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1-6月期の主要経済指標と当面の経済政策

中国ビジネスレポート 政治・政策
田中 修

田中 修

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2010年7月16日

記事概要

本稿では、1-6月期の主要経済指標と、その前後に採用された主要政策につき整理する。1.6月及び1-6月期の主要経済指標2.国務院「民間投資の健全な発展を奨励・誘導することに関する若干の意見」3.人民元レートの弾力化4.地方政府の融資プラットホーム問題に関する国務院通知5.経済情勢座談会6.人民銀行貨幣政策委員会7.不動産政策に関する3省庁声明8.独メルケル首相との会見における温家宝総理の発言【11,130字】

はじめに
本稿では、1-6月期の主要経済指標と、その前後に採用された主要政策につき、整理しておく。

1.6月及び1-6月期の主要経済指標
1-6月期のGDPは17兆2840億元であり、実質11.1%の成長となった。1-3月期の11.9%に対し、4-6月期は10.3%の実質成長であった。第1次産業は1兆3367億元、3.6%増、第2次産業は8兆5830億元、13.2%増、第3次産業は7兆3643億元、9.6%増である[1]
なお、国家統計局の盛来運スポークスマンは、4-6月期の成長率が鈍化したことについて、次のようにコメントしている。

①1-3月期、4-6月期の経済成長の反落は、主として去年のベースの影響と一部のマクロ・コントロール政策の影響によるものである。
 昨年の経済動向は前低後高であった。1-3月期のGDP成長率は6.5%、4-6月期の成長率は8.1%である。一定規模以上の工業付加価値も昨年1-3月期は5.1%増、4-6月期は9.1%であった。昨年のベースが低いところから高いところへと向かったことが、今年4-6月期の経済成長に大きな作用をもたらした。

②4-6月期に経済成長が一定程度反落したとはいえ、これはなお正常な成長範囲で運行している。
 4-6月期のGDP10.3%成長は、依然として高い。これは、過去10年(2000-2009年)の4-6月期の平均成長率に基本的に一致している。
 このほか、一定規模以上の工業の前期比を計算してみると、主要工業製品の1日平均産出量では、4-6月期は1-3月期より下落しておらず、なお成長している。いくつか例を挙げれば、発電量は4-6月期が1-3月期より6.2%増加し、鋼生産量は4-6月期が1-3月期より12.8%増加している。

③経済成長の一定の反落はベースと関係があるのみならず、我々のマクロ・コントロールが達成を望んだ反落でもある。
 経済成長速度の適度な反落は、経済がかなり速い(成長)から過熱に転化することを防ぐのに有利であり、構造調整と発展方式の転換を強化することにも有利である。
 このほか、政策の観点からすれば、当面の国際環境は依然として複雑で変化に富み、国外の経済回復の動力は弱く、曲折し、複雑である。このような状況下、政策の安定性・連続性を維持し、新たな状況・新たな問題に基づき、政策の的確性・柔軟性・予見性を増強し、マクロ・コントロールの程度・テンポ・重点をしっかり把握しなければならない。

(1)物価
①消費者物価
 6月の消費者物価は前年同期比2.9%上昇し、5月より伸びが0.2ポイント鈍化した[2]。都市は2.8%、農村は3.2%の上昇である。食品価格は5.7%上昇し、居住価格は5.0%上昇した。前月比では、5月より0.6%下落した。
 国家統計局の盛来運スポークスマンは、6月の消費者物価上昇率が低下し、5月よりも下がった原因として、次の2点を挙げている。

1)今年上半期、国家はインフレ期待の管理と流動性問題に非常に注意を払った。
 M2の伸びは18.5%にまで低下している。

2)構造上からみて、6月に野菜と果物が大量に出荷され、野菜と果物の価格が5月より大幅に低下したことが、食品価格の低下を招いた。
 6月の生鮮野菜価格は5月より14.6%低下し、生鮮果物の価格は5月より5.1%低下した。これだけで、5月比のCPIに-0.5ポイントの影響を与えた。

