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ログイン2006年6月12日
はじめに
3月5日、全人代が開催され、温家宝総理が政府活動報告(以下「報告」)を行った。その主要なポイントは以下のとおりである。
1.構成
第1部は従来どおり前年の政策回顧である。2005年の報告では第2章で2006年の政策の基本方針が述べられ、具体的政策については、第3章から第7章まで発展・改革・安定といった大テーマ別に小項目として列挙されていたが、2006年は再び第2部として当年の政策を列挙する2004年以前の構成に戻った。ただ、今回は第3部として、第11次5ヵ年計画要綱草案の説明が付加されている。
2006年 |
2005年 |
1.経済の安定した高成長を維持 2.社会主義新農村建設を着実に推進 3.産業の構造調整、資源節約、環境保護を強化 4.地域の調和のとれた発展を推進 5.科学技術・教育興国戦略及び人材強国戦略の実施、文化建設の強化 6.改革開放の一層の推進 7.大衆の切実な利益に関わる問題の解決を高度に重視 8.民主政治建設の強化、社会の安定の維持
|
3.経済の安定した高成長を維持 ・マクロ・コントロールの強化・改善 ・「三農」工作の強化 ・経済構造調整と成長方式の転換 ・地域間の調和のとれた発展 4.経済体制改革と対外開放の推進に力を入れる ・農村改革 ・国有企業改革 ・非公有制経済の発展支援 ・金融体制改革 ・財政・税制・投資体制改革 ・市場体系の整備 5.積極的に社会事業を発展させるとともに、調和のとれた社会を建設する ・科学技術・教育・文化・医療・衛生・体育 の発展、精神文明建設 ・就業・社会保障、人民生活の向上 6.行政能力の向上と政府部門の作風づくりを強化する 7.平和的発展の道を歩みつづけ、独立自主の平和外交政策を堅持する |
2006年の構成が以前の姿に戻ったのは、本年が第11次5ヵ年計画の初年度であることが大きいと思われる。即ち、今回の計画は第10次と比べても編・章の構成が詳細になっており(10編26章から14編48章に拡大)、その初年度である2006年の工作を述べるに当って、第11次5ヵ年計画の項目立てを無視するわけにはいかなかったのであろう。政府活動報告の項目立ては、おおむね第11次5ヵ年計画の編立てに沿う形となっている。
なお、2005年には復活していた外交の章は、各論が詳細化されたことに伴い、第8章の一部に格下げされた。
2.2005年の回顧
A財政面の強調
今回も2005年報告と同様、中央財政の支出額を以下のように具体的に挙げることにより、どこに施策の重点が置かれていたかを強調する説明方式がとられている。
a「三農」(農業・農村・農民) 2975億元(対前年度比349億元増)
b国有企業の政策的閉鎖・破産の支援 116企業、219億元
c科学技術・教育・衛生・文化方面 1168億元(対前年度比18.3%増、うち国債資金95.4億元)
1)教育
592の重点貧困県の1700万名の貧困家庭学生に教育雑費を免除・教科書無料提供・寄宿舎費補助、中西部地域の1700万名余の貧困家庭学生に教科書無料提供 中央・地方で補助金70億元超
2)衛生
この3年で、省・市・県の3クラスをカバーする疾病予防・コントロールシステムを基本的に完成 中央・地方で105億元投入
中西部における郷鎮衛生院建設支援 国債資金30億元
d社会保障
国有企業一時帰休・失業者の基本生活保障、再就職補助 209億元(同29億元増)
優遇扶助 74.6億元(同90%増)
災害対策・災害救助 89億元
貧困扶助(農村貧困人口を対前年度比245万人減) 中央・地方で162億元
2005年の報告にあった西部大開発の記述は消え、2006年は教育・衛生・社会保障の記述が増えている。
B経済社会の困難・問題
a食糧増産と農民増収の難易度が増している。
食糧価格が低下し、生産財価格が高騰している。耕地は不断に減少している。
b固定資産投資の伸びが、依然かなり高い。
一部業種の投資の伸びが大きすぎ、新規着工プロジェクトがかなり多く、投資構造が不合理であり、投資の反動増の圧力が比較的大きい。
