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2006年中央経済工作会議のポイント

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

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2006年12月20日

記事概要

 12月5日から7日にかけて、共産党中央・国務院共催により、2007年の経済政策の基本方針を決定する中央経済工作会議(以下「会議」)が北京で開催された。また、12月7日には、人民日報が「科学的発展の新局面を切り開かなければならない」と題する社説(以下「社説」)が発表し、その後も一連の評論員による解説論文を発表している。本稿では、これらのポイントにつき解説することとしたい。

 

 

はじめに

 12月5日から7日にかけて、共産党中央・国務院共催により、2007年の経済政策の基本方針を決定する中央経済工作会議(以下「会議」)が北京で開催された。また、12月7日には、人民日報が「科学的発展の新局面を切り開かなければならない」と題する社説(以下「社説」)が発表し、その後も一連の評論員による解説論文を発表している。本稿では、これらのポイントにつき解説することとしたい。

 

1.            科学的発展観を貫徹実施するための新たな教訓(「6つの必ずなすべきこと」)

 

 会議は、この数年間の経験を総括し、当面経済社会発展の全局が直面している新情勢と結び付け、我々は科学的発展観を全面的に貫徹実施する方面において新たな教訓を得たとする。

(1)良好で速い発展は、科学的発展観を全面的に貫徹実施するうえでの本質的要求であることを深刻に認識しなければならない。

(2)「三農」問題を、経済社会発展の全局において、際立った位置に置かなければならない。

(3)構造改善において、総量の均衡を促進しなければならない。

(4)国際収支の均衡を、マクロ経済の安定のための重要任務としなければならない。

(5)企業の激励メカニズムと規制メカニズムを不断に強化しなければならない。

(6)経済社会の調和のとれた発展を堅持しなければならない。

 そして、「この教訓・認識は、1点に帰結する。即ち、科学的発展観への認識を不断に深化させ、科学的発展観が内包するものを不断に豊富にし、科学的発展観を実施する政策体系を不断に整備し、科学的発展観の新局面を切り開くことに努めなければならない、ということである」とする。

 2005年の会議でも、この5ヵ年の経験で得たマクロ・コントロールと科学的発展観促進のための6つの教訓として、①速く良好な発展、②区別して対応し、分類して指導する、③経済・法律手段の運用に重点を置く、④構造調整の推進と成長方式の転換により総量の均衡を実現する、⑤改革を深化させ、体制メカニズムを整備する、⑥大衆の利益を擁護し、人民の生活水準を高める、ことを堅持するとされていた。

 これを比較してみると、次のことが分かる。

(1)発展のあり方として、「良好」が「速い」ことより重視されるようになった

 これは、今回の会議の最大の留意点である。

(2)「三農」問題が再強調されている

 これは、2006年で農業税が廃止されたため、農民の増収について2007年以降目にみえる成果を挙げることが困難になっているという事情があろう。

(3)国際収支の均衡が強調されている

 これは、人民元レートの上昇にもかかわらず、2006年の貿易黒字が急拡大し、経済摩擦がむしろ深刻化したことが原因であろう。

(4)企業のメカニズム改善が強調されている

 資源・環境・安全生産等についての企業の社会的責任が強調されている。

(5)マクロ・コントロールの加減・手段についての言及がない

 これは、2005年後半にマクロ・コントロールの手を緩めた結果、2006年前半に投資が再過熱し、これを抑えるために伝統的な行政指導が多用されたためであろう。

 

2.            経済社会発展中の問題

 

 2005年は経済発展の矛盾・問題が詳しく述べられていたのに対し、今回は第11次5ヵ年計画の良好なスタートを切ることができたことばかりが強調され、問題点は触れられていない。

しかし、「社説」では経済社会の発展中の際立った矛盾・問題として、次の諸点が挙げられている。

(1)  農業の基礎が依然脆弱である。

(2)  投資の反動増と経済の波動を誘発するリスクが依然存在する。

(3)  経済成長の払う代価が依然大きすぎる。

 これを2005年と比べてみると、農業の脆弱性と経済成長の不健全さが強調されている。2005年は、投資過熱を一応抑え込んだとの認識のもと、次の解決すべき課題を指摘していたのであるが、2006年に投資が再過熱したことにより、問題の所在が2004年のレベルに逆戻りしたのである。

 

3.            2007年の経済政策の総体要求

 

