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呉敬璉「改革開放」を語る

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

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2008年6月28日

記事概要

今年は改革開放30周年であり、北京オリンピック終了後はこれが大きな政治イベントとなる。しかし、改革開放に対する批判も強まっており、その道のりは決して平坦ではない。そのような中、改革開放の理論的旗手である呉敬璉が『小康』誌(新華網2008年4月7日に転載)においてロングインタビューに応じている。その概要を紹介しておきたい。

はじめに

 今年は改革開放30周年であり、北京オリンピック終了後はこれが大きな政治イベントとなる。しかし、改革開放に対する批判も強まっており、その道のりは決して平坦ではない。そのような中、改革開放の理論的旗手である呉敬璉が『小康』誌(新華網200847日に転載)においてロングインタビューに応じている。その概要を紹介しておきたい。

 

1.注目すべき3つの出来事

 30年を回顧すると、私個人は最も記念碑的意義のある出来事は、3つあると思う。

(1)1984年に、「商品経済(市場経済)への改革目標を明確にした。

 これは、経済改革の制度目標が確定し、市場化改革が始動したことを意味する。

(2)1994年に、「全面的に推進する」方針に基づき、財政体制・金融体制・外貨管理体制の改革が始まったが、これは企業の市場環境を改善するのに重要な役割を果たした。

 これと同時に、国有企業改革が権限委譲・利益還元から制度刷新・戦略的調整に転換したが、これも後の改革の方向を明らかに示すものであった。90年代にわが国経済が大きく飛躍できたのは、1994年に開始された全面的改革と直接的な関係がある。

(3)1997年に、「公有制を主体とし、多様な所有制経済が共同して発展する」という基本的経済制度が確定し、所有制構造を調整する関連の政策が実施され、わが国の所有制構造が大きく改善された。これによって、市場経済のミクロ的基礎が構築された。

 多様な所有制経済の共同発展構造を率先して形成した、東南沿海地域の経済が急発展したことは、このことをよく示している。

 

2.中国の発展に対する危機感

(1)改革を阻むもの

 ある社会勢力による妨害・反対により、改革の形勢は逆転が出現する可能性がある。これらの妨害・反対は、主として2つの方面から来ている。

①転換期において特権を利用して利益を得た既得権者の干渉により、一部の重要な改革が妨害を受け或いは歪曲されており、これにより腐敗等の「権勢資本主義」の現象がますます熾烈になっている。

②改革前の旧体制・旧路線を擁護する一部の者が、この状況を利用して大衆を揺さぶり、彼らを反改革開放の方向に誘導している。

 彼らが相互に働きかければ、改革の方向は逆転し、良好な形勢は逆転する可能性がある。

(2)二重体制の並存

 中国は改革開放を開始して以来、ソ連・東欧とは異なる「量を増やす改革」戦略を採用した。即ち、国有経済に対して先に大きな改革を行わず、国有経済の外で市場志向の民営経済を発展させることに力を入れたのである。これは賢明で成果が顕著な改革戦略であった。しかし、これは同時に二重体制を並存させ、「権力によって商売を撹乱する」利権行為を広範にはびこらせるという問題をも引き起こした。このような状況下、権力を用いて利益を獲得できる者は、市場化改革のこれ以上の推進を阻むことにより、自己の利権が削られることを回避しようとしたのである。あるいは、権力で改革を捻じ曲げ、権力により更に多くの財産を獲得しようと目論んだのである。

(3)改革の停滞

 改革開放の30年は、ずっとこのような状況が存在した。市場化改革が大きく推進されたとき(例えば90年代初期に商品価格が開放され、商品をめぐる利権が大幅に縮減され腐敗が抑制される可能性が出たとき)、大衆はこれに満足する声が支配的であった。しかし、指令制の下で権勢による私有化が推進され、或いは更なる改革が阻まれた場合には(例えば国有独占企業の改革が停滞したとき)、腐敗の蔓延が大衆の不満を引き起こしたのである。

 私は、根本的な問題は、政府が資源を支配する権力が大きすぎることにあると思う。これは市場化改革の推進にも不利である。

 例えば、改革が中途まで来ると、一部の既得権者は現代的な市場経済の方向に引き続き前進することを望まず、様々な手段を用いて更なる市場化を阻止するのである。このような力が一部の重要な改革を阻み、ある改革は歩みが緩慢になり、更には後退が出現してしまった。例えば国有企業改革について言うと、第15回党大会・党154中全会が国有経済の配置の調整と国有企業の株式制改革を決定して以後、国有経済の改革は大きな進展があった。しかし、最大の独占国有企業まで来ると、改革は停滞してしまったのである。