(参考)12月1.9%→1月1.5%→2月2.7%→3月2.4%→4月2.8%→5月3.1%→6月2.9%

 1-6月期では前年同期比2.6%上昇である。都市は2.5%上昇であり、農村は2.8%上昇であった。食品価格は5.5%上昇、居住価格は3.9%上昇である。

 なお、国家統計局の盛来運スポークスマンは、2.6%のうち、1.4%は昨年の物価上昇の影響によるものであり、新たな物価上昇要因は1.2%であるとしている。今後の物価動向については、昨年の物価上昇の影響が7月以降徐々に縮小し、当面工業製品は依然供給過剰なので、年間の物価を3%前後に抑える目標はなお根拠がある、とする。

②工業品工場出荷価格
 6月の工業品工場出荷価格は前年同期比6.4%上昇し、5月より上昇が0.7ポイント鈍化した[3]。原材料・燃料・動力購入価格は10.8%上昇した。前月比では5月よりも0.3%下落している。

(参考)12月1.7%→1月4.3%→2月5.4%→3月5.9%→4月6.8%→5月7.1%→6月6.4%
 1-6月期では前年同期比6.0%上昇であり、原材料・燃料・動力購入価格は10.8%上昇である。

③住宅価格
 6月の全国70大中都市の建物販売価格は前年同期比11.4%の上昇となり、5月より上昇幅は1.0ポイント鈍化した。5月よりも0.1%下降に転じている。

(参考)12月7.8%→1月9.5%→2月10.7%→3月11.7%→4月12.8%→5月12.4%→6月11.4%

 新築住宅販売価格は前年同期比14.1%上昇で、こちらも5月より上昇幅が1.0ポイント鈍化した。5月とは同水準である。
 なお、新華網北京電2010年7月11日は、成都・大連・青島・長沙・重慶・長春といった都市では住宅価格がやや沈静化している[4]が、一部の第2線都市では銀行が貸出基準を緩和し、一部の投資家が頭金ゼロで数十棟の住宅を購入していると指摘している。例えば、瀋陽ではディベロッパーの投資熱が高まり、全国の総合実力30位以内のディベロッパーのうち7割以上が投資をしている。また、内モンゴルのフフホトでも10-20%の住宅は外地人が購入しており、住宅価格の上昇が続いている。

 1-6月期の全国分譲建物販売面積は3.94億㎡で、前年同期比15.4%増となった。伸び率は1-5月期より7.1ポイント鈍化した。うち、分譲住宅販売面積は12.7%増である。1-6月期の分譲建物販売額は1.98兆元、前年同期比25.4%増であった。1-5月期より伸び率は13.0ポイント鈍化した。うち、分譲住宅販売額は20.3%増である。

 1-6月期のディベロッパーの資金源は3兆3719億元であり、前年比45.6%増であった。うち、国内貸出が6573億元、34.5%増、外資が250億元、2.8%増、自己資金が1兆2410億元、50.9%増、その他1兆4487億元、47.9%増(うち手付金・前受金が8064億元、40.1%増)である。個人住宅ローンは4538億元、60.4%増であった。

(2)工業
 6月の一定規模以上[5]の工業付加価値は前年同期比13.7%増なった。4月以降伸びは鈍化傾向にある。6月の主要製品別では、発電量11.4%、粗鋼9.0%、セメント14.6%、自動車18.4%(うち乗用車9.9%)増となっている。粗鋼と自動車の伸びが急減速している。

(参考)工業付加価値 12月18.5%→1月20.7%→2月12.8%→3月18.1%→4月17.8%→5月16.5%→6月13.7%

 1-6月期では前年同期比17.6%増となった。重工業は19.4%増であり、軽工業は13.6%増である。主要製品別では、発電量19.3%、粗鋼21.1%、セメント17.5%、自動車46.6%(うち乗用車45.7%)増となっている。
 地域別では、東部地域16.7%増、中部地域20.7%増、西部地域17.6%増であった。

