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中国の政府機構改革をめぐる議論

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

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2008年3月22日

記事概要

昨秋の第17回党大会で政府機構改革の方針が打ち出された後、メディアで「大部制」 の議論が活発化したが、全人代が近づくに連れて慎重論が強くなり報道も激減している。ここでは時系列的に最近のメディアの論調をたどっていくことにしたい。

はじめに

 昨秋の第17回党大会で政府機構改革の方針が打ち出された後、メディアで「大部制」[1]の議論が活発化したが、全人代が近づくに連れて慎重論が強くなり報道も激減している。ここでは時系列的に最近のメディアの論調をたどっていくことにしたい。

 

1.中新網2008年1月14日

 現在、国務院が関係部門に委託し関連した専門課題の研究を行っており、課題報告は1月20日までに国務院に提出されることになっている。

 わが国の今の政府機構の欠陥は、ミクロの管制が多すぎ、マクロ経済管理・市場監督管理部門、社会管理・公共サービス部門が機構設置・機能配分・定員編制の上で比較的脆弱だということである。

 国家行政学院公共管理教研部の李軍鵬教授の大まかな統計によると、現在国務院の部門の間には80余りの職責があり、建設部門だけでも、国家発展・改革委員会、交通部門、水利部門、鉄道部門、国土部門等24部門と職責の交錯が存在する。このほか、農業の生産前・生産中・生産後の管理は14の部・委員会が関係している。

 行政機能の欠陥と交錯は経済に副作用を及ぼしている。中国経済体制改革基金会の樊綱秘書長は、その研究成果の中で1999-2005年にわが国の行政コストが経済成長にマイナス1.73%の効果を及ぼしているとし、政府改革を早急に議事日程にのせ、GDPに占める行政コストを引き下げるべきだと指摘している。

 中国人民大学管理学院の毛寿龍教授は、新たな機構改革においては、国務院構成部門の改革の重点は依然として次の3点であるとする。

①経済調節と市場監督管理機能の部門の改革は、マクロ・コントロールを強化し、ミクロの関与を減少させる。

②公共サービス機能を有する部門の改革は、機構改革を通じて事業単位[2]の改革を促進する。

③国有企業の改革は、市場経済の一層の発展のために良好な競争環境を創造する。

 毛教授は、近日完成した政府機構改革課題報告において、大部門体制改革は次の2段階に分けて進行するのがよいとしている。

①2008年は小範囲において大部制をテスト的に実施し、交通・農業等の領域でテストを行い、経験・教訓を総括する。その後、事業単位の改革を徐々に推進し、その基礎の上で公共サービス領域の機構改革を推進する。

②2013年には、これまでの改革の成果を強固にした上で、政治・機能・組織階層面での改革を更に進行する。

 

2.大地雑誌社2008年1月17日

 国家情報化諮問委員会委員、国家行政学院公共管理部の汪玉凱教授にインタビューを行っている。汪教授は長年政府改革の研究を行っており、今回の改革にも参与している。

(1)大部門体制の意義

 大部門体制あるいは大部制は、政府部門の設置において、機能が近く業務範囲が似ている事項を相対的に集中し、1つの部門で統一的管理を行うことであり、大部制の長所は、次の3点である。

①部門・機構の数量を減少し、行政コストを引き下げることができる。

②政府機関の間で、機能分業が過度に細分化されることによる政府機能の交錯・重複が原因となり、施策が各部門からバラバラに打ち出され、多頭制による管理をもたらすことを有効に回避できる。

③内容の近い業務を統一的に管理することにより、部門間の連絡が悪く協調が難しいといった、政府が日常的に遭遇する通弊を防止することが可能となる。

(2)大部制改革の原因

 これは我々の体制の元々の発展と体制自身に存在する問題と関係がある。

 中国は建国以後、30年間計画経済を実施してきた。計画経済の顕著な特徴は、部門が多く設置され、縦割りによる管理が実施され、部門による専制政治が行われることである。例えば、当時の機械工業部には通常機械・電子機械・兵器・飛行機等を所管する9つの部が置かれていたが、これは典型的な計画経済の産物である。

