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第17回党大会の経済的意義(1)

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

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2007年11月9日

記事概要

10月15日から開催されていた中国共産党第17回全国大会は、10月22日胡錦涛総書記の報告と党規約改正を承認し、閉幕した。続いて開催された党1中全会は、新指導部を選出した。本稿では、この一連の動きを特に経済面を中心に解説する。

はじめに

 10月15日から開催されていた中国共産党第17回全国大会は、10月22日胡錦涛総書記の報告と党規約改正を承認し、閉幕した。続いて開催された党1中全会は、新指導部を選出した。本稿では、この一連の動きを特に経済面を中心に解説する。

 

Ⅰ.胡錦涛報告の概要

胡錦涛総書記は、大会初日の10月15日、「中国の特色ある社会主義の偉大な旗印を高く掲げ、小康社会の全面的建設の新たな勝利を勝ち取るために奮闘しよう」と題する報告(以下「報告」)を行った。ここでは、経済部分を中心に解説する[1]

 

大会の主題

まず大会の主題であるが、「中国の特色ある社会主義の偉大な旗印を高く掲げ、鄧小平理論と『3つの代表』重要思想を導きとして、科学的発展観を深く貫徹実施し、引き続き思想を解放し、改革開放を堅持し、科学的発展を推進し、社会の調和を促進し、小康社会の全面的建設の新たな勝利を勝ち取るために奮闘する」ことであるとする。

この主題は次のように解題される。

①「中国の特色ある社会主義の旗印」は、現代中国が発展進歩をとげるための旗印であり、全党・全国各民族人民が団結奮闘するための旗印である。

②「思想の解放」は、中国の特色ある社会主義を発展させるための宝器である。

③「改革開放」は、中国の特色ある社会主義を発展させる強大な原動力である。

④「科学的発展、社会の調和」は、中国の特色ある社会主義を発展させるための基本的要請である。

⑤「小康社会の全面的建設」は、党・国家の2020年までの奮闘目標であり、全国各民族人民の根本的利益の拠って立つところである。

 このように主題を解説した後各論が展開されることになる。

 

1.過去5年間の活動

 自画自賛部分は余り意味がないので省略するが、報告は「我々の活動は人民の期待とはまだ小さからぬ開きがあり、前進のうちになお少なからぬ困難・問題に直面している」とし、高度に重視し、引き続き真剣に解決すべき際立った問題として次のものを列挙している。

①経済成長における資源・環境の代償が大きすぎる。

②都市・農村、地域間、経済と社会の発展が依然アンバランスである。

③農業の安定的発展と農民の持続的な増収が難度を増している。

④労働就業、社会保障、所得分配、教育・衛生、個人住宅、安全生産、司法・社会治安等の方面で、大衆の切実な利益に関わる問題が依然かなり多く、一部の低所得層の生活が比較的困難である。

⑤思想道徳建設の強化が急務となっている。

⑥党の執政能力と新情勢・新任務が完全に適応しておらず、改革・発展・安定についてのいくつかの重要な実際問題の調査研究が十分に深まっていない。

⑦一部の末端党組織が弱体化・弛緩している。

⑧少数の党員幹部の正しからぬ気風、形式主義・官僚主義の問題が比較的際立っており、奢侈・浪費、消極・腐敗現象が依然比較的深刻である。

 

2.改革開放の偉大な歴史プロセス

(1)改革開放の目的

 報告は、「改革開放は党の新時代の条件下において人民を率いて行った新たな偉大な革命である」とし、その目的について次の諸点を挙げている。

①社会の生産力を解放・発展させ、国家の現代化を実現し、中国人民を豊かにさせ、偉大な中華民族を振興する。

②わが国の社会主義制度の自己完備と発展を推進し、社会主義に新たな生気・活力を与え、中国の特色ある社会主義を建設し発展させる。

③現代中国の発展・進歩を導くなかで、党建設を強化・改善し、党の先進性を維持・発展させ、党が常に時代の前列にいることを確保する。

(2)改革開放の重要性

 報告は改革開放のこれまでの経緯を振り返り、「改革開放は現代中国の命運を決定するカギとなる選択であり、中国の特色ある社会主義を発展させ、中華民族の偉大な復興を実現するために必ず通らなければならない道であることは、事実が雄弁に証明している。社会主義のみが中国を救いうるのであり、改革開放のみが中国を発展させ、社会主義を発展させ、マルクス主義を発展させることができる」と強調する。

そして「改革開放は新しい偉大な革命である以上、一路順風満帆であるはずはないし、一時に成就できるものでもない。最も根本的なことは、改革開放は党と人民の心に合致し、時代の潮流に順応しており、方向・道筋は完全に正確であり、成果と功績は否定されるべきものではなく、停頓・後退してしまえば活路がないということである」とする。

さらに、「改革開放という歴史的プロセスにおいて、わが党はマルクス主義の基本原理を堅持することと、マルクス主義の中国化の推進を結びつけることにより、(中略)我々のように十数億の人口を抱える発展中の大国が、貧困から脱却し、現代化を急速に実現し、社会主義を強固に発展させるという貴重な経験を得ることができた」のだとする。

(3)中国の特色ある社会主義

 報告は、「改革開放以来、我々が得た一切の成績・進歩の根本原因は、中国の特色ある社会主義の道を切り開き、中国の特色ある社会主義の理論体系を形成したことに帰結する。中国の特色ある社会主義の偉大な旗印を高く掲げることの最も根本は、この路線と理論体系を堅持しなければならないということである」とする。

A中国の特色ある社会主義の道

 「中国共産党の指導の下、基本的な国情に立脚し、経済建設を中心とし、4つの基本原則[2]を堅持し、改革開放を堅持し、社会生産力を解放・発展させ、社会主義制度を強固に完備し、社会主義市場経済・社会主義民主政治・社会主義先進文化・社会主義の調和のとれた社会を建設し、富強・民主的・文明的で調和のとれた社会主義現代国家を建設することである」とし、「現代中国において中国の特色ある社会主義の道を堅持することは、即ち社会主義を真に堅持することである」とする。

B中国の特色ある社会主義の理論体系

 「鄧小平理論、『3つの代表』[3]重要思想及び科学的発展観等の重大戦略思想を含む科学的理論体系である」とする。そして、この理論体系は「マルクス・レーニン主義、毛沢東思想を堅持・発展させたもの」であり、「マルクス主義の中国化の最新成果」であり、「『共産党宣言』発表後160年の実践は、マルクス主義は自国の国情と結びつき、時代の発展とともに進歩し、人民大衆と運命を1つにしてこそ、強大な生命力・創造力・感化力を発揮することができることを証明している」とする。さらに「現代中国において、中国の特色ある社会主義の理論体系を堅持することは、即ちマルクス主義を真に堅持することである」とする。

