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2007年経済・財政報告のポイント

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

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2007年4月5日

記事概要

 3月5日、馬凱国家発展・改革委主任と金人慶財政部部長から全人代に対し、それぞれ「2007年度国民経済・社会発展計画」と「2007年度中央・地方予算」が書面で報告された。

はじめに

 3月5日、馬凱国家発展・改革委主任と金人慶財政部部長から全人代に対し、それぞれ「2007年度国民経済・社会発展計画」(以下「経済報告」)と「2007年度中央・地方予算」(以下「財政報告」)が書面で報告された。そのポイントは以下のとおりである。なお、政府活動報告で論じられたものについては、説明を省略する。

 

Ⅰ.経済報告

 

経済目標は以下のとおりである。             (失業率以外は前年比)

              2007年度目標       2006年度実績

 経済成長率         8%前後          10.7%

 エネルギー単位消費     設定せず         -1.23%

 全社会固定資産投資     設定せず          24.0%

 社会消費財小売総額    12%            13.7%

 消費者物価上昇率      3%以内           1.5%

 対外貿易輸出入総額     設定せず           23.8%

 中央財政赤字       2450億元        2500億元

 長期建設国債発行額     500億元         600億元

 M2伸び率        16%            16.9%

 都市住民可処分所得     6%          実質10.4%

 農村住民純収入       6%           実質7.4%    

 都市部登録失業率     4.6%以内          4.1%

 都市新規就業増      900万人          979万人

 人口自然増加率      0.75%以内       0.528%

 研究開発費/GDP     1.56%          1.41%

 二酸化硫黄排出総量     設定せず           1.8%

 化学的酸素要求量      設定せず           1.2%

 

 なお、2006年のGDPは20兆9400億元である。

 2006年は、第11次5ヶ年計画に省エネ・環境改善目標が盛り込まれたため、年度目標にもエネルギー単位消費削減目標と主要汚染物質排出総量削減目標が盛り込まれていたが、計画末にまとめて成果報告を行うことになったため、2007年から年度目標は廃止された。

 また、2006年の目標で実績が大きく乖離した全社会固定資産投資18%と対外貿易輸出入総額15%については、2007年度は目標が設定されていない。しかしその他の成長率・消費・物価・M2等の目標が前年と同率に設定されていることからして、概ね同率が念頭に置かれているのであろう。

 

Ⅱ.財政報告

 

1.2007年度予算 

                    (単位:億元、%)

                 2007年度予算(対前年伸び率) 2006年度

中央歳入                24421(15.0)  21232

 中央レベルの収入           23590(15.4)  20449

 中央への上納収入             830          782

 中央予算安定調節基金からの収入      420          ―

中央歳出                26871(14.4)  23482

 中央レベルの支出           11062(10.7)    9991

 地方助成支出             15809(17.2)  13490

  うち一般的移転支出          1924         1527

    民族地域移転支出          210          155

中央財政赤字               2450         2749

                                 (2950)

国債債務残高             37865         35381

中央政府管轄基金収入           不公表          1706

中央政府管轄基金支出           不公表          1706

 

地方歳入                 不公表         31771

 地方レベルの収入            不公表         18280

 中央税収からの還付金・移転支出    15809(17.2)  13490

地方歳出                 不公表         31004

 地方レベルの支出            不公表         30221

 中央への上納支出            830           782

剰余金・繰越明許費            不公表           767

 

全国歳入                44064(13.8)  38730

全国歳出                46514(15.7)  40213

 

 (注)2006年度は予算執行見込み。( )は2006年度当初予算額。

    全国及び中央歳入は、歴史的債務の租税還付金613億元を差し引いた後の額である。

 

2.2007年度の歳出概要

 重点支出としては次の項目が挙げられている。

(1)公共事業

A国債プロジェクト資金500億元(前年度当初予算比100億元減)と予算枠内の投資804億元(同250億元増)を含め、2007年の中央財政予算枠内の基本建設の総投資規模を1304億元とする(同150億元増)。