 計画経済体制の解体と市場経済の確立に伴い、政府部門も必然的に調整がなされてきた。1982年からわが国は前後5回の大きな行政管理体制改革を実施してきた。しかし、海外に目を向けると、特に成熟した市場経済国家と比べると、わが国の政府部門の設置は依然かなり多い。例えば、現在国務院の構成部門は依然28であるが、日本は12、米国は15、英国は17である。

 政府機能の交錯と重複が政府管理の問題を引き起こしていることは、人々が普遍的に実感することができる。例えば、現在わが国の民航総局は空輸を所管しているが、交通部は水路と道路輸送を所管し、鉄道部は鉄道輸送を所管している。しかし米国は運輸部が陸・海・空の輸送を統括しているし、国によっては郵政・電信も包含した「大運輸」の考え方もある。

 市場経済体制を実行するには、資源配分において市場が真に基礎的な役割を発揮しなければならず、これは必然的に大部制による管理に向かうことになる。わが国の実情から見ると、計画経済から市場経済に向かうことにより、政府がミクロ経済に過度に関与しないことが客観的に要求される。これは、政府体制が大部制管理に向かうべきことを反映したものである。

(3)「小さな政府・大きな社会」について

 「小さな政府・大きな社会」のイメージとは、政府の規模が大きすぎず、多くの金を自分自身に使用させないことを人々が望んでいるということであろう。しかし、政府の規模と管理能力の大小は、政府が負うべき責任と適応していなければならない。現代社会の1つの重要な特徴は、社会の分業がますます細分化し、新領域において政府の管理の必要が出てきていることである。

 いわゆる「小さな政府・大きな社会」と大部制は異なる含意があり、2者はそれぞれ特定の範囲を有しており、単純に同等ないし対立するものとすべきではない。「小さな政府」の内部であっても機能をごちゃまぜにするわけにはいかず、所要の部門・司を設置し、社会の管理とサービスの提供を行わなければならない。

(4)改革の難点

 わが国のような体制下では、大部制がいったい十分有効かどうか、確立の過程でどのような阻止力に遭遇するかは、我々が関心をもつべきことがらである。

 例えば、大部制管理を実行して後1つの部門が更に大きくなり、有効な権力の制約メカニズムが確立できなくなることになりはしないか、という点は重要である[3]

 また、与党の機構設置面において、政府の大部制とどう対応させていくのか、重複・重層はないかという問題がある[4]。さらに大部制管理モデルの下において、全人代が機構設置の面で、大きな部の権力に対する監督・コントロールをいかに強化するかという問題もある。

 具体的な推進プロセスにおいて、大部制改革を一度に完成させるか、徐々に改革するのか、まずどの領域の改革を選択するのか等の問題は、いずれも我々が真剣に考えなければならないことである。

(5)大部制の障害

 次の4つの問題が注意に値する。

①「政策決定・執行・監督」による相互協調・相互監督制約の改革思考に基づき、いかに政府の権力構造と運営メカニズムを再構築し、大部制改革に対する権力監督の保障を提供するかである。

 とくに大部制の改革に際しては、行政機能を有する事業単位の改革を統一的に考慮すべきである。これにより機能の全体としての分化が実現し、権力への構造的な制約メカニズムが確立されることになる。また公権力の外部監督として、全人代・司法・大衆・メディア等がいかにこの方面で役割を発揮できるかが、大部制改革にとって重大なチャレンジとなる。

②部門利益は確実に大部制改革の前に立ちはだかる1つの問題である。

 大部制が部門利益を有効に抑制できるか否かも、最もカギとなる問題の1つである。過去の部門間における権限の交錯・意思決定までの時間の長さ・コストの高さ・意思疎通の悪さの原因は、部門利益の深刻な影響によるものであり、いわゆる「権力の部門化、部門の利益化、利益集団化」が政府の運営コストを大変高いものにし、効率を大変低くし、甚だしきは部門の利益が大衆の利益を凌駕しているのである。

 大部制改革は分散している部門利益を集積することにより、部門利益が集中化してしまう可能性があると心配する人がいる。もし1つの部門がウルトラ級の部となってしまえば権力は肥大化し、これを監督することはさらに困難になるおそれがある。