c一部業種の過度な投資の好ましからぬ結果が顕在化している。
生産能力過剰問題が日増しに際立っており、関連産品の価格が下落し、在庫が上昇し、企業利潤が減少し、赤字が増加し、潜在的金融リスクが大きくなっている。
d大衆の切実な利益に関わる少なからぬ問題が解決に至っていない。
医療難・医療費が高い、就学難、就学費用が高い等の問題が際立っており、これに対する大衆の批判が比較的強烈である。土地収用、家屋立ち退き、ダム移民、企業リストラ、環境保護等の面で、法規・政策違反により大衆の利益に損害をもたらす問題が存在する。
e安全生産状況が厳しい。
炭鉱、交通等で重大事故が頻繁に発生しており、国民大衆の生命財産に深刻な損失を与えている。
f各クラスの政府にも少なからぬ欠点と不足が存在する。
一部の活動は不十分で、効率が高くなく、形式主義とうわべを飾り立てる現象が比較的際立っており、一部政府公務員は虚偽・贅沢浪費・汚職腐敗に手を染めている。
2005年の報告では、経済社会の問題を3分類し、詳細に分析していたが、2006年は簡潔になっている。2005年3月は第11次5ヵ年計画の策定作業が本格化していた時期であり、中国が直面する経済社会の問題を体系的に分類・整理する必要があったのであろう。むしろ、今回注目すべきは、過去の投資過熱の結果としての生産能力過剰が顕在化したこと、国民大衆の利益・生命財産に損害をもたらす様々な事象が存在し、これに大衆が強い批判を加えていることを指摘したことであろう。中国の経済社会は徐々にではあるが、不安定化しているのである。
3.2006年の施策の基本方針
「2006年は第11次5ヵ年計画の初年度であり、改革発展安定の任務は非常に重い」とする。
A経済諸指標
1)GDP成長率 8%前後
2)エネルギー単位消費低減 4%前後
3)消費者物価上昇率 3%
4)都市部就業者新規増加数 900万人
5)都市部登録失業率 4.6%以内
6)国際収支 基本的に均衡させる
今回は、第11次5ヵ年計画にエネルギーの節減目標が入ったことに伴い、年度報告にも節減目標が組み込まれている。
また、第11次5ヵ年計画では年平均GDP成長率は7.5%と定められており、従来であれば計画初年度の成長率をこれに合わせるのが普通であったが、今回は2005年同様8%前後を目標としている。
この点につき、国家発展・改革委員会の経済報告は次の点を考慮したと説明している。
aわが国には資源と環境による圧力が増大し、経済運営は全般的になお余裕を欠いており、経済の発展には不安定かつ不確実な要素が今なおいくつか存在しているため、経済の成長率をあまり高く設定すべきではない。
b総合国力の増強、雇用の創出及び様々な社会矛盾の緩和に寄与できるよう求められていること、またここ数年比較的高い成長率が維持されている実状などを踏まえると、経済の成長率をあまり低く設定すべきではない。
B政策の基本原則
a政策の安定と適度な微調整
マクロ・コントロールを引き続きうまく行い、マクロ経済政策の連続性・安定性を維持し、マクロ・コントロールの方向と力の入れ具合を正確に把握し、区別して対応し分類して指導することを重視し、経済発展における際だった矛盾を重点的に解決する。
b大局の把握・重点への取組み
改革・発展・安定の関係を正確に処理し、改革開放を原動力として各種施策を推進し、全局に関わる重大問題の解決に力を入れ、経済社会の全面的発展を促進する。
c各方面への総合的配慮と民生重視
人間本位を堅持し、「5つの統一的企画」(都市と農村の発展、各地域の発展、経済と社会の発展、人と自然の調和のとれた発展、国内の発展と対外開放を統一的に企画する)をしっかり行い、都市・農村、各地域の調和のとれた発展、社会事業建設、社会の公平と社会の安定を更に重視し、国民全体が改革発展の成果を享受できるようにする。
d現在に立脚し長期に着眼
2006年の施策と第11次5ヵ年計画の目標実現を結合し、積極的に進取し、力に応じて事を運び、実効を重んじる。
社会の公平と安定が強調されているのが、2006年の特徴である。