B農村の公共サービスの改善に重点を置く。

(2)「三農」

 中央財政予算のなかで「三農」へ振り向けられる支出は、3917億元(前年度比15.3%、520億元増)である。

A優良品種への補助金 55億7000万元(前年度比14億2000万元増)

B農機具購入への補助金 12億元(前年度比6億元増)

C最低生活保障補助 30億元

(3)教育

中央財政予算のなかで教育へ振り向けられる支出は、858億5400万元(前年度比41.7%、252億4900万元増)である。

A農村における義務教育段階にある生徒全員の学費・雑費を免除、小中学校の公用経費の保障水準を引上げ、困窮家庭の生徒に教科書を無料で提供、寄宿生活費を補助

 中央財政 279億8000万元

B困窮学生への学資援助

 中央財政 95億1000万元

(4)医療・衛生

中央財政予算のなかで医療・衛生へ振り向けられる支出は、312億7600万元(前年度比86.8%、145億3600万元増)である。

(5)社会保障・就職支援

中央財政予算のなかで社会保障・就職支援へ振り向けられる支出は、2019億2700万元(前年度比13.9%、246億9900万元増)である。

(6)科学技術

中央財政予算のなかで科学技術へ振り向けられる支出は、881億2100万元(前年度比20.1%増)である。

(7)地方財政支援

A主として中西部地域に振り向ける一般的移転支出 1924億元(前年度比397億元増)

B民族地域への移転支出 210億元(前年度比54億元増)

C財政困難な県・郷支援 奨励・補助金335億元(前年度比100億元増)

(8)司法・治安

A中央財政予算のなかで貧困地域の公安・検察・司法補助に向けられる支出は、64億9000万元(前年度比5億6000万元増)である。

B中央財政予算のなかで公共安全へ振り向けられる支出は、594億8300万元(前年度比28.3%、131億2500万元増)である。

(9)国防

中央財政予算のなかで国防に向けられる支出は、3472億3200万元(前年度比17.8%、524億9800万元増)である。

(10)外交

中央財政予算のなかで外交に向けられる支出は、230億元(前年度比37.3%、62億7100万元増)である。

(11)一般的公共サービス(中央政権の整備、国債利払い)

 中央財政予算のなかで一般的公共サービスに向けられる支出は、2160億元(前年度比3.2%、67億9500万元増)である。

 

3.税制改革

(1)企業所得税制の統一

 内資・外資の企業所得税制を統一し、「企業所得税法」実施条例と関連施策・措置を検討・制定する。

(2)増値税

 生産型から消費型への転換改革[1]を全面的に実施する具体案と関連措置の検討・制定を急ぐ。

(3)その他

 新規の資源税制度を策定・実施する。

 新規の耕地占用税の整備と実施に力を入れる。

 不動産課税(物業税)の実施案を検討する。

 燃料税の改革案の充実化を急ぎ、時機を選んで実施に移す。

 印紙条例の改正を検討する。

 不動産の税による規制に関わる政策・措置を絶えず充実させる。

 

4.予算制度改革

(1)土地譲渡収入

 全ての土地譲渡による収支を地方政府基金の予算に組み入れ、土地譲渡の収支に関する監督管理を強化する。

(2)政府の収支科目分類の改革

 農業部をはじめとする14の中央部門(企業)において、経済分類に基づく科目支出の予算編成のテストを行い、予算編成を更に細分化する。

(3)補助金(専項資金)管理の規範化

 新規補助金科目の開設を厳格に規制し、国の法規、国務院の公文書(文件)に明確に規定されたものを除き、中央財政で補助金科目を新設する場合は、国務院の認可を受けなければならない。

 補助金の配分を規範化し、資金管理の規定を充実させ、それを公開・透明・規範化させるよう努める。

 補助金科目を整理・統合し、できる限りその支出の重複を減らす。

 