(4)政府の干渉

 経済改革の遅滞以外にも、前世紀末から今世紀初にかけて、各レベルの政府がミクロの経済活動に介入した。一部の官員は自己の土地・貸出等に対する重要な権限を濫用し、「イメージ作りのプロジェクト」「政治業績作りのプロジェクト」を推進し、或いはプロジェクト立上げ・株式上場等の許認可を強化した。このことによって、権力に接近できる汚職官吏や「頭の先だけが赤い商人」が暴利を貪ったのである。

(5)法治国家建設の遅れ

 もう1つ重要な要因は、法治国家の建設が遅れたことである。いわゆる「非人格化された交換」は現代市場経済で主要な位置を占めるが、公平正義にかなった法律体系と独立公正な司法がなければ、契約の履行は保障されない。このような状況下で、経済活動に参加した者は、自己の財産の安全を保障するため、役人・政府と交わりを持つしかなかったのである。1997年の第15回党大会は、社会主義法治国家建設のスローガンを打出したが、これまで進展はわずかである。

ここ数年、なぜ官職の売買がますます横行しているのか?おそらく主要な原因は、公権力が不透明で、官員の個人的な意志が企業の運命を決定してしまうからだろう。制約を受けない権力は必然的に腐敗する。これは事実によって証明された真理である。

 

3.改革が停滞・後退すれば、出口はなくなる

(1)旧路線の護衛者(左派・新左派)の主張

 権勢資本主義という腐敗現象に直面し、大衆が強烈な不満の感情を表明したことは完全に正当なことである。しかし、2番目に挙げた社会勢力がこの不満の感情を正に利用し、今の社会における様々な劣悪な現象の原因について真相を歪めて説明している。現在我々が遭遇している各種の社会経済問題を極力吹聴し、腐敗の横行・分配の不公平から医療難・就学難に至るまで、全ては改革が「新自由主義の主流派エコノミスト」によって誤った方向に導かれたため、方向・路線の錯誤が発生した。つまり、市場志向と対外開放が生み出したものだとするのである。

 このため、彼らは1978年以来の改革開放路線を打ち捨て、「階級闘争を要とし」「ブルジョワ階級に対し全面的な専政を行う」旗印を再び掲げ、「プロレタリア階級による独裁下での継続革命」の道を再び歩み、「プロレタリア階級による文化大革命を徹底的に進める」よう主張している。

(2)2つの問題

 ここで重要なことは、2つの問題を明確にしなければならないということである。

①現在、我々が直面している様々な社会問題は、つまるところ改革がもたらしたのか、それとも改革の不徹底がもたらしたのか。

②これらの深刻な社会問題を解決する正しい道は、経済改革を推進し政治改革を加速することか、それとも前に進まずさらには後退することなのか。

(3)貧富の格差

 ここで、私は貧富の格差を1つ例に挙げてこの問題を説明する。旧路線の護衛者は、「市場志向の改革に賛成する人々は貧富の格差拡大を主張しており、市場化改革は正にわが国の貧富格差拡大の主犯である」と宣伝している。

このような論法は完全に事実に符合していない。学術界の人であれば誰でも知っていることであるが、わが国の所得格差が過大であるということは、正に改革を主張する社会学者・経済学者が90年代初期に提起し、徐々に社会の注意を引くようになったのである。問題の焦点は、中国社会における貧富の分化が激化している原因はどこにあり、この問題を解決するカギはどこにあるか、ということである。

旧路線の護衛者は、これは市場志向の改革が生み出したものであると断言し、このため彼らの主張は、市場経済において勤勉に働き、良く経営を行ったゆえに中等及び中等以上の所得を得た人々に攻撃の矛先を向け、彼らと低所得層の所得格差を平準化せよとするのである。

これに対し、改革の方法により中国が直面する社会問題を解決することを主張する人々は、現在中国社会において貧富の格差が不正常に拡大している主たる原因は「機会の不平等」であるとする。即ち、各レベルの党・政府機関が資源・権力を過大に支配しているため、これらの権力に接近できる人がその権力を利用して富を得ているとするのである。この分析に基づき、貧富格差を縮小するカギは市場化改革の推進であり、利権を貪る活動の排除を基礎に、「権力による商売の撹乱」という腐敗行為に徹底的に打撃を与えるべきだとする。

