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「労働契約法」第二回審議案から見る在中日系企業の今後の労務人事管理における問題点並びに対応策

中国ビジネスレポート 労務・人材
王 穏

王 穏

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2007年3月22日

記事概要

「労働契約法」草案は、大きく議論を呼ぶ中、早ければ2007年6月の全人代常務委員会の審議を通過し、2008年前後に施行される見込みです(ただ、「物件法」、「企業所得税法」などの審議も重なっているため、遅れるという見方が強い)。

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【前書き】

「労働契約法」草案は、大きく議論を呼ぶ中、早ければ2007年6月の全人代常務委員会の審議を通過し、2008年前後に施行される見込みです(ただ、「物件法」、「企業所得税法」などの審議も重なっているため、遅れるという見方が強い)。

「労働契約法」草案は、意見聴取版、第一回審議案を経て、重要項目について少なくとも方向性として落ち着くように見えてきたため、ジョイ・ハンド(開澤)法律事務所では、今回の第二回審議案の主要条項について検討・分析を行い、これらの条項による、在中日系企業の今後の労務人事管理における問題点並びに対応策を述べ、参考にして頂きたいと考えております。

 

 

※     第二回審議案は、まだ審議中の法案であり、現時点では当然のことながら「労働契約法」の条項は、法的効力を有しません。

※     訳文は、ジョイハンド法律事務所(以下「JH」)で仮訳したものである。

 

重要度 第二回審議案(概要) コメント 対応策 備考
第1条

雇用者と労働者との労働契約の締結、履行、変更、解除、終了行為を規範化し、調和かつ安定的な労働関係を構築・発展させ、労働者の合法的な権益を保護するために、「労働法」に基づき、本法を制定する。

「労働契約法」(第二回審議案をいう。以下「労働契約法草案」という。)は労働関係の法律法規においては、「労働法」に次ぐ効力を有する法律となる。

各地でそれぞれ「労働契約条例」などを施行しているが、労働契約法草案の条項と不一致がある場合、労働契約法草案が優位であることは要注意。

労働契約法草案施行後、労働契約、就業規則、賃金規則などを見直し作業を行い、整合性をとる。  
第4条 第1項

雇用者は、法律に基づき、労働規則制度を構築・完全化し、労働者の労働の権利の享受、労働義務の履行を保障しなければならない。

雇用者にとっては、労働規則、制度を構築、完全化することが、義務となるため、労務トラブルが発生し、これに適応する規則制度がない場合、他の類似条項を準用することもありえるが、逆に雇用者が労働規則・制度の構築、完全化義務を果たしていないことが追究され、当該労働者に有利な解釈がされる。 ①     労働契約、就業規則、賃金規則などを完全化する。

②     労働規則制度において、「その他これらに相当すると会社が認める事由」(によって解雇できる)など包括的な規定を設ける。

 
第4条 第2項

雇用者は、労働者の利益に直接関係する労働報酬、勤務時間、休憩休暇、労働安全衛生、保険福祉、研修、服務規律及び出来高管理などの規則制度又は重大事項を制定、修正又は決定する際(JH:事前に)、労働者代表大会又は労働者全員による討論並びに方案、意見の提出を経て、労働組合又は労働者代表と平等的に協議の上、決めるものとする。

厳格解釈すれば、雇用に関わる規則制度の有効要件は、すべて①労働者代表大会又は労働者全員との討論、②労働者大会又は労働者全員からの(修正)方案収集・意見聴取、③労働組合又は労働者代表との協議を得ることとなる。

上記の厳格な手続きを経ていない規則制度の効力は否認される。

①     (労働者の入れ替わりもあるため、労働者全員という用件を満たすところは少ないため、)就業規則などの規則制度を有効にするために、基本的に従業員全員を召集し、労働者大会を開き、その意見聴取並びに労働組合かその代表との協議を行う必要がある。

②     就業規則上に従業員による署名を入れるなど従業員が就業規則を熟読、理解の上、遵守することについての誓約をとることは望ましい。

 
第4条 第4項

雇用者は、労働者の利益に直接関係する規則制度は、企業内で公開し、又は労働者に配布しなければならない。

労務トラブル、そしてその後に起こりうる労働仲裁、訴訟において、「見せてもらっていない」という言い訳が成り立たないように、公表を怠らないことが望ましい。 オフィス又は作業現場ごとに、就業規則などの規則制度を公表する。  
第6条

労働組合は、労働者が雇用者と法に基づき、労働契約を締結、履行することに協力、指導し、労働者の合法的な権益を保護するものとする。

労働組合の「雇用者協調型」から「労働者保護型」への転換となる。 外資企業に対して労働組合の設立を求める地域が増えている背景の下では、労働組合の設立後、それとの関係を重要視する必要がある。  
第10条