4.2006年の施策
(1)引き続き経済の安定した比較的速い発展を維持する
Aマクロ経済政策を安定させ、主として引き続き穏健な財政政策と穏健な金融政策を実施する。
財政政策については、2006年も長期建設国債の発行規模と財政赤字を適切に減少させるとする。具体的には、長期建設国債の発行額は600億元(対前年度比200億元減)とし、中央財政赤字を2950億元とし(対前年度比50億元減)とした。また、建設国債に頼らない中央予算内公共投資を100億元増加するとしている。これらの政府投資は、主として農林水利、科学技術・教育・文化・衛生、生態建設、環境保護、西部開発等の方面と、重点プロジェクトの建設続行の保証、発展の全局に関わる重大プロジェクトの建設着工に用いられる。さらに、報告は2006年から国際慣例に基づき、国債残高管理方式を採用することにより国債発行を管理することとしている。
金融政策については、「三農」、中小企業、就業、就学援助に対する貸付支援を増やし、中長期貸付を合理的に規制するとしている。また、金利形成と伝達メカニズムを健全化するとともに、為替政策については、管理された変動相場制度を整備し、人民元レートを合理的で均衡のとれた水準上に基本的に安定させることを維持するとしている。
B内需拡大の戦略方針を堅持し、消費需要の拡大を重点とし、消費の経済発展に対する牽引作用を増強する。
a都市・農村住民の収入増加に努力する。
所得分配関係を調整し、所得分配秩序を規範化し、中低所得者の所得を増加させる。「多く与える」面で更に多くの措置を採り、農民の収入を増加させる。各地は、最低賃金制度を合理的に調整し、厳格に執行する。出稼ぎ農民の賃金がかなり低い問題を徐々に解決する。賃金未払いを防止する法規・メカニズムを確立・整備する。改正個人所得税法を真剣に実施し、中低所得者の税負担を軽減する。2006年は企業離退職者の基本年金保険、優遇扶助対象者の補助、都市住民最低生活保障補助の基準を適切に引き上げる。公務員給与制度を改革すると同時に、事業単位の所得分配制度改革を推進する。
b住民の支出予測を安定させ、当座の消費を拡大する。
社会保障体系の速やかな整備、教育・医療衛生・住宅等の領域における際立った問題の解決を通じて、住民が消費を増加させるに際しての後顧の憂いを軽減する。
c農村消費市場の開拓に力を入れる。
農村の流通システムと市場建設を強化する。
d消費の環境・政策を整備する。
住民の居住・交通条件を改善し、旅行・文化・健康増進等のサービス性消費を積極的に発展させる。消費税を合理的に調整し、消費者ローンを規範化・発展させる。
C固定資産投資の規模を適切に維持する。維持するものもあれば抑えるものもあるという方針を堅持し、投資構造を改善し、投資の過度な伸びを防止する。
引き続き土地・融資の水門をしっかりチェックし、最も厳格な土地管理制度の実行と、融資条件及び市場参入許可基準に基づく融資を堅持する。新規プロジェクト着工を厳格に抑制する。同時に、経済社会発展の脆弱部分と重点領域の建設を更に強化する。一部の都市の不動産投資規模が過大であり、不動産価格が高騰している問題を引き続き解決する。
(2)社会主義新農村建設を着実に推進する
第11次5ヵ年計画で社会主義新農村建設が打ち出されたことに伴い、従来の「三農」問題から題名が変更されている。工業が農業を逆に養い、都市が農村を支援する方針を貫徹、「三農」への支援を強化しなければならない、とする。
A現代農業を発展させ、食糧生産の安定的発展と農民の持続的増収を促進する。
農民の食糧作付けへの直接補助、有料品種補助、農機具補助を更に増加し、食糧生産県と財政困難県への移転支出を増加させる。重点食糧・食品の最低購入価格政策を整備し、農業生産財価格の値上がりを抑制する。2006年、中央財政は「三農」支援に3397億元支出(対前年度比422億元増)する。農村労働力の非農業・都市への秩序だった移転を推進し、多様なルートで農民収入を増加させる。
B農村インフラ建設を強化する。