(3)消費
 6月の社会消費品小売総額は前年同期比で18.3%増となった。都市は同18.7%増、郷村は同15.9%増である。農村の消費の伸びが都市をかなり下回っている。一定額以上の卸・小売では、穀物油・食品・飲料・タバコが25.4%、アパレル・靴・帽子類26.6%、建築・内装は34.0%、家具40.9%、家電・音響機器類23.4%増である。自動車は28.3%増であり、伸びが大きく鈍化した。

(参考)12月17.5%→1月17.9%→2月22.1%→3月18.0%→4月18.5%→5月18.7%→6月18.3%

 1-6月期の社会消費品小売総額は7兆2669億元、前年同期比18.2%の増加である。都市は同18.6%、郷村は同15.6%増であった。一定額以上の卸・小売では、穀物油・食品・飲料・タバコ19.8%増、アパレル・靴・帽子類23.8%、建築・内装は32.1%、家具類は38.5%、自動車37.1%、家電・音響機器類28.8%増となっている。

(4)投資
 1-6月期の全社会固定資産投資は11兆4187億元で、前年同期比25.0%増となった。
 1-6月期の都市固定資産投資は9兆8047億元で、同25.5%増であった。中央プロジェクトは7443億元、13.0%増、地方プロジェクトは9兆604億元、26.7%増であった。

 不動産開発投資は1兆9747億元で同38.1%増である。うち分譲住宅は1兆3692億元、34.4%増であり、不動産開発投資の69.3%を占めている。6月は5830億元であり、5月より1845億元、46.3%増であった。鉄道運輸は22.5%増であった。

(参考)都市固定資産投資 2009年30.5%→2010年1-2月期26.6%→1-3月期26.4%→1-4月期26.1%→1-5月期25.9%→1-6月期25.5%
 不動産開発投資 2009年16.1%→2010年1-2月期31.1%→1-3月期35.1%→1-4月期36.2%→1-5月期38.2%→1-6月期38.1%

 1-6月期のプロジェクト新規着工は17万5151件で、前年同期比939件減となった。新規着工総投資計画額は9兆3360億元であり、前年同期比26.5%増となっている。都市プロジェクト資金の調達額は12兆2522億元で、前年同期比29.2%増となった。うち、国家予算内資金が8.6%増、融資が24.8%増、自己資金調達が30.7%増、外資利用が-2.2%となっている。
 地域別では、東部地域22.4%増、中部地域28.0%増、西部地域27.3%増であった。

(5)対外経済
①輸出入
6月の輸出は1374億ドル、前年同期比43.9%増、輸入は1173.7億ドル、同34.1%増となった。

(参考)12月輸出17.7%、輸入55.9%→1月輸出21%、輸入85.5%→2月輸出45.7%、輸入44.7%→3月輸出24.3%、輸入66%→4月輸出30.5%、輸入49.7%→5月輸出48.5%、輸入48.3%→6月輸出43.9%、輸入34.1%

 1-6月期の輸出は7050.9億ドル、前年同期比35.2%増であり、輸入は6497.9億ドル、同52.7%増となった。貿易黒字は553億ドルであり、同42.5%の減少となった。輸出入総額では、対EU37.2%増、対米30.2%増、対日37%増[6]、対アセアン54.7%増である。

 1-6月期の地域別輸出では、広東前年同期比27.5%増、江蘇44.4%増、上海33.5%増、浙江39.7%増、山東34%増、福建39.1%増、北京16.1%増となっている。

 1-6月期の労働集約型製品の輸出は、アパレル類前年同期比16%増、家具33%増、紡績32.3%増である。電器・機械は同35.9%増である。また自動車の輸入は2.7倍になった。

②外資利用
6月の外資利用実行額は125.1億ドルであり、前年同期比39.6%増となった。

(参考)12月103.1%→1月7.79%→2月1.08%→3月12.08%→4月24.69%→5月27.48%→6月39.6%

 1-6月期の外資利用実行額は514.3億ドルであり、前年同期比19.6%増となった。これを業種別でみると、製造業は同1.9%とプラスに転じた。サービス業は同38.2%増であり、シェアは44.9%である。地域別では、東部19.3%増、中部22.7%増、西部20.8%増で、シェアは86.8%、6.6%、6.7%であった。