C妨害の排除

 「全党の同志は、党が艱難辛苦を経て切り開いた中国の特色ある社会主義の道と理論体系を一層大切にし、長期に堅持し、不断に発展させなければならない」とする。そして「いつまでも硬直化することなく、いつまでも停滞することなく、いかなるリスクを恐れることなく、いかなる妨害にも惑わされることなく、中国の特色ある社会主義の道を更に進み、更に広げていかなければならない」とする。

 

3.科学的発展観を深く貫徹実施する

(1)現段階の基本的国情

 報告は、科学的発展観がマルクス主義・毛沢東思想等旧来の党の指導思想と矛盾するものではないことを強調したうえで、科学的発展観は「わが国経済社会の発展の重要な指導方針であり、中国の特色ある社会主義を発展させるうえで堅持・貫徹しなければならない重大な戦略思想である」とする。

 そして、この戦略思想が打ち出された背景として、「新世紀の新段階に入り、わが国の発展に一連の新たな段階的特徴が現れた」とし、次の諸点を指摘する。

①生産力の水準が総体としてまだ高くなく、自主的な創造・革新能力がまだ強くなく、長期に形成された構造的矛盾と粗放型の成長方式がなお根本的に改変されていない。

②発展に影響する体制メカニズムの障害が依然存在し、改革の堅塁攻略は深層の矛盾・問題に直面している。

③所得分配格差の拡大傾向は未だ根本的に転換しておらず、都市・農村の貧困人口と低所得人口はなお相当数存在し、全体的な計画の中で各方面の利益に配慮することが益々難しくなっている。

④農業の基礎は脆弱であり、農村の発展の立ち遅れは未だ改変されず、都市・農村、地域間の格差を縮小し、経済社会の調和のとれた発展を促進する任務は、非常に困難である。

⑤民主・法制の建設は、人民民主の拡大と経済社会の発展の要請にまだ完全に適応しておらず、政治体制改革を引き続き深化させる必要がある。

⑥人民の精神文化面の要求が日増しに旺盛になり、人々の思想活動の独立性・選択性・多様性・差異が明白に強まっており、社会主義の先進文化へのより高い要求が提起されている。

⑦社会構造・社会組織の形式・社会利益の構造に深刻な変化が発生しており、社会の建設・管理は多くの新課題に直面している。

⑧わが国が直面する国際競争は日増しに激烈になっており、先進国が経済・科学技術において優位を占めることによる圧力は長期に存在し、予見可能ないし予見しがたいリスクが増加しており、国内の発展と対外開放を統一的に企画する要請は更に高まっている。

 報告は、このような「わが国の発展の段階的特徴は、新世紀の新段階における社会主義初級段階の基本的国情の具体的表現である」とする。そしてこのような基本的国情を踏まえたうえで、「わが国の発展が直面している新たな課題・新たな矛盾を深刻に把握し、更に自覚をもって科学的発展の道を歩み、中国の特色ある社会主義が更に広範に発展する前途を力の限り切り開かなければならない」とするのである。

(2)科学的発展観の意義

 報告は「科学的発展観は、第一義的には発展であり、核心は人間本位であり、基本的要求は全面的で調和のとれた持続可能性であり、根本的な方法は各方面に配慮して計画することである」とする。以下はその解題である。

A発展を党の執政・興国の第一の要務とすることを堅持しなければならない

 「発展は、小康社会を全面的に建設し、社会主義現代化の推進を加速するうえで、決定的な意義を有する」とされる。発展の理念を革新し、発展の質・効率を高め、良好で速い発展を実現するとともに、社会構成員が団結融和した調和のとれた発展を実現すること等が要請されている。

B人間本位を堅持しなければならない

広範な人民の根本的利益をうまく実現・擁護・発展させることを常に党・国家の全活動の出発点・足がかりとし、共同富裕の道を歩み、「発展は人民のためにあり、発展は人民に依拠し、発展の成果を人民が共に享受しなければならない」こと等が挙げられている。

C全面的で調和のとれた持続可能な発展を堅持しなければならない

 「資源節約型・環境にやさしい社会を建設し、(発展の)速度と構造・質・効率の統一を実現し、経済発展と人口・資源・環境を協調させる」こと等が要求されている。

D各方面に配慮して計画することを堅持しなければならない

 これまでの「5つの統一的企画」[4]に加え、新たに中央と地方の関係、個人の利益と集団利益、一部の利益と全体の利益、現在の利益と長期的利益、国内と国際という2つの大局を統一的に企画することが強調されている。また、全局を牽引する主要な活動の推進に力を入れ、大衆の利益に関わる際立った問題について重点的に突破を図らなければならない等としている。

(3)科学的発展観の貫徹実施

 報告は、科学的発展観を深く貫徹実施するためには、次の点が必要だとする。

A常に「1つの中心・2つの基本点」という基本路線を堅持しなければならない

 「経済建設という中心と、4つの基本原則と改革開放という2つの基本点を、中国の特色ある社会主義を発展させるという偉大な実践に統一させ、いかなるときも決して動揺してはならない」とする。

B社会主義の調和のとれた社会を積極的に構築しなければならない

 「社会の調和は中国の特色ある社会主義の本質的属性である。科学的発展と社会の調和は内在的に統一している。科学的発展なしには社会の調和はなく、社会の調和なくして科学的発展は実現し難い」とし、「社会主義の調和のとれた社会を構築することは、中国の特色ある社会主義事業の全過程を貫徹する長期にわたる歴史的任務であり、発展の基礎の上に各種の社会矛盾を正確に処理する歴史過程であり社会的結果である」とする。

また、「発展を通して社会の公平正義を保障し、社会の調和を不断に促進しなければならない。社会の公平正義を実現することは、中国共産党員の一貫した主張であり、中国の特色ある社会主義を発展させるうえでの重大任務である」とし、人民が最も関心をもち、最も直接的で、最も現実的な利益問題の解決に力を入れること等が要求されている。

C引き続き、改革開放を深化させなければならない

 改革の方向をいささかも動揺することなく堅持し、重要な領域・部分での改革の歩みを加速し、開放水準を全面的に高めるとともに、「人民の生活改善を改革・発展・安定の関係を正確に処理することの結合点とし、改革が常に人民の擁護と支持を得るようにしなければならない」とする。

D党の建設を適切に強化・改善しなければならない

 「党の執政能力を引き上げ党の先進性を維持・発展させることにより、科学的発展の指導、社会の調和の促進を体現させ、中国の発展・進歩を導き広範な人民の根本的利益をより良く代表し実現させ、党の活動と党の建設が科学的発展観の要請に符合するようにし、科学的発展観のために拠って立つべき政治的・組織的保障を提供する」ことが要請されている。

 報告は最後に、全党同志は「科学的発展観に符合しない思想・観念の転換に力を入れ、科学的発展に影響を与え制約する際立った問題の解決に力を入れ」、「科学的発展観を経済社会の各方面に貫徹実施させなければならない」としている。

 

