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第三者の不法行為による労災に係る労働者人身傷害賠償紛争

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2006年8月1日

<法務>
 

 

第三者の不法行為による労災に係る
労働者人身傷害賠償紛争

 

 

【事件概要】

 

AB社の従業員である。B社はC社とガラスの取引を行っており、C社がB社にガラスを供給している。20048月にC社がB社の所在地にガラスを運送したが、荷物を降ろしているうちに、C社のトラックに積まれたガラスがそれを固定するL型支柱とともに突然倒れた結果、Aが倒れたガラスに打たれて左足の付け根から切断される怪我を負った。その後、AC社と賠償問題につき合意に達しなかったため、裁判所に提訴した。

 

C社はAの荷卸作業は職務行為であり、その怪我が勤務中に発生しているため、労働災害として扱われるべき事項であるから、その勤務先のB社で労災として処理された後、C社とB社との間で賠償問題を協議すべきだと主張した。また、Aを始めとするB社の従業員がともに荷卸作業に従事していたのであるから、B社にも事故の発生に過失があるといえ、Aの怪我による損害はAB社、C社が共同で負担すべきだと主張した。

 

【判決結果】

 

裁判所はC社がAの人身の権利を侵害したとして、C社にAに対して医療費、欠勤による収入減、介護費用、入院食事費用、身体障害賠償金など合計37万元を賠償するよう命じる判決を下した。

 

【法律分析】

 

1.      第三者の不法行為による労働者人身損害に対する2種の救済方法

 

最高法院の「人身損害賠償事件に適用する法律問題に関する解釈」第12条では、労災保険に参加する義務のある雇用主の労働者に労災事故による人身損害が発生し、これにより労働者或いはその親族が提訴して雇用主に民事賠償を請求する場合、「労災保険条例」の規定により処理される旨を告知すべきであると規定している。雇用主以外の第三者の不法行為により労働者に人身損害が生じ、賠償請求権利者が第三者に民事賠償を請求する場合、裁判所はこれを支持しなければならないことになっている。

 

同条の規定によれば、第三者の不法行為による労働者の人身損害については、労働者に、雇用主に対する労災賠償の請求(労災認定の申請、労災保険の取得)と第三者に対する不法行為による賠償請求という2種の救済手段が用意されている。

 

2.      労災による賠償と不法行為による賠償との関係

 

労災賠償は労災保険福利に、不法行為賠償は不法行為に基くため、両者は異なる法律責任であり、異なる法律により規律されている。従って、救済に当っては労災賠償と不法行為賠償との間にはどちらを先に請求しなければならないかという時間的前後関係は存在しない。従ってAの荷卸作業が職務行為である以上、その勤務先のB社で労災として処理された後、C社、B社間で賠償問題につき協議すべきだというC社の抗弁理由は成り立たない。

 

労災賠償と不法行為賠償とは構成と救済手続きにおいて違いが見られる。

(1)     労災賠償には雇用主の無過失責任が適用される結果、労働者の過失の有無を問わず、労災があった以上、全額賠償しなければならないが、不法行為賠償においては、不法行為者の過失、不法行為と損害との因果関係が必要となる。

(2)     労災紛争は労働争議であるため、「労災保険条例」、「労災認定方法」が適用されるのに対し、不法行為賠償は通常の民事訴訟手続が適用される。

 

本件では、B社が負うのは労災賠償責任であるから、労働紛争処理手続きによらなければならない。C社がAの事故が同時に労働災害でもあるという理由でB社にC社と共同して不法行為賠償責任を負うよう求めることは無理がある。従がって、Aの怪我による損害はAB社、C社が共同で負担すべきだとのC社の主張も成立しない。

 

労働者が不法行為賠償と労災賠償を二重に求めることができるかどうかについては、各国の立法例には主として4つの類型が見られる。

(1)     労災保険により民事損害賠償に替える。

(2)     被害者が労災保険待遇と民事損害賠償をともに受けることができるが、労働者は高額の保険料を納付しなければならない。

(3)     被害者が労災保険待遇と民事損害賠償いずれかを選択できる。

(4)     労災保険賠償で足りない部分につき民事損害賠償をもって補う。つまり差額補充である。

 

被害者が二重補償を受けることができるかどうかは中国の現行法では明らかにされていない。多数派の裁判官、学説は第三者の不法行為賠償と労災賠償制度は法律上互いに抵触しないものとし、労災保険により全ての損害賠償を満たすことができず、第三者の行為が労働者の損害を引き起こしている場合は、被害者は第三者に賠償を請求すると同時に、労災保険による賠償を求めることができるものとしている。

 

3.      第三者過失の認定

 

当時B社の従業員が車上でガラスの荷卸作業を手伝っていたから、損害発生にはB社にも過失があるとのC社の主張をB社は否認した。裁判所はこの事実を確認できないため、挙証責任の原則に従い不利な結果の帰属推定を行うほかなかった。すなわち、ガラスを降ろすことがC社の責任であれば、C社はB社の従業員がガラスを降ろす作業に参加した事実を証明する義務を有する。ガラスを降ろすことがB社の責任であれば、B社は自分の従業員がガラスを降ろす作業に参加しなかった事実を証明する義務を有する。それぞれ証明ができない場合は、挙証失敗による不利な結果を負担する、というものである。

 

裁判所が上海ガラス業界協会に確認した結果、ガラス運送の業界慣習が判明した。それは、被供給者にガラスが輸送されるとき、供給者が車上から荷物を降ろし、被供給者が下で引き取るというものである。また、L型の支柱は普通規格の小さいガラスに使用されるもので、規格の大きいガラスの運送には普通A型の支柱が使用されるべきである。

 

以上に基き、裁判所は、C社は本件における荷卸義務を負っており、C社の従業員による作業が適切でなかった上、規格の大きいガラスの運送にもかかわらずA型の支柱でなくL型の支柱用いた結果、事故を引き起したのであるから、過失が認められ、C社が全部の不法行為賠償責任を負わなければならないとしたわけである。

 

(2006年8月掲載・2,518字)

                           

上海里格法律事務所 所長

安翊青

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