国家のインフラ建設投入の重点を農村に転換する。主たるものは、小型水利施設の建設強化、水害干害防止・防災体系の建設強化、農道・飲用水・メタン・電力網・通信等施設の建設強化、居住環境整備、教育・衛生・文化等農村公共事業の建設強化である。国家財政投資と融資の農業・農村への投入を逐年増加させる。
C農村の総合的改革を全面的に推進する。
2006年は農業税を全国で徹底的に取り消す。農村税・費用改革は、元々の336億元の農業課税を取り消すだけでなく、700億元余りの「3つの留保と5つの統一的徴収費用」(公共積立金、公益金、管理費の3つと、教育付加税、家族計画費、民兵訓練費、民政扶助費、民営交通費の5つ)と農村教育の集金が廃止され、さらに各種の不合理な費用徴収が取り消されたことにより、農民は大きな実際の恩恵を得ることになる。
基層政権の正常な運営と農村義務教育の需要を保証するため、2006年から国家財政は、毎年1030億元余りを支出する。うち、中央財政の移転支出は毎年780億元余り、地方財政支出が毎年250億元余りである。農村税・費用改革の成果を強固に発展させるカギは、郷鎮機構、農村義務教育、県・郷財政管理体制改革を含む農村の総合的な改革を全面的に推進することである。
D実際から出発し、地元の事情に合わせ、分類して指導し、計画的に実行する。
農民の意思を尊重し、形式主義や脅迫的命令をしてはならず、一気に進めるのを防止しなければならない。
(3)産業構造調整、資源節約、環境保護を強化する。
A産業構造の調整・グレードアップを推進することは、経済成長方式を転換し、経済成長の質を高める重要手段であり、切迫した任務である。
a産業の段階と技術水準の向上に力を入れる。
先進製造業、ハイテク産業、現代サービス業の発展を加速し、引き続き交通・エネルギー・水利等のインフラ建設を強化し、国民経済・社会の情報化を推進する。技術水準の向上のカギは、自主的な創造・革新能力の全面的な増強である。
b一部の生産能力過剰業種の調整を推進する。
国家の産業政策を貫徹する。企業の合併・リストラ・連合を推進する。法に基づき、資源を破壊し、環境を汚染し、安全生産条件に符合しない企業を閉鎖する。投資構造の調整と消費需要の拡大を通じて、既に形成された生産能力を合理的に利用・消化する。
B資源節約活動をしっかり行う。
a価格・税制等の経済手段を総合的に運用し、資源の合理的開発と使用の節約を促進する。
b各業種の省エネ・節水・土地節約・材料節約の基準をしっかり制定し、省エネ・省資源の重点プロジェクト建設を推進し、土地の集約的利用を促進する。
c省エネ・省資源を重点とした設備更新・技術改造の推進に力を入れる。
d循環経済の発展に力を入れる。
e管理を全面的に強化する。
f全社会において、広範かつ持続的に資源節約活動を展開する。
C環境にやさしい社会の建設を加速する。
水源・土地・森林・草原・海洋等自然資源に対する生態保護を強化する。
(4)地域の調和のとれた発展を引き続き推進する。
A西部大開発を更に推進する。
重点地帯、重点都市、重点産業の速い発展を支援することに力を入れる。
B東北地方等旧工業基地の振興戦略を引き続き実施する。
大型の食糧基地建設を重点的に強化し、重点業種の改革・リストラ・技術改造を推進する。
C中部地域の興隆を積極的に促進する。
中部の地理、資源、産業、人材の優位性を十分に発揮し、食糧を主として生産する地区の商品食糧基地建設、エネルギー・重要原材料基地建設、現代総合交通運輸体系、現代流通体系、現代市場体建設を重点的に強化する。
D東部地域が率先して発展することを奨励する。
自主創造・革新能力の増強に力を入れ、産業構造のグレードアップを推進し、国際競争力と持続可能な発展能力を増強する。土地・水・エネルギー等資源の利用節約と環境保護を更に重視する。
E旧革命故根拠地、少数民族地域、辺境地域、貧困地域の速い経済社会発展を更に支援する。
(5)科学技術・教育による興国戦略と人材強国戦略を実施し、文化建設を強化する。
A科学技術の速い発展を際立った戦略的地位に置く。
創新型(創造的・革新的な)国家の建設を目標とし、重大科学技術プロジェクト・重点プロジェクトを早急に始動させ、重点領域・カギとなる部分に力を集中し、ブレイク・スルーを勝ち取る。中央財政は、科学技術に716億元を投入する(対前年度比19.2%増)。