4.小康社会の全面的に建設するという目標の実現に向けた新たな要請

 次の諸点が発展に対する新たな、より高い要請として挙げられている。

(1)発展の協調性を増強し、経済の良好で速い発展の実現に努力する

 「発展方式の転換で重大な進展を得るとともに、構造改善・効率向上・省エネ・環境保護の基礎の上に、1人当たりGDPが2020年に2000年の4倍になることを実現する」とする。また、社会主義市場体制の一層の整備、自主的な創造・革新能力の顕著な向上、消費・投資・輸出が協調して牽引する成長構造の形成、主体的機能区の配置の基本的形成、社会主義新農村の建設、都市人口比率の顕著な増加が挙げられている。

(2)社会主義民主を拡大し、人民の権益と社会の公平・正義をよりよく保障する

 公民の政治参加の秩序ある拡大、法治の徹底、政府の基本公共サービス能力の顕著な増強等が挙げられている。

(3)文化の建設を強化し、全民族の文明的素質を顕著に高める

(4)社会事業の発展を加速し、人民の生活を全面的に改善する

 現代的な国民教育体系の整備、社会における雇用の充実、都市・農村をカバーする社会保障体系(基本的生活保障・基本的医療衛生サービス)の基本的確立とともに、「合理的で秩序立った所得分配構造が基本的に形成され、中等所得者が多数を占め、絶対貧困現象が基本的に解消される」ことが目指されている。

(5)生態(エコ)文明を建設し、省エネ・省資源・生態環境保護の産業構造・成長方式・消費モデルを基本的に形成する

 「循環経済がかなり大規模に形成され、再生可能エネルギーの比重が顕著に上昇する。主要汚染物質の排出が有効に抑制され、生態環境の質が明白に改善する。生態文明の観念が全社会に牢固に確立される」とする。

 

5.国民経済の良好で速い発展を促進する

 報告は「将来の経済発展目標を実現するカギは、経済発展方式の転換加速と、社会主義市場経済体制の完備の面で重大な進展を得ることにある」とする。

(1)自主的な創造・革新(イノベーション)能力を高め、創造・革新型国家を建設する

 「これは国家発展戦力の核心であり、総合国力を高めるカギである」とされる。

(2)経済発展方式を早急に転換し、産業構造の改善・グレードアップを推進する

 「これは国民経済の全局に関わる緊迫した重大な戦略任務である」とする。具体的には、次の転換を意味する。

①内需とりわけ消費需要を拡大することを堅持し、経済成長が主として投資・輸出の牽引に依存することから、消費・投資・輸出が協調して牽引することへ転換する。

②主として第2次産業が牽引することから、第1次・第2次・第3次産業が共に牽引することへ転換する。

③主として物質・資源の消費に依存することから、主として科学技術の進歩、労働者の資質の向上、管理のイノベーションに依存することへ転換する。

④情報化と工業化の融合を大いに促進し、規模の大きい工業から実力のある工業への転換を促進する。

 なお、最近の外国からの批判を踏まえてか、「製品の質と安全を確保する」という表現も盛り込まれている。

(3)都市・農村の発展を統一的に企画し、社会主義新農村建設を推進する

 「農業・農村・農民問題をうまく解決することは、小康社会の全面的建設の大局に関わるものであり、常に全党の活動の重点中の重点としなければならない」とする。

 具体的には、「工業により農業を促進し、都市が農村を牽引する長期に有効なメカニズムの確立」、耕地の厳格な保護、農業への投入の増加、農産品の質・安全水準の向上、多用なルートによる農民の移転就業、農村の総合的改革、農村金融体制改革、土地請負経営権の譲渡市場の健全化、農民の専業合作組織の発展等が挙げられている。

(4)エネルギー・資源の節約と生態環境保護を強化し、持続可能な発展能力を増強する

 「資源節約と環境保護という基本的国策を堅持することは、人民大衆の切実な利益と中華民族の生存発展に関わることである」とし、資源節約型で環境にやさしい社会の建設を各職場・家庭にまで実施するとともに、立法の充実、省エネ・主要汚染物質排出減活動の責任制の実施、土地と水資源の保護、省エネ・環境保全への投入増、水・大気・土壌等の汚染対策の重点強化等を挙げている。

(5)地域間の調和のとれた発展を推進し、国土開発の構造を改善する

 「地域間の発展格差を縮小し、基本的な公共サービスの均等化の実現を重視し、生産要素の地域を越えた合理的流動を誘導しなければならない」とし、国土計画の強化、主体的機能区形成の要請に基づく地域政策の整備と経済配置の調整、牽引力が強く連携が緊密な若干の経済圏・経済ベルト地帯の形成、大中小都市と町の調和のとれた発展、特大都市を拠点とし放射作用の大きいメガロポリスの形成等を挙げている。

(6)基本的な経済制度を整備し、現代的な市場体系を健全化する

 「公有制を主体とし、多様な所有制経済が共同発展する基本的経済制度を堅持し、いささかも動揺することなく公有制経済を強固に発展させ、いささかも動揺することなく非公有制経済を奨励・支援・誘導し、物権を平等に保護することを堅持し、各種所有制経済が平等に競争し相互に促進する新たな構造を形成する」とし、現代企業制度の健全化、国有経済の活力・支配力・影響力の増強、独占業種改革の深化を図るとともに、公平な市場参入許可を推進し、融資条件を改善し、体制的障害を除去することにより個人・私営経済と中小企業の発展を促進するとする。また、現代的財産権制度を基礎とした混合所有制経済の発展、統一され開放された秩序ある競争の現代市場体系の形成促進、市場需給関係・資源の希少の程度・環境損失コストを反映した生産要素・資源価格の形成メカニズムの整備、社会信用体系の健全化等が挙げられている。

(7)財政・税制・金融等の体制改革を深化させ、マクロ・コントロール体系を整備する

 「基本的公共サービスの均等化と主体的機能区の建設の推進を中心として、公共財政体系を整備する」とする。

①財政・税制

予算制度改革の深化、中央と地方の財政力と事務権限が釣り合った体制の健全化、統一的で規範化された透明な財政移転支出制度の早急な形成、一般的移転支出の規模・比重の引上げ、省レベル以下の財政体制の整備による末端政府の公共サービス能力の増強等が挙げられている。

②金融

金融体制改革の推進、各種金融市場の発展、多様な所有制と多様な経営形式による、構造が合理的で、機能が整備され、高効率で安全な現代金融システムの形成、銀行業・証券業・保険業の競争力の向上、多様なルートによる直接金融の比重の引上げ、金融監督管理の強化・改善による金融リスクの防止・除去等が挙げられている。

③人民元

「人民元レートの形成メカニズムを整備し、資本項目の兌換可能性を徐々に実現する」としている。

④投資

「投資体制改革を深化させ、市場参入許可制度を健全化・厳格化する」とする。

⑤その他

国家計画体系の整備、国家発展計画・産業政策のマクロ・コントロールにおける誘導作用の発揮、財政・金融政策の総合運用、マクロ・コントロール水準の向上が挙げられている。