 なお、商務部によれば、1-6月期、外資企業が全国輸出に占めるシェアは54.7%、全国輸入に占めるシェアは52.8%、全国工業付加価値に占めるシェアは27%、全国税収に占めるシェアは21%である。

③外貨準備
 6月末の外貨準備高は2兆4543億ドルであり、前年同期比15.1%増である[7]

(6)金融
6月末のM2の伸びは前年同期比18.5%増と、5月末より2.5ポイント、昨年末より9.2ポイント減速した。M1は24.6%増で、5月末より5.3ポイント、昨年末より7.8ポイント減速した。

 1-6月期の現金純放出は658億元(前年同期は578億元の純回収)であった。
 人民元貸出残高は44.61兆元で前年同月比18.2%増であり、伸び率は5月末から3.3ポイント、昨年末より13.5ポイント減速した。1-6月期の新規貸出増は4.63兆元であり、前年同期より2.74兆元伸びが鈍化した。6月の人民元貸出増は6034億元であった。
 人民元預金残高は67.41兆元で、前年同期比19%増であり、6月の人民元預金は1.33兆元増である。1-6月期の個人預金は2.76兆元増、非金融企業預金は2.94兆元増である。

(参考)M2 : 12月27.68%→1月25.98%→2月25.52%→3月22.50%→4月21.48%→5月21%→6月18.5%

(7)財政
6月の全国財政収入は7879.4億元で、前年同期比1011.93億元、14.7%増となった。

 1-6月期の全国財政収入は4兆3349.79億元、同9373.65億元、27.6%増に達した。中央レベルの収入は2兆2770.38億元で、同28.6%増、地方レベルの収入は2兆579.41億元、同26.5%増である。

 1-6月期の税収は3兆8611.53億元で、同30.8%増となっている[8]。税外収入は4738.26億元で、同6.6%増である。

(参考)財政収入 12月55.8%→1月41.2%→2月20.4%→3月36.8%→4月34.4%→5月20.5%→6月14.7%

 6月の全国財政支出は8119.15億元で、前年同期比1713.57億元、26.8%増となった。
 1-6月期の全国財政支出は3兆3811.36億元で、前年同期比4908.8億元、17%増となっている[9]。中央レベルの支出は6881.03億元で、同16.5%増、地方レベルの支出は2兆6930.33億元で、同17.1%増である。

(8)電力使用量
 6月の全社会電力使用量は前年同期比14.14%増であり、伸び率は5月より6.66ポイント低下した。5月よりは1.1%増であった。
 1-6月期の全社会電力使用量は同21.57%増であった。

(9)所得
 1-6月期の都市住民1人当たり平均可処分所得は9757元であり、前年同期比実質7.5%(名目10.2%)増加した。うち財産所得は20.7%増である。
 農民1人当たり平均現金収入は3078元であり、同実質9.5%(名目12.6%)増加した。うち、賃金所得は18.0%増、移転所得は18.6%増である。
 1-6月期の都市住民1人当たり消費性支出は実質7.2%増、農民1人当たり生活消費現金支出は実質8.5%増であった。

(10)雇用
 1-6月期、都市就業人数は500万人余り増加した。出稼ぎ農民の就業者数は632万人増加した。

2.国務院「民間投資の健全な発展を奨励・誘導することに関する若干の意見」(5月7日)
 36条からなり、2005年に公布された非公有制経済の発展に関する36条の通達と対比して「新36条」と呼ばれ、2008年11月の4兆元対策を引き継ぐものと位置づけられている。
 国家発展・改革委員会の責任者はこの通達の特徴について以下のように説明している(人民日報海外版2010年5月17日)。

