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2007年政府活動報告のポイント

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

無料

2007年3月28日

記事概要

3月5日、全人代が開催され、温家宝総理が政府活動報告(以下「報告」)を行った。その主要なポイントは以下のとおりである。

はじめに

3月5日、全人代が開催され、温家宝総理が政府活動報告(以下「報告」)を行った。その主要なポイントは以下のとおりである。

 

1.構成

第1章は従来どおり前年の政策回顧である。2005年の報告では第2章で2006年の政策の基本方針が述べられ、具体的政策については、第3章から第7章まで発展・改革・安定といった大テーマ別に小項目として列挙されたが、2006年は第1部が前年回顧、第2部として当年の政策を列挙する2004年以前の構成に戻っていた。しかし、2007年は再び2005年の大テーマ別構成に戻っている。

 

2007年 2006年
1.経済の良好で速い発展の促進

・マクロ・コントロールの強化の堅持

・現代農業の発展と社会主義の新農村建設の

推進

・省エネ・省資源・環境保護・土地の効率利

用に力を入れる

・産業構造改善と自主イノベーションを速やかに推進

2.社会主義の調和のとれた社会建設を推進

・教育・衛生・文化・スポーツ等社会事業の発展を加速

・就業・社会保障施策を強化

・安全生産活動の強化と市場秩序の整頓・規範化

・社会主義民主法制建設を強化

・社会の安定と調和を擁護する

3.改革を深化させ、開放を拡大する

4.政府自身の改革・建設を強化する

5.その他

・国防

・香港・マカオ・台湾

・外交

1.経済の安定した高成長を維持

2.社会主義新農村建設を着実に推進

3.産業の構造調整、資源節約、環境保護を強化

4.地域の調和のとれた発展を推進

5.科学技術・教育興国戦略及び人材強国戦略の実施、文化建設の強化

6.改革開放の一層の推進

7.大衆の切実な利益に関わる問題の解決を高度に重視

8.民主政治建設の強化、社会の安定の維持

 

 

おそらく温家宝総理の望む構成は2005年、2007年の大テーマによる構成だったのではないかと思われるが、2006年は第11次5ヵ年計画の説明も加わったため、混乱を避けるためやむなく2004年以前の羅列的方式を採用したのではないかと思われる。

ただ、大テーマの順位をみると、2005年は発展・改革・安定の順であり、2006年の順位も概ねこれに習っていたのに対し、2007年は発展・安定・改革の順となっており、改革の位置が後退している。

 

2.2006年の回顧

(1)財政面の強調

 今回も、中央財政の支出額を以下のように具体的に挙げることにより、どこに施策の重点が置かれていたかを強調する説明方式がとられている。

A「三農」(農業・農村・農民) 3397億元(前年度比422億元増)

B科学技術774億元(同29.2%増)・教育536億元(同39.4%増)・衛生138億元(同65.4%増)・文化123億元(同23.9%増)

a全国ベースの農村義務教育経費1840億元

西部地域及び一部中部地域の5200万名の学生の教育雑費を免除、3730万名の貧困家庭学生に教科書無料提供、780万名の寄宿学生に生活費補助

b衛生

県・郷・村で医療衛生インフラ建設 国債資金27億元

新型農村合作医療テスト(4.1億人参加) 42.7億元

C社会保障

就職・再就職補助 234億元

都市最低生活保障補助(対象1509万人) 136億元(同24億元増)

(2)経済社会発展の矛盾・問題

A経済構造の矛盾が際立っている

a第1・第2・第3次産業の比率が不合理であり、都市・農村間、地域間の発展が不均衡であり、投資と消費の関係が調和がとれていない。

b農業の基礎が薄弱という状況は変わらず、食糧の安定的増産と農民の持続的な増収の困難度が大きくなっている。

c固定資産投資の総規模が依然かなり大きく、銀行資金の流動性過剰問題が際立っており、投資の速すぎる伸びと貸出過剰を誘発する要因が依然存在する。

d貿易黒字がかなり大きく、国際収支の不均衡という矛盾が激化している。

B経済成長の方式が粗放である

 エネルギー消費の高さと環境汚染の深刻さが際立っている。

 2003-2005年のGDP単位当たりエネルギー消費は、それぞれ4.9%、5.5%、0.2%増であったのに対し、2006年は1.2%減であった(目標は4%減)

