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中国TCLが仏トムソンと事業統合―世界のテレビ市場で生き残り目指す―

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2004年1月15日

<各業界事情>
中国TCLが仏トムソンと事業統合
―世界のテレビ市場で生き残り目指す―

アジア・マーケット・レビュー 2003年12月15日号掲載記事)

 中国の大手家電メーカーであるTCL集団(広東省恵州市)は、フランスの大手家電メー力一、トムソンとテレビ関連事業を統合することで合意した。この統合は電機業界の間ではトムソンのテレビ関連事業をTCLが実質的に買収すると位置付けられており、中国の大手企業が本格的に海外展開に乗り出してきたことを意味する。

 TCLは日本の松下電器産業や米国のインテルなど海外の電機・電子メーカーと相次いで提携し、中国市場向けに最先端技術を積極的に導入してきた。しかし、中国がWTO(世界貿易機関)に加盟したことで外資の中国進出が一段と加速する傾向にあり、将来的に「世界企業」として生き残るためには海外の大手メーカーと事業統合し、規模の拡大を進める必要があると判断した。
 この事業統合により、TCLは世界最大のテレビメーカーとして、その存在感を強めるだけでなく、今後はOEM(相手先ブランドによる生産)供給から自社ブランドによる製品展開を本格化させる方針だ。今回の事業統合をめぐっては「中国企業が世界市場でこれだけの存在感を示すのは初めて」(日系の大手家電メーカー幹部)と関係業界にも衝撃を与えており、中国企業に対する警戒感がさらに強まるのは確実な情勢だ。中国の家電メーカーは相次ぐ外資との提携で急速に経営基盤を強化しており、今後は価格競争力だけでなく、海外メーカーの持つ技術力やブランド力に目を向けようとしている。成長市場の中で力をつけた中国企業は、今後も体力の弱った海外企業を傘下に収めるのは必至であり、海外メーカーとの間で激しい生き残り競争を繰り広げることになりそうだ。

世界最大のテレビメーカーが誕生

 TCLとトムソンが11月初めに合意した内容によると、両社のテレビ・DVD事業を来年前半にも香港に設立する新会社「TCLトムソン・エレクトロニクス」に移管する。両社の生産・販売拠点だけでなく、開発拠点を含めて新会社の傘下に関連事業を完全統合するものだ。新会社に対する当初の出資比率は、TCLの香港上場会社であるTCL国際が67%、トムソンが33%とする方針だ。ただ、トムソンは新会社の設立後、1年半以内に新会社の株式をTCL国際の株式に転換する権利を保有しており、株式転換後に新会社はTCL国際が全額出資する子会社になる。このため、今回の事業統合は「TCLがトムソンのテレビ・DVD事業を事実上、買収することになる」(大手電機メーカー幹部)とみられている。
 事業統合で生まれる新会社の資産総額は4億5,000万ユー口(約576億円)、年間売上高は約30億ユー口(約3,840億円)に達する見通しだ。この新会社はTCLが中国国内で保有する工場のほか、ベトナムやドイツなどの海外工場を傘下に置く。また、トムソンがメキシコやポーランド、タイなどで運営する工場もすべて移管する方針だ。これにより同社は、ブラウン管や液晶など幅広いテレビを生産・販売することになり、テレビの出荷台数は年問1,800万台と世界最大のテレピメーカーに躍り出る。
 1984年にテレビ市場に参入したTCLは、海外メーカーからの技術導入を積極的に進める一方、OEM供給を通じて生産台数を急速に増やした。その結果、現在では中国国内で「王牌」などのブランドで18%のシェアを握っており、同国では長虹と並んで最大手クラスの存在感を示している。
 一方、トムソンは、米GE(ゼネラル・エレクトリヅク)から身売りを重ねてきた「RCA」ブランドを保有し、米国では12%のシェアを確保している。また、欧州では8%のシェアを持つ「トムソン」ブランドで事業展開しており、新会社は世界の各市場で競争力を持つ有名ブランドを収める格好になる。
 このため、香港で開いた事業統合の記者会見の席上、TCLの李東生総裁は「TCLとトムソンはこれから勝ち組同土になる」と両社が共同で世界市場で勝ち抜いていくとの見通しを示した。そのうえで李総裁は、「世界の主要市場で大きな存在感を示す初めての中国企業が誕生する」として、今回の事業統合で世界市場への攻勢を強める考えも表明した。
 一方のトムソンのシャルル・デヘリーCEO(最高経営責任者)も「トムソンの営業利益率は今後上昇する」と指摘し、老舗ながらもRCAブランドで赤字続きだった米国のテレビ事業を本体の経営から切り離すことに安堵の表情をみせた。