(8)対外開放をより広く・深く推進し、開放型経済の水準を高める

 「対外開放という基本的国策を堅持し、『国外からの導入』と『海外進出』をうまく結びつけ、開放領域を拡大し、開放構造を改善し、開放の質を高め、内外が連動し、互恵・Win-Winの、安全で効率の高い開放型経済体系を整備し、経済のグローバル化の条件の下、国際経済協力・競争に参加するための新しい優位性を形成する」とする。

①対外貿易の転換加速

「品質による勝負に立脚し、輸出構造を改善し、加工貿易のパターンの転換とグレードアップをはかり、サービス貿易の発展に力を入れる」とする。

②外資利用方式の革新

「外資利用の構造を改善し、自主的な創造・革新、産業のグレードアップ、地域間の協調発展等の方面において外資利用の積極的な役割を発揮させる」とする。

③対外投資・協力方式の革新

 「研究開発・生産・販売などの方面で企業が国際化経営を展開することを支援し、わが国の多国籍企業・国際的著名ブランドの育成を加速する。国際エネルギー・資源の互恵的協力を積極的に展開する。FTA戦略を実施し、バイ・マルチの経済貿易協力を強化する」とする。

④国際収支・国際経済リスク

 「総合的な措置を採用し国際収支の基本的均衡を促進する。国際経済リスクの防止に重点をおく」とする。

 

6.社会主義民主政治を断固として発展させる(経済関連部分のみ)

「党の指導と、人民の主人たる地位と、法による治国を有機的に統一することを堅持し、人民代表大会制度、中国共産党が指導する多党協力と政治協商制度、民族地域自治制度、末端の大衆自治制度を堅持・完備する」とする。

(1)人民民主を拡大し、人民の主人としての地位を保証する

 「党の主張が法定されたプロセスを通じて国家の意志とすることに長じる」こと、都市部・農村部で徐々に同じ人口比率により人代代表を選挙するようにすること、政治協商を政策決定プロセスに組み入れること等が提案されている。

(2)末端の民主を発展させ、人民が更に多く更に適切な民主的権利を享受することを保障する

 都市・農村における管理が秩序立ち、サービスが整備され、文明が穏やかなコミュニティの建設、企業における従業員の合法的権益の擁護、郷鎮政府機構改革の深化による末端政権の建設強化等が挙げられている。

(3)法によって国を治めるという基本方略を全面的に実施し、社会主義法治国家の建設を加速する

 法に基づく行政の推進、司法体制改革の深化、厳格・公正・文明的な法執行等が挙げられている。

(4)愛国統一戦線を壮大にし、団結可能なパワーを全て結集する

 「民主党派・無党派人士が国政への参加、国政審議・民主的監督機能を更によく履行することを支援し、より多くの党外幹部を選抜し、指導的職務に就ける」とする。また、「新たな社会階層の人々が中国の特色ある社会主義建設に積極的に身を投じるよう奨励する」としている。

(5)行政管理体制改革を加速し、サービス型政府を建設する

 「行政管理体制改革は、改革を深化させるうえで重要なポイントである」とし、「行政管理体制改革の全体案を早急に制定し、機能の転換・関係の整理・構造の改善・効率の向上に力を入れ、権限と責任が一致し、合理的に分業を行い、科学的に政策決定を行い、スムーズに執行され、監督に力の入った行政管理体制を形成しなければならない」とする。

 このため、公共サービス体系の整備、政府と企業の分離・政府と国有資産の分離・政府と事業体との分離・政府と市場仲介組織との分離の速やかな推進、政府のミクロ経済運営への関与の減少、中央の縦割り部門と地方政府の関係の規範化、部門による政策の重複問題の解決等が挙げられている。

(6)制約と監督のメカニズムを整備し、人民から賦与された権力が常に人員の利益をはかるために用いられることを保証する

 政府活動の透明度と、大衆の政府への信頼度を向上させることが強調されている。

 

7.社会主義文化の大発展と大繁栄を推進する(経済関連部分のみ)

 文化の面における国家のソフトパワーを向上させなければならない、とされる。

(1)社会主義の核心となる価値体系を建設し、社会主義イデオロギーの吸引力・凝集力を増強する

 愛国主義・社会主義の栄辱感が強調されるとともに、「各種の誤った思想・腐敗した思想の影響を力強く食い止める」とする。

(2)調和のとれた文化を建設し、文明の気風を育む

 メディア・文学・芸術を「正しく導くことを堅持」するとともに、インターネット文化の建設と管理の強化、愛国主義・集団主義・社会主義思想の発揚、信義誠実意識の増強に重点をおいた、社会の公衆道徳・職業モラル・家庭の美徳・個人の品行の建設強化を強調している。

(3)中華文化を発揚し、中華民族の共通の心の故郷を建設する

 中華の優秀な文化・伝統の教育を強化し、中華文化の国際的影響力を増強する、としている。

(4)文化の創造・革新を推進し、文化の発展活力を増強する

 ここでは、文化産業の発展が強調されている。

 

8.民生の改善を重点とする社会建設の推進を加速する

 「調和のとれた社会の建設を推進する」ことが明記されている。

(1)教育の発展を優先し、人的資源の強国を建設する

 「教育は民族振興の礎石であり、教育の公平は社会の公平の重要な基礎である」とする。

 このため、経済困窮家庭、出稼ぎ農民の子女が平等に義務教育を受けることを保障すること等が挙げられている。

(2)就業拡大の発展戦略を実施し、創業による就業拡大を促進する

 「就業は民生の根本である」とする。

 このため、農村余剰労働力の移転・就業のための職業訓練の強化、都市・農村労働者が平等に就業する制度の形成、就業ゼロ家庭の就業困難解決の援助、大卒者の就業促進、国家の出稼ぎ農民に対する政策の整備・実施等が挙げられている。

(3)所得分配制度の改革を深化させ、都市・農村住民の収入を増加させる

 「合理的な所得分配制度は、社会の公平の重要な体現である」とする。このため、次の方針が列挙されている。

①労働・資本・技術・管理等の生産要素がその貢献に応じて分配に参加する制度を健全化し、第1次分配・再分配ともに効率と公平の関係をうまく処理し、再分配においては公平をより重視しなければならない。

②国民所得の分配における個人所得の比重を徐々に高め、第1次分配における労働報酬の比重を引き上げなければならない。

③低所得者の収入の引上げに力を入れ、貧困扶助と最低賃金の基準を徐々に引き上げ、企業従業員の賃金が正常に増加するメカニズムと支払いを保障するメカニズムを確立しなければならない。