(1)民間投資発展における問題

①業種参入に少なからぬ障害が存在する。
 特に一部の伝統的独占業種・分野には、依然民間投資の進入を制約する「ガラスのドア」「自動ドア」の問題が存在する。

②融資難の問題が未だ根本的解決に達しておらず、国際金融危機の影響下、銀行貸出は更に大プロジェクト・大企業に多く向かっている。

③民営企業の投資の転換・グレードアップの歩みを加速する必要があり、イノベーション能力を高める必要がある。民間投資の管理水準は全体として引き上げられる必要がある。

④民間投資の政策環境は不断に改善される必要があり、サービス体系は更に健全化・整備される必要がある。

(2)通達の主要措置

①民間投資の分野・範囲を更に開拓しなければならない。
 民間資本が基礎産業・インフラ、市政公益事業・政策的な住宅建設、社会事業、金融サービス、商業貿易流通、国防科学技術工業等の分野に参入することを奨励・誘導する。

②民間資本の再編・連合及び国有企業改革への参加を奨励・誘導しなければならない。
 資本参加・株支配・資産購入等の多様な方式を通じて、国有企業の制度改正・再編に参加する。条件の整った民営企業が連合・再編の方式で強大化することを支援する。

③民営企業の自主的なイノベーション、転換・グレードアップ強化を推進しなければならない。
 民営企業が国家の重大科学技術計画プロジェクトへの参加、及び技術の難題に取り組むことを支援し、民営企業がプロジェクト技術研究センター・技術開発センターを設立し、企業の技術水準及び研究開発能力を不断に向上させることを援助する。民営企業が新製品開発を強化することを奨励し、戦略的新興産業を発展させ、国際競争に積極的に参加することを奨励する。

④民間投資の発展に不利な法規・政策を整理・改正し、民間投資の管理に関わる行政許認可事項を整理し、民営企業の製品・サービスを政府調達リストに入れることを支援する。市場参入を開放すると同時に、監督管理を適切に強化する。

(3)民間投融資の困難に対する措置

①金融機関への参入政策を緩和する。
 民間資本が資本参加方式により、商業銀行の増資及び農村信用社・都市信用社の制度改革に参加することを支援する。民間資本が村鎮銀行・融資会社・農村資金互助社等の金融機関の設立を発起し、あるいは参加することを奨励する。村鎮銀行あるいはコミュニティ銀行のうち法人銀行の最低出資比率の制限を緩和し、小額融資会社の単一投資家の持ち株比率の制限を適切に緩和する。

②民間の投資・金融サービス機関のコスト・リスクを軽減する。
 中小企業融資を課税前に全額損失準備金に引き当てる政策を実施し、中小金融機関の貸倒損金参入の審査手続を簡略化する。小額融資会社の農業に対する貸出には、村鎮銀行と同等の財政補助政策を実施する。

③担保システムを整備する。
 民間資本が信用担保会社を発起設立することを支援し、信用担保会社のリスク補償メカニズム・リスク分担メカニズムを整備する。

3.人民元レートの弾力化(6月21日)
 6月19日の人民元レートの弾力化の公表は、カナダ・トロントで26-27日に開催されたG20金融サミットをにらんでのことであろう。温家宝総理が3月5日に全人代に対して行った「政府活動報告」で「我々は引き続きG20金融サミット等重大なマルチ活動を主要なプラットホームとし、国際システムの変革プロセスに積極的に参画し、発展途上国の利益を擁護する」と強調していたことからも分かるように、中国にとってG20の場は、先進国に対し発展途上国のリーダーとして議論の主導権をとる晴れ舞台である。ここで胡錦涛国家主席が人民元レートをめぐり諸外国から集中砲火を浴びる事態は何としても避けなければならなかった。また人民元レートの改革は、輸入インフレ防止・構造調整の推進・過剰流動性の防止の観点から、中国自身にとっても必要との意見が4月以降強まっていた。