 化学的酸素要求量とSO2排出量は、2005年にそれぞれ5.6%、13.1%増であったのに対し、2006年は1.2%、1.8%増であった(目標は2%減)。

 このように、2006年の目標が達成できなかった主たる原因として、「報告」は次の点を挙げている。

a産業構造調整の進展が緩慢であり、重工業とりわけエネルギー多消費・高汚染の業種の成長が、依然かなり速い。

b淘汰されるべき劣後した生産能力が、少なからず市場から退出していない。

c一部の地方・企業が省エネ・環境保護の法規・基準を厳格に執行していない。

d関連の政策措置が明白に成果を上げるには、一定のプロセスが必要である。

 しかしながら、報告は「第11次5ヵ年計画で提出されたこの2つの拘束性指標[1]は、十分厳粛なものであり、改変してはならず、断固として実現しなければならない」とする。

C大衆の利益に関わる際立った問題が、十分に解決できていない

a食品・薬品の安全、医療サービス、教育費、所得分配、社会の治安、安全生産等の面で、大衆が不満を抱く問題がなお存在する。

b土地収用、家屋立ち退き、企業のリストラ、環境保護等の面で、大衆の利益を損なう問題が未だ根本的に解決できていない。

c少なからぬ低所得の大衆の生活が、比較的困難である。

D政府自身の建設にも問題が存在する

a政府機能の転換が遅れており、政府・企業の未分離も依然存在する。ある部門は職責が明確でなく、事務効率が低い。

b公務による消費が不規範であり、奢侈浪費があり、行政コストが高くなっている。

c一部の地方・部門と少数の役人にはなお官僚主義・形式主義が存在し、大衆から乖離し、汚職や背任行為に走り、はなはだしきは権力を濫用し、汚職腐敗を行っている。

dこれらの問題が存在するのは、制度の不健全と監督管理の不備に根本的理由がある。

 

3.2007年の施策の基本方針

 2007年は今期政府の最後の一年であり、各施策をしっかり行い人民のために満足のいく答案を出すとともに、第17回党大会のために良好な環境・条件を創造しなければならない、とする。

(1)経済諸指標

AGDP成長率 8%前後

B都市部就業者新規増加数 900万人

C都市部登録失業率 4.6%以内

D消費者物価上昇率 3%以内

E国際収支 不均衡な状況を改善する

 なお、2006年に掲げられていた省エネ・環境の年度目標については、第11次5ヵ年計画末に目標達成状況がまとめて報告されることになったため、2007年報告から削除されている。

 さらに、国際収支について、2006年は「基本的に均衡させる」となっていたのが、2007年は「改善」にとどまっている。これは、2006年の貿易黒字が一層拡大したことを反映するものであり、もし2007年に均衡を目標とすれば、大幅な人民元レート引上げを欧米から要求されかねないことを配慮したものであろう。

(2)政策の基本原則

A政策の安定・整備・実施

 「安定」は、穏健な財政政策・金融政策を引き続き実施することである。

 「整備」は、経済運営で発生した新状況に基づき、タイムリーに政策措置を整備し、際立った矛盾・問題に的を絞って解決することである。

 「実施」は、中央の各種政策措置を真剣に実施し、執行力を増強することである。

 2006年は「政策の安定と適度な微調整」であったのに比べ、表現が強くなっている。

Bマクロ・コントロールの強化・改善

 「重点は固定資産投資と貸出規模の抑制である」とする。また、「中央と地方の関係を正確に処理し、両者の積極性を十分に発揮させる」という記述があるが、これは2006年に深刻化したマクロ・コントロールをめぐる中央と地方の対立を反映しているものと思われる。

