<各業界事情> 中国・広東省『テクノセンター』の真実
(アジア・マーケット・レビュー 2003年10月15日号掲載記事)
日本の一部新聞・週刊誌が、8月末以来、本誌でもたびたび報じている中国広東省深セン市にあるテクノセンター(日技城製造廠)に関し、その未公開株をジェトロ(日本貿易振興会)の幹部などに取得させたのはおかしい―などとセンセーショナルに取り上げている。筆者はかつて新聞記者として、テクノセンターを設立前から報道してきた。日本の中小企業の中国投資が実現しやすいテクノセンターという工業団地が広東省深センに設立されるという記事を書き、その記事を見た当時のジェトロ幹部が日本の中小企業の役にたてるテクノセンターを応援することを決めたという経緯をテクノセンターの代表幹事から聞かされたこともあるだけに、私は今回の一連の報道に憤慨している。 中国では、年10‐15%の配当など普通のことであり、出資した人も高配当を得ることが目的ではなく、「日本の中小企業の中国進出のお役に立てるのなら」という気持ちで出資していることも知っている。筆者も、全く同じ気持ちでテクノセンターの株主になっている。 中国では共産党員が株を保有し、国立大学の教授が企業の経営者を兼務していることは、名刺にずらりと肩書きが並んでいるのを見てもわかる。中国は日本よりよほど開放されており、今回のような報道を見ると、日本はなんと遅れた国なのか、こんなことでは日本経済に元気なんか取り戻せないとも感じている。
初代代表幹事の宿井次郎さん
現在、テクノセンターには4人の代表幹事という名の最高経営責任者がいる。初代からの代表幹事の1人である石井次郎さんは、1940年11月15日に愛知県常滑市で生まれた。20代から30代にかけ、欧米各地で転職を繰り返した石井さんは、1986年12月に横浜にある電子部品メーカーである宮川製作所に入社、同社の香港法人である宮川香港有限公司を設立、その香港工場と中国工場を育てあげた。そして2002年末に、光ファイバー製品で知られる東証1部上場のモリテックスの香港法人、モリテヅクス香港を宮川香港内に設立、現在、モリテックス香港董事長で宮川香港「名誉」会長の職にある。 テクノセンターそのもの、また、香港で現在も続いている「八日会」という日系企業の異業種交流会や、テクノセンターが秋に毎年開催している6,000人以上の規模の大運動会なども石井さんが発案者で、石井さんは日本のテレビ、雑誌などマスコミにもひんばんに登場する有名人。筆者は1996年にビジネス社から発行された『アジアビジネス新次元』という本で石井さんについて紹介したことがある。翌年には現日経BP専務である佐藤正明氏の『望郷と決別を』(1997年文蓼春秋社発行)が出版されるなど、多くの本で石井次郎さんの人生が詳しく紹介されている。 欧米の長い放浪から日本に戻った石井次郎さんは、当初、カメラのストロボメーカーのサンパックに入社したが、そのきっかけは、デンマークでカメラ修理をしていた時、日本製のストロボの修理の注文が急増、設計上のミスに気づいた石井さんは日本のサンパックに手紙を送り設計改良を訴えたことだった。 その設計ミスを認めた返事がサンパックから届き、「日本に来る機会があったら、ぜひ当社に寄って欲しい」と言われていた石井さんは、日本に戻ってサンパックを訪問、当時の社長から、「1ヵ月でもいいから当社の工場にいてもらえないだろうか」と頼まれ、同社に入社した。そしてサンパックの香港工場の立ち上げを担当、1986年に同社が買収される時まで、同工場の代表者として働いた。 香港政府からの支援も受けながら完成したサンパック香港工場は、操業してからたった1年間で、投資した資金の3倍もの利益を計上し、大ニュースになった。このことをきっかけに、香港政府は日本企業など外資製造業の受け入れに向けて熱心に動きはじめ、日本からは香港に工場を作る可能性があるかどうか見極める視察が急増した。 石井さんによると、日本企業の多くがそのような動きを見せる中、すでに香港で操業していた日系の大手企業では、「面倒くさい」、「時問がもったいない」などとして工場見学を受け入れないところがほとんどだったので、サンパックの香港工場が日本からの視察を一手に受け入れ、工場の隅々まで見学してもらい、香港投資に関係するあらゆるデータを無料で渡していた。 そして石井さんは、「どうしてこんなに儲かる香港に出てこないのですか」と聞いてまわりながら、日本の中小企業がなぜ海外進出できないのかというデーターべ一スを作りあげた。石井さんが、当時、このアンケートを分類してみると136項目あり、現在、日本から中国進出を計画している中小企業が抱えている問題点とほとんど同じだという。 そのネックは4点に大きく分類でき、
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