 会議は、「2007年は科学的発展観を深く貫徹し、社会主義の調和のとれた社会建設を積極的に推進する重要な1年である」としたうえで、次の総体要求を挙げている。

「鄧小平理論と『3つの代表』重要思想を指導とし、党の16回大会・3中・4中・5中・6中全会精神を真剣に貫徹する。科学的発展観を全面実施し、社会主義の調和のとれた社会の構築を加速し、マクロ・コントロールを引き続き強化・改善する。経済構造調整と成長方式を転換し、資源節約・環境保護を強化し、改革開放と自主的な創造・革新を推進し、社会発展を促進し民生問題を解決することに力を入れる。経済社会の発展を適切に科学的発展の軌道に切り換えることを推進し、国民経済の良好で速い発展の実現に努め、17回党大会開催のために良好な環境を創造する」

 この総体要求は、次の3つの協調の実現に努力し、真に良好で速い発展を成し遂げることであるとする。

(1)速度・質・効率の協調

(2)消費・投資・輸出の協調

(3)人口・資源・環境の協調

 

4. 2007年の経済政策の主要任務

 

(1)マクロ・コントロールの強化・改善を堅持し、経済発展の良好な勢いを維持・拡大する

Aマクロ経済政策の連続性・安定性を維持しなければならない

 「コントロールの政策措置を更に実施し、かつ経済運営上の新たな発展の変化に基づき、適時適度に予備的調整・微調整を行い、社会の予期を主体的に誘導し、経済の平穏でかなり速い発展を確保する」としている。

B消費・内需・外需の関係を正確に処理しなければならない

 最も根本は国内の消費需要を拡大することであるとし、当面の政策の力点は投資の伸びを合理的に抑制し、投資構造の改善に努めることであるとする。

 消費については、「農民の消費に重点を置き、国民所得分配構造の調整を加速し、農民と都市低所得者の所得水準と消費能力を高めることに努める」としている。

 また対外摩擦に配慮し、輸出と外資利用の合理的な伸びの維持、輸入の積極的拡大、積極かつ秩序立った対外投資・協力の拡大にも言及している。

C穏健な財政・金融政策を引き続き実施しなければならない

 重点領域と脆弱な部分への支援を強めるとともに、金融政策については、「多くの手段を総合的に運用し、流動性の管理を強化し、貸出を合理的に抑制し、貸出構造の改善に努める」としている。

D不動産市場の合理的な誘導と有効なコントロールの強化に注意を払わねばならない

E財政政策・金融政策・産業政策・土地政策・社会発展政策の協調的組み合わせを強化しなければならない

 また、「経済・法律・必要な行政手段を総合的に運用し、マクロ・コントロールの科学性・有効性を高める」とする。2006年の投資再過熱により、各種政策の集中的発動の効果が認識されるとともに、いざというときの行政手段の発動の必要性が見直されたのである。

F政策の実施において懸命に努力し、中央の各方針・政策の実施を確保しなければならない

(2)農村経済の発展を重点とすることを堅持し、社会主義新農村の建設を着実に推進す

 る

 「『三農』問題をしっかり解決することは、全党活動の重点中の重点であるという戦略思想にいささかも動揺があってはならない」とする。前年も「三農」問題は最重点であったが、今回は語気が強まっている。

 また、「特に当面の経済発展のかなりの速さと財政増収がかない多い時機をしっかり掴み、農業・農村を支援し恩恵をもたらす各種政策を引き続き強固にし、完備し、強化して、『三農』への投入を適切に増加させる」としている。さらに、現代農業の発展を力点とし、農民の素質を全面的に向上させるとともに、農村インフラ建設の強化、農村社会事業の発展加速、農村総合改革を引き続き推進すること等が記載されている。

(3)エネルギー・資源の節約と生態環境保護を切り口とすることを堅持し、産業構造の改善・高度化を積極的に推進する

 「わが国経済は構造が不合理であり、経済成長方式が粗放であり、工業化過程と消費構造の高度化が加速する歴史的段階にあるため、エネルギー・資源の節約と生態環境保護の情勢は十分峻厳であり、省エネ・省資源・汚染物質排出減の任務を完成させることは非常に困難である」と認めつつ、認識を更に統一し、最大の決意により、最大の気力を用いて実際の成果を勝ち取るよう要求している。