C経済成長の質・効率を大いに高める

 「省エネ・省資源、環境保護、土地利用の効率化を際立った位置に置く」とする。これまでの、省エネ・省資源・環境保護に加え、新たに土地利用の問題がクローズ・アップされている。

D社会の発展と民生の改善を更に重視する

 「社会の公平と正義を擁護し、人民全体が改革・発展の成果を享受できるようにする」としている。

E改革・開放を動力とし、各種施策を推進する

 「社会主義市場経済への方向を堅持する」とわざわざ強調している。それだけ、新左派による市場経済批判が強まっているということであろう。

 

4.2007年の施策

 

 4.1 経済の良好で速い発展を促進する

 2006年12月の中央経済工作会議で、優先順位が従来の「速い」「良好」から「良好」「速い」に逆転したことを反映している。

(1)マクロ・コントロールを強化・改善することを堅持する

A穏健な財政政策を引き続き実行する

a財政赤字と長期建設国債の発行規模を適切に減少させる。

具体的には、中央財政赤字を2450億元とし(前年度比50億元減)とし長期建設国債の発行額は500億元(前年度比100億元減)とした。また、建設国債に頼らない中央予算内公共投資を250億元増加し、公共投資総額を1304億元(前年比150億元増)としている。これまで、中央予算内の(税を財源とする)公共投資の増額は建設国債削減の範囲内であったが、2007年はこれを大きく上回り、結果的に公共投資総額は増えている。

b政府の予算支出と政府投資の構造を改善し、重点を際立たせる。

 「3つの『より上回らせる』」が重視される。即ち、

①農村の生産・生活条件を直接に改善する投入を2006年より上回らせる。

②基礎教育・公共衛生等社会事業への投入を2006年より上回らせる。

③西部大開発への投入を2006年より上回らせる。

 このように、前年比増額を明記する項目が出てきたことも、公共投資総額を2006年より上回らせた一因であろう。

c中央財政の超過収入を合理的に配分する。

  経済の高成長に伴い、2003-2006年の超過収入は年平均2040億元であり、2006年は2573億元に及んだ。この超過収入は、輸出税還付、地方への税還付・一般的移転支出、教育・科学技術への支出、社会保障基金・企業の政策性破産・住民最低生活保障等の支出増加に充てられたが、これらは全人代に対しては事後報告でよく、議会の予算コントロール上問題が指摘されていた。

2007年は2006年の超過収入のうち500億元を用いて「中央予算安定調節基金」が設立されることになり、同基金は全人代の監督を受けることになった。これは、財政の安定性を強化するとともに、予算の民主監督の観点からも1つの前進であろう。

B穏健な金融政策を引き続き実行する

金融政策については、貸出総量の合理的抑制に加え、「銀行資金の流動性過剰問題を有効に緩和する」ことが重視されている。

金融支援面では、「三農」、中小企業に加え、省エネ・環境・自主的な創造・革新(イノベーション)が記載された。

中長期貸出の抑制方針には変わりがないが、厳格に抑制する対象として、新たにエネルギー多消費・高汚染企業と生産能力が過剰な質の劣る企業への貸出が追加されている。

金利市場化の着実な推進と人民元レートの形成メカニズムの更なる整備については、従来どおりであるが、外貨準備の過剰を反映し、「外貨管理を強化・改善し、国家外貨準備の合理的使用のルート・方式を積極的に模索・開拓する」としている。

C投資と消費の関係を調整する

 「内需拡大の方針を堅持し、消費需要の拡大に重点を置く」とする。具体的には、都市・農村のとりわけ中低所得者の所得向上であり、2007年は最低賃金制の執行状況を各地で検査するとしている。また、農村消費需要の拡大も重視している。

D固定資産投資の適度な伸びを維持し、投資構造の改善に力を入れ、投資効率を引き上げ

 る

 「土地・貸出のバルブを引き続き厳しくチェックし、異なる業種の状況に基づき、プロジェクト建設の用地・環境保全・省エネ・技術・安全等の市場参入許可基準を適切に引き上げ、かつ厳格に執行する。プロジェクト新規着工を厳格に抑制し、とくに都市建設の規模を抑制する」とする。