④更に多くの大衆が財産所得をもつよう条件を創造する。

⑤合法的な所得を保護し、高すぎる所得を調節し、違法な所得を取り締まる。

⑥移転支出の拡大、税制による調節強化、経営独占の打破、機会の公平の創造、分配秩序の整頓により、所得分配格差の拡大傾向を徐々に反転させる。

(4)都市・農村住民をカバーする社会保障体系を早急に確立し、人民の基本的生活を保障する

 「社会保障は社会の安定の重要な保証である」とし、「社会保険・社会救済・社会福祉を基礎とし、基本年金・基本医療・最低生活保障制度を重点とし、慈善事業・商業保険を補充とする社会保障体系の整備を加速する」とする。このほか、「低家賃の受託制度を健全化し、都市の低所得家庭の住宅難を早急に解決する」としている。

(5)基本的な医療・衛生制度を確立し、全国民の健康水準を高める

 「健康は人の全面的な発展の基礎であり、幾千万世帯の幸福に関わるものである」とする。このため、「都市・農村住民をカバーする公衆衛生サービス体系・医療サービス体系・医療保障体系・薬品供給保障体系を建設し、大衆に安全・有効・便利・低廉な医療・衛生サービスを提供する」とともに、(新型肺炎SARS等の)突発的な公共衛生事件への応急処置能力の向上、公立病院改革の深化、国の基本的な医薬品制度の確立、医療サービスの質の向上、食品・医薬品の安全の確保等が挙げられている。内外の批判を受け、「安全・安心」のウエイトが高まっていることが分かる。

(6)社会の管理を完備し、社会の安定・団結を維持する

 「社会の安定は人民大衆の共通の願望であり、改革・発展の重要な前提である」とする。

 このため、人民内部の矛盾の妥当な処理、投書・陳情受理制度を整備する一方で、突発的な事件の応急管理メカニズムを整備し、社会治安の総合対策を強化し、「各種の分裂・浸透・転覆活動を高度に警戒し、断固として防ぎとめ、国家の安全を適切に維持する」としている。「突発事件」とは年10万件ともいわれる大衆の抗議行動を指すのであろう。

 

9.国防と軍隊の現代化建設の新たな局面を切り開く(経済関連部分のみ)

 「国家の安全と発展戦略という全局的な高みに立ち、経済建設と国防建設を統一的に企画し、小康社会の全面的建設のプロセスにおいて富国と強力な軍隊の統一を実現しなければならない」とし、「各レベルの党組織・政府・人民大衆はこれまで同様国防・軍隊の建設を支援し、軍隊は経済社会の発展に引き続き貢献しなければならない」とする。

 このほか、科学的発展観を重要な指導方針とすること、軍隊に対する党の絶対的指導という根本原則を常に堅持すること、情報化戦争に打ち勝つため機械化と情報化の複合的発展を加速すること、武器・装備の開発・製造における自主的なイノベーション能力と質・効率を向上させること、武装警察を強化し国家の安全と社会の安定の維持をしっかり履行させること等が挙げられている。

 

10.「一国二制度」の実践と祖国の平和統一の大業を推進する

 台湾については、「1つの中国の原則を決して動揺することなく堅持し、平和的統一を勝ち取るための努力を決して放棄せず、台湾人民に希望を寄せるという方針を決して変更することなく貫徹し、『台湾独立』の分裂活動には決して妥協することなく反対する」とし、「現在、『台湾独立』の分裂勢力は分裂活動に拍車をかけており、両岸関係の平和的発展に深刻な危害を加えている。両岸の同胞は共に『台湾独立』の分裂活動に反対し、これを防止しなければならない」「いかなる者がいかなる名義・いかなる方式をもってしても、台湾を祖国から分割することは絶対に許さない」とする。

 他方で、海峡西岸その他台湾資本の投資が相対的に集中している地域の経済発展を支援し、経済文化交流を強化し、直接の「三通」(通信・通航・通商)を推進する、ともしている。

 

11.常に変わることなく平和発展の道を歩む

 報告は「現在の世界は大変革と大調整の中にある」とし、「平和と発展は依然時代のメインテーマであり、(中略)世界の多極化は逆転することは不可能であり、経済のグローバル化は深く発展し、(中略)国際情勢は総体として安定している」とする。

しかし他方で、「世界は依然不安定であり、覇権主義と強権政治[5]は依然存在し、局地的な紛争やホットスポットの問題があちこちで発生し、世界経済のアンバランスは激化しており、(中略)世界の平和と発展は多くの難題と挑戦に直面している」とも指摘する。

このような認識のもと、「我々は、各国人民が手を携えて努力し、平和が維持され共に繁栄する調和のとれた世界の建設を推進することを主張する」とする。

 中国自身の外交政策については、「中国は常に変わることなく平和発展の道を歩む。(中略)中国は防御的な国防政策を実行しており、軍備競争を行わず、いかなる国家にとっても軍事的脅威となることはない。中国は様々な形式による覇権主義・強権政治に反対し、永遠に覇を称えず、永遠に拡張を行わない」とする。また、「周辺国家との善隣友好と実務を重視した協力を強化する」としている。

また対外経済政策については、「中国は常に変わることなく互恵・Win-Winの開放戦略を実行する。(中略)我々は国際貿易・金融体制を支援し、貿易・投資の自由化・利便化を推進し、折衝と協力を通じて経済貿易摩擦を妥当に処理する。中国は決して他人を損なって自己の利益をはかり、他国にデメリットを押し付けるようなことはしない」とする。

 

12.改革・イノベーションの精神により、党建設の新しい偉大なプロジェクトを全面的に推進する

 報告は、「わが党は既に設立86年となり、全国に執政を行って58年となり、7000万余りの党員を擁している。党自身の建設任務は、過去のいかなる時期よりも重くなっている。党が改革開放を指導したことは、党に巨大な活力を注入したが、同時に党はこれまでにない新たな課題と新たな試練に直面することとなった。世界情勢・国情・党情勢の発展・変化は、改革・イノベーションの精神により党建設を強化することが十分重要であり、十分緊迫していることを決定づけている」とする。このため、「腐敗に対する懲罰・予防のシステムの整備を重点としながら、反腐敗・廉潔提唱を強化し、党が常に公のために立党し、民のために執政し、真実を求め実際を重んじ、改革・イノベーションに取り組み、刻苦奮闘し、廉潔・公正を守り、活力にとんだ団結・融和のマルクス主義執政党であるようにしなければならない」とする。

(1)中国の特色ある社会主義理論体系を深く学習・貫徹し、マルクス主義の中国化の最新成果により全党の武装に力を入れる

 「全党において科学的発展観を深く学習・実践する活動を展開」し、広範な党員・幹部は「共産主義の遠大な理想と中国の特色ある社会主義の共同理想の確固たる信奉者、科学的発展観の忠実な実行者、社会主義栄辱観の自覚的実践者、社会の調和の積極的促進者とならなければならない」とされている。