当然、市場経済の機会平等の状況下でも、人々の能力・チャンスは異なるので、所得の不平等は発生しうる。特にわが国は現在、伝統的に効率の低い農業と現代的・先進的商工業という二元経済が並存しており、このような格差は一元経済に比べ大きくなる。この「結果の不平等」については、適切な措置を採用して援助すべである。

しかし、最も重要な援助方法は、政府が責任をもって低所得層の基本的福利を保証できる社会保障制度を確立することであり、ナロードニキ(人民主義)のように「富者から奪い貧者を救う」平均主義的政策を奨励・採用することではない。なぜなら、経済の立ち遅れは、千万百万の人々が飢餓により「不正常な死亡」をとげる「皆があまねく貧しい社会主義」に我々を回帰させるだけだからである。

したがって、私は第16回党大会が提起した、違法な所得を取り締まると同時に「中等所得者の比重を拡大し、低所得者の所得水準を引き上げ」、共同富裕の目標を徐々に実現するという方針に賛成である。

(4)党・政府指導部の態度・方針

 党・政府指導部の態度は明確だと思う。胡錦涛総書記は200636日、全人代上海代表団への講話において既に明確に「いささかも動揺することなく改革の方向を堅持し、社会主義市場経済体制を不断に整備し、資源配分における市場の基礎的役割を十分発揮させなければならない」と表明している。

 特に、第17回党大会報告において、「どのような旗を掲げ、どのような道を歩むか」を先鋭に提起し、このような元来た道に戻る主張を正面から批判した。胡錦涛総書記の報告では、「改革開放は党の心と民心に合致しており、時代の潮流に順応したものであり、方向と道筋は完全に正確である。成果と功績を否定してはならず、後退すれば出口はない」と指摘している。

 

4.第17回党大会後の課題

(1)改革を推進するためになすべきこと

 まずは思想を解放し、認識を明確にすることである。しかる後に、真に措置を実施しなければならない。

 私の知るところでは、絶対多数の幹部大衆は皆、第17回党大会の「どのような旗を掲げ、どのような道を歩むか」についての論述を擁護している。旧路線の護衛者は、この方面には市場はない。しかし、我々はこれをもって決して油断してはならない。なぜなら、大多数の人は党大会の原則・方向の問題について、認識ははっきりしている。しかし、例えば国有企業改革問題・医療改革問題・教育改革問題・対外経済関係における一部の問題といった具体的問題となると、事情はそれほどクリアではないからである。

 少し前の一時期、旧路線の護衛者の宣伝攻勢下、極左路線が主流だった時代に害毒が撒き散らされ、改革開放以降は大衆により唾棄すべきものとされた誤った観念が再燃した。およそこのような観念は、新たな思想解放の運動において、真剣な研究と適切な討論を通じて取り除くことができるものである。すでに私は貧富格差問題を例に挙げて論じた。その他の、例えば国有企業改革問題・医療保障制度問題・教育改革問題などもはっきりさせるべきである。

(2)市場化改革はエリート・金持ちにのみ有利で、庶民・貧乏人には不利だとする考え方について

 私は、そのような分析には同意できない。

①我々の社会においては、両極にいる少数の権勢者・弱者を除き、大きな中間階層が存在する。

 とりわけ、その中には各種職業専門家を主体とした新たな中等所得階層がいる。わが国の現代化が進展するにつれ、彼らの陣容は急速に拡大してきている。第17回党大会は、2020年には中等所得階層を多数にしなければならない、と明確に述べている。

②中等所得層はわが国の労働者階級の重要な構成部分である。

 彼らとわが国の弱者とがもつ共同利益は、富強で民主的・文明的で調和のとれた中国を建設し、そのパワーに依拠することである。

 このような分析に基づけば、わが国社会を単純に富者と貧者、エリートと庶民、強者と弱者に区分し、理非曲直を区別せずに富を恨み知識に反対することは、理論的に不正確であり政治上も有害である。