雇用者は、労働契約を締結する際(JH:事前に)、労働内容、労働条件、勤務場所、職業上の危険、安全生産状況、労働報酬及び労働者が労働契約と直接関係するその他の状況を、事実通りに告知しなければならない。雇用者は、労働者の労働契約と直接関係する基本状況を知る権利があり、労働者は事実通りに説明しなければならない。

一見、双方が相手当事者の基本状況を知る権利を有するように見える。

ただ、労働者が事実通りにその基本状況を告知しないことによって、雇用者は、直ちに解雇できない。

一方、労働者が知る権利を有する雇用諸事項について、雇用者の告知に少しでもミスがある場合、この告知義務の違反を問われる可能性が高く、労働者に傾き勝ちな労働調停、仲裁、訴訟においては、濫用される恐れが高い。

①     労働契約締結の事前に、①雇用諸事項並びにその他の関係状況について、すべて雇用者より告知を受け、了解したこと、②労働者が告知義務を果たさなかった場合、これらの事項が、雇用するかしないかを左右できる事項であることを理解し、雇用者の就業規則上の処罰を受けることに同意すること、という2点を明記する(労働契約上の)条項又は別紙は、提出させる。

②     提示する雇用諸事項は、そのまま労務トラブル時の証拠として使用されうるため、その提示内容に慎重を要する。

 
第14条

…以下のいずれかにあたる場合、労働者が労働契約の更新を求める場合、期限の定めのない労働契約を締結しなければならない。

(1)労働契約を更新する際、労働者は当該雇用者で10年以上勤務した場合、

(3)期限の定めのある労働契約を二回更新し、引き続き労働契約を更新する場合。

①10年以上勤務した労働者から求められる場合、よほどの事情により解雇する場合を除き、定年まで雇用しなければならなくなること、②(たとえば)1年の労働契約で、2年継続した場合、3年目から自動的に期限の定めのない労働契約に切り替えること、などにより、①労働者数が多い、②企業が必要とする能力があって、忠誠心のある労働者が少ない、③労使双方が互いに流動的であることによって今までの労使間の全体的なバランスを保ってきた中国の労務事情を根本から崩すことになりかねない。

期限の定めのない労働契約を締結できる労働者の管理は、人事労務面での最重要課題になるであろう。

雇用者にしては、事前に期限の定めのない労働契約を締結できることになる労働者の選別を行い、終身雇用することが望ましい労働者を終身雇用に切り替え、終身雇用すべきではない労働者を労働契約不更新(実質上の解雇)にするしかない。  
第20条

労働契約期間が1年未満の場合、試用期間は1ヶ月を超えてはならない。労働契約期間が1年以上3年以下の場合、試用期間は2ヶ月を超えてはならない。労働期間が3年以上又は期限の定めのない労働契約の場合、試用期間は、6ヶ月を超えてはならない。

1年~3年の多い労働契約の場合は、2ヶ月の試用期間しか設けることができなくなる。

 

   
第22条

試用期間中、労働者が雇用条件に合致しないと証明できる証拠がなければ、雇用者は、労働契約を解除してはならない。雇用者は、試用期間中に労働契約を解除する場合、労働者にその理由を説明しなければならない。

試用期間中でも簡単に労働者を解雇できなくなる(解雇手続きも厳しい正式雇用より、単に解雇手続きが簡単になるだけとなる)。更に、労務仲裁、訴訟実務では、厳格解釈され、実質上正式雇用と同様かそれに近い厳しい解雇できる証明が必要となる。

解雇理由の問題で、試用期間中の解雇に伴う労務トラブルが増えるであろう。

適切ではない労働者を試用期間中でも解雇できるように、雇用条件を厳格に設定する必要がある。

場合によっては、新社員では、到底満たすことができない客観的な条件を設けることによって、正式採用しない労働者をこの条件で解雇するなどの工夫が必要となる。

 
第23条

雇用者は、研修費用を負担し、労働者に1ヶ月以上の職場を離れた専門技術研修又は職業研修を受けさせる場合、労働者と服務期間を約定することができる。労働者は、服務期間の約定に違反した場合、約定により雇用者に違約金を支払うものとする。服務期間の約定違反に関わる違約金の金額は、雇用者が負担した研修費用を上回ってはならない。違約した場合、労働者が支払う違約金は服務期間の未履行部分に相当する研修費用を超えてはならない。

