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ログイン2006年8月11日
<金融・貿易>
●「十・五」期間:年間投資額は9倍に拡大
中国の対外直接投資は、改革開放政策の一環として1970年代末から早くもスタートしたが、1990年代末の「走出去」(海外進出)戦略の提出を受けて、目覚しい進展を示し続けている。中国商務省の統計によると、第10次5か年計画(2001〜2005年、以下は「十・五」と略す)期間において、中国の対外直接投資は合計で3000件あまり、中国側の出資額(実行ベース)で170億ドルを超えている(表1)。
「十・五」の初年度である2001年に8億ドル未満だった年間投資額は、2005年には69億ドルへと、約10倍にも膨れ上がった。1970年代末から2005年末までに中国の対外直接投資額(中国側の出資額)は累計で500億ドルとなっているが、うち2001〜2005年の5年間で達成したのは3分の1以上を占めている。
表1 2001〜2005年の中国の対外直接投資の推移
|
新規認可件数(件) |
投資金額(億米ドル) |
2001 |
312 |
7.9 |
2002 |
350(12.2) |
9.8(25.2) |
2003 |
510(45.7) |
28.5(190.0) |
2004 |
829(62.5) |
55.0(93.0) |
2005 |
1067(28.7) |
69.2(25.8) |
注:統計対象に金融類投資が含まない。カッコ内は対前年比伸び率(%)。
資料:商務省『国際貿易』2006年4月期。
「十・五」期間における中国の対外直接投資の発展は、1件あたりの投資規模の拡大にも現れている。商務省によると、2001年に252万ドルだったそれが、2005年には約650万ドルに拡大した。このような変化をもたらした最大の理由は、大型投資案件、なかでも合併・買収(M&A)による投資案件の増加にあるとみられる。
2004年、中国の大手コンピュータメーカーである聯想(レノボ=Lenovo)による米国IBMのパソコン事業の買収や、中国石油天然気(ペトロチャイナ)によるカザフスタンの油田の一部株式の取得、中国海洋石油(CNOOC)によるスペインの石油会社のインドネシアの子会社の買収などがその典型的な例である。
商務省によると、統計開始から2004年末まで中国企業によるM&A金額は累計で36億ドルとなっているが、その半分は「十・五」期間に行なわれたものとみられる。うちレノボによるIBMのPC部門の買収だけで12.5億ドルと全体の35%を占めており、中国石油天然気や中国海洋石油の買収など大型買収(約5億ドル)もあるため、これらの大型買収案件を合わせてこれまでの累計総額の約半分にあたる17.5億ドルに達している。
●民営企業も対外直接投資の担い手に
これまでの中国の対外直接投資の主要な担い手は、中央管轄の国有企業となっていた。商務省の統計によると、2004年末現在の中国の対外直接投資累計額において中央管轄の国有企業は約84%を占めている。しかし、「十・五」期間には投資主体の多様化が進み、有限会社や私営企業など民営企業も頭角を現しつつある。商務省が公布した『2004年度中国対外直接投資統計公報・非金融部分』によると、同年の中国の対外直接投資件数(登録ベース)に占める国有企業のシェアは、前年の43%から35%へと低下し、中央管轄の国有企業のそれは4.2%にとどまっているのに対して、有限会社と私営企業のシェアはそれぞれ30%と12%と、前年より8ポイントと2ポイントほど上昇した(表2)。
表2 中国の対外直接投資の主体別構成(登録件数ベース)
投資主体 |
シェア(%) |
国有企業 |
35 |
集団企業 |
2 |
有限責任会社 |
30 |
株式有限会社 |
10 |
私営企業 |
12 |
外資系企業 |
7 |
その他 |
4 |
注:外資系企業は香港、マカオと台湾企業を含む。
資料:商務省『2004年度中国対外直接投資統計公報・非金融部分』
民営企業のうち、合併・買収(M&A)という進出方式を取っている例もみられる。2004年には民営企業の華立によるフィリップス社のCDMAの研究開発部門の買収や、格林科爾(グリーンクール)によるイギリスの自動車の設計研究部門買収などがそれである。しかし、民営企業、なかでも私営企業の1件あたりの投資規模が小さいため、中国の対外直接投資総額に占める同シェアはまだ低い水準(2004年の私営企業のシェアは1.5%)にとどまっているのが実情である。