(2)党の執政能力の建設を引き続き強化し、素質の高い指導部の建設に力を入れる

 「科学的な執政、民主的な執政、法に基づく執政の要請に基づき、指導部の思想・作風を改善し、指導幹部の執政能力を高め、指導方式・執政方式を改善し、指導体制を健全化する」とともに、「各レベルの指導部を、党の理論と路線・方針・政策を断固として貫徹し、科学的発展観の指導に長じた確固たる指導集団に築き上げなければならない」とする。

(3)党内の民主建設を積極的に推進し、党の団結・統一の増強に力を入れる

 「党内の調和を増進することにより社会の調和を促進する」こと、一部の県(市・区)を選定し党の代表大会の常任制を試行すること、「中央政治局が中央委員会全体会議に対し、地方各レベルの党委常務委員会が委員会全体会議に対し、定期的に活動報告を行い監督を受ける制度を確立・健全化する」こと、末端党組織指導部の直接選挙範囲を徐々に拡大すること、「全党同志は党の集中・統一を断固として維持し、党の政治紀律を自覚的に遵守し、常に党中央と一致を保持し、中央の権威を断固として擁護し、中央の命令のスムーズな実行を保証する」こと等が要求されている。

(4)人事制度改革を不断に深化させ、素質の高い幹部陣・人材陣の育成に力を入れる

 「科学的発展観と正確な政治業績観の要請を体現する幹部考課・評価システムを整備する」こと、「正確な人材登用方針を堅持し、才徳兼備・実績重視・大衆の公認の原則に基づき、人材登用の公的な信頼度を高める」こと、「若手幹部の育成・選抜を強化し、若手幹部が末端や困難な地域で鍛錬し成長することを奨励する」こと、「女性幹部・少数民族幹部の育成・選抜を重視する」こと、「末端や生産の第一線から優秀な幹部を選抜し、各レベルの党政指導機関の充実に注意を払う」こと等が要求されている。

(5)先進性教育活動の成果を全面的に強固に発展させ、末端の党建設の強化に力を入れる

 「流動する党員の管理を強化・改善し、出稼ぎ農民における党の活動を強化し、都市・農村を一体とした党員の動態管理メカニズムを確立・健全化する」こと、「農村、企業、都市コミュニティと政府機関、学校、新たな社会組織等の末端党組織建設を全面的に推進する」こと等が要求されている。

(6)党の作風を適切に改善し、反腐敗・廉潔提唱の建設強化に力を入れる

 「中国共産党の性格と主旨は、党と各種の消極・腐敗現象が火と水の如く相容れないものであることを決定づけている。腐敗を断固として懲罰し有効に予防することは、人心の向背と党の生死・存亡に関わることであり、党が常にしっかり把握しなければならない政治任務である」とし、「大衆の利益に損害を与える不正の気風を断固として正し、大衆の反応が強烈な問題を適切に解決する。紀律違反・法規違反の案件を断固として調査・処分し、いかなる腐敗分子も法に基づき厳格に懲罰を科し、決して容赦してはならない」とする。

 

むすび

 報告は最後に、「わが党は誕生のときから、中国人民を率い幸福な生活を創造し、中華民族の偉大な復興を実現するという歴史的使命を勇敢に担ってきた」とする。そして「わが党が現在全国各民族・人民を率いて進めている改革開放と社会主義現代化建設は、新中国が成立以後のわが国の社会主義建設の偉大な事業の継承・発展であり、近代以来の中国人民が民族独立を勝ち取り、国家の富強を実現するという偉大な事業の継承・発展である」とする。

 そして、「全党同志は、小康社会の全面的建設という目標の実現には、引き続き十数年の奮闘が必要であり、現代化の基本的実現には更に引き続き数十年の奮闘が必要であり、社会主義制度を強固に発展させるには、数代・十数代甚だしきは数十代のたゆまぬ努力・奮闘を堅持する必要があることを冷静に認識しなければならない」とする。「奮闘には困難・リスクもある」が、「驕りやあせりを戒め、刻苦奮闘し」、「団結を強化し、全大局に配慮し、自覚をもって全党の団結・統一を維持し、党と人民大衆の血肉の連係を保持し、全国各民族・人民の大団結を強固にし、内外の中華子女の大団結を強化し、中国人民と世界各国人民の大団結を促進することによって、一切の困難・障害に勝利し、党と人民の事業が新たなより大きい勝利を勝ち取ることを促すための強大なパワーを必ず提供しなければならない」と強調する。

 

Ⅱ.胡錦涛報告の特徴

 今回の報告の経済政策面での特徴は、以下の諸点にまとめることができよう。

 

1.改革開放の再強調

 改革開放は、「偉大な革命」「中国の命運を決定するカギ」「必然の道」であるとし、改革開放のみが中国・社会主義・マルクス主義を発展させると強調する。また、改革開放の方向・道筋は完全に正確であり、これが停頓・後退すれば中国の活路はないとする。

 鄧小平理論を党規約に盛り込むことが主要テーマであった1997年の第15回党大会であればともかく、この時期になぜ改革開放を再強調しなければならなかったのだろうか。

 これは2004年以降、保守派・新左派による改革開放批判が高まり、2006年3月の全人代において胡錦涛総書記が改革開放継続の必要性を強調したにも関わらず、7月12日に17名の前部長クラスの幹部・退職外交官・退役軍幹部・学者が連名で胡錦涛総書記に対し、改革開放を批判する公開状[6]をネット[7]で発表したことがあろう。大会を目前にして党の亀裂が表面化したのである。党の基本路線である「1つの中心・2つの基本点」の基本点の1つである改革開放が揺らいだ状態では、将来の経済政策を打ち立てようがない。そこで冒頭において改革開放が不動の方針であることを再確認する必要があったのであろう。

 このこともあり、今回の報告では「党の団結・統一」「中央の権威の擁護」が強調されている。

 

2.中国の特色ある社会主義の旗印

 改革開放路線は維持するとして、これだけでは中国は一体どこに進もうとしているのかはっきりしない。保守派・新左派は「改革開放は資本主義化の道にほかならない」と批判しているからである。

 党大会前日に開催された記者会見で、スポークスマンの李東生は「中国の特色ある社会主義の偉大な旗印を高く掲げることを強調しているのは、わが党が今後いかなる旗印を掲げ、いかなる道を歩むのかという、党内外・国内外で普遍的に関心がもたれている重大問題につき、集中的かつ鮮明に回答したものである」と答えている(人民網北京電2007年10月14日)。

(1)「社会主義の調和のとれた社会」の追加

 報告では、中国の特色ある社会主義の道を堅持することが社会主義を真に堅持することであり、中国の特色ある社会主義の理論体系を堅持することである、とされる。この「道」であるが、報告では社会主義「市場経済」「民主政治」「先進文化」「調和のとれた社会」の4つを建設することであるとする。

 この点につき、新華社北京電2007年10月16日は、報告の冒頭で「中国の特色ある社会主義を発展させる」とされていることに着目し、「17回党大会報告で『中国の特色ある社会主義の建設』という表現が『中国の特色ある社会主義の発展』と改められたことには深刻な含意があり、これはわが党が新しい歴史的起点から出発し、中国の特色ある社会主義が、より広範な発展の前途を切り開く新たな長い歩みを開始したことを表明するものである」と解説する。

