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企業所得税の統合

中国ビジネスレポート 税務・会計
田中 修

田中 修

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2007年1月15日

記事概要

  全人代常務委員会は、2006年12月29日、国務院の企業所得税法改正案を2007年3月5日から開催される全人代の審議に付すことを決定した。早ければ2008年から新しい企業所得税法が施行される予定である。本稿では、現時点での改正案の概要を解説したい。

はじめに

 全人代常務委員会は、2006年12月29日、国務院の企業所得税法改正案を2007年3月5日から開催される全人代の審議に付すことを決定した。早ければ2008年から新しい企業所得税法が施行される予定である。本稿では、現時点での改正案の概要を解説したい。

 

1.現行の企業所得税制

 

 1991年4月、全人代は「中外合資経営企業所得税法」と「外国企業所得税法」を統合し、「外商投資企業及び外国企業所得税法」を制定し、同年7月1日から施行した。

 1993年12月、国務院は「国営企業所得税条例(草案)」、「国営企業調節税徴収弁法」、「集団企業所得税暫定条例」及び「私営企業所得税暫定条例」を統合し、「企業所得税暫定条例」を制定し、1994年1月1日から施行した。

 このように、外資企業に対する所得税制は法律により定められているのに対し、内資企業には日本の政令に当る条例により所得税制が定められているという、いびつな法体系であったばかりでなく、税率も外資企業が特別の地域において24%、15%の優遇税率が設けられていたのに対し、内資企業には33%の税率がかかっており(ただし内資の零細企業には27%、18%の優遇税率が設定されている)、かねてより「内外逆差別」の批判が出ていた。

 なお現在、2005年において全国企業所得税収入は5510.7億元に達し、全税収の17.85%を占め、既に増値税に次ぐ第2の税目となっている。

 

2.新華社論文(新華社北京電2006年12月19日)

 

 新華社は、「企業所得税制度改革の立法時機は既に熟した」と題する論文を発表した。ここには、現行制度の問題点、改革の必要性がコンパクトに整理されているので、その概要を紹介する。

(1)現行企業所得税制の問題

A現行の内資・外資企業所得税制度の差が大きく、税制優遇、控除等の方面でも外資企業に緩く、内資企業に厳しいという問題があり、企業間に税負担の不公平を生み出し、企業からの統一税制・公平競争の要求が高まっている。

B国有、民営、外資等異なる経済的性質の企業が共同発展をとげるに伴い、とりわけ国有企業改革と投融資体制改革が深まるにつれて、異なる性質の企業の相互株持合い、株支配の状況が十分普遍的となり、企業の組織形式が多元的な混合方向に向かって発展しており、内資企業と外資企業を区分した2つの税法は、既に新たな状況に適応し難くなっている。

C現行企業所得税の優遇政策に大きな抜け穴が存在し、企業の経営行為を容易にねじ曲げ、国家の税源流出を生み出している。

 例えば、一部の内資企業は外資企業の所得税優遇を享受するため、資金を国外に移転し、国内に再投資する方式を採用しており、資源の合理的な配分に悪影響を及ぼしている。

D2つの税法の立法レベルが異なり、外資税法は全人代が制定した法律であるのに対し、内資税法は国務院が制定した条例となっている。このため、実際の執行においても法律の効力に差が生じている。

(2)企業所得税税度改革の立法時機は既に熟している

Aわが国の政治情勢は安定し、市場経済体制改革は不断に深まり、経済は平穏かつ速やかな成長を持続しており、企業の投資・発展環境は日に日に整備されている。

Bわが国のWTO加盟後の過渡期は既に終了し、外資の市場参入許可方面の制限は大幅に緩和され、或いは次々に取り消されている。

C近年、わが国の財政収入は良好な伸びの勢いを保持しており、国家財政は税制改革のコストを受容する能力を有している。

D課税ベースの拡大と税率引き下げの企業所得税改革を実施することは、現在世界絶対多数の国家の税制改革の趨勢と一致している。

(3)内資・外資企業所得税の統一のメリット

Aわが国の社会主義市場経済体制を更に整備する

B企業にとって、公平な競争を行う税制環境が創造される

C経済成長方式の転換と産業構造の高度化を促進する

 統一された内資・外資企業所得税は、資源・エネルギー節約、環境保護及びハイテク等産業優遇を主とした税制優遇政策を実行する。

D地域経済の調和のとれた発展を促進する

 統一された内資・外資企業所得税は、優遇の重点を地域優遇から産業優遇を主とするものに転換するが、同時に、西部地域が重点的に支援を必要とする産業に対しては所得税優遇政策を引き続き実行する。

E外資利用の質・水準を高める

Fわが国の税制の現代化建設を推進する

 

3.金人慶財政部長の全人代常務委員会への説明(新華社北京電2006年12月24日)

 

 金部長は、企業所得税法案について次のように説明している。

A現行税制の問題

 内資税法と外資税法の差が大きい。企業からの税制の統一・公平な競争を要求する声が高まっている。同時に、現行の企業所得税制の優遇政策には抜け穴が存在し、企業の経営行為をねじ曲げ、国家の税源流出を生み出している。

