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税制改定の展望とその影響について~流通税~

中国ビジネスレポート 税務・会計
水野 真澄

水野 真澄

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2002年10月1日

外資企業に適用される流通税

  1994年の税制改革により、従来外資企業に対して適用されていた工商統一税が廃止され、同時に「増値税」「営業税」「消費税」が導入されました。これにより内資企業と外資企業の税制が統合されましたが、これらの税金は以下の通り課税対象が分かれています。

(1) 増値税
  中国国内での財貨の売買、及び加工・修理・補修役務

(2) 営業税
  中国国内での役務提供(加工・修理・補修役務以外)、無形資産譲渡、不動産販売、金融・保険業務その他

(3) 消費税
  タバコ、酒、化粧品、その他特定品目に対し課税される一種の奢侈税


増値税、及び営業税の問題点

  これらの税金については、民間企業や税務関係の専門家より、一部改定の必要性が主張されていますが、指摘されている問題点とは以下のような内容です。

(1) 増値税

  増値税は中国の主要流通税ですが、導入されて以来、何かと物議を醸す税金です。評判の悪い理由は、外資企業にとっては輸出還付政策の不透明性であり、内資企業にとっては固定資産購入に際して支払った増値税の還付・控除政策に起因するものです。

a.輸出還付
  増値税は中国内の物品売買に対して課税されるものであり、物品が輸出される場合は、それを仕入れるにあたって支払った増値税は全額還付されるのが理論的であり(そうでないと、間接的に中国外の消費者に対して増値税の一部が転化されることになる)、これは、増値税法にも「輸出に対してはゼロ税率を適用する」と明記されています。
  但し、実際にはこれが遵守されず、また対応が通達によって目まぐるしく変化したという過去の経緯があり、さらに、一時期「外資企業のみ輸出還付を認めない」という内外差別的な通達が出された(後に撤回)ことで、外国企業の中国不信を募らせた事もありました。現段階では、内資企業・外資企業間で輸出還付の対応に違いは無く、また還付税率も引き上げられ、一時期は最高8%あった還付の掛け目が、現在では4%(17%の標準税率に対して13%の還付)となっています。それ以上の還付が受けられる品目も多々あり、その意味では状況は年々改善されてきています。
  現段階で残っている輸出還付に関わる問題点は以下の通りであり、これが今後どの様に改善されていくかが注目されるところです。ただし、本件に関する明確な対応方針は中国税務当局よりは一切出されておらず、問題の完全な解消にはまだ時間を要すると思われます。

1)還付計算式の変則性
 増値税の還付金額の決定上、「還付しない金額を先に決定する」こととなっています。この還付しない金額は、

   輸出FOB金額 x (増値税率‐還付税率)

で求められます。仮に、商品を1,000で仕入れ、170の増値税を仮払いし、その商品を1,500で輸出した場合(さらに、この商品の還付率を13%とした場合)、上記の算定式によれば、還付金額は以下の通りとなります。

  還付しない金額:1,500 x (17%−13%)= 60
  還付金額   :170‐60 = 110

以上の結果、実際の還付率は11%となっており、還付条件の13%を下回っていますが、これは還付しない金額を輸出FOB金額(販売価格)をベースに算定しているため、付加価値部分(販売益相当部分)が還付しない金額に織り込まれており、還付金額が減少してしまっているものです(500x4%=20相当部分が減少)。
  この公式は理論的に違和感があり、詭弁の感が残るものです。この点、公式の修正が妥当と考えますが、何時これが実現するかは現状不明です。

2)還付のタイミング
  増値税の還付は1年に1回のみとなっているケースが多く、資金負担(国内調達時に支払った増値税の還付待ちに関するもの)が相当金額になるケースが生じます。この点、月次ベースのタイムリーな還付が行なわれる事が望まれます。

3)還付に関わる50%基準
  輸出増値税に関わる還付については、「還付を申請する企業は、先ず、国内売上に関わる納付税額と、輸出に関わる還付税額を相殺した上で、還付ポーションが大きければ還付申請を行なうこと」となっています。ここまではよいのですが、還付を行なうための条件として、「申請企業の売上高に占める輸出売上高が50%以上となっている場合」に限定されており、これを下回る場合(国内販売が50%以上の場合)は枠の繰越のみで、還付請求はできない事となっています。
  この点、深センあたりでは、この規制を撤廃する事を検討している等の噂が流れていますが、何れにしても改善が望まれるところです。

4)進料加工に対する扱い
  加工貿易(原材料が原則として輸入される輸出保税加工)の主要形態として、「来料加工」(外国の委託者が原材料を無償で提供し、中国の加工受託者がこれを加工して加工賃を受け取る方式)と「進料加工」(外国の委託者が原材料を有償で提供し、中国の加工受託者がこれを加工して有償で委託者に再輸出する方式)が挙げられます。
  このうち、「来料加工」については増値税も免税であることが定められていますが、「進料加工」については所管の税務当局が対応を決定することとなっています。よって、進料加工で商品が全数量輸出される場合、「加工企業側に増値税負担が無い場合」と、「還付の掛け目相当の負担が生じる場合」に分かれます。この点、方式の一本化が必要です。