雇用者と労働者が比較的長い服務期間を約定し他場合、雇用者は、賃金調整メカニズムにより、労働者の服務期間における労働報酬を引き上げなければならない。

①     服務期間を約定できるのは、雇用者の費用負担で、1ヶ月以上の職場を離れた専門技術研修又は職業研修の場合に限定される。

⇒ 服務期間の適用がかなり狭まれる。

②     服務期間の違約金は、相当する費用の金額を超えてはならない。

⇒ 研修費用を負担し、労働者にスキルアップさせることは、研修費用以上の働きを期待しているため、労働者の服務期間内の離職により雇用者にもたらす損害が、研修費用だけではとどまらないため、違約金の上限設定は、雇用者にとって公平を失う。

③     服務期間中、労働者の賃金を一定の引き上げをしなければならない。

⇒ 賃金の据え置きは、本条項に対する違法となる。

   
第24条

雇用者は、守秘義務のある労働者に対して、労働契約又は守秘契約に労働者と競業制限の条項を約定することができる。労働者と労働契約終了又は解除時に労働者に競業制限期間に当たる経済補償を支払うことを規定しなければならない。労働者は、競業制限の約定に違反する場合、雇用者に違約金を支払わなければならない。

守秘義務違反に対して(経済補償を支払う前提で)競業制限の約定違反で、違約金が発生するのみであるかどうかは、議論を呼ぶところであろう。

ただ、守秘義務違反は、競業制限の約定違反による違約金だけではなく、一般の民事関係による損害賠償責任も発生すると理解すべきであろう。

すなわち、守秘義務違反した場合、労働者に対して、①競業制限の約定違反による違約金、②損害賠償を請求できる。

秘密遵守義務のある労働者に間違ったメッセージを与えないように、守秘条項又は守秘契約に、(競業制限の約定違反による違約金とは別途に)守秘義務違反によって雇用者にもたらす損害に対して、別途雇用者に対して損害賠償責任を負うなどを明記。  
第25条

就業規制を受ける労働者は、雇用者の高級管理職、高級技術者その他雇用者の商業秘密を知る者に限る。競業制限の範囲、地域及び期間については、雇用者が労働者と決め、競業規制内の約定は、法律法規の規定に違反してはならない。

労働契約終了又は解除後、前項で規定された者が、雇用者と同種の商品の生産、又は同種の業務を経営する競争関係にあるその他の雇用者に勤める制限、又は雇用者と競争関係となる同種の商品と業務の生産経営を行う制限期間は、2年を超えてはならない。

競業制限は、2年までとなる。    
第31条

雇用者の労働報酬の支払いが遅延又は不足している場合、労働者は、管轄裁判所に支払い命令を申し立てることができる。雇用者は、支払い命令の執行を拒否する場合、裁判所は、法律に基づき、強制執行を行うことができる。

労働者の支払い命令の申し立てに対して、雇用者の異議申し立てによって、裁判所から労働仲裁へ移送になると思われる。

ただ、本項の規定のため、労働者が支払い命令の申し立てるケースが急増するではないかという危惧が払拭できない。

   
第32条

雇用者は、労働ノルマ基準を厳格に執行し、形を変えて労働者に残業を強いることができない。…

裁量労働制の適用を受ける労働者を含み、無理に労働者にノルマを課し、「形を変えて、労働者に残業を強いる」と厳格(又は拡大)解釈されることによって雇用者が違法とされる。    
第38条

以下のいずれかに該当する場合、労働者は、随時雇用者に労働契約の解除を通知することができる。

(3)雇用者は、法律に基づき労働者のために社会保険料を支払わない場合、

社会保険料の未払いも労働者による即時解約事由になる。 社会保険料は、法律規定通りの金額を納める。  
第39条 

労働者が下記のいずれかに該当する場合、雇用者は、労働契約を解除できる。

(2)雇用者の規則制度に重大違反し、雇用者の規則制度により労働契約を解除しなければならない場合

懲戒解雇する場合、雇用者の規則制度に重大違反だけではなく、規則制度上即解雇という明文の規定の存在が必要。

重大違反したものの、規則制度上解雇できるという明文規定がない場合、解雇できない。

解雇事由をできる限り明文化する。

その他の包括規定についても、(労働仲裁、訴訟の角度から見た)雇用者の恣意性より、一定の客観的な根拠付けが必要。

 
第43条

雇用者は、一方的に労働契約を解除する場合、事前に労働組合にその理由を通知しなければならない。労働組合は、定説ではないと判断する場合違憲を提出する権利を有する。…雇用者は、労働組合の意見を検討した上、その処理結果を書面で労働組合に通知するものとする。

