こんにちわ、ゲストさん

ログイン

繰り返される投資過熱

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

無料

2006年8月8日

<政治・政策>

 

繰り返される投資過熱

田中修

 

1.投資過熱の再来

 200616月期の統計速報では、GDP成長率は10.9%(46月期では11.3%)、固定資産投資は29.8%増(都市部では31.3%増)と2004年以来の高い伸びとなった。また、6月末のM218.43%の伸びであり、金融機関の貸出は15.24%増、新規貸出は2.18兆元であり、年間目標2.5兆元の87%に達している。

 特に新規着工プロジェクトが9.9万件(前年同期比1.83万件、額では22.2%増)であり、6月だけでも3.14万件に及ぶ。60余りの業種のうち、36の業種は投資の伸びが40%を超過しており、生産能力過剰業種においても投資衝動が依然強い。8省の新規着工プロジェクトの計画投資額の伸びは50%を超えている。関係部門が一部地域において億元以上の規模の新規着工投資を調査した結果では、約40%のプロジェクトで、土地徴用、環境評価、審査手順等の面で違法な建設問題が見つかっている。一部の地方では、中央の土地・融資規制を真剣に実施せず、地方政府は自ら違法に土地を使用し、銀行は生産能力過剰業種に盲目的に融資を行うことで、国家の業種別計画・産業政策・市場参入基準に不適合な建設プロジェクトの始動を支援ないし黙認していると指摘されているのである(新華社特約評論員論文2006726日)。

 このような状況から、国家発展・改革委員会経済運営発展研究室の王小広主任は、「中国は明らかな投資過熱が既に出現した。この投資過熱は全面的であり、大多数の業種の投資の伸びが速い」と判断している(新華網北京2006718日)。

 また、政府は第115ヵ年計画の目標(5年間で20%の省エネを実現)に基づき2006年のエネルギー消費を4%前後削減する目標を立てていたが、投資の急激な伸びによりエネルギー消費の伸びは成長率を上回り(新華社特約評論員論文2006726日)、GDP当たりエネルギー消費は減少するどころか、0.8%上昇した。このため、第115ヵ年計画は初年度から大きく躓く状況となっている(国際金融報200682日)。

 

2.投資過熱の要因

このように繰り返される投資過熱については、次の要因を指摘することができよう。

(1)投資過熱には5年の政治サイクルが存在する。

 中国では西暦の末尾に3か8がつく年に投資過熱が発生すると言われている。確かに、過去5回の投資過熱にはいずれも3か8のつく年が含まれていることが分かる。

 これは、中国独特の人事システム・政治業績評価システムと関係している。通常党大会は5年に1回開催されるが、これは2か7のつく年の秋である。このとき総書記・政治局常務委員等党中央の幹部が選出されるが、これに連動し地方の党幹部の人事異動も行われる。翌年(即ち3か8の年)の3月に開催される全人代では、国家主席・総理等中央政府の幹部が選出されるが、これに連動し地方政府幹部の人事異動も行われる。

最近地方の割拠主義を是正するため、地方のトップに中央から人材が派遣され、5年間の業績により再び中央に戻り更に昇進する人事システムが行われているが、このときの政治業績の評価基準は、計画経済の影響を残し、当該地域のGDP成長率・生産額の伸び・税収の増などが重視されている。このため、地方政府は常に経済成長目標を中央政府より高めに設定し、実績においても地方の公表する成長率の殆どが国全体の成長率を凌駕する事態が発生している。

 また、地域のGDPを高めるのに最も手っ取り早い方法は大規模な投資を行うことであり、このため中央・地方の人事異動が一段落する3と8の年に新規プロジェクトが一斉に着工されるのである。この際、党中央の新指導部が打ち出した改革開放政策の推進が、着工の口実として利用されることになる。このようなプロジェクトを中央は「政績工程」(政治業績プロジェクト)「形象工程」(イメージ作りのプロジェクト)と呼び批判しているが、この傾向は一向に改まっていない。

 現在の胡錦涛指導部は2007年の党大会に向け足場固めを急いでおり、2006年に至り地方政府の指導者の入れ替えを進めている。これが2006年に投資が再過熱した一因となっている。

(2)投資過熱は地方財政の不備と関連する。

 中国の地方財政制度は省レベルまでは整備されているが、県以下の財源分配の仕組みは確立されていない。他方で、義務教育等国民に密接に関係する公共サービスはむしろ下級政府の仕事とされており、にもかかわらず事務に見合う財源が確保されておらず、下級政府の財政が逼迫している。

