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ログイン2003年1月4日
<人事> 異文化問題を先輩企業に学ぶ 在中国日系企業における「異文化の問題」、「異文化理解の問題」、「異文化融合」の問題を考える際、日本企業及び中国における日系企業にとっての先輩格とも言えるヨーロッパ多国籍企業の経営者達の発言には、示唆に富み、謙虚に耳を傾けるに値するものが多い。その中で、最近、偶然にも二人の経営者が全く示し合わせたかのように、軌を一にした内容の発言をしているのを耳にした。 日産自動車・ルノーとエアバス 一人は、かの今をときめく日産自動車社長のカルロス・ゴーン氏であり、もう一人は、エアバス上級副社長のジョン・リーヒー氏である。 まずゴーン氏は、「異なる文化を持つ企業をグループに擁することは、多様性への対応が求められる21世紀型のグローバリゼーションでは明らかに強みだ。マルチカルチャーこそが世界展開の柔軟性を生む」という考えを自分の信念とまで言い切っている。それゆえ、日産とルノーは、異なる文化を持っていても構わないし、経営体として混ざり合う必要もないと言う。 リーヒー氏は、英国、ドイツ、フランス、スペインという国境を越えた企業連合を組織し、胴体はドイツで、制御系・最終組み立てはフランスというように分業化して初めてアメリカ勢と拮抗することに成功したエアバスの「競争力は複数の文化が融合した組織であるという点にある」「異なる文化を背景にした異なる見解がぶつかることが付加価値を生み出すことにつながる」と述べている。「お互いに競争するデザインを出し合い、二種類の文化が議論を戦わせた」結果、新たな価値が生まれたというのである。 どちらかと言うと、前者は、異文化が「柔軟性」を生む点を強調しており、後者は、異文化が「創造性」や「付加価値」を生む点を強調しているといった具合に、ニュアンスにおける濃淡の違いはあるが、一つの企業体における異文化の混在を肯定的に捕らえている点においては全く共通している。同一企業内における異文化を、厄介なものであり、根絶しなければならないものといった発想は、ここには微塵も感じられない。 新しい切り口 しかし、筆者は思う。恐らく、お二人とも最初からこのように異文化を自家薬籠中のものとしていたのではないであろう。つまり、出発点は通説であったと。その根拠は、二つある。 一つは、お二人共、長年の経験=試行錯誤の末に得た貴重な教訓としてこの事実を感慨深げに語っているからである。異文化の問題を何とか解決しようと努力した挙句、逆転の発想に真理を見出したといった具合なのである。そしてその後、それは信念と呼べる程に確固たるものに変わって来ているのである。もし、最初から、このことを見通していたのであれば、これ程の感慨は生まれず、これ程揺らぎない信念にまではなり得なかったに違いないからである。 もう一つの根拠は、現在中国に進出している日本企業の経営者達からは、「異文化こそ競争力の源泉だ」との声が聞こえて来ないことである。聞こえてくるのは、異文化に対する怨嗟の声ばかりであることだ。換言すれば、日本企業においては、「異文化ギャップ」克服=異文化の融合・統一化・同一化こそが依然として最優先課題の一つであり続けていることだ。この事実より、異国への企業進出が最初に直面するのが「異文化克服」であろうということが容易に推測されるからである。この点に関しては、ヨーロッパ企業とても例外ではあり得なかった筈だ。 いずれにせよ、この先輩格のヨーロッパ企業が得た教訓が意味するものは、非常に意義深いものである。中国における日系企業文化の将来像を模索して行く上で、大きなヒントを与えてくれるものであると言うべきであろう。 筆者は、かねてより「中国における日系企業は新しい企業文化を構築しなければうまく行かない」と言いつつも、新しい企業文化とは具体的にどのようなものであるべきかに関しては、「曰く言いがたし」として来たのであるが、上記のお二人の発言は、その問題を考える際に、新しい切り口から古い問題を見ることを可能にしてくれるのである。「異文化」を無理に同一化・統一化・均質化するのではなく、異文化の存在の積極面に着目し、それを競争力アップにつなげて行くというのは、異文化問題に頭を抱えている多くの企業にとっては至難の業に聞こえるであろうが、一つの方向を指し示していることは確かだ。 確かに、ボーダーレス時代が到来した、インターネットで国境はあって無きが如しだと言われてはいるものの、様々に異なった文化が同一化したり、言語が消滅し英語に統一化された、或いは、ごく近い将来統一化されるという気配は余りない。むしろ、それ以前に比べて、お互いがより文化の違いというものを肌で感じ始めている。異文化は厳然として存在し続けているのだ。