③大部制は政治体制改革を牽引する可能性がある。

 政治体制改革の推進なくして、真の大部制は確立し難いだろう。深層の観点からすると、大部制改革の考え方・方向は、最終的には必然的に党・政府・全人代等のシステムに及ぶことになる。なぜなら、これは党・政府にまたがるものであり、さらには党の権力と政府の権力のすり合わせについて考慮しなければならなくなるからである。この問題は非常に重要である。例えば、文化部、ラジオ・テレビ総局と党中央宣伝部との関係、公安部、安全部と党政法委員会の関係、党中央組織部と人事部の関係等である。

 ここ数年、我々は党中央紀律委員会と監察部の事務局を合同させ、共同作戦をとることにより顕著な成果を上げた。党と政府部門をいかにより整理再編するかは、大部制改革を進めるうえで考えなければならない問題である。この意義からすれば、行政体制改革案を政治体制改革案に組み入れるべきであり、国家の権力構造から調整を行うべきである。このようにすれば、(大部制改革は)より長期を見渡したものとなろう。

④大部制改革の策略と方法も極めて重要である

 大部制改革の最大の阻止力は、依然として長年強化されてきた部門利益であることを見て取るべきである。このほか、「大部」内部の政策決定・執行・監督機構をどのように設置するか、権力をどのように切り分けるかについて我々は過去経験を有していない。このため、策略と方法が明らかに重要である。

 私が見るところ、中国の大部制改革は一度に完成させることは難しく、順を追って漸進的なプロセスを踏むべきである。まずは権限の交錯が際立ち、大衆に関わるサービス対象が広範で、外部の(改革の)呼び声が比較的大きい部門から開始し、その後徐々に拡大するべきであり、構造調整と機能の充実を必ず有機的に結合させなければならない。

 改革の上下のすり合わせという観点からは、我々は単一制国家なので上下の各レベルの歩調は一致している。したがって、中央が一歩先行しなければならない。今年3月に新たな政府が組成されるが、これは大部制の考え方に基づいて作られるべきである。

方案の制定プロセスにおいては、中央編制委員会及びその弁公室が重要な役割を果たすべきである。ただし密室で行うのではなく、問題によっては広範な討論に付すべきであり、特に大衆をより多く参加させなければならない。中央編制委員会が機構改革案を設定するに際しては、中央編制委員会に直属するハイレベルの専門家委員会を設置し、専門家の力を借りるとともに大衆の討論も加えることにより、大部制の整理再編に十分論証を行うことを提案する。このようにすれば、指導者個人の嗜好的要因を最大限度減少することができるし、科学的で長期的視野に立ち知恵のある、制度が規範化された大部制改革を堅持することができるのである。

 

3.広州日報2008年1月22日

(1)金融・交通領域の整理再編

 ある専門家は、次のように本紙に語った。

「金融が最も早く『大部委制』の改革領域に組み入れられる可能性がある。主要な理由としては、金融は市場化プロセスにおいて重要な役割を果たすものであり、もし内部設置機構が不合理であれば金融業それじたいの発展に影響を及ぼすからである。

また、エネルギー産業内の石炭・石油・電力等は国家発展・改革委員会、国家電力監督管理委員会等異なる部門の管理に分属しており、このような管理構造はわが国のエネルギー需要・管理局面に適応できない。大部委制は一度には達成できないだろうが、問題が際立ち、社会の反応が強烈になることにより、政府管理と最も密接な関係がある競合領域の性についてさらに市場化改革が進む可能性がある。このため、エネルギー・交通・金融が最も早く整理再編が図られる3領域となる可能性がある」

だが、別の専門家は次のように述べている。

「交通領域について言うと、整理再編の最大の問題は鉄道である。航空業は改革再編を通じて市場化の歩みが相対的にかなり速くなっており、公道については多くの国有大企業もすでに国有資産監督管理委員会に帰属している。しかし、大鉄道の最大の問題は、今に至るまで依然として政府・企業が分離していないことであり、交通を整理再編するには主として鉄道自身の改革の歩みを加速しなければならないのである。いったん整理再編が図られれば、運輸部の設立が可能となり、全運輸部門ばかりか場合によっては郵政をも整理再編できるかもしれない」

(2)改革の阻止力

 記者が取材したある専門家は次のような認識を示した。

 「大部委制の合併は一部の阻止力に直面している。定員面からすると、もし全部合併が完成すれば10前後の副部長職が減少する可能性があり、更には国務委員ポストも1つ減る可能性がある。これが最大の阻止力の1つとなるのではないか」