B9年制義務教育の普及・定着に力を入れる。
2006年から2年間で、農村義務教育段階の学生の学業雑費を全部免除する。2006年は西部地域で実施し、2007年に中部・東部地域に拡大する。農村義務教育を国家財政の保障範囲に全面的に組み込む。今後5年間で、国家財政は義務教育経費を累計で2182億元増加させる。また、中央財政は5年間で100億元を職業教育の発展支援に投入する。
C人材強国戦略を実施し、人材作りに力を入れる。
D社会主義文化建設を強化する。
青少年の思想道徳教育をしっかり行う。引き続き、北京オリンピック・上海万博の準備作業に取り組む。
(6)改革開放を更に推進する。
「改革開放は中国の命運を決定する重大な政策決定である。現在、改革は正に堅塁攻略の段階にあり、更に強い決意をもって各種改革の推進を加速しなければならない。2006年は全局に関わる重大な体制改革で新たな進展を勝ち取らなければならない」とされる。
A国有大型企業の株式制改革を加速する。
国際競争力のある大会社・企業集団の形成を加速する。国有独資企業・独占業種の改革を強化し、市場参入条件を緩和する。国有企業の制度改正と財産権譲渡行為を規範化し、国有資産の流出を防止し、労働者の合法権益を擁護する。非公有制経済発展を奨励・誘導・支援する政策措置を真剣に実施する。
B金融体制改革を加速する。
a国有商業銀行の株式制改革を断固として推進する。
国家の絶対株支配を堅持し、財産権構成を改善する。外国の先進的な管理経験を導入し、コーポレート・ガバナンスを規範化し、内部規制メカニズム・管理制度を整備して、制度革新を推進する。
b資本市場の発展に力を入れる。
上場会社の質を高めることに力を入れる。上場会社の株式分離状態の改革を引き続き推進する。
c農村金融改革を深化させる。
農村信用社の体制を整備し、農業銀行・農業発展銀行の改革を推進し、農村金融の革新を加速する。
d金融の監督管理を強化・改善する。
銀行の自己資本比率による制約を強化する。
C財政・税制、投資、価格改革を深化させる。
a財政体制改革
公共財政体系の健全化、移転支出制度の整備、増値税の転換改革の積極推進、資源税の調整・整備、各種企業税制の統一の検討等。
b投資体制改革
投資主体の自主権とリスク負担メカニズムの実施、プロジェクトの許認可・審査制度の改善、投資のマクロ・コントロール体系の健全化等。
c価格改革
資源性産品・要素価格の形成メカニズムを徐々に正常化・整備。なお、改革に当たっては各方面の利益に配慮し、とくに低所得の大衆の基本生活を考慮しなければならない。
D市場秩序を引き続き深く整頓・規範化する。
市場の法治を強化し、社会信用体系の建設を加速する。
E対外開放を更に拡大し、内外の市場・資源を更にうまく利用する。
輸出入の不均衡状況の改善に努力する。輸出を適切に拡大し、先進技術・カギとなる設備・国内で不足している資源の輸入を増やす。引き続き害しを積極的かつ有効に利用し、外資利用の質の向上に力を入れる。サービス領域の対外開放を拡大する。条件の整った企業の海外進出を支援する。
F2006年は、わが国がWTO加盟の過渡期が基本的に終了するため、各種対応施策をしっかり行うことの緊迫感を強めなければならない。
重点産業のリスク対抗能力と国際競争力の向上を支援する。貿易紛争に対応する有効なメカニズムを健全化し、貿易摩擦を妥当に処理する。
(7)大衆の切実な利益に関わる問題を高度に重視する。
A積極的な就業政策を引き続き実施し、あらゆる手段を尽くして就業を拡大する。
国有企業の一時帰休者の再就職支援を3年間延長する。中央財政は、2006年再就職助成資金を251億元計上(対前年度比42億元増)する。地方財政もこの方面の投入を増加する。
B社会保障体系の建設を加速する。
都市労働者の基本年金保険制度を整備し、個人口座のテストをしっかり実施する。同時に、都市労働者の基本医療保険、失業、労災、生育保険制度の建設を強化する。引き続き、都市の最低生活保障制度を整備する。条件の整った地方で、農民の最低生活保障制度の確立を検討する。
