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ログイン2006年11月17日
現場の実態を知り、アドバイスに耳を傾けることは何よりも貴重な参考となる。長年にわたり中国企業経営に携わってきた日本人ベテラン管理者の貴重な現場報告とアドバイスをテーマ別にまとめたレポートを今回もご紹介しよう。
現場の実態を知り、アドバイスに耳を傾けることは何よりも貴重な参考となる。長年にわたり中国企業経営に携わってきた日本人ベテラン管理者の貴重な現場報告とアドバイスをテーマ別にまとめたレポートを今回もご紹介しよう。
1.日中共同経営のポイント
「現地パートナーを選ぶ」という点でいちばん気を使うのは、やはり合弁相手を選ぶときであろう。何しろ事業が始まれば、いやでも毎日24時間顔をつき合わせて二人三脚で活動していかなければならないのだから…… 。
日中双方が協議して議定書に調印するまではお互いに対等の関係であるが、契約発効によって合弁企業の組織が具体的に編成され、現実に動き始めると、その時点から日中双方のスタッフが互いに身内同士になり、同時に職務上の上下関係が生ずる。こうして生まれた合弁会社では、日本の慣行・概念がそのまま通用しない情況がしばしば起こる。どうすればお互いに意思の疎通を図り、誤解を生じないようにすることが出来るかが事業の将来を左右する最も大切な課題となる。
最初のうちは「うまが合った」と感じた相手でも、少し仕事で付き合えば、典型的な共産主義体制下の国営企業で共産党的実務によって鍛えられた中国人と、自由な資本主義経営に馴染んでいる日本人とでは最初のうちは「水と油」と言ってよいほど勝手が違う。そこまで違わなくとも、生まれ育った環境、境遇は大きく異なる。ここの所を如何にスムーズに協調して融合させるか、うまく処理しないと紛糾の種は無数に存在する。彼等も観念の中では「資本主義的経営」と言うものを勉強しているつもりでも、やはり共同事業の現実に直面した時、いろいろとアレルギー(接触反応)を起す。
「一緒に仕事ができる相手かどうか」がわかるには、短くとも半年間は一緒に仕事をしてみなければわからない。
2.トラブルはどこから発生するか
トラブルが発生した際、合弁会社の社内で彼等が自分の意見や考えを直接我々にぶつけてくれれば、大抵のことは社内で解決できるはずなのだが、かれらはそうしないで、まず自分の本社のボス (大抵は合弁会社の董事長) にご注進となる。日中の総経理と副総経理どうしの意見が食い違った場合、彼らは実に厳格に教条主義に徹する傾向がある。たとえば日本側に対しては、契約の条文に決められた事にこだわる。 むしろ日本側が「臨機応変に」と思っても、そうは行かないで「親分から聞いていた通りに相手が反応してくれない」と、子分たちは自分の考えと責任で話し合って協調し解決することをせず、親分に逐一情況を報告して、判断を仰ぐ事にひたすら徹する。
自分たちの教科書に無いこと、経験したことのないことに対しては、あたかも「資本主義的階級制度反対」と唱えるように、日本人総経理が日本の会社で何気なく当たり前にやっていたことに対してすら、中国側は反発する。共産党の指導下にある彼らにとって、このような「教条主義」は普通で当たり前の行動であるのかもしれない。早い時期に日中の総経理と副総経理が理解しあって、軽く気心が通じる環境を造り上げるように努力することが絶対に必要である。
摩擦・軋轢が度重なってくると、やがて不信感が生まれる。 どんなに話を聞いて理解しようと思っても、どうも説明が端折られている様で、とうとう通訳を介しての説明にも納得が行かなくなる。彼等も中国流に、あるいは共産党流にアプローチしてはいるのだろうが、こちらが理解できない。最初のうちはこのような事がしばしば起こる。 彼等の常識と我々の常識とのギャップは予想以上に大きいものがある。
3.日本人総経理の立場
現実に会社が中国の大地に存在しており、しかもパートナーの本拠地に存在する場合はなおさら、あらゆる面でパートナー親会社から影響をもろに受けることは明々白々である。いくら中国の法律や、合弁の契約書に「合弁企業は独立した組織であって法律によって保護される」と謳ったからと言って、日本人総経理が「自分流」を強行しようとすれば、必ず無理が生じる。そこで何をするにも相手に根回しをして、何故そうするのかという事を理解させる必要と手間が生ずる。