  しかし中国側としては、本来改革は7月下旬以降に行いたかったはずである。この時期になれば4-6月期のGDPなど主要な経済指標が明らかになり、年後半の経済政策が党中央政治局会議で議論されるからである。だが欧州経済の混乱により、内部では改革慎重派が盛り返しつつあった。5月13日、温家宝総理は天津市を視察したとき、今後のマクロ経済政策の留意点として、「多くの政策が積み重なることによるマイナスの影響を防止しなければならない」と述べた。これは、温総理がレート改革や利上げに慎重な考えを示したものと受け取られ、改革慎重・景気重視派の勢いが増していたのである。

 だが、米国のバートン大統領副報道官は、18日、財務省が4月から延期していた外国為替報告書の議会提出をサミット後に行うと述べた。これは実質的な最後通告であり、この外圧とG20金融サミットを梃子に改革派が慎重派を押し切ったものと思われる。サミットまでに切上げの実績を示すには、このタイミングしかなかったのであろう。

 このような事情もあってか、人民銀行はレートをいっぺんに2%切上げるような手段をとらず、また1日の変動幅の緩和も行わなかった。21日の基準値は1ドル=6.8275元、終値は6.7976元(0.46%上昇)、22日の基準値は6.7980元、終値は6.8136元(0.24%下落)、23日の基準値は6.8102元、終値は6.8124元となった。その後の動きをみても人民元レートの動きは上昇一方ではなく、ジグザグである。これは人民元の継続的な切上げ期待を断ち切り、ホットマネーの進入を防ごうとしているものと思われる。7月下旬に下半期の経済政策方針が固まるまでは、レートは基調としては上昇方向ではあっても、日々の動きは神経質なものとなろう。

4.地方政府の融資プラットホーム問題に関する国務院通知(6月10日)
(1)「融資プラットホーム」とは?
 地方政府及びその部門が財政支出ないし土地・株券等の資産を出資して設立した独立法人であり、企業債の発行や銀行借入により政府の投資プロジェクトの資金を調達することが目的であった。銀行借入に際しては、将来の土地売却収入や税収が担保とされた。

(2)問題点
 6月23日、審計署(日本の会計検査院に相当)は18省・16市・36県の地方財政を検査し、2009年末の債務残高は2.79兆元に達していると全人代常務委員会に報告した。2009年だけで1.04兆元増加している。この債務残高のうち融資プラットホームがらみの債務は307社で計1.45兆元に及ぶ。また、7省・10市・14県の債務残高は財政収入を上回っており、財政収入の364.77%に達するものもある。これらの地方政府は債務の元利償還を47.97%しか実施できておらず、財政資金の償還能力不足は深刻となっている。

(3)政府の対策
 事態を重くみた国務院は、6月10日、「地方政府融資プラットホーム公司の管理強化問題に関する通知」を公表した。これには、①地方財政による担保は無効とする、②償還財源を財政資金に依存する公共プロジェクトの資金調達を行っている融資プラットホームについては、今後資金調達を許さない、③現金による安定した償還財源のない融資プラットホームに対して、銀行の貸出を許さない、④地方政府が債務償還責任を転嫁したり債務を踏み倒すことを許さない、といった内容が含まれており、今後融資プラットホームの実態解明と整理が本格化するものとみられる。

5.経済情勢座談会(6月28・29日)[10]
 温家宝総理が経済専門家・企業家から意見を聴取した。座談会に参加したのは、マクロ経済・財政金融・人口就業・資本市場等の分野の専門学者及び自動車・鉄鋼・造船・紡績・電子・銀行・不動産等の業種の企業責任者である。また、李克強・回良玉・張徳江・王岐山各副総理、馬凱国務院兼国務院秘書長が出席した。

 中国政府網2010年6月30日によれば、彼らは、現在経済は回復好転の態勢を維持しており、市場の駆動により消費・投資・輸出が共同で経済成長を牽引する構造が初歩的に形成され、経済成長の動力構造に積極的な変化が発生し、成長の安定性・持続可能性が増強され、年間を通じて比較的速い成長を維持することが期待される、と考えている。実践は中央の政策決定・手配と政策措置が完全に正確であることを証明している。皆が、次の段階の経済政策について具体的建議を提出した。