 

4.経済参考報2008年1月29日

 国家エネルギー部の設立について報じている。

 

 4.1 世論の高まり

(1)中国石油集団諮問センター 閻三忠主任

 エネルギー安全問題は、すでに政治・経済・社会・軍事・外交などの問題と緊密に交錯しており、わが国が高度に関心を払わなければならない重大問題である。

(2)全人代環境・資源保護委員会 王維城委員

 自分は3年連続「エネルギー部設立」の建議案を提出してきた。エネルギー問題は国家の利益全体に関わるものであり、エネルギー部の設立は焦眉の急である。

(3)中国石油経済技術研究院 劉克雨副院長

 エネルギーは交通同様に重要な基礎工業部門であり、わが国の現在の政府機構においては、民間航空・鉄道・交通の主管部門が別々に存在するが、石炭・電力・石油の三大エネルギー業種には政府主管部門が存在しない。この意味からも、エネルギー部の設立は必要である。

 エネルギー部の設立は大勢の赴くところであり、先行して設立させるべきである。現在、エネルギー部設立の条件はすでに基本的に成熟している。即ち、①国内にエネルギー部設立について既に共通認識が形成されている、②わが国のWTO加盟過渡期が終了し、政府管理機能の更なる調整が必要となっている。

(4)中国現代国際関係研究院世界経済研究所 陳鳳英所長

 世界第2のエネルギー消費国・第3のエネルギー生産国として、賦存量・増産量の観点からも、国際経験とわが国の国情からしても、我々は統一された権威あるエネルギー管理機関の設立を真剣に考慮すべきである。エネルギー部の設立は、①中国のエネルギー供給、②産業発展、③国際協力の観点から必要である。

 わが国の現段階でエネルギーの安全が直面しているリスクは、外部の脅威ではなく内部の多頭管理であり、制度が不完全で市場が混乱していることである。中国の現在の改革の主要任務は、エネルギー部を設立しエネルギー管理を全面的に強化することである。

(5)国家発展・改革委員会エネルギー研究所 周大地元所長

 エネルギー管理体制改革は、失敗を恐れて中止してはならない。困難や阻止力があるからといって、先延ばししてはならない。

(6)国土資源部石油・天然ガス・資源戦略研究センター 岳来群主任

 エネルギー問題は大事に関わるものであり、エネルギー部設立を遅らせてはならない。

(7)中国工程院 李京文院士

 エネルギー問題はすでに相当緊迫しており、エネルギー部設立の意義は重大である。中央は即断すべきである。

 

 4.2 しかし阻止力は小さくない

 エネルギー部設立の最大の困難は、部門間の権限配分・調整にあり、主要な阻止力は現在エネルギー管理に関わっている一部の部委及び副部長クラスをトップにもつ大型国有企業である。

(1)国家エネルギー領導小組弁公室メンバー(匿名)

 エネルギー部の設立に最も反対しているのは、当然ながらエネルギー・資源領域の市場参入許可・プロジェクトの審査許可・価格の制定等の権力を享有している部門である[5]。エネルギープロジェクトは往々にして数兆元の資金に波及し、価格の審査許可も同様に重要なので、権力部門は当然これを失いたくないのである。これが、ここ数年エネルギー部設立の呼び声が非常に高まっているにもかかわらず、一向に実現できない重要な原因である。

(2)国家発展・改革委員会エネルギー研究所 周大地元所長

 一部の副部長クラスをトップにもつエネルギー企業も実のところ、エネルギー部の設立を望んでいない。これらの企業は、一面において部分的な独占機能を有しており(例えば、中国石油・中国石化は原油の輸出入を独占している)、他方で彼らは現在問題が起これば直接総理・副総理に訴えて解決を図っている(例えば、2大電力網会社、5大発電会社、神華集団等)。エネルギー部が設立されてしまえば、彼らはこの特権を失うおそれがある。

(3)皇明太陽エネルギー集団 黄鳴董事長

 自分はエネルギー部設立に反対である。

将来エネルギー部は、現在の大型国有エネルギー企業の制約を受ける集権部門となろう。これらの大型国有エネルギー企業は、石炭・石油・電力等の伝統的エネルギー業種に大部分が集中しているため、エネルギー部は伝統的エネルギーの利益代弁者になる可能性があり、弱者の地位にある新エネルギー・再生可能エネルギーは国家のエネルギーの発展において発言権を失う可能性がある。