そのような状況下で、同一企業内における異文化の問題を、「どちらの文化が勝つか?」「どちらの文化を捨て去り、どちらかの文化を取り入れるべきか?」、もっと言えば、「どちらが強いか?」という形でしか提起できないとなると、袋小路に追い込まれる羽目に陥ること必定である。在中日系企業を例に取れば、「日本的なものを70%取り入れ、中国的なものを30%取り入れよう」といった形での問題の決着は、文化という人や社会の習俗慣行に深く根ざした「文化」が相手ゆえに、まさに、「言うは易く行うは難し」であり、且つ、双方にフラストレーションを溜めること必定であろう。妥協点を見出すことは至難の技であろう。 そういった状況を踏まえて見ると、この二つの先輩企業の経験に基く発言は、悩める経営者にとって、一筋の闇を照らす光明と映るに違いない。 異文化混在の強みを発揮させ得る環境を作る 「しかし、歴史的、文化的、地理的、風土的、…背景が大きく違うヨーロッパ企業の経験をそのまま杓子定規に日本企業・在中日系企業に当てはめて良いのだろうか?」 この疑問に答えるために、我々はいろいろな面から考察を加えなければならないであろうが、筆者は、その中でも最大の問題として、「この強みを発揮させ得る環境」に焦点をあてたい。即ち、それは「もし、仮に『異文化混在が企業の競争力を高める』ということが永遠普遍の真理だと認めたとしても、果たして、日本企業・在中日系企業にそれを実現するような条件や環境が整っているか?」に集約される側面だ。 試しに何人かの企業家にこの質問をぶつけてみると、次のような答えが返って来た。「日本人、中国人の異文化に対する寛容度はそれ程大きくないから、難しいのではないでしょうか?」 かなり悲観的な見方が多いのに驚かされるが、果たして、そんなにヨーロッパ系企業に比べて、不利な立場にあるというのだろうか?この点に関しては、自分の問題として、各企業において、さらに掘り下げて考えていただく他ない。 ただ、ここでは、一点、注目すべき点として、『共通言語』の問題を取り上げたい。 つい最近、これもルノーの例であったが、フランス企業における英語教育の実態を知る機会を得た。我々のイメージとは大きく異なり、かのフランス人達が、一生懸命英語を勉強しているのである。それだけではなく、そのレベルは日本人と比べて話にならないほどに上達が早く、到達レベルも高いのである。これだけなら、フランス語は日本語に比べ英語にはるかに近いのであるから、驚くにはあたらないが、最も驚かされたのは、「学習意欲」のレベルの高さである。「会社がやれというからやってるんだよ」などという社員はほとんどおらず、皆目的意識を明確に持ち、「使える、話せる英語」の勉強を必死にやっているのである。会議風景の紹介もあったが、「自分の意見を堂々と英語で発表できている」のである。また、会社としての体系だった外国語教育システムが構築されていることは言を待たない。 この風景を見て、筆者は、目からうろこの感慨を禁じ得なかった。 「そうか、日産・ルノー、エアバスの異文化を生かす環境作りの基本に、『共通言語』の定着化を据えているんだ。これがあればこそ、コミュニケーションが成り立ち、様々な異文化に染まった市場を相手に柔軟な発想が出来、各々が持てる価値観をぶつけ合うことを通して新しい価値を生み出すことが出来ているのだ」と。 お隣の国ドイツ、シーメンスの場合でも、役員会はドイツ人だけであればドイツ語だが、一人でも非ドイツ語人が加わると英語を『共通言語』に採用しているという。ということは、ドイツ人の役員も英語が出来なければ務まらないということになるが、ここで、「ドイツでは英語が出来る人を役員に選抜しているんだ」と解釈してしまうのは、あまりに自己弁解的な、自分に都合の良い解釈であろう。実情は、「ドイツ人の役員も一生懸命英語を勉強している」のである。 日本企業は、この面において、どうだろうか?『共通言語』の問題をないがしろにしてはいないだろうか?企業の上から下まで、こんなに真剣に外国語教育に取り組んでいるだろうか?残念ながら、甚だ心許ないと言わざるを得まい。 中国ビジネスコンサルタント筧武雄氏は、中国ビジネス成功の10のポイントの第一番目に「中国語」を挙げておられるが、まさに、これも『共通言語』の重要性を指摘されたもので、至言である。上述のヨーロッパの先輩企業の『共通言語』に対する地道な取り組みを見るにつけ、強く感ずるのは、環境作りの第一歩としての地道な『共通言語』対策なくしては、日本企業・在中日系企業の異文化対応、更には、異文化の強みを発揮した経営は将来とも望み得ないということである。日本企業の、この面における最適案の早急なる策定を切に望みたい。 (1月4日記) |
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