 このため、省エネ・省資源・汚染物質排出減の目標を実現するためのカギとなる部分について政府の責任を強化するとしている。

(4)自主的な創造・革新能力の向上を堅持し、創造・革新型国家の建設を加速する

 「国際的な科学技術の進歩とわが国の現代化建設は、共に我々が創造・革新型国家建設に一段と力を入れることを要求している」とする。

(5)地域発展の総体戦略を実施することを堅持し、都市化の健全な発展を推進する

 「東部から中西部地域に産業移転を進めることを奨励し、分業協同を深化させ、更に大きな範囲で資源の適正配置を実現する」とし、第11次5ヵ年計画で提起された主体功能区の計画を推進するとする。具体的には、次の施策が挙げられている。

A西部地域

 引き続き、インフラと生態環境建設を推進する。重点プロジェクトを建設し、科学技術・教育・特色ある産業・重点区域の発展支援に力を入れる。

B東北地方

 食糧総合生産能力建設を強化する。重大装置の研究開発・製造を支援し、装置製造業の振興面でブレイク・スルーを勝ち取る。

C中部地域

 東部地域と境外からの産業移転受け入れを支援する。

D東部地域

 新しいタイプの工業化の道を率先して開拓し、体制メカニズムの刷新を不断に推進し、経済構造の改善・高度化と経済成長方式の転換を加速しなければならない。

E都市化

 都市の総合受容能力の向上を核心とし、農村労働力の秩序立った移転を率先して受け入れる。

F住宅

 健全な低家賃住宅制度を確立し、エコノミー型住宅制度を改善・規範化し、都市低所得の困難を抱えた大衆の住宅条件を不断に改善する。

Gメガロポリス

 メガロポリスについての研究・計画を強化し、大中小都市の協調発展を誘導する。

(6)体制改革の深化を堅持し、科学的発展観実施への体制メカニズムによる保障の形成を加速する

 「科学的発展観を貫徹実施するための健全な体制メカニズムの確立は、今後一時期の改革深化の主要任務である」としたうえで、「経済成長方式の粗放、マクロ経済運営の不安定及び社会の調和に不利益な体制メカニズム上の矛盾について、重点領域とカギとなる部分の改革を着実に推進する」とする。具体的には、次の各項目が列挙されている。

A競争力とコントロール力を高めることを重点に、国有企業改革を深化させる

B政府機能の転換を重点に、行政管理、投資、財政・税制体制等の改革を加速する

C金融企業法人のコーポレート・ガバナンスと金融構造の改善を重点に、金融体制改革を深化させる

D社会の公平を保障するシステムを確立することを目標に、社会領域の体制改革を加速す

 る

 なお、改革の推進プロセスでは、改革が引き起こす利益関係の調整を妥当に処理し、改革の順調な推進を確保しなければならない、としている。改革が複雑な利害調整の局面にさしかかっていることを物語るものである。

(7)相互に利益を与え、「Win-Win」の開放戦略を堅持し、対外開放水準を高める

 「WTO加盟の過渡期が終了したことに伴い、わが国の対外開放は新たな情勢に直面している」とする。そして、国家の経済安全能力を擁護する能力の増強が強調されるとともに、対外貿易の成長方式の速やかな転換、先進技術・先進管理・海外知力の導入に重点をおいた外資利用の質の向上が述べられている。2006年以降、外資政策は一定の修正が図られているのである。

(8)人間本位を堅持し、社会の調和を不断に促進する

 具体的には、次の政策が列挙されている。

A就業の拡大と所得分配施策を適切かつしっかりと行う

 就業については、「就業ゼロの家庭の就業を高度に重視し、大学卒業生の就職指導・サービスを強化する」とする。

 所得分配については、第1次分配における労働報酬比率の引き上げによる低所得者の所得水準の引き上げ、政策の整備による中等所得者の比重の段階的拡大、税収の監督管理強化による高所得者の高すぎる所得の調整、独占業種の所得分配に対する監督管理強化、が挙げられている。

B社会保障体系の建設を加速する

 年金・医療・労災保険の企業への普及、都市の最低生活保障制度の一層の整備が挙げられている。また、上海の汚職事件を踏まえ、社会保険資金の監督管理強化についても記述がある。