この新たな理念のもと、これまでの「経済建設・政治建設・文化建設」という三位一体構造が、今回の報告では新たに「社会建設」を加えた四位一体構造に改められ、これに対応して奮闘目標も従来の「富強・民主的・文明的な社会主義現代国家の建設」から「富強・民主的・文明的で調和のとれた社会主義現代国家の建設」に改められたのだと新華社電は指摘している。

党大会直前には、最近指導部が「社会主義の調和のとれた社会」を口にせず、「社会の調和」という表現が多用されることになったことを根拠に、今回の報告には「社会主義の調和のとれた社会」は盛り込まれないのではないかとの憶測も出ていた。しかし、実際には中国の特色ある社会主義の道の内容として盛り込まれていたわけである。報告は「16回党大会及び16回党大会以後中央が行った各種の重大な政策決定は、完全に正確であったことを実践が証明している」としており、前年の党6中全会で決定されたばかりの「社会主義の調和のとれた社会」が完全に抹消されるということは、政変でも生じない限りあり得ないことであろう。

(2)5つの道

 また、前述の新華社電は、3万字近くに及ぶ報告の中から「中国の特色ある・・・の道」と表現されているものを拾い上げ、「中国の特色ある社会主義の道」は5本の具体的な道で示されていると指摘する。即ち、「中国の特色ある自主的な創造・革新の道」「中国の特色ある新しい工業化の道」「中国の特色ある農業現代化の道」「中国の特色ある都市化の道」「中国の特色ある政治発展の道」である。

(3)理論体系

 鄧小平理論・「3つの代表」重要思想・科学的発展観の重大戦略思想を含む科学的理論体系であるとする。「等」の中には「社会主義の調和のとれた社会」が潜んでいるのであろう。他方、マルクス・レーニン主義と毛沢東思想は、もはやそのままの形では「中国の特色ある社会主義の理論体系」には包摂されず、マルクス主義は「中国化」され、毛沢東思想は「発展」という形で大幅に修正されているのである。

 党大会を前に、保守派・新左派は党規約から鄧小平理論と「3つの代表」の削除を求めていたと言われるが、実際にはマルクス・レーニン主義と毛沢東思想が「中国の特色ある社会主義」の下にますます影が薄くなるという皮肉な結果となった。しかも報告は、「いかなる妨害にも惑わされることなく」と反対派の排除も示唆しているのである。

 

3.科学的発展観の貫徹実施

 科学的発展観は、中国が21世紀に入り1人当たりGDPが1000ドルを突破し、発展が新段階に入ったところで直面した新たな課題・矛盾に対応するための発展観である。具体的には、人間本位の、各方面に配慮を行い、全面的で調和のとれた持続可能な発展を目指すことになる。これは、「わが国経済社会の発展の重要な指導方針」であり、「堅持・貫徹しなければならない重大な戦略思想である」とされる。

(1)各方面への配慮

 これまで科学的発展観は、「5つの統一的企画」(都市と農村の発展、地域間の発展、経済社会の発展、人と自然の調和のとれた発展、国内発展と対外開放を統一的に企画する)が中心であったが、これに加えて中央と地方、個人の利益と集団の利益、一部の利益と全体の利益、現在の利益と長期的利益、国内と国際という2つの大局を統一的に企画することが要求されることになった。企画に際して配慮すべき事項が著しく増加したわけであり、発展に伴い利害関係の調整が複雑多様化していることが分かる。

 特に前述の新華社電は「国内と国際という2つの大局の統一的企画」に着目し、「これは、経済のグローバル化に全面的に参加し、世界への依存度が日増しに深まるという大きな背景の下、わが党が提出した新たな統一企画の理念である」とし、「これは、世界的視点を樹立し、戦略的思考を強化し、国際情勢の発展・変化から発展のチャンスを掴むことに長じ、リスクに対応し、良好な国際環境を作り出すことが、科学的発展観を貫徹実施し、経済社会の良好で速い発展を促進するための『根本的な方法』の1つであることを表明するものである」としている。

(2)社会主義の調和のとれた社会の構築

 胡錦涛指導部の提起した2つの重大戦略思想の1つである「調和社会」が、もう1つの科学的発展観の中で語られている。報告では「科学的発展と社会の調和は内在的に統一している。科学的発展なしには社会の調和はなく、社会の調和なくして科学的発展は実現し難い」とする。

 確かに、科学的発展観の中心部分である「5つの統一的企画」には、調和の要素が元々含まれている。「調和社会」が目標であり、「科学的発展観」がその実現方法であることからすれば、両者が表裏一体であるのは当然であろう。

 この扱いにより、「調和社会」の扱いは江沢民が提起した「全面的な小康社会」より一歩さがったように見えるが、報告は「社会主義の調和のとれた社会を構築することは、中国の特色ある社会事業の全過程を貫徹する長期にわたる歴史的任務である」としており、2020年までの奮闘目標に過ぎない「全面的な小康社会」より高次の目標となっているのである。

(3)改革開放の深化

 ここでも改革の加速と開放水準の向上が強調されているが、「改革が常に人民の擁護と支持を得るようにしなければならない」という記述がある。スローガンの時代は過ぎ、人民の具体的な生活改善につながらなければ、もはや改革開放は広範な人民の支持を得られないのである。

(4)党建設

 各レベルの指導部を科学的発展観を指導するプロ集団にするとともに、党中央との一致を強く要請し、幹部考課・評価システムにも科学的発展観と正確な政治業績観を反映させるとしている。面従腹背の地方指導者に対する強い牽制であろう。

 

4.「小康社会の全面的な建設」の部分修正

 報告は、「新たな要請」という形で、2002年の「全面的な小康社会」を「科学的発展観」「調和社会」に沿った形に内容の上書きを行っている。このように従来の江沢民の表現を表面上維持しながら、中身の上書きを行うのは胡錦涛指導部の常套手段である[8]

(1)発展方式の転換

 従来の「成長方式の転換」を「発展方式の転換」に改めた。前述の新華社電は「1つの言葉が変わっただけだが、含意は重大な変化が発生した。経済発展は経済成長と同じではない」と指摘する。

 この点につき、国家発展・改革委員会の朱之鑫副主任は10月18日の記者会見において、「これは決して2文字の変更ではなく、深刻な含意があり、わが党の経済発展問題の認識の変化を反映したものである」とし、以下の3点を指摘している(人民網2007年10月18日)。

①科学的発展観を実施する要請をよりよく体現したものである

 経済成長方式は主として投入・産出を指すが、経済発展方式の内容は豊富であり、全面的である。経済発展は経済成長を含むだけでなく、構造の不断の改善・資源利用効率の不断の向上・生態環境の不断の改善を要求するものであり、この基礎の上に成長を実現するものである。