 

4.3 原則

(1)社会科学院米国研究所の羅振興博士は、新しく設置されるエネルギー部は次の4原則を堅持すべきであるとする。

①政策制定と監督管理を相対的に分離する

 当該機関は、主として政策制定を担当し、監督と法執行は相対的に独立したその他の監督管理機関が担当すべきである。

②マクロ管理の堅持

 企業の生産・経営に直接関与してはならず、主として基準の制定・資金支援を通じて誘導すべきである。

③サービスを基本とする

 エネルギーの情報収集・統計を強化し、新エネルギー企業を援助し、大企業の海外進出を支援し、科学技術の産業への普及・職業訓練を強化する。

④権力を相対的に集中する

 エネルギーの投資管理と市場参入許可等の権限を除き、トップが副部長クラスに相当する大型国有エネルギー企業に対しては、企業の責任者の考課・任命について当面は国有資産監督管理委員会と党中央組織部を参与させることができる。

(2)多くの専門家は、エネルギー部を設置するプロセスにおいては、次の2点に注意しなければならない、と指摘する。

①エネルギー部と国務院のその他の関連部委の関係を明確に画定すべきである

 当該機関の権力が不十分であることにより、果たすべき役割を発揮できなくなることを防止しなければならない。

②エネルギー部の権限には制限を加えるべきである

 機構の肥大化・権限の拡大を切に戒め、これが権力により私利を謀る新たな機関となることを防止しなければならない。

 

4.4 監督管理機関の独立

(1)国家発展・改革委員会エネルギー研究所 周大地元所長、社会科学院米国研究所 羅振興博士、中国現代国際関係研究院世界経済研究所 陳鳳英所長、国家電力監督管理委員会政策法規部 孫耀唯副主任等の専門家は次のように指摘している

 現在の国家発展・改革委員会エネルギー局をベースにエネルギー部を設置すべきである。同時に、国家エネルギー領導小組を残し、エネルギー部の下に副部長クラスのエネルギー業種監督管理機関を設置すべきである。これにより、中国の将来のエネルギー管理体制は、

 国家エネルギー領導小組―エネルギー部―電力監督管理委員会・国家炭鉱安全監察局及び新設の石油・天然ガス等業種監督管理機関

となる。

 この体制枠組みの下、現行の国家エネルギー領導小組は、政策を決定する参事機関として存置され、その下の弁公室はエネルギー部に組み入れられる。将来は、エネルギー領導小組は国家安全領導小組に編入されることを考慮してもよい。

 新設のエネルギー部と国家発展・改革委員会その他部委との関係については、まず国家発展・改革委員会の職責を明確化し、マクロ経済管理と発展戦略における位置づけを決めたうえで、国家発展・改革委員会の各司局に分散しているエネルギー管理機能を分離し、エネルギー部に帰属させるべきである。同時に、国土資源部・国家安全生産監督管理局等の単位が有している或いはまだ有していないエネルギー管理の専門的機能を具体的に分析し、残す・新設する・強化する・移転する・別組織にする等の方式により、新設のエネルギー部との間にかなり強い専業・分業と優位性の総合補完の関係を形成すべきである。

(2)国家電力監督管理委員会政策法規部 孫耀唯副主任

 わが国は現在、相対的に独立した電力市場監督管理機関を設立しており(国家電力監督管理委員会・国家炭鉱安全監察局)、将来エネルギー部の中でこの2つの機関は依然引き続いて運営できる。現在監督管理機関が未設立のエネルギー業種については、石油・天然ガス・核エネルギー・新エネルギーの監督管理委員会を別々に設立し、一定期間の模索を経て機関が相対的に成熟すれば、その独立運営を考慮してよい。エネルギー業種の監督管理機関を設立・整備すると同時に、将来エネルギー部が政策の制定と法に基づく監督管理を徹底的に分離できるよう保証しなければならない。