C医療衛生活動を際立たせて行う。
大衆の医療難、医療費が高い問題を徐々に解決するため、次の施策を行う。
a農村の医療衛生サービス体系の建設を加速する。
5年間で、国家財政は200億元余りを投入し、郷鎮衛生院と一部の県病院の施設改造を行う。新型医療合作制度の建設を加速し、2006年はテストの範囲を全国40%の県に拡大する。中央・地方財政は、合作医療に参加する農民への補助基準を20元から40元に引き上げる。これにより、中央財政は42億元支出増となる。2008年には、全国農村で、基本的に新型合作医療制度と医療救助制度を確立する。
b都市のコミュニティ衛生サービスを大いに発展させる。
コミュニティを基礎とした新型都市医療衛生サービス体系の構築を加速する。
c医療衛生体制改革を深化させる。
医療サービス・薬品の生産流通秩序を深く整頓・規範化する。
D安全生産工作を適切に強化する。
a各クラスの政府は、安全生産を重要な位置に置く
b安全生産に資する経済政策を実行する。
c石炭等の業種改革・リストラの歩みを速める。
d安全生産の投入を増加する。国家は2006年に30億元の国債資金を計上する。
e安全生産の個別対策を深く展開する。
f企業管理を強化する。
g安全生産の法制建設を強化する。
(8)民主政治の建設を強化し、社会の安定を維持する。
以下はポイントのみにとどめる。
A民主政治
公民の秩序ある政治参加の拡大、法に基づく行政の全面的推進、司法体制改革の実施等
B社会の安定工作
大衆が不満をもつ問題の解決重視、社会の安定の事前警戒システム・応急処理体制の整備等
C民族政策
民族政策と関連法規の全面貫徹、党の宗教工作の基本方針貫徹等
D国防・軍隊建設
軍隊に対する党の絶対的指導という根本原則・制度の堅持、情報化の条件下における軍隊の総体防衛作戦能力の向上、突発事件に対する処置能力の増強等
E香港・マカオ
内地と香港・マカオの経済・貿易、科学技術・教育、文化、衛生、スポーツ等の領域における交流・協力を更に強化する。
F台湾
平和統一を勝ち取る努力を決して放棄しないが、「台湾独立」分裂活動反対については決して妥協しない。
G外交
引き続き断固として平和発展の道を歩む。隣国に善意をもって接し、隣国をパートナーとする外交方針を堅持する。多国間外交に積極的に参加し、これを展開して国際・地域事務において建設的な役割を果たす。
5.策定経緯
従来、5ヵ年計画要綱が審議される年の政府活動報告は簡略化されていたが、今回は独立した例年通りの形となっている。
この点につき、2006年3月15日新華社北京電は次のように経緯を説明している。
2005年12月初 国務院研究室を主とし、関連部門・地方同志が参加した「政府活動報告」起草組が設立された。
過去の政府活動報告は、第7次5ヵ年計画以降、5ヵ年計画の初年度の政府活動報告は主として5ヵ年計画を論じ、年度活動は簡略に論じていた。
新情勢には新方式が必要であり、新状況には新内容が必要である。第11次5ヵ年計画について、温家宝総理は明確に「今年の政府活動報告の方式・内容は、改革精神を体現し、刷新しなければならない。2006年の政府活動報告は、年度の政府活動と第11次5ヵ年計画要綱を結合させ、主として年度活動を論じ、5ヵ年計画要綱は簡潔に論じる」と指示した。更に温総理は「我々の政府は人民政府であり、我々の権力は人民が賦与したものである。我々のなすこと全ては、人民に責任を負わなければならない。政府活動の中で年度活動をより具体的・明確に論ずることは、全人代代表が政府活動に対し監督・検査を行うことに資する」と述べている。
初稿完成後、温総理は多くの意見を提出し、自ら修文を行った。
2006年1月6日 温総理は国務院常務会議を開催し、報告稿を討論した。起草組は討論の意見に基づき修正を行い、温総理の決裁を受けて党中央政治局常務委員会に審議を提案した。
1月12日 胡錦涛総書記は中央政治局常務会議を開催し、報告稿を審議した。起草組は討論の精神に基づき修正を行い、報告請求意見稿を作成した。