5.財政報告の留意点

(1)建設国債発行は減額されているが、公共事業総額は増加している

 これまでは、建設国債発行減と税収による公共事業増は同額に調整されてきたが、2007年は建設国債発行の減額100億元とともに、税収内で行う政府投資が250億元増大しており、投資総規模は1304億元と150億元増加している。

 これは、政府活動報告において、農村の生産・生活条件の改善、基礎教育・公共衛生等社会事業、西部大開発への投入を2006年より上回らせるよう、具体的指示があったためであろう。

なお、国債発行の減額により、中央財政赤字の対GDP比は2006年の1.3%から、2007年には1.1%に下がる見込みである[2]

(2)中央予算安定調節基金の創設

 これまでの財政報告は税収減の要因を強調し、年度収入の伸びをできるだけ低く見積もってきた。例えば、2006年度中央予算では、2005年度の収入実績見込み1兆7249億元に対し、11.7%増の1兆9272億元を収入として計上している。しかし、実際には10%を超える実質成長が続いているため収入の伸びははるかに高く、2006年度実績見込みは2兆1232億元(23%増)となっていた。

 中国の場合、予算の修正は比較的緩やかであり、国債を増発しない限りは税収の伸びに応じて支出予算を増額執行してもよく、その使途は全人代に事後報告すれば足りることになっている。2006年の中央財政の収入超過分2573億元は次のように使用された。

 a地方への租税還付・移転支出 231億元

 b教育支出 16億元

 c社会保障支出 241億元

 d石油特別収益金補助金 372億元[3]

 e公共事業 100億元[4]

 f自動車道路建設、備蓄用石油の購入、大中型ダムの建設による移転住民への補助 135億元

 g「3つの奨励・1つの補助」[5]、チベット農民・牧畜民への補助、密輸取締経費補助、通関補助支出 35億元

 h輸出に係る税還付 613億元

 i中央財政赤字削減(国債発行減) 200億元

 j2007年度給与調整及び関連支出 130億元

 k中央予算安定調節資金創設 500億元

 

 しかし、毎年このように収入を低めに見積もり、収入超過分を政府が事後報告のみで裁量的に使用したのでは、全人代の予算監督機能が事実上十分に機能していない、という批判があった。

 そこで、今回超過収入のうち500億元を使用して中央予算安定調節資金が創設されたのである。財政報告の解説によれば、「更に科学合理的に予算を編成し、中央予算の安定性を維持するため、中央予算安定調節基金を設立し、専ら短期の年度予算執行収支の赤字を補填するために用いる。中央財政収入予算は財政部が徴収管理部門の意見を徴求したうえで編成してきたが、今後は徴収管理部門の徴収計画とは直接の関わりはなくなる。中央予算安定調節基金の使用・繰り入れの予算管理は全人代及び全人代常務委員会の監督を受ける」としている。これは、予算の民主的監督の観点からは前進といえよう。

 この基金の創設により、2007年度の報告からは税収減要因の説明がなくなっており、収入の伸びの見込みも15%と高くなっている。そして、もし税収の伸びでこれが達成できない場合には基金から420億元が組み入れられることになっているのである。

 

(3)地方への財政移転支出

 従来は、「財政力補強目的の移転支出」という細目があったが、2006年度予算以降はこれが用いられなくなり、日本の地方交付税に該当し、主として中西部に振り向ける「一般的移転支出」という項目が用いられるようになった[6]。しかし、その額は、地方助成全額1兆5809億元に比べ、1924億元と余りにも小さい。

(4)予算が使途目的別に分類されている

 2006年度から予算分類の再編の試みが行われていたが、今回は支出分類が、公共事業、三農、教育、医療・衛生、社会保障・就職支援、科学技術、地方財政支援、司法・治安、国防、外交、一般的公共サービス(含む国債利払い)と分かりやすくなった。これについて、財政報告は、支出について機能分類(政府の各種機能を反映)と経済分類(各種支出の経済的性質と具体的な用途を反映)に分けることにより、これまでの「体系が不合理で、内容が不完全で、分類が非科学的で、明細が反映されない」弊害を克服することが可能となったとしている。