 温家宝は次のように指摘した。「現在、わが国経済はマクロ・コントロールの予期した方向に向かって発展しており、経済の平穏で比較的速い発展・経済構造の調整・インフレ期待の管理の関係をうまく処理することを堅持し、マクロ経済政策の連続性・安定性を維持し、マクロ・コントロールの的確性・柔軟性を増強し、マクロ・コントロールの水準を高め、政策実施の程度・テンポ・重点をしっかり把握し、良好な発展の形勢を更に強固に発展させなければならない」。

 温家宝は次のように強調した。「当面に着眼し、長期を計画し、来年さらに長期における経済の平穏で比較的速い発展のための基礎を打ち固めなければならない。当面の有利なチャンスをしっかり掴み、経済構造調整・体制改革・経済発展方式の転換に力を入れることにより、マクロ・コントロールが短期の困難を克服し、当面の際立った矛盾を解決することに資するのみならず、持続可能な発展の体制メカニズムを構築し、経済の長期発展の体制的・構造的矛盾を緩和することに資するようにしなければならない。

6.人民銀行貨幣政策委員会(7月8日)
 会議は次のように認識した。「世界経済は徐々に回復しているが、なおかなり大きな不確定性が存在する。わが国経済は回復好転の態勢を維持し、消費・投資・輸出が経済成長を牽引する協調性が増強され、経済はマクロ・コントロールの予期する方向に向かって発展しているが、インフレ期待の管理・経済の平穏で比較的速い発展の維持・経済構造の調整・経済発展方式の転換という任務は依然非常に困難である」。

 会議は次のように認識した。「上半期、わが国のマネー・貸出は合理的に伸び、銀行システムの流動性は基本的に適度であり、人民元レート形成メカニズムの改革は着実に推進され、金融運営は総体として平穏である」。

 会議は次のように強調した。「下半期、党中央・国務院の統一的手配に基づき、適度に緩和した金融政策を引き続き実施し、政策の連続性・安定性を維持し、コントロールの的確性・柔軟性を増強し、政策の実施の程度・テンポ・重点をしっかり把握しなければならない。経済金融情勢の発展に密接に注意を払い、多様な金融政策手段を柔軟に運用し、マネー・貸出の適度な伸びを維持しなければならない。「維持するものと抑制するものを区別する」貸出政策を引き続き実施し、貸出構造を調整・最適化する。人民元レート形成メカニズムを更に整備し、市場需給を基礎とし、通貨バスケットを参考に調節を進めることを堅持する。システミックリスクの防止を強化し、金融システムの健全で安定した発展を維持する」。

7.不動産政策に関する3省庁声明(7月12日)
 一部のメディアが「不動産市場のコントロール関連政策が取り消される可能性がある」「3番目の住宅への融資が開放される」と報じたのに対し、3省庁が声明を発表した(新華網総合2010年7月13日)。

(1)住宅・都市農村建設部
 今後、住宅・都市農村建設部は「一部都市の住宅価格の速すぎる上昇に断固として歯止めをかけることに関する国務院通知」及び関連政策措置を断固として貫徹し、差別化された住宅貸出政策を厳格に執行する。個人の合理的な住宅消費を支援すると同時に、投資・投機的住宅購入に断固として歯止めをかける。引き続き積極的措置を採用して、着工と販売を促進し、普通分譲住宅の供給増に努力し、社会保障的性格をもつ住宅の建設及び各種バラック地区の改造の推進を加速する。不動産市場への監督管理を引き続き強化する。不動産市場の平穏で健全な発展を促進する。

(2)銀行業監督管理委員会
 銀行業監督管理委委員会が商業銀行に対する「一部都市の住宅価格の速すぎる上昇に断固として歯止めをかけることに関する国務院通知」及び住宅・都市農村建設部と銀行業監督管理委員会「商業銀行個人住宅ローンのうち2番目の住宅の認定基準規範化に関する通知」の政策要求・基準には何ら変化はない。各商業銀行が厳格に執行することを要求する。動揺してはならない。