厳格解釈すれば、労働者を懲戒解雇又は(30日の予告期間をもって)解雇する場合、当該労働者以外に以下の用件を満たさなければならない。

①     労働組合が存在する。

②     事前に労働組合に解雇事由を通知する。

③     労働組合の意見を検討し、その処理結果を労働組合に通知する書面を有すること。

①     労働組合を設立することが望ましい。

②     労働組合への通知はすべてその記録を残すこと。

仲裁、訴訟実務上、労働組合が存在しない企業が、存在しない労働組合に通知できないことによって、解雇不当とされるケースもある。
第46条

以下のいずれかに該当する場合、雇用者は、労働者に対して国務院が定めた基準に基づく経済補償金を支払わなければならない。(以下の内容は、解説となる)

(5)労働契約満了又は労働契約に定める終了条件が発生した場合(雇用者から現行の労働契約条件を下げないでの継続を希望するが、労働者が拒否する場合を除く。)

労働契約期限満了又は正常終了での契約不更新でも経済補償金を支払わなければならなくなるため、雇用コストは高騰するであろう。 試用期間をフルに使用し、労働者の適性を見極め、適切ではない労働者を試用期間中に解雇する。

 

 
第47条

雇用者は、本法の規定に違反し、労働契約を解除又は終了する場合、労働者が労働契約の継続履行を要求する場合、雇用者は、継続履行しなければならない。労働者が労働契約の継続履行を要求しない又は労働契約が継続履行できない場合、雇用者は、本法第46条に定められた経済補償の基準の二倍で労働者に賠償金を支払わなければならない。雇用者は、賠償金を支払ってから、労働契約は終了する。

請求できる金額又は請求し成功する確率が高くなるのではないかと、だめもとでとにかく労働仲裁を提起しようという効果があることが危惧される。すなわち、

①     本法規定の違反は、その軽重の程度を問わず(解雇手続き上の瑕疵でも本法規定になるなど)、労働契約の継続か、通常の2倍の賠償金の支払いかという選択権は、労働者にゆだねられる。

②     労務トラブル実務から見れば、労務トラブルで労使間の信頼関係が崩れたにもかかわらず、労働者が嫌がらせ式の労働契約継続を要求する場合、雇用者は、これを拒否できなくなる。

③     賠償金は、通常の2倍となる。

④     2倍の賠償金の全額支払までには、労働関係が継続し、この期間中の賃金支払い義務も発生する。

①     本法の厳格な遵守により予防。

②     発生後、勝率、コストなどの総合顧慮により、早期の和解か徹底的な対応を決め、遂行。

 
第5章 

第1節 集団契約

第50条~第55条

 

集団契約は、締結しなければならないのかについて未定。

ただ、現在の人事労務管理実務から、これを適用するという一部の性急なな地域、又は業界も出てくる可能性があるものの、すぐには、雇用者にこれを要求しないという見方が強い。

横並びで対応。  
第57条

人材派遣会社は、派遣労働者と2年以上の労働契約を締結しなければならない。また、月単位で労働報酬を支払い、仕事のない期間でも現地の最低労働賃金基準を下回らない労働報酬を支払わなければならない。

※     FESCO、中智などの人材派遣会社は、労働者を派遣する場合、2年以上の契約を締結し、仮に1年で実質の雇用者が労働契約を不更新した場合、人材派遣会社は、現地の最低労働賃金水準以上の賃金を支払わなければならなくなるため、人材派遣会社に一大打撃となろう。

※     人材派遣会社によっては、実質の雇用先による理由なし(無条件)での派遣従業員の辞退も可能であったが、今後この条項は削除されるであろう。

※     また、いずれ人材派遣会社から、駐在員事務所や現地法人に最短2年の雇用にするなどを求めるため、駐在員事務所と派遣を受ける現地法人は、雇用コストが跳ね上がるであろう。

 

①     駐在員事務所は、人材派遣会社の2年派遣契約の締結の要請を受けることになる。

②     人材派遣会社経由での雇用がある(義務ではない)現地法人は、費用対効果で、直接雇用に切り替える。

 
第65条

労務派遣は、一般的に臨時的、補助的又は代替可能な職務に(のみ)実施されるものとする。具体的な(該当)職務は、国務院の労働行政部門の規定に従う。

派遣労働者に従事させることができる職務が限定されていく。 人材派遣会社経由でなければならない駐在員事務所を除き、現地法人は、すべての労働者の直接雇用を視野に入れる。  
第77条

労働者は、仲裁又は訴訟を提起する場合、労働組合は、法に基づき、支持と援助を提供するものとする。

今後労働仲裁、訴訟の場合、労働組合にもよるが、積極的に労働者を支援する労働組合も出てくる。 労働組合との関係維持並びに労働組合の協力取得に力を入れる。  

 

以上

(2,007年3月記 7,454字)

 

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