(5)ODAは再び曖昧に

 2006年度予算では、対外援助支出85億元が明記されていたが、2007年度は外交の項目が230億元となっているだけで、対外援助の項目は無くなった。

 したがって、外交の項目の中に対外援助が入っているかはにわかには判断できないが、外交支出の伸びをみると前年比37.3%、62億7100万元増とかなりの伸びとなっている。

他方、2006年度の対外援助は前年比13.8%、10億3000万元増となっていた。外交予算が対外援助以外で40%近く増大することは通常考えられないので、ここには対外援助が含まれていると考えるのが常識的であり、かつ外交予算の伸びの相当部分を対外援助が占めているのではないかと想像される。

 中国はエネルギー・資源戦略の一環として、アフリカ・中央アジア等への援助攻勢を強めており、2007年度の対外援助予算は大幅に増加したと思われる。しかし、最近非民主主義国家への対外援助が国際的批判を浴びていることもあって、数字の公開をやめたのであろう。

(6)省・県・郷鎮の関係

 これまで地方の行政区は、省・自治区・直轄市―地区級市―県・県級市―郷鎮―村と多段階になっており、それぞれに独自の財政が存在するため、地方財政制度は非常に複雑になっていた。

 しかし、これでは財政資金管理が杜撰になるため、現在「省による県財政の直接管理、県による郷財政の管理」という改革が進められている。

 財政報告によれば、「省による直接管理」とは、県クラスの財政困難を緩和し、政府予算の層次が多すぎる問題を解決するため、現行行政体制と法律の枠組み内で、省クラスの財政が県(市)の財政を直接管理する方式である、とする。管理の方式は各地の具体的状況により異なるが、地域によっては財政体制・移転支出・決算・収入の報告説明・資金の配分・債務管理等を全面的に省の直接管理とし、地域によっては主要な補助金・資金の配分を県の直接管理とすることとしている。

 「県による郷財政の管理」とは、郷鎮政府の財政管理の法的な主体的地位を変えず、財政資金の所有権・使用権を変えず、郷鎮が保有する債権・負担する債務を変えないとの前提の下、県クラスの財政部門が予算編成、口座の統合開設、収支の集中、買い入れの統合処理、領収書の統合管理といった面で、郷鎮財政に対し管理・監督を行い、郷鎮財政の管理水準の向上を支援するものである、とする。郷鎮政府は、県クラス財政部門の指導下で予算・決算・予算の調整案を編成し、組織的に予算を執行することになる。

(7)補助金の整理・合理化

 これまで補助金(専項資金)は、各所管官庁が地方政府との交渉で支出額を決定しており、年度を越えて支出も可能であるなど所管官庁の裁量性が極めて高く、腐敗の温床と指摘されてきた。

 このため、財政報告は新規補助金の設立を厳格に抑制し、法規等で明確に定められていない場合には新規補助金の設立は国務院の認可を必要とすることとした。また、補助金を整理・合理化し、支出の重複をできるだけ減少させることとしている。これも財政の透明化の一環である。(2007年3月12日記・6,063字)


 


[1] 設備購入に係る増値税を仕入れ税額控除の対象とするもの。
[2] 2006年の国債発行残高の対GDP比は16.9%である。
[3] 石油価格の高騰によってコスト増となった農業・林業・漁業への補助、エネルギー開発、省エネ、環境保全等のプロジェクトに振り向けられた。
[4] 主として、社会主義新農村建設に振り向けられた。
[5] 財政の困難な県政府に対する省・市政府の移転支出増の奨励、県・郷政府の機構・人員簡素化の奨励、食糧生産の多い県への奨励、県・郷財政の困難を緩和した地域への補助。
[6] 従来の「財政力補強目的の移転支出」は、2005年度執行見込みで3812億元とそれなりの大きさであったが、一般的移転支出は2005年度執行見込みで1121億元とかなり額が小さい。その差額が具体的に何なのか(一部は民族地域向け159億元、財政困難な県・郷への奨励・補助150億元と思われる)については説明がない。

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