E不動産業の持続的健全な発展を促進しなければならない

 省エネ・土地節約・環境保全型の建築の発展、低所得家庭の住宅問題の解決支援、不動産投資の合理的規模の維持、不動産価格の急上昇の抑制、不動産市場秩序の整頓・規範化等の施策が列挙されているが、「地方各クラス政府は、不動産市場のコントロール・監督管理に適切に責任を負わなければならない」とする。中央の土地政策に面従腹背の姿勢をとり続けてきた地方政府に責任を負わせているのである。

(2)現代農業を発展させ、社会主義新農村建設を推進する

 2007年の「三農」施策として、a食糧生産の安定的発展、b農業総合生産能力の適切な引上げ、c農村インフラ建設の強化、d多様なルートによる農民収入増加、e人材開発の5点を挙げている。

 また、財政支援としては、a財政困難な県・郷と食糧生産の多い県への支援強化、b農業・農村への投入増、c科学技術進歩への支援、d郷鎮機構改革・農村義務教育改革と県・郷財政管理体制改革の加速に重点が置かれている。

 投入増については、ここでも「3つの『より上回らせる』」が指示されており、具体的には、次の諸点である。

a農業・農村への投入の増量を引き続き2006年より上回らせる。

b国家の固定資産投資の農村投入の増量を引き続き2006年より上回らせる。

c土地譲渡収入の農村建設使用への増量を引き続き2006年より上回らせる。

 この結果、中央財政の「三農」に使用する資金は3917億元(前年比520億元増)となる。

 2006年に農業税が廃止され、減税効果は2007年には消滅してしまうため、新たな農民所得向上策として、資金投入の増加が主たる手段となっている。

(3)省エネ・省資源・環境保護・土地の効率利用に力を入れる

 これまでの省エネ・省資源・環境保護に加え、土地の効率利用が重要な課題として提起されている。

A省エネ・省資源

 a省エネ・環境保護基準の厳格な執行、b劣後した生産能力の断固たる淘汰、c鉄鋼・非鉄金属・石炭・化学工業・建材・建設等の重点業種の強化、d政策体系の健全化、e技術進歩の加速、f汚染処理・環境保護の強化、g法執行の監督管理強化、h目標責任制の真剣な実施、の8項目が挙げられている。

B土地の効率利用

 土地管理制度のあり方として、次の諸点が指示されている。

a土地利用全体計画・年度計画の真剣な執行

 特に、別荘の類いの不動産開発、ゴルフ場、党・政府機関・国有企業の訓練センター新設等のプロジェクトに土地を使用することを禁止するとしている。

b土地利用に関する節約・効率化基準を早急に整備し、厳格に執行する

c工業用地を適切にコントロールし、工業用地譲渡の最低価格基準を断固として執行する

d建設用地の税費用政策を実施する

 土地収支管理を規範化し、国有地の使用権譲渡の収支について全額地方予算に納入させる規定を適切に執行する。

e土地管理の責任制を厳格にする

(4)産業構造のグレードアップと自主イノベーションを速やかに推進する

 産業構造調整については、サービス業の発展が重点とされ、特に物流・金融・情報・コンサルタント・旅行・コミュニティサービス等の現代的サービス業を発展させなければならない、とする。

 イノベーション・地域発展戦略についての記述は極めて簡略化されている。

 

 4.2 社会主義の調和のとれた社会の建設を推進する

(1)教育・衛生・文化・スポーツ等の社会事業の発展を加速する

A教育

 2007年は、全国農村の義務教育段階の学業雑費を全額免除し、これにより農村1.5億の小中学生の家庭の経済負担が軽減されるとしている。また、引き続き農村貧困家庭の学生の教科書を無料で提供し、寄宿生活費を補助するとしている。