②社会主義市場経済を発展させる要請をよりよく体現したものである

 「成長」を「発展」に変えたことは、政府と市場の役割を正確に区分することに資する。社会主義市場経済の条件下では、資源配分における市場の基礎的作用を十分に発揮させなければならない。党と政府は、むしろ積極的に市場を誘導し、内需を拡大し、経済構造を調整・改善し、自主的な創造・革新能力を向上させること等について計画を編成し、政策を制定し、政府投資を配分し、マクロ・コントロールを行い改革を深化させることを出発点として、経済の良好で速い発展を推進しなければならない。

③主要な矛盾と際立った問題を把握するという要請をよりよく体現したものである

 成長方式の転換では、予期した効果は得がたい。根本から産業構造と需要構造の調整、自主的な創造・革新能力の向上をしっかり把握し、不断に消費需要・サービス業の発展・科学技術の進歩が経済成長にもたらす作用を増強する必要がある。「成長」を「発展」に変えたことは、わが国の現段階の発展の特徴を体現したものであり、問題解決の対応力が更に強化されることになり、現実的な意義を有するものである。

2006年の中央経済工作会議において、「経済の速く良好な発展」が「経済の良好で速い発展」に改められ、成長率より成長の質を重視する方向が鮮明になった。今回の語句の変更は、これを一段と徹底させるものといえよう。「発展方式の転換」は具体的には、経済成長が、①投資・輸出依存から、消費・投資・輸出が協調した牽引への転換、②第2次産業による牽引から、第1次・第2次・第3次産業の共同牽引への転換、③物質・資源消費依存から、科学技術の進歩、労働者の資質の向上、管理のイノベーション依存への転換、がうたわれている。

なお、情報化と工業化の融合を促進し、規模の大きい工業から実力のある工業への転換

も強調されているが、今回の報告においては、社会主義初級段階の発展の任務として、従来の「工業化・都市化・市場化・国際化」に新たに「情報化」追加されている。また、軍事面においても情報化が強調されているのである。

(2)2020 年の1人当たりGDPを2000年の4倍に

 第11次5ヵ年計画(2006-2010年)の方針を2020年まで延長している。

 国家統計局の李暁超総合計画司長は、10月25日の記者会見において、「2000-2006年に、わが国の1人当たりGDPは7858元から1万6084元に上昇しており、比較可能な価格ベースでは2006年の1人当たりGDPは2000年の1.69倍に相当する。4倍計画からすると、2006年までの6年間ですでに計画の42.3%を実現しており、これからすると2007-2020年の1人当たり平均GDPが平均5.4%成長すれば目標を達成できる」と指摘している(新華網2007年10月25日)。現実の高成長に目標を合わせたということであろう。

 ただ、李司長は同時に「この成長速度から見れば、この目標はたいして大きな困難はないようであるが、前進中の矛盾・問題を必ず十分に推し量らなければならず、とりわけ1人当たりGDPが2000ドル以上に達する時期は、経済が高成長する時期であるとともに、リスクがかなり大きい時期でもあり、リスクを防止してこの目標のよりよい実現を勝ち取る必要がある」と付言している。

(3)新たな追加要請

 「科学的発展観」「調和社会」の要請に基づき、自主的な創造・革新能力の向上、消費・投資・輸出が協調して牽引する成長構造の形成、主体的機能区[9]の基本的形成、社会主義新農村の建設、都市化の推進のほか、社会主義民主の拡大、文化建設の強化、社会事業の発展、省エネ・省資源・生態環境保護の産業構造・成長方式・消費モデルの形成が挙げられている。これにより各論では、「民生の改善」に関する記述が大幅に盛り込まれた。また、今回の報告では初めて「生態文明」という言葉が盛り込まれている。

 

5.その他

 社会主義民主政治の堅持すべき制度として、今回の報告において従来の人民代表大会制度・政治協商制度・民族地域自治制度に加え、新たに「末端における大衆の自治制度」が盛り込まれた。また、出稼ぎ農民等流動化する党員の管理強化がうたわれており、末端部分における政治改革の推進と党組織の建て直しが大きな課題となっていることが窺える。

 

むすび

 2007年10月22日付けの人民日報社説は、「大会は胡錦涛同志の行った報告を高度に評価した」とし、本報告は「党内外、国内外に対し、改革発展のカギとなる段階においてわが党がどのような旗を掲げ、どの道を歩み、どのような精神状態で、どのような発展目標に向けて引き続き前進するのかを宣言し、戦略的思考と先見的視点からわが国の改革発展のマクロの青写真を描いたもの」であり、「マルクス主義の綱領的文献であり、全国各民族・人民を導いて小康社会の全面的建設における新たな勝利を勝ち取り、中国の特色ある社会主義の新局面を切り開く行動綱領である」とする。しかし、このような見解を示さなければならない事じたい、政策の方向性をめぐり党の内部亀裂・地方の面従腹背が深まっている事の証左でもあろう。(2,007年10月記・21,919字)


 


[1]  なお、ここで引用している報告は大会開催時に配布された案文ではなく、大会閉幕後10月24日に新華社が公表した文章に基づいている。
[2]  社会主義の道、人民民主主義独裁、共産党の指導、マルクス・レーニン主義及び毛沢東思
[3]  党が常に先進的生産力発展の要請、先進的文化の前進方向、最も広範な人民の根本的利益を代表すること。ただし、胡錦涛総書記はこれを「立党は公のため、執政は民のため」と言い換えている。
[4]  都市と農村の発展、地域間の発展、経済と社会の発展、人と自然の調和のとれた発展、国内発展と対外開放を統一的に企画すること。
[5]  これは通常アメリカ合衆国の対外政策を意味する。
[6]  華人週報2007年7月26日によれば、その内容は「党の指導者は国家を誤った道に導いており、外国を崇拝し媚びており、プロレタリア革命に背き、国家・社会の安定に危害を及ぼしている。エリツィンのような人物が出現すれば、中国は正に邪悪な道を歩むことになろう。社会主義は非常な危機にあり、中華民族は最も危険な時期に達した」というものであったとする。
[7]  華人週報2007年7月26日によれば、このサイトは「毛沢東旗幟網」というもので、毛沢東生誕110周年の2003年に自称「毛沢東を熱愛する老同志」100余名によって開設され、新旧左派が毛沢東時代を偲び、現在の政府の政策を否定する文章を発表する場になっているという。
[8]  例えば、胡錦涛総書記は、2001年7月に江沢民が行った「3つの代表」に関する重要講話の内容を、2003年7月に行った同じく「3つの代表」に関する重要講話において「立党は公のため、執政は民のため」と上書きを行っている。
[9]  第11次5ヵ年計画において、国土を最適化開発区、重点開発区、開発制限区、開発禁止区に4区分し、最適化開発区から重点開発区に工場を移転し、開発制限区・開発禁止区から人口を移転することにより、発展と生態環境保護を両立させようとしている。

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