● 「十一・五」も「走出去」戦略を重視
2006年3月の全人代が採択した「第11次5か年計画(原文は「規画」)綱要」は、第10次5か年計画と同様、「『走出去』戦略の実施」(第37章の第1節)を計画期間における重要な施策と位置づけていると同時に、「走出去」戦略の内容として、「条件のある企業の対外直接投資と多国籍経営を支援する」ことのほか、以下の内容も加えている。
(1)優位な産業を重点に、企業の逆加工貿易を展開し、製品原産地の多様化を図るように誘導すること。
(2)国際的な合併・買収(M&A)、資本参加、上場、再編成・提携などの方法により、我が国の多国籍企業を育成し、発展させること。
(3)相互補完、平等互恵の原則に基づき、海外での資源共同開発を拡大すること。
(4)企業が海外でのインフラ整備に参加し、工事請負のレベルを高め、労務協力を着実に発展させること。
同「計画綱要」は、また「走出去」戦略の実施にあたり、政府の支援措置として、「海外投資の促進・保障体制を整備し、海外投資の全般的調整、リスク管理と在外国有資産の監督管理を強化する」ことを強調している。これらの方針からみれば、中国政府は今後対外直接投資の拡大を図るだけでなく、投資構造の改善にも取り組んでいくものとみられる。
上記の諸情勢から判断すれば、中国企業の対外直接投資は「十一・五」期間においても拡大基調を維持していくものとみられる。中国社会科学院の予測では、2006〜2010年における中国の対外直接投資額は年平均で80億ドル〜100億ドルになる見込みである。2001〜2005年の間、中国の年間対外直接投資が約9倍にも拡大したことを考えれば、上記の予測値は別に高いものではないといえる。
また国際比較の視点からみれば、中国の対外直接投資規模は先進国及び一部の中進国よりまだ遥かに少ないのが現状である。国連貿易開発会議(UNCTAD)の統計(「2004年世界投資報告」)によると、2003年世界の対外直接投資規模は、フローで6122億ドル、ストックで8兆1969億ドルに達しているが、これに対する中国の比率はそれぞれ0.9%と0.55%にとどまっている(中国の数字として商務省が公布した2004年の数字を利用する場合)。これは、中国の対外直接投資にはまだ大きな余地があることをも示している。
●今年の対外直接投資は100億ドルを超えるか
今年に入ってから、中国政府は新たな促進措置を取っており、うち国家外国為替管理局により制定された「海外投資外貨使用管理政策の一部調整に関する通知」(2006年6月6日公布、同7月1日実施)が特に注目される。同「通知」には二つのポイントがあるが、その一つは海外投資に必要な外貨供与(兌換)限度を撤廃することで、二つ目は国内投資者が海外投資を行なう上で必要な前期費用を海外に送金することを認める(認可が必要)ことである。
これまでに国内投資者が対外投資を行なう場合、国家外国為替管理局による外貨限度額の査定を必要としていたが、2006年7月1日より同限度額が撤廃されたため、国内投資者が必要な外貨供給は十分に保証できるようになったのである。
また対外直接投資、特に合併・買収(M&A)など大型投資を行なう場合、海外の専門業者などによる事前調査が必要不可欠となっているが、以前、このような「前期費用」の海外への送金が認められなかったため、大型対外投資の阻害要因となった場合もあった。この意味で、上記の政策調整は「対外投資政策を完備し、国内投資者が多国籍経営をスムーズに進める」(同「通知」の前書き)上で重要な意義を持っているといえる。
中国政府が「海外投資外貨使用管理政策」の調整に踏み切った背景には、中国の外貨準備の急増と、それに伴う人民元切り上げ圧力の増大がある。貿易黒字の拡大や外国直接投資受け入れの増大により、中国の外貨準備は1990年代前半より増加し続け、2006年3月末には8751億ドルと、日本を抜いて世界一となった(2006年6月末は9411億ドル)。外貨準備削減という意味で、対外直接投資の拡大は人民元切り上げ圧力の緩和につながるものと期待されている。
今年は「十一・五」の初年度にあたるが、中国の対外直接投資も新しい勢いを見せている。商務省によると、今年上半期には中国の対外直接投資(金融類投資を除く中国側の出資額)は64億4000万ドルと、前年同期比65.3%も増加した。このベースでいけば、今年における中国の対外直接投資規模は、史上初めて100億ドルを超える可能性も出ている。
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