<労務・人材>
日系企業社員の告発状を読む(3)
田中則明
現在、新しい法律「労働契約法」をめぐって、中国は、かなり騒然として来ております。ギクシャクして来ています。どこで、誰が、ギクシャクしているかと言いますと、新しい法律を発布しようと広く意見を聞いている中国政府とアメリカ、EU、日本などの外資企業の間で、ギクシャクした状況が起きています。
元々からある、お互いが置かれた境遇、利害関係、価値観などの違いが、この法律制定を機に鮮明になったに過ぎないとも言えるのですが、なかなか溝を埋めることは容易ではないと思われます。恐らく、年内ギリギリまで、激しい攻防戦が繰り広げられることになるに違いありません。
では、その詳しい状況は、このシリーズが終わってから、ご報告したいと思っています。
その草案の中に次のような条文があります。
「第49条:いかなる組織或いは個人も本法に違反する行為に対して摘発通報する権利を有する。県レベル以上の人民政府労働保障主管部門は、タイムリーに事実確認を行い、処理し、摘発通報に手柄のあった者には報奨金を与えなければならない。」
(私が「摘発通報」と訳した部分は原文では“挙報”、「報奨金」は“奨励”となっています。ですから、もしかしたら、報奨金は、
お金とは限らず物であるかも知れません。)
中国では、こういった条文は珍しくないようです。
さて、本題の企業内告発の続きを見てみましょう。今回は、6.〜10.です。
6.2000年−2001年、A総経理は、社員Cのボーナスを不当に削った。そのため、Cは会社を辞め、会社は◎◎労働監察隊より取調べを受ける羽目になった。この事件が社内に与えた影響は極めて大きく、2001年以降大量の優秀な開発者が会社を去った。D、E、F、G、H、I、J、K、L等が皆辞めてしまった。それにより、会社の開発力は目に見えて落ち、会社に甚大な被害がもたらされた。
7.2002年−2003年、女子社員Mが出勤途中で交通事故に遭い、重症を負い、一年間入院した。中国の労働法の規定に照らせば、入院中の基本給与は払われるべきであるが、A総経理はそうせず、その殆どを支払わなかった。また、その社員に対して入院証明を与えることも拒んだ。これにより、Mは会社を辞めることになり、このことが社員全体に極めて悪い印象を与えた。
8.2004年、女子社員Nが実家に帰りお産をすることになった。法律によれば、この期間4ヶ月間の基本給与は支払われるべきであったが、支払われず、彼女も会社を辞めた。この事件は、会社の女性社員に心理的動揺を与えた。
9.A総経理は営業人員に圧力を掛け、客先との販売価格などを勝手に変更してしまい、客先が大いに不満を抱く結果となり、会社が持っている顧客をみすみす競争相手に渡してしまった。O社、
P社、Q社、R社、・・・・等等である。
10.仕事の緊急度に係り無く、女性社員を遅くまで残業させ、夜道を帰宅させた。中には、強盗に襲われた者もいた。女性社員は不安で仕方が無い。(続く)
(2005年6月記・1,221字)
心弦社代表 田中則明