 このため全国財政は、農村義務教育経費として2235億元(前年比395億元増)を計上している。

 同時に、都市貧困家庭・出稼ぎ農民の子女の義務教育問題を引き続きしっかり解決するとしており、農村から都市貧困層への政策の拡大がみられる。

 さらに報告は、以上の義務教育施策に加え、さらに教育の発展と教育の公平のために2つの重大措置を採用するとしている。

a2007年度の新学年から、一般大学、高等職業学校、中等職業学校において国の奨学金、学業奨励金の制度を確立する。

 このため中央財政は2007年95億元(前年比18億元増)、2008年200億元を支出し、地方財政も相応の支出を増加させることとしている。

b教育部直属の師範大学において師範系の学生の学費を免除するとともに、これに対応した制度を確立する。

B衛生

 新型農村合作医療制度を積極的に推進するとし、テストの範囲を全国80%以上の県(市・区)に拡大するとしている。

 このため中央財政は補助金を101億元(前年比58億元増)計上している。

(2)就業と社会保障施策を強化する

A就業

 「就業の拡大を経済社会発展の際立った位置に置くことを堅持する」としている。特に「就業者ゼロ家庭」と就業困難者の就業を積極的に支援するとしている。

B社会保障

 2007年に中央財政は、2019億元(前年比247億元増)を支出するとしている。

 出稼ぎ農民についても、その特徴に適合した社会保障制度を速やかに確立するとしており、重点は労災と大病医療保障とする。しかし、出稼ぎ農民は職場の移動が激しいため、「社会保険の地域を越えた移転・引継ぎ方法を早急に検討・制定する」としている。

 また、上海の陳良宇事件を踏まえ、「社会保障基金、住宅公的積立金等の社会公共基金の監督管理を強化し、横領・流用を厳禁する」としている。

(3)安全生産活動の強化と市場秩序の整頓・規範化(略)

(4)社会主義民主法制建設の推進(略)

(5)社会の安定・調和を擁護する

 「土地収用、家屋立ち退き、企業のリストラ、環境保護において、大衆の利益を損なう行為を断固として糺す」としている。これらが、大衆の集団抗議行動の主たる原因なのである。

 

 4.3 改革を深化させ、開放を拡大する

 ここは施策が羅列してあるだけであり、新味は乏しい。

(1)国有企業改革の深化

 国有資本の国家安全・国民経済の命脈に関わる重要業種、重要領域への集中、コーポレート・ガバナンスの健全化、国有資産の流出防止、独占業種の改革推進等が挙げられている。

(2)個人・私営等非公有性経済の発展の奨励・支援

(3)財政・税制体制改革の推進

 内資・外資企業所得税の統一、増値税の(生産型から消費型への)転換方案・措置の制定と全面実施等が挙げられている。

(4)金融体制改革の加速

 全国金融工作会議で議論された、農業銀行の株式制改革の推進、農村金融改革の加速、国家金融の安定・安全の擁護等が挙げられている。

(5)対外貿易の発展

 「貿易黒字が過大であるという矛盾の緩和に努力する」としている。また、「エネルギー・原材料・先進技術装備・重要部品の輸入を増加させなければならない」とする。

(6)うまい外資利用

 多国籍企業の最先端部門や研究開発部門を中国に移転させるとともに、外資を中西部・東北地方及び産業政策に合致した領域に誘導する、としている。

(7)企業の対外投資協力の誘導・規範化

 これまで、中国企業の海外進出は毎年奨励されてきたが、2007年は「誘導と協調を強化し、企業が海外において盲目的な投資と悪性の競争を行うことを避ける」としている。海外進出の成果がはかばかしくないのであろう。

 

 4.4 政府自身の改革・建設を強化する

 「今後一時期は政府機能の転換を核心としなければならない」とし、2007年の重点は、政府と企業の分離、公共サービス能力の向上、廉潔政治と反腐敗闘争の展開である、とする。

 

 4.5 その他

 国防[2]、香港・マカオ・台湾[3]、外交は最後に一括して簡潔に記述されている。

 