 市場経済は利益の多元化した共同体である。このため、「階級闘争を要とする」「食うか食われるか」といった方法を採用し、1つの社会集団の利益によって別の社会集団の利益に反対し、圧力を加えるべきではない。各種の合法的な利益追求をいずれも十分に表明することができ、協議・取引によりこれらの集団がいずれも受け入れ可能な案を探し出していくべきである。これによってはじめて、各利益集団が相互に補いWin-Winで、社会の調和がとれた平坦な道を進むことができるのである。

 

5.将来の改革のカギ

(1)改革を推進するうえで、達成しなければならないこと

 達成しなければならないことは多い。例えば、

①財産権制度の改革がまだ完全に達成されていない

 例えば、中国の半分近い人口を占めることになるであろう農民の利益と切っても切れない、土地財産権の問題が解決されていない。農民の土地・宅地資産は流動資本に変えることができず、引き続き農業に従事する農村住民の利益に損害を与えるのみならず、農業から工商業に転向する新都市住民の住居の安定・起業を困難にしており、解決が必要である。

②国有経済の配置調整と国有企業の株式制改正も、まだ完全に達成されていない

 前世紀末から今世紀初にかけて、国有経済改革は段階的成果を得たが、さらに国有大型企業の改革を進めるべき堅塁攻略のときに、改革の歩みは明らかに緩慢になっている。株主構造において単独大株主がおり、競争構造において1社独占の状況は改変されておらず、領域によっては「国有が前進し、民営が後退する」「新たな国有化」といった逆行現象が出現している。この傾向は反転させなければならず、国有経済・国有企業改革に関する第15回党大会及び党154中全会決定は貫徹されなければならない。

③ルールに則った資本市場の監督管理の強化が必要である

 資本市場の重要な特徴は、情報が高度に非対称であり、このためインサイダー取引と市場操縦といった犯罪行為が発生することである。したがって、資本市場への監督管理の要務は、会社の情報開示の正確性と適時性について、ルールに則った監督管理を行うことである。

これとは異なり、行政許認可等の手段により市場の安定・繁栄を維持しようとすれば、全く逆の「政策市場」「利権市場」となってしまい、各種内部関係者が情報の優位性を利用して民間投資家の利益を害し、大儲けをすることになる。このため、考え方を正し、手段をしっかり選択して、ルールに則った監督管理を強化し、わが国資本市場の健全な成長を促進しなければならない。

④社会保障体系の確立が必要である

 1993年の党143中全会は、全部をカバーし多層の新たな社会保障体系を確立することを決定した。しかし十数年たったが、政府内部の度重なる障害にあって、この極めて重要な社会インフラは未だ確立されておらず、社会的弱者の基本的生活保障は実施できていない。この建設スピードを加速させなければならない。

⑤法治建設を真剣に進めなければならない

 現代市場経済は、法治の基礎の上に確立しなければならない。第15回党大会が法治国家の建設を承認して以降、すでに11年の時間が過ぎた。中国のような国家が、民主・憲政・法治が三位一体となった現代的政治体制を確立することは、容易なことではない。しかし、世界の潮流は勢いが激しく、我々の遅延を許さない。法治の歩みを確立することにより、わが国の政治体制改革を加速しなければならない。

(2)改革推進のカギ

 私が思うに、改革を推進できるかどうかは、カギは政府自身にある。計画経済下の政府はマクロからミクロまで、はては人々の家庭生活に至るまで、全て管理する全能の政府であった。しかし、市場経済における政府は、当然あらゆる事を行うのではなく、管理すべきものをしっかり管理すべきである。このような政府改造により、専ら公共財を提供するサービス型政府にしなければならない。即ち、政府の官員は公の立場から、公僕の身分にふさわしくない権力を捨て去らねばならない。政府改革の任務は、資源配分・価格形成に対する行政関与を減少・除去するだけでなく、市場メカニズムが基礎的役割を発揮できるようにしなければならない。この非常に困難な任務は、市場メカニズムに支援を提供できる制度的プラットフォームを建設することにある。この制度的プラットフォームがなければ、ルールの歪曲、秩序の混乱、利権行為は免れ難い。

 認めるべきは、わが国は民主・法治の伝統の欠如と沈殿した歴史的慣性により、憲政・法治を実行しようとすると必ず障害・阻止力に遭遇するということである。開始したばかりの新段階において、我々は出現するであろう種々の障害を克服し、富裕・文明的・民主的で調和のとれた中国を建設するという、偉大な事業を前進させなければならない。(2008年6月記・7,149字)

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