C教育・衛生・文化事業の発展を加速する

 教育の公平を積極的に促進し、「公共教育の資源を農村・中西部地域・貧困地域・辺境地区・民族地区に傾斜させる」とし、貧困家庭の子女にも教育機会を与えるとする。

 衛生については、「都市・農村住民をカバーする基本的な衛生保健制度を早急に確立し、公共衛生・医療サービスの体系を整備する」としている。

 文化については、文化事業・文化産業の発展を加速し、多様な形式と合理的な価格による文化サービスを提供するとしている。

D各種犯罪活動に断固として打撃を与え、社会の安定を維持する各種工作を適切にしっかり行う

E安全生産体制メカニズムを整備し、重大・特大事故が頻発する傾向を断固として抑制する。

 

5. その他

 

(1)2007年の経済政策の最重点

「科学的発展観を全面実施し、経済の平穏で速い発展を維持し、大きな起伏の出現を防止すること」であるとする。

(2)2007年の経済政策の目標・任務(4つの必ずなすべきこと)

①政策を安定させ、整備し、実施しなければならない。

②マクロ・コントロールを強化・改善しなければならない。

③中央と地方の2つの積極性を発揮しなければならない。

④改革開放の推進に一層力を入れなければならない。

(3)経済政策の手配に当たっての留意事項

A「三農」問題をしっかり解決することを重点中の重点とする。

B産業構造を調整し、地域の調和のとれた発展を促進する。

C省エネ・省資源、環境保護、土地の効率的使用を重視する。

D経済体制改革を深化させる。

E対外開放の水準を高める。

F社会の調和を促進する。

G行政管理改革と政府自体の建設を推進する。

(4)指導幹部の科学的発展観を貫徹実施するための知識水準・工作能力の引き上げ

 「科学的発展観を貫徹実施することの自覚と強固な意志を不断に増強しなければならない」とし、幹部は次の5点を学習しなければならないとする。

①関連する領域の知識

 知識構造を不断に完備し、業務の質を高めなければならない。

②現代経済の知識

 市場経済を統御する能力を高めなければならない。

③科学技術の知識

 自主的な創造・革新を推進する組織的な指導能力を高めなければならない。

④社会管理の知識

 社会を管理する能力を高めなければならない。

⑤法律知識

 法に基づき処理する能力を高めなければならない。

(5)科学的発展観の意義

 「科学的発展観は、我々が経済建設、政治建設、文化建設、社会建設を推進するうえで、長期に堅持しなければならない根本的な指導方針である」とするとともに、「人間本位を堅持し、人民大衆の積極性・主体性・創造性を十分に発揮させ、人民大衆の根本利益を始終首位に置かなければならない」とする。

(6)2007年の経済政策の各任務を達成するために必要な作風

 次の3つの問題に特に注意を払わなければならない、とする。

A現実を見つめ実務に励むという精神を大いに発揚する

 「各クラス指導幹部は時間・精力を集中し、実際に深く入った調査検討を少しでも多く行い、改革・発展・安定に影響を及ぼす際立った問題をより多く解決し、広範な人民大衆の憂いを除き困難を解決する仕事をより多く行わなければならない」とする。

B勤倹節約の気風を大いに提唱する

 各クラスの党政機関と広範な幹部は、刻苦奮闘と勤倹節約の精神を大いに発揚し、派手好み・浪費、金遣いが荒いこと、拝金主義、享楽主義、贅沢三昧の気風に断固反対する。

C反腐敗・廉潔唱導建設を適切に行う

 腐敗現象が多発しやすい重点領域・分野について、関連法律・制度を整備し、権力運用への制約・監督を強化し、権力を利用して私利を図ることを確実に防止する。

 

まとめ

 

 今回の中央経済工作会議については、以下の特徴が挙げられる。

 

(1)科学的発展観の一層の徹底

 2004年中央経済工作会議に係る人民日報社説は「科学的発展観を用いて経済社会発展の全局を統率せよ」とされ、2005年中央経済工作会議に係る人民日報社説は、「経済社会の発展を科学的発展の軌道に適切に切り換えよ」とされていた。今回の社説も「科学的発展の新局面を切り開かなければならない」とされたことからすると、3年連続科学的発展観を強調していることになる。これは裏を返すと、党の各指導レベルに科学的発展観の趣旨がいかに徹底されていないかを物語るものであろう。これは、2006年前半の投資再過熱発生によっても実証されている。今回の会議に幹部への訓話めいた記述が多いのも、中央の政策理念を容易に理解しようとしない地方指導者への怒りの表れであろう。