5)輸出加工の輸入原材料に対する二種類の方式の統一
  進料加工等の取引を行なう場合、一旦、増値税相当額を納付した上で、輸出時に還付請求する「先徴収後還付」方式と、輸入時には増値税の納税は不要で、輸出時に要納税金額(還付の欠け目相当部分)を納税する「免税・控除・還付」方式の2種類が定められています。納税方式を「免税・控除・還付」方式に統一するという規定が過去に出されており、実際に、徴収方式の主流は「免税・控除・還付」方式となっていますが、依然として統一されておらず、先徴収後還付方式を要求する地方も存在するのが実情です。この点、方式の統一(特に、免税・控除・還付方式への一本化)が望まれるところです。

6)還付税率の引き上げの必要性
  前述の通り、増値税は現時点で輸出のゼロ税率が実現していません。輸出に際して、全額が還付されるもの(機械設備、電器・電子製品、綿類紡績品、その他)、15%の還付税率が適用されるもの(鉄鋼、有機化学工業原材料、無機化学工業原材料の一部、その他)、13%が適用されるものに分かれており、全額還付の早期実現が望まれます。

b.固定資産購入に際して支払った増値税の控除

  内資企業からの不満が多いのがこの固定資産購入に関する増値税控除の問題です。
  中国の増値税は、生産段階課税方式が採用されていますが、これは「たとえ営業用固定資産であっても、固定資産購入に際して支払った増値税については、一切の控除・還付を認めず、純粋な取得コストとして扱う」というもので、世界的にも珍しい課税方式となっています。このため、会社立ち上げ時に設備投資を行なった場合、それに相当する増値税が純粋なコストとなってしまいますが、増値税は標準税率17%と高額なことからかなりの税負担となってきます。外資企業に対しても、増値税に関しては同一の税制が採用されていますが、「外商投資産業指導目録の奨励分類に該当する企業の場合は、特定の免税適用外品目に該当する商品を除き」、会社設立時に総投資の枠内で輸入する設備・機械に関しての優遇規定があり、これにより、関連する関税・増値税を免税とすることができます。また、奨励分類の外資企業に対しては、現金出資の枠内で購入する新品の国内設備についても優遇規定があり、購入時に支払った増値税の還付が一定条件の下に認められます。
  このため、増値税政策に関しては、外資企業に対して超内国民待遇を付与しているという不満が内資企業よりあり、これを背景として、上記の外資企業に対する優遇規定は1996年に一旦打ち切られています(後に、内容を修正した上で再開)。
  最近、増値税を消費段階課税に変更する、つまり、営業用固定資産の購入に際して支払った増値税の控除を認める方向で改定するという観測が流れています。
  これが実現すれば、内資企業は製造原価を引き下げ、競争力を向上させることが可能となります。さらに忘れてはならないのは、これと同時に外資企業に対する優遇措置が打ち切られる可能性があるということです。
  つまり、外資企業に対する輸入設備に関する免税措置は、(関連当局は)かねてより廃止したいものの、廃止に伴う影響が大きく、外国企業の対中投資に重要な影響を及ぼすため、実施を見合わせてきていた(1996年に一旦廃止したものの、影響が深刻であり1998年に一部内容を修正の上再開)経緯があります。
  ただし、増値税法が改定され、設備投資に関わる支払い増値税の将来的な控除が認められ、WTO加盟の公約に基づく関税率引き下げが進めば、同優遇規定を廃止するお膳立ては理論上整うこととなります。
  よって、増値税の消費段階課税への改定が実現すれば、一定期間内に外資に対する優遇措置が廃止される可能性が少なからずありますので、この点注意を要する点といえます。
  これが実施されると、最終的には設備購入に際して支払った増値税は、その後の課税売上による支払い増値税より控除が認められることとなりますが、一旦納税が必要となり、資金負担が生じることとなります(現在は一定条件を満たせば免税措置の適用が可能であり、資金負担が生じない)。

(2) 営業税

  営業税は増値税と並ぶ主要流通税で、「税金を販売先に転化していく増値税(客先より徴収し、仕入れ時に仮払いした増値税相当を控除した上で、差額を納税)」と違い、収益を受け取った企業・個人が、受取金額の中から納税する方式を採用しています。営業税に関しては、大きく分けて以下の問題点が指摘されています。

a.支払いが累積し、税負担が結果的に高額となる可能性がある。

 企業A → 150支払い →  企業B → 50支払い → 企業C

  上記のようなケースで、企業BがAに対してサービスを提供し、その一部の履行を企業Cに下請けに出した場合、企業Bは150の入金の中から5%(標準税率)の税金を支払い、Cも50の入金の5%相当を支払う必要があります。結果として、仕入れ控除が認められる増値税と違い、営業税は支払いが累積していくため(上記のケースでは、所管税務局と交渉の上、特例としてCに対する50を除外した100に対して営業税が課税される実例もあります)、結果として17%を標準税率とする増値税よりも最終的な税負担が高額となるケースも生じます。
  この点、中国国家税務総局関係者も、「中国におけるサービス産業の競争力確保のためには、営業税の課税方式を変更する必要は認識している」というコメントは出していますが、具体的な方針は現時点で出されていません。この点、今後の改定が期待されるところです。

b.増値税との二重課税
  建設業は営業税の納税義務者とされており、請負額に対して標準税率の5%よりも低い3%が適用されています。ただし、建材の仕入れなどに際して支払った増値税の還付が認められない等、二重課税が生じるケースがあります。結果として、流通税が増値税・営業税に分かれており、課税対象を分けて別種の税金が課税されるため、一部の業種では二重課税が生じる可能性があるという問題が存在します。
  この点、増値税と営業税の統合の必要性が話題に上るケースが多くなってきていますが、これが実現するかどうか、注目されるところです。

(10月1日記)

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