まとめ

今回の政府活動報告について、留意点をいくつか指摘しておきたい。

(1)改革・開放の順位後退

構成面で、大テーマの順位をみると、2005年は発展・改革・安定の順であり、2006年の順位も概ねこれに習っていたのに対し、2007年は発展・安定(調和社会)・改革の順となっており、改革の位置づけが後退している。

また、内容的にも政策が羅列されているだけで、殆ど目新しいものが見られない。

これには、2007年は第17回党大会という大きな政治イベントが開催されるという事情があろう。即ち、2007年は政治の年であり、政治の年には安定が改革より優先されるのである。

(2)2006年の省エネ・環境目標未達成

2006年12月に開催された中央経済工作会議では、経済社会の問題点につき、何も言及がされなかった。これは、省エネ・環境目標の未達成理由の説明と今後の方針について、議論が定まっていなかったからであろう。

第11次5ヵ年計画の最重要拘束性目標が初年度から躓いたことにより、全人代前には「そもそもこの目標の設定自体が非現実的ではなかったか」と目標そのものを見直すべきとの意見も出ていた。しかし、報告は見直しを断固拒否したのである。計画第2年度から拘束性目標を改定したのでは、計画そのものの策定責任を問われかねない。特に、秋には党大会を控えており、安易な計画変更は人事問題に発展する可能性がある。このため、政府としては、断固として5年間で目標を達成する姿勢を貫いたものと思われる。

 とはいえ、毎年毎年4%(GDP単位当たり省エネ)ないし2%(主要汚染物質排出減)ずつ小刻みに目標を設定し、その成否の責任を毎回全人代で議論されるのはかなわないと考えたのであろう。特に初年度の遅れを2007年で大きく取り返そうとすれば、年度設定目標はかなり厳しいものにならざるを得なくなる。そうなれば、政府の首脳人事が行われる2008年3月の全人代で再び目標未達成が議論されることになりかねず、そのような事態は何としても回避しなければならない。

そこで報告は、「国務院は以後毎年全人代に省エネと汚染物質排出減の進捗状況を報告し、第11次5ヵ年計画期間末にこの2つの指標の全体達成状況を報告する」としている。したがって、2007年の具体的目標は設定されていない[4]

(3)成長率目標

10%台の成長が4年間続いているにもかかわらず、成長率目標を2006年同様8%前後とした理由について、報告は「需要と可能性等多様な要素を総合的に考慮した。更に重要なことは、各方面が科学的発展観を真剣に実施するよう誘導することであり、施策の重点を構造改善・効率向上・省エネ・省資源・汚染物質排出削減に置き、成長率を片面的に追求し盲目的に競い合うことを防ぐことにある」と説明している。

 従来成長率の設定理由については、経済報告において解説されてきたが、2007年は政府活動報告で解説されている。これは、現実の成長率より低い8%を設定した趣旨を徹底させるためであろう。

 このように、政府が成長率8%の趣旨徹底にこだわるのは、秋に第17回党大会が開催され、以後2008年3月の全人代まで人事の季節が始まるからである。これまで、経済過熱は西暦で3か8が末尾につく年に発生してきたが、これは一連の人事異動で就任した地方指導者が政治業績(特に当該地域の成長率)を押し上げるため、一斉に新規プロジェクト着工に踏み切るためである。とくに、2008年は北京オリンピックが控えており、投資再過熱のリスクは大きい。

 しかし、もし2007年後半から投資が再過熱し、10%を超える成長が続けば、第11次5ヵ年計画の省エネ・環境目標の達成はほぼ絶望的になる。これは、胡錦涛指導部の責任問題に発展し、政権基盤を脅かしかねない。このため、報告は「新規着工を厳格に抑制する」としているのである。

(4)土地の効率使用

 土地の効率使用が省エネ・省資源・環境保護と並び重視されている。これは、地方政府が財源獲得のため農民から土地をタダ同然で奪い、これをディベロッパーに高く売りつけて差額を財政収入とする「土地財政」が横行し、耕地の消失と開発区・工業団地の濫立、住宅価格の急上昇という深刻な事態が発生しているためであろう。