中国側から派遣された総経理や副総経理は、必要であれば毎日出勤退社の前後に自分の出身母体の本社に立ち寄って合弁会社内の出来事を細大漏らさず報告できる「地の利」を得ているのに、日本側の現地スタッフは本社から遠く離れている。 どんなに急いでも日本から駆けつけてくるのに1日はかかる。 そして少しでも彼等にとって不都合な事があると、執拗に追求してくる。こんな時、現地の日本人総経理はどうすればいいのだろうか? 現地ではサンドイッチ状態、日本からは事実上の孤立無援状態で、「逃げ場」はない。
4.リーダーシップの発揮
中国の職場では、与えた指示に対する復命や報告が、今ひとつすっきりしない。ましてや、「ほう・れん・そう」(上下の業務「報告」、横断的な業務「連絡」、問題点の迅速な業務「相談」)等といった、日本では言い古され、使い古された業務スタイルも、彼らにとってはもちろん初めての経験である。頭では観念的に理解できるとしても、事実上、中国の企業内での「ほう・れん・そう」は端的に言えば上意下達、絶対服従という枠組みの中でしか理解されない。だから、どうしても日本人総経理の言うことよりも、事実上の人事権と査定権を持つ、慣れ親しんだスタイルで自分たちの上司の影響を受けやすい。この辺を上手に呑み込みながら、彼等が仕えてきた出向元の上司、つまり合弁会社の董事長や副董事長との間に日本人管理職は割り込んでいかなければならない。
その為には、日本側の総経理や副総経理も相手の懐に飛び込んで、頻繁に総公司を訪ねて日本側の考えを説明し、誤解を解き相手を説得する努力を惜しんではいけない。たとえば毎月でも毎週でも一度は食事をともにするなどして、何でも話し合い、確認しあえるような場を作ることである。そこで相手から全幅の信頼を得られるかどうかが勝負である。
ここで注意すべき点は、彼等が「格」の違いを常に意識していることである。彼等の階級意識の中では、たとえば中方の董事長に相応しい日方の相手は副董事長であって、「雇われ総経理」ではない。課長クラスの若手駐在など論外である。総経理や副総経理が董事長に対して対等に口を利くこと自体が越権行為に等しいとみなされるような節すらしばしば見られる。このような環境で、日本人総経理のリーダーシップ、やり方を通そうと思うなら、「格」上の董事長と副董事長と気心がよく通じていなければ始まらない。そのためには、相手や現地の諸事情、人間関係について正確な情報を把握しておく必要がある。相手との会食や平素の雑談を通じて、直接・間接に最新情報を得る努力をし、社内の通訳を通して表と裏の情報を掴む努力がどうしても必要である。
これを「メンタリティーの差にすぎない」とタカをくくって、情緒で攻める解決法は完全に逆効果となる。メンタリティーの相違の根底には社会制度、法令、文化風土、境遇の相違が存在する。まずは、情報を集めて岩盤の「質」を確認し、どこにどう柔軟剤を打ち込むか対策を練ることである。
そうなってくると、最大の課題は言葉の問題である。通訳の人数は一人や二人ではなく、出来るだけ多い方が良い。通訳が無理なら、日本語の分かる中国人社員や中国語の分かる日本人社員を出来るかぎり増やすことである。複数の日本人の通訳や中国人の通訳を通じて、社の内外にある色々な声や意見を吸い上げる努力が必要である。そうすることによっていろいろな角度からの情報が得られ、そこで始めて客観的な情勢判断が出来るようになるというものである。
職場全体の意思の疎通、会話がスムーズに行われてこそ、事業は円滑に進むのである。うまく軌道に乗っている合弁会社の社内の雰囲気は明るく、気軽に大きな声で日本語と中国語の会話が飛び交っている。
通訳能力について言えば、語学能力よりも、その人柄に重点を置くべきではなかろうか。通訳能力満点よりも、能力は70点でも人柄100点の方を選ぶほうが良いと思う。こちらに優秀な通訳が付くと、自然に先方はこちらの通訳を頼りにしてくるようになってしまう。優秀な通訳、言語のイニシアチブをとることは、あらゆる意味でもっとも有力な「武器」といってもいいだろう。
しかし、それも「両刃の剣」であり、いい加減な通訳だと、時には日本側がつんぼ桟敷に置かれてしまう危険もあるし、同時にこちらの事情が先方に筒抜けになる危険もある。自分一人が事業を動かしているような錯覚に陥る通訳すらいる。そうなると、日本人総経理といえども無力な存在となり、実際に何も出来なくなってしまうのである。(2006年11月記 3,631字)
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