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ログイン2006年12月30日
現場の実態を知り、アドバイスに耳を傾けることは何よりも貴重な参考となる。長年にわたり中国企業経営に携わってこられた日本人ベテラン管理者による貴重な現場報告とアドバイスをテーマ別にまとめたレポートを今回もご紹介しよう。
現場の実態を知り、アドバイスに耳を傾けることは何よりも貴重な参考となる。長年にわたり中国企業経営に携わってこられた日本人ベテラン管理者による貴重な現場報告とアドバイスをテーマ別にまとめたレポートを今回もご紹介しよう。
1.「役得」、「利得」の実態
「役得」、「利得」は、中国社会では一般に上から下まで、あらゆるところに存在する。自社の購買が適切な価格とルートで購買しているかどうか不安を持つ外資系会社も少なくない。もし中国の企業で購買と管理の業務を同一人物に兼務でまかせると、やりたい放題で会社は大変なことになる。
中国社会では、上から下までそれぞれのレベルで、才覚のあるものが常に利得、役得を得る努力をしている。決して犯罪、悪習とはとられず、むしろ「個人の才覚」とみなされる風土と言ってよいだろう。これが調子に乗って、権力と結びつき、大規模、大々的、計画的になると、新聞やテレビを騒がす大汚職となる。最近では、そういった「悪徳商人」や「悪代官」を徹底追及するテレビ番組も中国では人気が高い。
●「役得」、「利得」はあらゆるステージに存在する。
購買窓口の口銭だけでなく、工場作業員は備品、部品、製品を勝手に社外に持ち出して売りさばく。物流担当は通い箱を売り払い、ラインの女工は支給される手袋をため込んで町で売る。自分の作った不合格品すら売り飛ばす。会社の運転手にも「修理」と称する役得があり、友人の修理会社と共謀して会社に費用水増し請求してくる。必要があって社外にチャーター車を手配するときも、必ずバックマージンをとる。
営業も油断はできない。才覚のあるものは会社の看板を利用して、会社の得意先に対して「次回からは、会社でなく私個人に依頼してくれれば、会社と同じ純正品で三割安くしておきます」などと平然と個人で営業する。あるいは顧客注文を個人が関連する別企業に勝手に流すケースもある。
人事担当者による「採用手数料」の要求、給与ピンハネ行為もめずらしくない。社内だけでなく、社外にも銀行、物流、通関、会計監査などさまざまなステージにおいて役得と利得が存在している。
社外での情報提供、あるいは問題解決の人脈紹介を依頼する側も、される側も、バックマージンがあることを当然と理解している。この認識は政府、公的機関、民間企業、家庭、個人など、いかなる個人、組織をも超越して、中国社会に横断的かつ普遍的に存在している。中国で大切とされる人間関係、人脈とは、端的に言えばすなわち「個人的金脈」であり、これが幅広い「役得思想」につながっているのである。
一例をあげれば、上海地域のある地方では、被害額の20%を支払えば、注力して捜査を請け負うと公言している地方警察すらある。これを支払わなければ、犯罪は書類だけで事実上「お蔵入り」にされてしまうわけだ。勿論、この手数料は担当警察官、捜査官の個人アルバイト収入となる。中国の警察では代金を支払えば、パトカーや白バイを私的な先導車や護衛として出動してもらえることもよく知られている。
ソフトウェアプログラムやサービス業など、無形商品については、まさにバックマージンが暗躍する真骨頂分野であり、「本体価格」を上回るマージン取引が行われることもあるようである。有形商品についても粗悪品ほど多額のバックマージンが支払われる傾向にあり、マージン取引を目的とした購買は、不良製品、不良在庫を生み出す根本原因にもなる。
2.効果的な「防止策」はあるのか
中国公司法、労働法、税関法など、たいていの経済法令では横領、贈収賄(「走私行為、営私舞弊」)は禁止され、これを犯した者は即時処分が認められ、同時に個人に対する損害賠償と刑事責任の追求がなされるという条項が必ず設けられている。同様に、社内就業規則などのルール、あるいは日常的な管理面においても、「バックマージンを受け取る/支払った者は即時解雇、損害賠償」の原則を全社的に周知徹底することが基本である。これを曖昧にすれば、全社的に「役得」と「利得」がはびこることになる。中国では、「明文をもって禁止されないことはやっても良い」と理解されると考えたほうが正解である。