(3)中国石油集団経済技術研究院 劉克雨副主任

 エネルギー監督管理機関は政府の系列には属さないが、法に基づき監督管理機能を行使し、仲介機関としての役割を十分発揮させる。政府部門の繁雑な日常事務から解放し、政策の調査研究と制定に精力を集中させ、エネルギー活動のための外部環境を創造させる。政府主管部門・専業監督管理機関・業種協会・企業が相互に連係し、相互に作用し、相互に制約し、かつ機能がそれぞれ明確なシステムを形成する。

 

 4.5 エネルギー部の主たる機能

(1)全人代環境・資源保護委員会 王維城委員

 新設のエネルギー部は、以前の石炭・石油・電力等の業種と異なり、従来のエネルギー部門とも一線を画し、政府と企業が分離した、マクロ管理と統一的計画に従事する有能な総合行政部門であるべきである。

 新設のエネルギー部の主たる職責は、①国家のエネルギー発展戦略とエネルギー政策を制定し、②エネルギーの生産・消費状況に対して監督管理・指導を行い、③全国のエネルギーの安全生産を指導し、④エネルギーの安全と有効利用面での科学研究を組織的に行うことである。

(2)中国石油集団諮問センター 閻三忠主任、国土資源部石油・天然ガス・資源戦略研究センター 岳来群主任等の専門家は「大エネルギー部」の概念を提案している

 エネルギー部の管理範囲は、石油・天然ガス・石炭・火力発電・水力発電・原子力発電・新エネルギー・再生可能エネルギー等の多様なエネルギーをカバーすべきであり、川上・川下の統一的管理を実行し、各種エネルギーの発展間の相互関係の協調に力を尽くすべきである。同時に、重要な職責として、わが国のエネルギー外交・国家エネルギー安全保障を更に強化・推進しなければならない。

 

5.「瞭望」新聞週間2008年2月5日

 中央民族大学法学院の熊文釗教授と張偉研究生の論文を紹介している。

 

 5.1 大部門体制改革は順を追って漸進すべきである

 現状では、大部門体制は一度に完成することはできず、テストの部委を選択し、経験を累積して着実に推進するしかない。経験は累積できるが、改革のテストで失敗は許されない。失敗すれば改革は退潮し、大部門体制改革の歩みは容易に阻止され、あるいは大部門機構改革案は中途で挫折してしまうことになろう。このため、大部門体制をコアとした政府機構改革は目標を明確にし、全体計画により、着実に推進する必要がある。

(1)大部門体制の変革はトップダウンで進め、ボトムアップの方式でテストを行うことには慎重でなければならない

 もし、中央が部門の整理再編を行わないまま地方に先行させると、現行の行政体制下では必ず政策執行の上下不一致が生じ、命令が途中で阻まれる状況が発生するだろう。

(2)大部門体制を構築するには、政府機構設置について全体的な考慮が必要であり、要因・行政任務・現実の需要を十分考慮しなければならない

 部門の数は政府の事務範囲と部門設置の組織方法、行政のプロセス・規模の大小で決まるのであり、これらは職権の区分画定と原則的に関係する。部門の設置は、専業制と総合性を結合させ、「大部門」先にありきではなく効率的で協調的な統一を図るべきであり、一方にかまけて他方がおろそかになってはならない。

(3)集権と分権の関係をうまく処理しなければならない

 大部門体制改革は、事業単位改革と同歩調で推進すべきであり、政府と企業の分離・政府と事業単位の分離・政府と社会仲介組織との分離の原則に基づき進めるべきである。同時に大部門内部は、「政策決定・執行・監督」の行政分権の原則に基づき、職能別機構の配置・設計を進めるべきである。

(4)大部門改革の全体計画と段階的な改革推進案の関係をうまく処理しなければならな

 い

 大部門体制改革の全体案と目標を明確にできないまま先にテストを進めれば、大部門体制改革は部門利益との相克の過程で中途半端に終わってしまうことは避けがたい。

(5)民主的・科学的な政策決定メカニズムを発揮し、大衆の参加を促進しなければならない

 行政決定のプロセスを公開し、透明化しなければならず、過去の若干の機構改革にみられた密室主義の方法を捨て、専門家・関係者を十分に参加させ、民主的な協議と科学的な論証を進めなければならない。

 このほか、政府機構改革は法制化により展開すべきであり、「大部門モデル」の機構改革の成果を法制化するだけでなく、早急に行政組織法の制定を進めるべきである。

 

