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2007年温家宝総理内外記者会見

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

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2007年3月20日

記事概要

 2007年3月16日、温家宝総理は任期最後の記者会見を行った。ここでは、経済部分を中心にその概要を紹介することとしたい。

 

はじめに

 

 2007年3月16日、温家宝総理は任期最後の記者会見を行った。ここでは、経済部分を中心にその概要を紹介することとしたい。

 

1.経済の問題

 

 私の脳裏は憂患で充満している。

 中国経済には巨大な問題が存在する。即ち依然として、不安定、不均衡、不協調、持続不可能な構造的問題が存在する。

 「不安定」とは、投資の伸び率が高すぎ、貸出が多すぎ、マネーの流動性が大きすぎ、対外貿易と国際収支が不均衡なことである。

 「不均衡」とは、都市・農村の間、地域の間、経済・社会の発展の間が不均衡なことである。

 「不協調」とは、投資と消費の間が不協調であり、経済成長が過度に投資と輸出に依存していることである。

 「持続不可能」とは、我々が省エネ・省資源・生態環境問題をまだうまく解決できないことである。

 これらの問題は、いずれもわれわれが直面している、解決を要する緊迫した問題であり、長期にわたり努力を要する問題である。

 私は、平穏でかなり速い発展を維持できる条件は具備していると思う。最も重要なことは、我々がかなり長期の間平和な環境を勝ち取り、経済発展に集中することができるということである。

 第2に、我々は潜在力が大きい国内市場の需要を有している。しかし、これがうまくいくかどうかは、我々の政策と対応能力にかかっている。今後我々は引き続き内需拡大、とりわけ消費需要の拡大を推進する。改革開放を推進し、体制・メカニズム上の障害を除去する。知識・技術のイノベーションを推進し、経済成長を堅実な基礎のうえに確立する。省エネ・省資源・汚染物質排出減を推進し、中国の発展が持続可能性を維持できるようにする。この任務を実現することは十分困難ではあるが、我々は確信をもっている。

 

2.中国の株式市場について

 

 我々の目標は、成熟した資本市場を確立することである。このためには、第1に上場会社の質を高めなければならない。第2に、公開・公正・透明な市場体系を確立しなければならない。第3に、資本市場の監督管理を強化し、特に法制を整備しなければならない。最後に、株式市場の状況の情報をタイムリーに公開し、株主のリスク防止の意識を増強しなければならない。

 

3.外貨投資会社の設立について

 

 中国は外貨準備の多元化を実行する。これは、外貨の安全への配慮に基づくものである。我々は外貨投資機関を設立する。この機関はいかなる部門からも超越しており、国家の法律に基づき、外貨を経営し、有償で外貨を使用し、監督管理を受け、外貨の価値を維持・増加させる[1]

 中国の対外投資の時間はまだ短く、経験はかなり不足している。私が最近調べた資料では、現在金融以外の対外投資は2005年末でわずか733億ドルであり、2006年の1年で160億ドル増加した。これは先進国に比べ、微々たるものである。

 この外貨投資会社が設立されることによって、ドル資産が影響を受けることはあり得ない。中国の外貨準備のうち、ドル資産が多数を占めていることは事実である。中国がドル資産を購買することは相互に利益のあることであり、中国が外貨準備の投資会社を設立してもドル資産には影響しない。

 

4.民生問題について

 

  我々の改革と建設の最終目的は、人民の日増しに増大する物質・文化上の需要を満足させることであり、これには民生問題を解決しなければならない。民生問題は人々の衣食住を良くすることに関わるものであるが、当面最重要なものは、教育機会の平等の促進、積極的な就業政策の実施、所得分配格差の段階的縮小、都市・農村をカバーする社会保障体系の確立である。

 民生問題の解決は、第1に制度的保障がなければならない。我々が農業税・農業特産税を免除したのは立法によってであり、9年間の義務教育の費用免除を実行したのも立法によってである。我々は都市・農村の医療衛生改革案を起草しており、最終的には制度を確立しなければならない。制度があれば、容易に改変することができず、政府の代替わりや指導者の交替によって変化が生ずることもなくなる。