具体的な防止策は、申請者、実行者、支払者を分ける「三権分立」方式を採用して、社内での相互牽制と相互監視システムを徹底させることである。日本でも金融機関内の内部管理システムはこの基本方針をとっていることから、大いに参考になるかもしれない。
購買にあっては、常に2~3社からの相見積もりを徹底させ、できれば腐敗の温床となりやすい個人商店、個人との取引は極力排除する。営業にあっては、大口、継続的な取引先に対しては、トップみずからが面識をもって取引の意向を確認し、継続することが必要不可欠であり、少なくとも新規取引の開始、価格の変更、ベンダー、メーカーの変更の際は、必ず管理責任者が相手の営業許可証をもって法的資格、経営範囲と法人代表者の取引意向を直接確認する必要がある。なぜなら、担当者が個人的バックマージン欲しさに新規契約を締結あるいは契約変更し、マージンを得た後で平気で契約を取り消し、代金も不払いという行為が現実に存在し得るからである。
運用の実際は、個人的「利得」、「役得」を一律禁止としながら、会社としてこれを上手にコントロールすることにある。
3.「役得」、「利得」を上手にコントロールするコツ
中国社会の内部において、トラブルや問題解決のための個人的コネルート活用を「是非」で考えては道を往々にして見誤ってしまう。中国の法令や中国の社会事情に疎い中国ビジネス初心者の方には決して最初からお勧めすべき方法ではないが、逆に、これを企業として上手に活用することができなければ、中国市場での成功はおぼつかない。
中国人の国民性を紐解いていけば、長い歴史の中で培われた義理人情の輪の世界がいまだに根強く残っている。この国で事業を展開するわけだから、国情を無視した運営手法は摩擦が生じる。むしろ疎んじられると言っても過言ではない。
日本人は「人脈」を直ちに賄賂につなげて考えてしまうが、実は決してそうではない。現実に中国で永年事業経営してきたなかで、実際に賄賂を要求されたことはむしろ少ない。政府や役所の幹部達と親しく付き合ってきたが、長く付き合っている人達とは、決して金銭のつながりではない。彼らは平素から中国政府の立場の正当性を頑固に強く主張したとしても、同時に日本企業の考え方も知りたい、というのが本音である。そこで丁々発止言い合う場面があれば、それを機会に仲良しになったり、日本へ出張したときに歓待したりして、様々な形でコネルートを育ててきた。具体的に言えば、このコネルートを活用して情報の早期入手(税法改正や税関手続きの改正など)ができたり、また率直に法の未整備を指摘して新しい仕組み、システムを作ってもらったりした。要は相手を助けてあげることができなければ、こちらが助けられることもない、という関係である。
4.よい人脈はどのようにして見つければよいか?
社内や外部の宴席などで「私は(あるいは彼は)、中国政府の高官と人脈があり、トラブルや問題解決の有効なコネになる」と人脈紹介をみずから売り込んでくるケースは多い。しかし、一度会ったことがある、あるいは遠い血縁関係にある、というだけで人脈を売り込んでくるケースもあるので要注意である。最悪の場合、完全な詐欺もある。
また、お金の力だけに頼って見知らぬ人物に依頼する支援では期待に添うような結果がもたらされることも非常に稀である。やはり人脈とは、長期にわたってみずから築き上げてきた相手との信頼関係を土台として形成されるものである。
中国人であっても、信頼できる確かな人脈を一朝一夕で築き上げることができないように、その「支援の人脈」がどのように形成されたもので、本当に安心して任せるに足りる確かなものであるかは最初にしっかりと見極める必要がある。
たとえば、某有力者を知っているのであれば、具体的にどのような関係があるのか、知り合った経緯などを聞き、疑わしければ、「すぐに会いたいのでアポを取ってくれるよう」頼んでみて相手の反応を見れば、だいたいのことはわかる。話だけで決めず、少なくとも本人と会って話し、自分の眼で、その人格と人脈を見極めることが肝要である。
そして、これはと思う人物が見つかったら、何よりもまず、こちらから何かできることをしてあげる行動を起こすことである。そして、当方からの支援に対して、支援を返してくれる相手かどうかを見極める。もし何も返ってこなければ、よい人脈関係(コネ)が成り立つことはない。なぜなら中国ビジネスの実体は、まさにそういった「お返し」の繰り返しと積み重ねそのものだからである。(2006年12月記 3,718字)
(つづく)
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