 5.2 部門利益の束縛の打破

 改革はこれまで常に穏やかな批判のうちに進められることはなく、紛れもなく複雑な利益との相克と激烈な権力闘争に満ち溢れている。部門利益・個人の権力ないし特殊利益集団の利益は、いずれも大部門体制改革の阻止力となりうる。

 90年代半ば以降、わが国のほとんど全ての改革は政府主導で推進されてきた。政府主導は往々にして部門主導であった。例えば、国有企業・医療・教育・投資・金融・証券・住宅・労働・社会保障及び事業単位改革・社会管理体制改革等である。今日暴露された政府・企業の未分離、政府・事業単位の未分離、政府・社会仲介組織の未分離等の主要な矛盾は、部門主導にある。

 大部門体制は部門利益の膨張と衝突を解決するドラスティックな手段であり、部門数の減少を通じて政府機構の機能を整理再編することにより、部門利益の膨張を排除する目標に至るものである。

 

 5.3 その他

(1)発展の促進と公正の保障という2つの目標を満足させなければならない

 政府の市場監督管理・社会管理・公共サービスの機能を強化し、とりわけ大衆の切実な利益に関わり社会の需要が大きい領域を強化しなければならない。

(2)政府の転換を伴わなければならない

 大部門体制の背後にある制度理念は、サービス型政府、法治政府、責任ある政府である。

 

6.留意点

 このように、今回の政府機構改革の目玉は、エネルギー部の創設、運輸・金融・農業分野の集約・統合であるが、論調を見ても分かるように各部門の抵抗が強いため、しだいに小規模なテストを行うことによる漸進的改革に後退しているように見える。

 日本の報道では、この改革の責任者は李克強とされている(東京2008年2月10日、日経1月22日)が、彼は共青団中央以外には国務院・党中枢の経験がなく、利害関係の錯綜する政府機構改革を担うには余りにも経験不足である。1998年の改革では政府機構が大幅に削減されたが、これはそれまでに副総理として強力なリーダーシップにより経済運営を主導してきた朱鎔基だからこそ可能であった。また、2003年の改革では人民銀行から銀行業監督管理委員会が分離独立したが、これもそれまで金融担当副総理として金融関係を熟知していた温家宝だからこそ、人民銀行の反対を抑え込むことができたのである。

 李克強にはこのような条件が備わっておらず、関係者を説得することは容易ではない。しかも、エネルギー部の創設だけをとっても次の問題がある。

①国家発展・改革委員会の権限を削減するということになれば、同委の反発は必至である。しかも、同委はOB曾培炎を副総理として国務院に送り込んでおり、彼は現在国内経済

政策の責任者であることから、同委の権限削減は曾の了解を取り付けなければならない。

②電力関係は未だに李鵬一族の影響が強く、石油関係は曾慶紅グループの影響が強い。

 曾慶紅は引退したとはいえ、強い影響力を保持しており、しかも政治局常務委員の賀国強・周永康、政治局委員の張高麗も石油系である。電力・石油関係大型国有企業は、当然既得権益を維持するためこれらの有力者に働きかけるものと思われ、改革実現のためには彼ら有力者の了解を取りつける必要がある。

 こうしてみると、李克強が改革で成果を上げるには有力な後見人が必要であるが、現在のところ胡錦涛総書記・温家宝総理は雪害対策に忙殺されている。この点、筆者は1992年以来政治局委員を務め、1995-2003年まで副総理を務めた呉邦国が後見的役割を果たすかどうかに注目している。金融については、王岐山の力量が試されよう(2,008年2月記・11,889字)


 


[1]  日本の省にあたる部・委員会を統合して、大きな部に再編成すること。
[2]  日本の公益法人に類似し、行政の下請け的仕事を行っている。
[3]  これは現状でも圧倒的に権力をもち「小国務院」と言われる国家発展・改革委員会が、更に多くの部・委員会を吸収し、更に巨大化することの危険を示唆しているのであろう。
[4]  共産党には各部・委員会に対応した組織が存在するので、こちらの再編も問題となる。
[5]  これは暗に国家発展・改革委員会を指しており、そのため報復を恐れて名を名乗れなかったのであろう。

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