 民生問題を解決するには、まず生活困難な群集に着眼しなければならない。なぜなら、中国の都市・農村には、生活困難な群集が相当大きな比重を占めており、とりわけ農民には多い。1つの艦隊の速度を決定するのは航行速度が最も速い船ではなく、最も遅い船である。我々が生活困難な群集の生活状況を改善することは、即ち社会全体の生活状況を改善することなのである。

 民生問題を解決するには、さらに人民の生活を楽しく幸福にしなければならない。これには、人民の民主的権利を保障し、社会において公平正義を推進しなければならない。

 

5.対日関係

 

 もし安倍首相の昨年10月の中国訪問が「氷を砕く旅」であったとすれば、私は4月の日本訪問を「氷を融かす旅」としたい。私は安倍首相と、日中が戦略的互恵関係を確立することの内容につき共通認識に達し、両国の経済協力メカニズムを確立し、科学教育の交流と人員の往来、とりわけ青少年の往来を促進することになろう。私は中日の間で、長期に安定し健全に発展する友好協力の枠組みを構築したい。

 我々は既に何度も、日本の公民が拉致されたことに対して同情と理解を示してきた。しかし、これは日本と北朝鮮の問題であり、私は日朝が交流・交渉を通じてこの問題を順調に解決できることを希望している。

 

6.香港について

 

 香港の金融センターとしての地位、水運センターとしての地位、貿易センターとしての地位はその他の地域と代替不可能なものである。

 

7.温室ガス排出について

 

   我々は京都議定書に賛成する。我々は発展途上国であるが、温室ガス排出についての国際公約に基づき、中国としての気候変化への対応策を制定した。我々は2006-2010年にGDP単位当たりエネルギー消費を20%減少させることを提起した。京都議定書は発展途上国に対して執行しなければならない指標を規定していないが、中国は世界に対して責任を負うという態度に基づき、自己の果たすべき国際義務を真剣に履行する。

 

8.腐敗現象について

 

 市場経済の発展につれて、腐敗現象が絶え間なく発生し、かつ益々ひどくなっており、甚だしきは高級指導者にまで及んでいることを認めなければならない。

 この問題を解決するには、まず制度から着手しなければならない。腐敗を造成する原因は多方面であるが、そのうち最も重要な点は、権力が過度に集中し、有効な制約・監督を受けていないことである。これには制度改革が必要であり、我々が既に制定した行政許可法を貫徹し、許認可事項を減少しなければならない。政府部門が大量の行政資源と権力を掌握すれば、権力と金銭の裏取引が行われ、権力をもって私利をはかり、官商と結託する腐敗現象が容易に発生するのである。

 第2に、政治体制改革を推進し、権力の過度な集中現象を減少させ、人民の政府に対する監督を強化しなければならない。今後あらゆる許認可事項とりわけ人民大衆の利益に関わるものは、全て公開・公正・透明を実行しなければならない。

 第3に、教育と懲罰を共に掲げる方針を実行し、幹部1人1人に、水[2]は舟を運ぶことができるが、舟を転覆させることもできることを分からせなければならない。汚職腐敗分子に対しては、どの領域で発生しようが、誰が関与していようが、その人物の職務がどれほど高かろうが、全て法に基づき厳正に懲罰処分しなければならない[3]

 

9.社会主義民主とは何か[4]

 

  社会主義民主とは、結局のところ人民を家の主とすることであり、このためには人民に民主的な選挙、民主的な政策決定、民主的な管理・監督を行う権利を保証する必要がある。即ち、一定の条件[5]を創造したうえで人民に政府を監督・批判させ、平等・公正・自由な環境の下、1人1人が全面的に発展できるようにし、人の創造的精神と独立した思惟能力を十分に発揮させなければならない。

 我々の社会主義建設は、社会主義政治建設・民主建設を含め、経験がなお不足している。我々は開放政策を実行し、世界の全ての先進的な文明の成果を学習し、我々自身の実際と結びつけ、中国の民主の道を歩むことを望んでいる。