報告では、土地の効率利用は「当面の経済社会の発展に関わるばかりでなく、国家の長期的利益と民族の生存の根本に関わるものである。土地問題について、我々は改めることのできない歴史的過ちを決して犯してはならず、禍根を後代に残してはならない。全国耕地が18億ムー(1億2000万ha)を下回らないという警戒ラインを必ず守らなければならない」と強い調子で述べている。

また、これまで都市化政策は奨励されていたが、都市化の名のもとに投資を拡大し、耕地を農民から奪う行為が後を絶たないため、都市建設についても規模を抑制する方針が示されているのである。

(5)実行の重視

 政策の基本原則のなかで、マクロ・コントロールの「実施」が強調されている。これは、2006年前半に投資の再過熱・貸出急増が発生し、「微調整」を超えた強い引締め策が必要となり、しかもそれが地方の面従腹背により容易に実施されなかったことが背景にあろう。いかなるマクロ・コントロールも「執行力」が欠如していては、効果を出すことはできないのである。

 執行力を維持するためには、地方が中央の政策に従順でなければならない。このため、報告では、地方による省エネ・環境保護・土地の効率化利用につき、責任制を課している。

(6)社会の公平の重視

 教育、「就職者ゼロ家庭」の就職支援、都市・農村貧困者への医療対策・最低生活保障、大衆の集団抗議行動を引き起こす諸要因(土地収用、家屋立ち退き、企業リストラ、環境問題)の是正に重点が置かれている。

 報告は「教育は、国家の発展の礎であり、教育の公平は重要な社会の公平である」とし、教育を発展戦略のなかで優先的に位置づける、としている。胡錦涛指導部は経済効率を重視した江沢民指導部と対照的に、社会の公平を重視する姿勢を示しているが、特に「機会の均等」を確保するため教育環境の整備は重要となっているのである。このため、2007年は特に多くの分量を割いて農村や出稼ぎ労働者の子女の義務教育・奨学金制度・教師の養成等の施策の充実が記述されている。

 その他の施策については、秋に第17回党大会を控え、貧困層の不満をできるだけ抑えるとともに、大衆の集団抗議行動の原因を未然に除去しようとする「安定重視」の方針が明確に現れている。

 報告も、「全国都市・農村に最低生活保障制度を確立することは、社会の公平の促進と調和のとれた社会構築にとって重大かつ深遠な意義をもつものである」と強調しているのである。

 

 このように、胡錦涛指導部は、一方で地方政府主導による投資の再過熱を抑え、他方で貧困大衆の不満を抑えつつ、安定最優先で第17回党大会に臨もうとしている。しかし、いずれの問題も対症療法で解決できるものではなく、党大会で胡錦涛指導部がどれだけ強い政治基盤・リーダーシップを確立できるかが今後の経済運営を占うカギとなろう。(3月6日記・10,357字)


 


[1] 第11次5ヵ年計画では、5年間でGDP単位当たりエネルギー消費20%減、主要汚染物質排出量10%減を拘束性のある目標として定めている。
[2] 国防については、財政報告で3472.32億元(対前年比524.98億元、17.8%増)とされている。
[3] 台湾については、「台湾の法理上の独立」等いかなる形式での分裂活動にも断固反対する、としている。陳水扁政権の憲法改正への動きを牽制したものであろう。
[4] 温家宝総理は、3月4日、全国政協経済・農業合同会議で、「今後は5年の指標を単純に平均分配したものを年度指標とせず、5年で一つのものとし、第11次5ヵ年計画の最後の1年に事実に基づき全人代に全体報告を行う」とし、一呼吸置いたあと語気を強め、「国家が確定し、全人代が通過させた5年間の目標は厳粛なものであり、確定したものは変えてはならない!そしてあらゆる手段を尽くして達成しなければならない。この決心は断固揺るぐものではない!私は明日(全人代の)委員に説明し理解を求めるつもりだ」とした。このとき、会場は一瞬静まり返ったという(新華社北京電2007年3月4日)。

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