 このため、下級政府は財源確保の手段として、農民から土地をタダ同然で徴収し、これを不動産開発業者に高値で売却している。また、中国の付加価値税である増値税は機械設備の購入にも課税されるため、政府は行政指導により企業に大型設備投資をさせることで税収をあげることができる。このような地方政府の財源確保の行為が、結果として投資過熱を助長することになっているのである。

(3)投資過熱は金融機関の融資態度とも関連する

 投資過熱は、金融機関の融資態度によるところも大きい。国家発展・改革委によれば、国内不動産融資は15月連続で40%を超える伸びを示しているのである(中国経済時報2006717日)。

 6月末の全金融機関の人民元預金残高は31.85兆元であるのに対し、貸出残高は21.53兆元に過ぎない。10兆元のギャップが存在するのである。金融機関は増加の一途をたどる預金の運用に苦慮しており、結果的に地方政府が主導する大型開発プロジェクトに傾きがちとなる。また、不動産融資は中長期貸出となるためすぐには不良債権が顕在化せず、不動産融資の拡大は一時的に不良債権比率を引き下げる効果もある。

(4)政府の曖昧な姿勢も投資過熱を抑えきれない要因である

 2004年に中央は投資引締めを本格化したが、直ちに地方政府の面従腹背に遭い、上海市党委の陳良宇書記に至っては公然と温家宝総理を批判した。しかし、中央はこれに断固たる処分を行うことができず、本稿執筆時点では陳書記はいまだ上海に君臨している。

 また、引締めに際しても、政府は「過熱しているのは一部の業種」「保護するものと規制するものを区分して対処する」といった言動を繰り返し、全業種に波及する利上げには慎重であった。また不動産投資についても、バブル崩壊による不良債権の増大を恐れ、伸びの程度を抑制するに止めており、投資規模の徹底見直しを行っているわけではない。

 このような中央の及び腰の態度を地方はちゃんと見てとっており、第115ヵ年計画の初年度である2006年に入ると一斉に新規着工を開始し、既成事実を積み上げようとしているのである。

 

3.中央の対応

(1)人民銀行

 428日に人民銀行貸出基準金利を0.27%引上げるとともに、27日、会議を召集し窓口指導を強化した(613日には窓口指導を更に強化)。

 517日と614日には、それぞれ商業銀行向けに1000億元の手形を発行し、資金を回収した。6月分は、特に5月において貸出の伸びの高かった建設銀行・農業銀行等を重点対象にしており、利率も低いことから懲罰的意味合いが強いと解釈されている(第一財経日報2006614日)。

 616日、預金準備率を75日から0.5ポイント引き上げ、8%(農村信用社は据え置き)とすることを発表した。人民銀行の責任者によれば、これにより1500億元の流動性が凍結されるとしている(中新網2006619日)。

 721日、預金準備率を815日から更に0.5ポイント引き上げ、8.5%(農村信用社は据え置き)とすることを発表した。

(2)胡錦涛総書記

 721日、党外人士座談会を中南海で開催し、下半期の経済政策として、固定資産投資の規模を適切に抑制し、エネルギー多消費・高汚染・生産能力過剰業種の盲目的な拡張を断固として抑制するよう指示した(新華社北京2006724日)。

 728日、河北省唐山市を視察した際、再び固定資産投資の速すぎる伸びを断固として引き下げるよう指示している(新華社2006731日)。

(3)温家宝総理

7月25日、国務院常務会議を開催し、土地に対する規制を適切に強化するよう指示した(新華社北京2006727日)。

 続く726日、全国テレビ電話会議を開催し、固定資産の速すぎる伸びを断固として抑制するよう指示した。具体的措置としては、土地の規制・管理を強化すること、融資の伸びを合理的にコントロールすること、新規着工プロジェクトを全面的に整理することを挙げている。また、不動産についても、引き続き不動産市場のコントロールを強化し、一部の都市の住宅価格の高騰を断固として抑制するよう指示した(人民日報2006727日)。

(4)その他

 既に61日から、建設部、国家発展・改革委、監察部、財政部、国土資源部、人民銀行、国家税務総局、国家統計局、銀行業監督管理委による「住宅供給構造の調整と住宅価格の安定に関する意見」が実施されている。これは、建築面積90

ユーザー登録がお済みの方

Username or E-mail:
パスワード:
パスワードを忘れた方はコチラ

ユーザー登録がお済みでない方

有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。

ユーザー登録のご案内

最近のレポート

ページトップへ