 

(2)「速く良好な発展」から「良好で速い発展」へ

 この順番の逆転は、11月30日に開催された党中央政治局会議において既に行われており、同時期に開催された党外人士座談会でも同様の順となっている。

 人民日報2006年12月11日は、「これは我々が経済発展の質と効率を更に重視し、質と効率を更に際立った位置に置くことを表明したものであり、この順序の変化には深刻な意義が包含されており、科学的発展観の本質的要求に対する認識の変化であり、わが国経済社会の発展に対する認識の変化であり、新段階における経済の発展規律に対する認識の変化である」と解説している。

 科学的発展観がいつまでも幹部に浸透せず、依然粗放型成長が続いているため、発展の速度より質・効率を重んじる旨を明確にし、幹部の意識改革を促したのであろう。

 

(3)「三農」の再強調

 人民日報2006年12月12日は、「農業が豊作を持続し、経済情勢がかなり良い状況下で、農業とりわけ食糧生産を疎かにする傾向が現れた」と指摘し、「歴史経験が表明することは、農業の発展は国民経済の全局に関わるものであり、農業を軽視すると往々にして経済全体で問題が発生するということである。現代化を推進するプロセスにおいて、農業の比重が徐々に下降することは客観的規律であるが、農業の地位・役割はいささかも低下しない。むしろ更に重要となるのである」とする。

そして、「三農」については、農民の収益減少による積極性へのマイナス影響、農業の基礎が脆弱で抗災能力が強くないため農民増収の難度が増しているという問題があり、「我々は危機感を強め、大局意識を増強しなければならない」とする。農業税廃止と農産物価格の安定によって「三農」問題は一段落というやや弛緩した空気が出始めているのであろう。

なお、新華社北京電2006年12月10日は、今回の会議では新農村建設について、次の4つの観点が強調されているとする。

A現代農業の発展が、依然新農村建設の力点である

 現代農業の発展のためには、技術・物質装備・人材が重要だとする。

B農民の素質向上が、新農村建設の重要内容である

 科学技術・経営管理に重点を置いた農村青年への指導、今後10年内に農村において100万人の高卒・専門学校卒の学歴をもつ人材の育成、労働力移転のための訓練実施範囲の拡大が挙げられる。

C農村インフラ建設を強化し、社会事業の発展を加速する

 農村における社会保障制度建設を加速し、国家財政の事業経費の新たな増加分を農村の教育・衛生・文化・計画生育に振り向ける。

D農村総合改革を引き続き推進する

 郷鎮機構、農村義務教育、県・郷財政管理体制改革を推進する。

 

(4)均衡・協調の重視

 冒頭の「6つの必ずなすべきこと」と「3つの協調」に見られるように、今回の会議では均衡・協調が重視されている。

 人民日報2006年12月13日は、「わが国の経済運営中、最も際立った総量の矛盾は、投資の伸びが速すぎること、貸出が多すぎること、貿易黒字が大きすぎることであるが、これは事実上経済構造が不合理であることの反映であり、総量の矛盾の根源は構造にある」と指摘する。そして、経済の構造の不合理としては、投資と消費の関係の不協調、1次・2次・3次産業の比例の不合理、都市・農村の間、地域間の発展の不均衡を挙げ、「構造改善により総量均衡を促進するうえで、緊急課題は、投資と消費の関係、内需と外需の関係を正確に処理することである。この2つの関係の処理において、最も根本は国内の消費需要を拡大することである」としている。

 2006年1-9月期において、最終消費がGDPに占める比重は51.1%であり、1980年代の62%より大幅に低下している。また、経済成長への投資の貢献度は49.9%であるのに対し、消費は35.7%にすぎない(新華社北京電2006年12月10日)。このため、人民銀行の蘇寧副行長は「現在の最終消費がGDPに占める比重は、歴史的に最低水準である。経済成長は投資に過度に依存しており、国内消費需要の相対的不足は激化している」と指摘している(第一財経日報2006年12月14日)。この消費の不足が一部業種の生産能力を過剰にし、国際市場に出路を探すほかなくなり、国際収支のアンバランス・矛盾を更に突出させているのである(人民日報2006年12月13日)。

 また、1-9月期の第2次産業のGDPに占める比重は49.8%で前年同期比1.2ポイント増となっているのに対し、第3次産業は39.2%で0.6ポイント低下している。このため、中国の産業構造はますます資源多消費、汚染物質多量排出型になっているのである(第一財経日報2006年12月14日)。