(3)国有資産監督管理委員会
 国有資産監督管理委員会が、不動産業を主業としない78の中央企業に不動産業務から撤退するよう要求して以降、中央企業の撤退活動は順調に進行している。不動産を主業とする16の中央企業は主業を強化すべきであるが、国有資産委員会はこれらの中央企業に対し下半期に不動産業務の拡張を加速するよう慫慂してはいない。

 なお、国家統計局の盛来運スポークスマンも、7月15日、1-6月期主要統計発表の記者会見において、「国務院の手配に基づき、不動産へのコントロールを強化しさえすれば、不動産の健全な発展と経済の持続可能な発展に対して積極的な作用が生まれるのである」と述べている。

8.独メルケル首相との会見における温家宝総理の発言(7月16日)
 「中国経済は4-6月期の発展速度が1-3月期よりある程度反落した。これはベースの要因を除くと、主として主動的なコントロールの結果である。

 中国経済は総じてみると、マクロ・コントロールの方向へ発展している。下半期、経済コントロールの主たる基調は政策の安定維持であり、核心は経済の平穏で比較的速い発展・経済構造の調整・インフレ期待の管理の三者の関係をうまく処理することである。
 我々は政策の連続性・安定性を維持し、積極的財政政策と適度に緩和した金融政策を引き続き実行しなければならない。同時に、マクロ・コントロールの水準を引き上げ、政策の的確性・柔軟性を増強しなければならない。

 総じて言えば、経済の平穏で比較的速い発展を維持する前提の下、経済回復の内在的・自主的動力を更に高め、構造調整・省エネ・汚染物質排出削減を更に強化し、改革開放を更に推進し、持続可能な発展のメカニズム・体制を形成し、民生を更に改善し、社会の調和を維持しなければならない」。

(11,130字)

[1]なお、国家統計局の盛来運スポークスマンは、GDPにおける第3次産業の比重は、2009年1-6月期の41.3%から今年は42.6%に上昇し、第2次産業の比重は、2009年1-6月期の50.1%から今年は49.7%に下降したとしている。

[2]ピークは2008年6月の8.7%である。なお、国家統計局の盛来運スポークスマンは、31省(市・自治区)のうち、17省のCPIは2.9%を上回り、12省が2.9%より低く、2省が2.9%だったとしている。

[3]ピークは2008年5月の10.1%である。

[4]長沙・重慶・長春では、非市場的住宅(社会保障的性格をもつ住宅・バラック改造・中小タイプの分譲住宅等)の供給が増加していることが指摘されている。

[5]年間の主たる営業収入が500万元以上の企業。

[6]日本への輸出は551.1ドル、前年同期比25.2%増、日本からの輸入は814.4億ドル、同46.3%増である。

[7]単月では、4月434.28億ドルの増加、5月510.06億ドルの減少、6月147.69億ドルの増加となった。

[8]主な収入の内訳は、国内増値税前年同期比12.9%増、国内消費税42.4%増、営業税33.4%増、企業所得税18.5%増、個人所得税22%増、輸入貨物増値税・消費税55%増、関税55.6%増、車両購入税60.1%増である。輸出に係る税還付は3532.27億元増である。

[9]歳出で伸びが大きいのは、社会保障・就業支出23.3%増、都市・農村コミュニティ事務支出24.5%増、交通・運輸支出33%増、科学技術支出55.7%増である。

[10]すでに、指導部は地方視察を活発に行っている。例えば、温家宝総理は6月25-26日、浙江省を視察し、26日には上海・江蘇・浙江3省市経済情勢座談会を開催した。また7月2-3日には湖南省を視察し、湖北・湖南・広東3省経済情勢座談会を開催している。胡錦涛総書記は7月9-11日、河南省を視察した。李克強副総理は6月24-25日に河北省を視察し、7月8-10日には山東省を視察している。王岐山副総理は7月5日に北京を視察し、対外貿易企業座談会を開催し、7月7-9日には重慶市を視察している。

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