1月20日 国務院第8次全体会議は報告請求意見稿を討論・決定し、各省(区・市)及び中央党政関係151部門に発出し、意見を徴求した。
2月7日 温総理が国務院小礼堂で、経済社会領域専門家・学者座談会を開催。この後、企業界人士・基層幹部・労働者・農民代表による座談会、教育・科学技術・文化・衛生・他スポーツ界の代表による座談会、各民主党派・全国工商連合責任者・無党派人士による座談会を相次いで開催した。
これらの意見に基づき、起草組は報告を320箇所修正し、比較的重要な修正は40箇所余りであった。
2月21日 胡総書記は党中央政治局会議を開催し、政府活動報告を討論した。
3月5日 温総理は全人代に対して政府活動報告を行った。
代表の意見・建議に基づき、起草組は報告を17箇所修正し、比較的重要なものは8箇所であった。
3月14日 政府活動報告は全人代で承認された。
まとめ
今回の政府活動報告について、留意点をいくつか指摘しておきたい。
(1)主要目標に省エネが追加されている。
これは、第11次5ヵ年計画にエネルギー消費低減目標が盛り込まれたことを反映するものである。逆に、2006年報告は「価格の全般的水準の基本的安定を維持」という記述が無くなっている。これは、現在の物価の安定を背景に、国家発展・改革委が、現在低く抑えられている電力・水等の公共料金を適正化するとともに、財政部が消費税等の税率・課税対象を調整することにより、資源・エネルギー・水の浪費を防ごうとしていることの反映と考えられる。
(2)内需拡大が強調され、この関係で消費拡大が重点施策となっている。
これは、2005年に諸外国との経済摩擦が激化したことの反映であろう。通常であれば、内需拡大の手段としては政府投資の拡大が選択されるが、現在投資はなお反動増の可能性を残しており、内需拡大は消費に頼らざるを得ない。このためには、8億の農村消費の拡大が不可欠であり、農民の所得増が必要となるのである。
(3)「三農」工作から社会主義新農村建設に表題が改められた。
これは、第11次5ヵ年計画において、社会主義新農村建設が大きな目玉となったことの反映である。中心は、財政資金の農業・農村への傾斜配分であるが、併せて農業税・費用改革の成果を定着させるため、郷鎮機構、農村義務教育、県・郷財政管理体制改革が盛り込まれている。
(4)生産能力過剰が顕在化している。
2003年以降の投資過熱による生産能力の過剰が顕在化しており、この調整が2006年の産業政策の大きな課題となっている。潜在的な不良債権も拡大していると見られる。
(5)自主的な創造・革新能力の増強が強調されている。
産業構造の高度化と科学技術・教育による興国戦略の双方で強調されており、「創新型国家の建設」というフレーズも見られる。資源・エネルギー・環境といった持続的成長の制約条件を克服し、賃金の上昇傾向のなかで国際競争力を長期的に維持するためには、科学技術の進歩を加速し、自前の技術を創造していくことが不可欠なのである。
(6)改革が再強調されている。
「改革開放は中国の命運を決定する重大な政策決定である。現在、改革は正に堅塁攻略の段階にあり、更に強い決意をもって各種改革の推進を加速しなければならない。2006年は全局に関わる重大な体制改革で新たな進展を勝ち取らなければならない」とする。これは2004年以来続いていた改革継続の是非をめぐる大論争に決着をつけるものである。
また、国有商業銀行の株式制改革において、国家の絶対株支配の堅持を強調しているが、これも「国有商業銀行に外資を参入させることは国有銀行を外国に売り渡すこと」という批判を意識したものであろう。
(7)就業・社会保障・医療衛生が重視されている。
大衆の切実な利益に関わる問題の解決に重点が置かれている。これは、農民による集団的抗議行動の頻発等社会の安定が次第に悪化するなかで、大衆の不満をできるだけ緩和しようとする指導部の苦心の表れであろう。
(2006年3月記・11,413字)
財務省財務総合政策研究所客員研究員 田中修
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