 現行の企業所得税制の優遇政策は、優遇政策が不統一であり、優遇内容があまり合理的でなく、優遇の重点がはっきりしないという問題が存在する。

B税制改革のタイミング

 現在、わが国は高成長の時期にあり、企業の全体収益も近年来大きく向上しており、財政収入は良好な伸びの勢いを維持している。国際的な税制改革の経験からしても、このような情勢下で企業所得税改革を進めており、国家財政と企業の受容能力が比較的強いということは、改革に有利な時機である。

C改革のメリット

 わが国の経済構造の改善と産業の高度化と、各種企業にとって公平な競争を行う税法の環境創造に資することになり、わが国の社会主義市場経済発展の新段階における制度革新に適応するものである。

D25%の統一税率について

 この税率については、主として次のことを考慮した。

a内資企業にとって税負担軽減となり、外資企業にとってできる限り税負担の増加を少なくする

b財政の減収を受容可能な範囲内に抑制する[i]

c国際上、とくに周辺国家(地域)の税率水準[ii]

 なお、草案は条件に符合する小型零細企業には20%の税率を課すこととしており、これは国際慣行を参照したものであり、小企業の発展を援助することにより就業を促進するものである。

E税制優遇の調整

a国家が重点的に支援を必要とするハイテク企業には、15%の優遇税率を実行し、創業投資等の企業優遇及び企業の環境保護・省エネ・節水・安全生産方面等への投資については税制優遇を拡大する。

b農林・牧畜・漁業・インフラ投資に対する税制優遇政策は維持する。

cサービス企業、福利企業、資源総合利用企業に対する直接減免税政策は、他の優遇政策に代替する。

d生産的な外資企業の期限付き減免税優遇政策(営業開始2年は免税、その後3年は半減)、産品を主として輸出する外資企業の税負担半減の優遇政策等を取り消す。

F過渡的措置

 新税法による一部の旧企業の税負担増加の影響を緩和するため、新税法の公布前に既に設立が批准されており、当時の税法規で低税率・期限付き減免税の優遇を享受していた旧企業には過渡的な配慮を与える。旧税法で15%、24%等の低税率の優遇を享受していた旧企業には、新税法実施後低税率の過渡的配慮を享受できることとする。旧税法で期限付き減免税の優遇を享受していた旧企業は、新税法実施後享受し終わっていない優遇を引き続き享受することができる。

 なお、金部長は、「過渡的措置の考慮は、政策性が強く、状況が複雑である」とし、具体的な過渡的措置は国務院が規定するとしている(中国青年報2006年12月25日)。

 この点につき、全人代財政経済委員会は審議過程において、「過渡期の方式により新旧税法のつなぎを処理することは、現行の企業所得税の優遇政策の連続性を維持し、わが国政府の信用を守る態度を体現し、新税法による一部旧企業の税負担増加の影響を緩和するものであり、必要かつ実施して差し支えないものである」との意見を述べている。

G居住・非居住の区別

 国際慣行に基づき、草案は「居住者たる企業」「非居住者たる企業」の概念を規範化しており、居住者たる企業は納税義務を全面的に負担し、国内外の全所得について納税する。非居住者たる企業は限定的に納税義務を負担し、一般的には中国国内に來源がある所得について納税する[1]

H控除

 給与につき、内資企業には控除限度額があったが、草案では外資企業と同様、内資企業も労働者に支払った給与を全額控除できることになった。

 また、草案は内資企業が公益事業に寄付した場合の控除比率、企業の研究開発費用の控除額計算、内資・外資企業の広告費の控除比率等を統一的に定めている(中国青年報2006年12月25日)。

 

おわりに

 今回の法改正に当たっては、全人代常務委員会の呉邦国委員長は「企業所得税法は、経済・社会発展の全局に関わる重要法律であり、その制定はわが国の立法活動の大事であり、全人代及び常務委員会の重要任務である」として(人民網北京2006年12月29日)、事前に3000人の全人代代表に案文を送付し改善意見を求めている(新華社北京電2007年1月8日)。

 かねてより財政部は内資・外資企業所得税の統合を主張していたが、直接投資の減少を懸念する商務部等の反対によりこれまで本格的議論は見送られてきた。しかし、第11次5ヵ年計画のスタートとともに外資政策の調整が進んでおり、企業所得税の統一がついに全人代で議論されることになったのである。今後の焦点は、全人代等での議論を踏まえ過渡的措置がどのように手当てされるかであろう。(1月9日記・3,866字)


 


[1] なお、草案は「登記地基準」と「実質管理機構所在地基準」をミックスし、居住者・非居住者を区別するとしている。


 


[i] 立法過程の試算によれば、新法を2008年に実施した場合、税率引下げと控除額拡大により内資企業所得税は1340億元減少し、逆に外資企業所得税は410億元増加するため、差し引きで930億元の減収になるとしている(21世紀経済報道2006年12月21日)。
[ii] 財政部によれば、159の国家(地域)の企業所得税率を調べた結果、平均税率は28.6%、周辺の18国家の平均税率は26.7%であるとしている(21世紀経済報道2006年12月21日)。

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