 このような経済構造の不合理を解決しない限り、科学的発展観の貫徹実施は到底おぼつかない。

 さらに、今回の会議では「6つの必ずなすべきこと」に、「経済社会の調和ある発展(中国語では『協調発展』)を掲げている。この点、人民日報2006年12月16日は、「歴史の経験が表明していることは、経済発展と社会の富の増加によっては、決して社会の調和を自然に実現することはできない。もし我々が経済成長のみ配慮し、社会発展を軽視するならば、経済と社会の発展の不均衡という矛盾が加重されるだけでなく、最終的には経済発展も継続困難となるのである」と指摘している。

党6中全会で社会主義の調和のとれた社会の内容が確定したことにより、社会の公平をより重視し、社会の発展を加速し、社会の調和を促進することが経済発展と並ぶ大きな柱となった。しかし、前掲人民日報12月16日は「大衆の需要を満足させることと政府の財政力が可能であるかということの関係を妥当に処理しなければならない」とも述べており、調和社会の実現にはかなりの財政負担が伴うことを示唆している。

 

(5)国際収支の均衡

 人民日報2006年12月14日は「現在、わが国の国際収支の均衡に影響を及ぼしている主要な矛盾は、過去の外貨不足から、貿易黒字の過大・外貨準備の伸びが速すぎる状況に転換した」とし、「貿易黒字の過大と外貨準備の伸びが速すぎることは、国内資金を過度に潤沢にし、過度な投資を刺激するとともに資産価格の上昇を招いており、金融政策は難題に直面している。これがこのまま長期化すれば、国民経済の持続的かつ健全な発展に不利な影響を作り上げることになる」と指摘する。このため科学的発展観を貫徹実施するためにも、国際収支の均衡がマクロ・コントロールの重要任務とされたのである。

 このように国際収支の均衡が強調されたもう1つの背景としては、12月14日から米中戦略対話が予定されていたこともあろう。これには、ポールソン財務長官、バーナンキFRB議長、シュワブ通商代表、グティエレス商務長官等が出席し、人民元の切り上げ加速を要求するものとみられた(事実、米側から人民元レート改革の強い要求があった)。この圧力をやわらげるためにも、国際収支の均衡に取り組むことを強調する必要があったのである。

 

(6)企業の社会的責任の強調

 人民日報2006年12月15日は、「現在、企業が外部への影響と社会的責任を軽視する現象が現われており、重要な点は激励と規制のメカニズムが不健全であるということである。現在の価格形成メカニズムは資源の欠乏の程度と環境の代償を真正に反映しておらず、税収による調節作用も不十分である。資源財産権、資源消耗、汚染排出、安全生産等の方面で法規がまだ不健全で、信用体系が不完全、政府の指導が不十分であり、外部監督管理が実行されていない」と指摘し、土地・エネルギー・水資源等重要資源産品の価格形成メカニズム、省エネ・省資源・環境保護のための税制、健全な資源財産権の整備するとともに、法に基づく企業への監督管理の強化、問責制度の必要を説いている。

 

(7)問題点の糊塗

 これまでの会議は、経済政策の成果を強調しつつも、経済社会の問題点を正直に語っていた。しかし、今回は自画自賛ばかりが目立ち、問題点が明らかにされていない。他方、社説や人民日報評論員論文では、経済構造の矛盾が深刻に語られているのである。

 中国の場合、過度に自画自賛の文章が表れるときは裏で深刻な問題が発生していることが多い。2006年度の政策の目玉であったGDP単位当たりエネルギー消費4%削減は、投資再過熱により達成できなかったものとみられ、主要汚染物質の排出量は減少どころか増加した。また、銀行の貸出増も抑制目標2.5兆元を大きく上回り1-11月期では2.96兆元であり、全年では3兆元を超えるとみられている(中国新聞網2006年12月15日)。

 このように年度前半までマクロ・コントロールがうまくいかなかったため、温家宝総理の指導力に疑問符がつくことになった。この状況は、9月から始まった中央・地方指導者の粛清強化によりやや緩和されたものの、指導部の経済運営に対する自信はまだ完全に回復していないのであろう。それが今回の必要以上の強気な表現になったものと思われる。(12月18日記・10,969字)

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