対策」(2005年11月8日付け「前線」雑誌)
A 北京・天津・河北経済圏地域の調和ある発展のための重点協力領域
a 第1次・第3次産業の協力空間の拡大
北京・天津・河北経済圏は、第1次産業では既に一定程度協力ができているが、協力の余地はなお大きい。北京の第3次産業の発展はハイレベルにあり、地域GDPに占める比重は既に60%を超える。
b 構造調整を行い、合理的に分業を行い、第2次産業の協力を促進する
北京・天津・河北の第2次産業の地域を越えた協力に際しては次の諸点に注意すべきである。
1)北京・天津・河北3地域が自己のリーディング産業群を特化している状況下では、工業の地域協力において当面の重点領域は、なおも成熟した伝統製造業である。比較劣位の伝統工業は、北京からその他の地域に移転すべきである。
2)都市工業は、北京が発展に力を入れるべき産業であるが、第11次5ヵ年計画期間においては、第1次産業と地域的整合を図りながら、地域経済の整合的な核心領域となろう。河北農業と北京の食品・飲料工業の連携がその例である。
3)特化時期の現代製造業は、地域的な協力によりその集積を促進する必要がある。例えば、自動車工業の地域的配置の高度化は既に議事日程に上っている。
c インフラ等各領域の実質的な協力を加速する
インフラ建設は、地域協力の基礎であり、前提である。北京・天津・河北経済圏は、インフラ・交通・水資源・エネルギー・旅行・生態環境保護等の方面において、実質的な地域協力を一層展開する切迫した需要がある。
d 社会の安定、調和のとれた発展方面における地域協力は、大いになすべきことがある
1)社会の安定と治安、2)公共衛生と疾病の予防・コントロール、3)防災・減災、
4)事故等突発的事件に対する緊急救援、5)科学研究・教育、の5大領域で、行政区域を越えた協力を行う必要がある。
B 主要な問題
長江デルタ・珠江デルタの地域一体化プロセスに比べ、次の点で大きな差がある。
a 長期に計画経済と行政区域経済の影響を受けたことにより、市場経済の意識が希薄であり、地域協力の意識が強くない。
b 北京・天津・河北経済圏の地域協力はなお初級発展段階にあり、地域一体化の体制・メカニズムは未だ確立していない。
c 経済社会の発展計画は、なお行政区域内に制限されており、重層的に詳しく見る目が欠けており、インフラの重複建設(例:飛行場・港湾)・資源争奪等の矛盾が際立っている。
d 産業協力にかなり限界があり、地域間に合理的な産業分業と産業の付加価値の繋がりが欠けている。
e 国有経済の比重がかなり高く、私営・民営経済が薄弱であり、行政の経済発展に関与する度合いがかなり強い。
f 都市体系が不健全である。都市の連絡体系が未だ形成されておらず、北京・天津の2つの核心都市周辺に、一定の発展水準の中小都市が欠けている。
g 全体の経済発展水準が高くなく、都市間の経済発展水準の格差がかなり大きい。
h 地域の統一市場が未だ形成されていないことが、資金・技術・人材・情報等の要素が地域を越えて流動することに悪影響を及ぼしており、企業に提供できるサービスが多くなく、企業の生態環境がかなりひどい。
C 地域の調和ある発展の構想及び対策
基本的構想は以下のとおりである。
a 地域の制度革新を保障とし、地域の一体的な発展のメカニズム・体制を確立する。
b インフラ建設を突破口とし、道路・交通・港湾・飛行場建設上、資源の整合的な結合を実現する。
c 市場建設の一体化を基礎とし、資金・技術・人材・情報等生産要素の自由な流動を促進する。
d 産業協力を核心とし、都市の機能のあり方を更に明確にする。
D当面の主要施策
a 地域の調和のとれた発展を促進する戦略・計画を制定する。
b 地域の調和のとれた発展を推進するのに資する方向で、現行制度を調整する。
1)現在の行政区を単位として経済発展を審査するという基礎のうえに、中央政府を審査主体とし、経済圏を単位とする審査制度を増加させる。
2)現在の行政区で各自の財政を区分するという基礎のうえに、経済圏で公用インフラ投資を統一的に企画する制度を増加させる。
3)各行政区で制定している中長期経済社会発展計画の基礎のうえに、経済圏地域中長期経済社会発展共同計画を制定する。
4)現在実行している生産型増値税を消費型増値税に転換し、地方保護主義を廃し投資を奨励し、企業の行政区を超えた発展と地域経済協力を促進する。
c 現行の地域発展の協調メカニズムを改革し、地域協力推進の効率を高める
1)国務院が指導し、国家発展・改革委が牽引し、各行政区の行政長官が参加する北京・天津・河北経済圏地域協調発展連合会議を早急に設立し、経済圏地域の発展の全体計画を制定する。
2)領域別・部門別に専門発展協調・協力委員会を組織し、行政区を超えた重大プロジェクト・具体的問題について3者会談を行う。
d 制度の革新の唱導に力を入れ、国有経済改革と民営経済の発展を推進する
1)地方政府は国有企業体制改革のテンポを加速し、財産権改革と組織革新により国有企業に真のコーポレート・ガバナンスが成立した現代企業制度を確立する。
2)民営経済発展を支援・奨励する政策措置を整備・強化し、民営経済の発展を加速する。
e 市場建設を積極的に強化し、商品・生産要素の自由な流動を促進する
地方保護主義を取り消し、商品の自由な流動を促進するとともに、生産要素市場の建設に一層重点を置かなければならない。
f 都市ネットワーク体系の建設を加速し、地域、都市・農村の一体的発展を促進する
北京を地域の核心都市とするため、政府の関係部門は「配置の高度化・機能の強化・環境の改善・品位の向上」という全体要求に基づき、北京市の東部発展が他の中心都市を率いる都市連合の建設を促進すべきである。
(3)「大珠江デルタ経済の一体化の優位性は突出している」(2005年11月8日新華社広州電)
A 改革開放26年の力強い発展を経て、陸地面積が全国の1.85%しかない広東が、全国の9分の1の経済総量、7分の1の税収入、4分の1の外資総額、3分の1の対外貿易額を占めている。
B 香港・マカオとの関係では、広東は香港の国際金融センター・自由貿易港としての世界への照射力を借り、マカオのポルトガル語を使用する国家への影響力を借りて、富が高度に集積した珠江デルタを形成してきた。他方、珠江デルタは、「香港は主としてサービス、広東は主として製造」という合理的な経済の整合性と産業の分業を進行させてきた。
C 珠江デルタを核心とする地域の発展活力が更に湧き上がるにつれ、中西部・東南アジアへの放射作用とリーダーとしての特化が更に増強されている。
D 世界の産業競争に勝ち残るため、ハイテク技術により伝統産業を改造すると同時に、広東は重化学工業・ハイテク・高級サービス業の建設を加速する必要がある。
E 広東は、「小珠江デルタ」から、香港・マカオを包括し、華南・西南・東南アジアを照射する「大珠江デルタ」に向かうべきである。
F 最新資料では、現在多国籍企業が香港に設立しているアジア、アジア太平洋総本部の数は、上海の10倍以上である。香港のこのような優位性は直接的に珠江デルタ地域に及ぶ。広東の製造業の優位性と香港のサービス業の優位性を結合すれば、経済資源の量と質の新拡大を実現することが可能であり、アジア地域の経済核心・世界経済システムの重要な成長地域となることが期待できる。(完)
(2005年12月8日記・5,526字)
財務省財務総合政策研究所客員研究員 田中修
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