2万店の小売店を系列下に置く

 確かに年間1,800万台という生産規模は、松下電器産業やソニーを600万台以上も上回るものであり、市場参入からわずか11年で世界トップの地位を固めることになる。こうした同社の経営理念は「世界市場で通用する中国企業をつくりあげる」というものであり、これまでに松下電器や三洋電機などの日本企業に加え、韓国のLGや米国のインテル、マイクロソフトなど大手企業と相次いで提携し、高度な技術を導入してきた。同社の歩みは、自前主義にこだわらず、世界で受け入れられている技術を積極的に取り入れることで大手メーカーとしての地位を築いてきた歴史でもある。
 中国の電機メーカーの場合、自前主義にこだわるために思うような技術を導入できないケースも多いが、同社ではOEMを武器にしてまずは技術蓄積を進め、一定の技術水準に達してから自社ブランド展開に乗り出すという経営方針を貫いている。しかし、生産技術は海外から導入するが、販売面では徹底的に自社ネットワークの構築にこだわり、中国国内だけで27社にのぼる販売会社を設立し、この販社を通じて4,000店あまりの代理店網を構えている。この代理店の先には、さらに2万以上の系列小売店が控えており、消費財の流通網がネックとされている中国では珍しい販売形態を打ち出したことで、後発メーカーながら中国国内における大手テレビメーカーとしての現在の地位を確立した。
 実際にTCLは、海外メーカーからの技術導入に熱心であり、トムソンとのテレビ事業の統合を決定する直前には、インテルとの間でデジタル家電分野などで包括提携することで合意している。広東省にあるTCLの研究開発所に両社が共同で開発施設を新たに建設し、デジタルテレビや多機能携帯電話のほか、パソコンと家電を融合化した商品の開発などに取り組む。
 その一方でTCLは、デジタル家電の相互接続方式をめぐり、中国国内での基準統一化も進めている。中国のパソコン最大手である連想集団や長城計算機集団、大手家電メーカーの海信集団など大手12社と共同でパソコンやデジタルテレビなどの製品を相互に接続して利用する技術基準の統一を図るものだ。音楽や映像、メールなどの情報を簡単にやり取りできるようにする技術を標準化することで、デジタル家電の普及を目指す。TCLなど中国国内メーカーが主導権を発揮して基準を確立するこ’とで、海外の大手家電メーカーの製品に対抗する狙いも込められている。

他の中国メーカーも海外に相次ぎ進出

こうしたTCL以外の中国家電メーカーも海外市場への進出には意欲的だ。中国のテレビ市場でTCLと激しい競争を演じている創維集団は、ロシアのテレバット社との折半出資でモスクワ郊外に年産50万台規模のデジタルテレビエ場の建設計画を進めている。創維集団は広東省にある自社工場から年間30万台規模でロシア向けに輸出しており、今後も急速な伸びが見込まれている。このため、現地需要に迅速に対応するには、ロシア国内に生産拠点を確保する必要があると判断し、現地の有力家電メーカーであるテレバット社と合弁で工場を建設することにした。同社では、ロシアエ場の生産能力を数年以内には年問200万台規模にまで引き上げる方針だ。
 また、中国のエアコン市場でトップ争いを繰り広げている格力電器(広東省)は、ブラジル郊外のマナウス自由貿易区に2,000万米ドルを投じ、年産能力50万台のエアコンエ場を建設し、操業を始めている。これは中国のエアコンメーカーにとって初めてとなる南米工場であり、中南米市場を開拓する拠点と位置付けて今後も生産増強を進める計画だ。
 TCLは、トムソンとの事業統合を契機にして海外市場、とくに日本市場の開拓に取り組む考えだ。TCLの李総裁は、事業統合を発表した後に来日し、その時の講演で日本企業に提携を呼びかけた。李総裁は「日本企業の進んだ技術と中国の生産・販売力を結び付けるなど協力できる分野は多い」と強調し、提携には双方にメリットがあるとの見方を示した。
 日中の家電メーカーの協力では、三洋電機と海爾集団(ハイアール)が相互に製品をOEM供給しているが、「思ったような成果は上がっていない」(大手家電メーカー幹部)とされている。このため、TCLでは日本の家電メーカーのほか、家電量販店など製造業ではない企業との提携も模索している。同社が家電量販店向けにテレビなどの専用商品を供給すれば、市場に大きな影響を与える可能性もあり、同業他社は警戒感を強めている。

(松尾泰介)

本記事は、アジア・マーケット・レヴュー掲載記事です。

アジア・マーケット・レヴューは企業活動という実践面からアジア地域の全産業をレポート。日本・アジア・世界の各視点から、種々のテーマにアプローチしたアジア地域専門の情報紙です。毎号中国関連記事も多数掲載されます。

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