 我々の社会主義が未熟から成熟、不完全から完全、未発達から発達に達するには、なお長いプロセスを必要とする。この段階において、我々は2つの任務を実現し、2つの改革を推進しなければならない。

 2つの任務とは、1つは精力を集中し社会の生産力を発展させることであり、2つ目は社会の公平・正義を推進することである。とりわけ、正義は社会主義制度の最も重要な価値である。

 2つの改革とは、1つは市場化を目標とした経済体制改革を推進することであり、2つ目は民主政治の発展を目標とする政治体制改革である。

 民主制度は、いかなる真理とも同様に、実践による試練を受けなければならない。いかなる地域・国家も民主制度の状況・優劣は実践を基準としなければならない。

 

10.国防

 

 中国が最近実施した宇宙実験は、いかなる国家を対象としたものでもなく、いかなる国家にも脅威を与えるものではないし、国際関連条約にも違反していない。中国は宇宙の平和利用を主張し、宇宙における軍備競争に反対する。私はここで重ねて強調しておきたいが、中国の宇宙平和利用の立場は不変である。また私は、国際上の関係国家が宇宙の平和利用に関する文書にできるだけ早く署名することを呼びかける。

 「中国の軍事費が不透明である」「中国の宇宙実験は、中国の平和発展の道と相反する」「中国は世界にとって脅威か否か」、これらの問題は今回の政協会議・全人代が開始されてから、一部の記者によって不断に提出されてきた。これについて、2点答えたい[6]

 第1に、中国は13億の人口を擁し、960万平方キロの土地を有する国家である。陸地の境界だけで2万2000キロ、海洋の境界が1万8000キロに達する。我々の軍隊・軍事費用は、絶対数量さらには比率からしても、世界上いずれも後順位であり、先進国はいうまでもなく、一部の発展途上国も我々を超えている。

 第2に、近代、即ち1840年のアヘン戦争以来、中国は帝国主義列強の侵略・圧迫に遭遇した。わが民族は、奴隷のようにこき使われることや侵略のもたらす苦痛を熟知している。我々が和平発展の道を歩むことを堅持するのは、誠実なものである。我々が実行するのは防衛的な国防政策であり、我々の有限な軍事力は完全に祖国の安全・独立・主権を擁護するためのものである。この問題については、我々は完全に透明である。

 

11.その他

 

  我々は、台湾の分裂勢力が「台湾独立」の道の上に採用する種々の行動と彼らの分裂のたくらみに密接に注意を払っている。我々は、台湾が古来から中国の不可分の領土の一部分であるという歴史的事実と、国際的に公認された法律地位を改変することを、絶対に許さない。大陸の同胞は、台湾に旅行することを長らく待ち望んでいる。準備には多くの日が費やされており、我々は早期にこの願望が実現されることを希望する。

 我々は、ダライ・ラマがチベットは中国の不可分の領土の一部分であることと、台湾が中国の不可分の領土の一部分であることを承認し、分裂活動を放棄しさえすれば、彼個人の前途の問題について彼と協議・対話してもよい。大きな門は常に開かれている。

(3月16日記 4,614字)


 


[1] この設立準備責任者には、国務院副秘書長の楼継偉(前財政部副部長)が就任し、すでに3月15日、財政部、中央銀行、銀行業監督管理委、証券監督管理委、保険監督管理委など10余りの部門の責任者が参加して第1回準備会議が開かれている(2007年3月16日中国証券法)。
[2] 中国語で「水」には、よからぬこと、あぶく銭、てら銭といった意味もある。
[3] これは上海の陳良宇事件を意識してのことであろう。質問は中央電視台から出ており、あらかじめ準備されていたメッセージと思われる。
[4] 今回の記者会見は、従来よりも政治体制改革や社会主義民主に多くの時間を割いている。これは秋の第17回党大会において、政治体制改革が議論される兆しかもしれない。
[5] この条件の中身が問題であろう。
[6] この質問も外国人記者にわざわざ「あと1問」と促して答えており、周到に準備されたものであろう。

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