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ログイン2008年2月26日
個人所得税の改正、物業税(固定資産税類似のもの)の検討状況等についての動向です。
はじめに
本稿では、最近の個人所得税改革及び残された物業税等の改革問題について、概説する。
1.個人所得税の改革
1.1 給与所得控除額の引上げ
2007年12月23日に開催された全人代常務委員会第31回会議において、謝旭人財政部長は個人所得税法改正案を説明した。これによれば、給与所得控除額を毎月1600元から2000元に引き上げることになり、サラリーマン階層の納税者数が全従業員数に占める比率は50%前後から30%前後に低下するとされる[1]。これによる財政収入の減少は約300億元と見込まれている。謝財政部長は、「控除額を2000元にすることは、庶民の基本的な生活消費支出の需要を満足させるのみならず、財政の受容能力をも併せ考慮しており、中低所得者に重点的に配慮し調整する政策意図をも体現している」としている(第一財経日報2007年12月24日)。
全人代常務委員会は最終日の12月29日午前に個人所得税改正に関する決定を通過させた。新しい控除額は2008年3月1日から施行されることとなった。
(1)控除額の根拠
2000元の根拠については、2007年1-9月期の全国都市住民1人当たり消費支出が7395元であり、都市住民家庭で就業者1人が負担する家族人数は平均1.93人であることから、2007年の就業者1人平均で負担する年間消費支出は1万9030元となり毎月1586元と見込まれ、消費支出が年平均10%伸びるとすれば、2008年の就業者1人平均で負担する消費支出は毎月1745元と見込まれること、が挙げられている。
謝部長は「控除額に一定の将来展望をもたせるため、改正額を2000元とした」と説明している(第一財経日報2007年12月24日)。
(2)改正の背景
次の点が指摘されている。
①財政収入の好調
2007年度の全国税収は4兆9449億元となり、対前年度比1兆1813億元、31.4%増となった。うち、個人所得税収は、3185億元であり、対前年度比733億元、29.9%増である(証券時報2008年1月11日)。
この税収の好調があるため、300億元程度の減収は軽微と見なされたのである。
②中低所得層の不満
最近の物価上昇により、財政・税制専門家のみならず、一般庶民からも給与所得税控除額の引上げ要求が高まっていた。
新華網が「現在の個人所得税の課税最低限は引き上げるべきか」という調査をネットで行ったところ、1万人を超える人から意見が寄せられ、97.1%が引き上げるべきだと回答したのである(新華網北京電2007年12月23日)。
③民生の重視
17回党大会と中央経済工作会議において、民生問題の解決を重視する方針が打出されており、政府としての姿勢を示す必要があった。
1.2 全人代関係者の意見
常務委員会の審議の過程では、多くの意見が委員から提起された。全人代財政経済委員会からは、「国務院は税法に存在する各種問題を真剣に研究し、早急に総合と分類を結合した所得税制改革を推進し、適当な時期に個人所得税法を全面的に改定し、できるだけ早く全人代常務委員会の審議にかけるべきである」との意見が出されている(人民日報2007年12月24日)。
(1)李明豫委員(人民日報2007年12月24日)
問題の1つは、課税最低限を1回改正するごとに法律を1回改正しなければならないことである。これで法律を2回改正することになり、頻繁に過ぎる[2]。法第6条1項から控除額の具体的金額を削除し、国務院が庶民の消費支出の実際状況と財政の受容能力に基づき、大衆の意見を十分に聴取したうえで社会に公布することにできないか。
(2)杜宜瑾委員(人民日報2007年12月24日)
中国は税法が実際少なすぎる。これは世界でも稀である。既に社会主義市場経済体制の国家を初歩的に確立したというのに、完全な税法体系がないということは許されない。できる限り早く税収基本法を提出すべきである。
(3)王宋大委員(第一財経日報2008年1月7日)
個人所得税法の改正が頻繁に過ぎる。法律改正の厳粛性を保証するためには、5年の任期中に1つの法律を何度も改正すべきではない。将来の物価と金融の動向は正確に予測し難いが、国民所得は上昇し続けるので、次の任期5年間で2・3回再改正しなければならないかもしれない。課税最低限の調整幅が一定のパーセントを超えない場合には、国務院の決定に授権してもよい。
(4)顧恵生委員(第一財経日報2007年12月24日)
庶民の所得水準[3]・税負担水準・消費支出水準・インフレ水準を総合的に考慮し、課税最低限を自動的に引き上げる制度・メカニズムを確立すべきである。
(5)任克礼委員(第一財経日報2008年1月7日)
2008年の1人当たり消費支出が月1800元で、2009年が2000元だとすると、事実上この改正は1年しかもたないことになる。物価とりわけ食品類価格の上昇を抑えることはかなり困難なので、庶民の消費支出はかなり速く伸びると予想できる。課税最低限を3000元に引き上げるべきである。
(6)劉鳳委員・張奎委員(第一財経日報2008年1月7日)
2000元は低すぎる。もっと将来展望をもつべきである。将来の財政収入からすれば、3000元に最低限を引き上げると3・4年は安定する。
(7)李重庵委員(第一財経日報2008年1月7日)
個人所得税法において、課税最低限を調整する計算方法あるいは公式を規定し、当該改正が全人代常務委員会を通過して後であれば、具体的計算・調整の責任を国務院に授権してもよい。
1.3 劉剣文の建議及び税務当局者の発言
北京大学法学院財政・税制研究センターの劉剣文主任は、全人代常務委員会から委託された研究報告において、次期全人代は個人所得税の税制改革を立法の重点とし、現在の(所得)分類税制を改革し、分類と総合が結合した税制を確立すべきであると建議した。また、2007年初めに国家税務総局所得税司の官員が北京大学の内部討論会において、所得税制の改正方向をかなり具体的に示している。彼らの論は以下のとおりである(第一財経日報2007年12月24日)。
(1)分類税制の問題点
劉剣文は「80年代初に確立された分類税制は、当時の中国の国情に符合したものであったが、中国の経済成長に伴い1人当たり所得が大幅に伸び、課税水準もますます高くなり、分類所得税制は所得調節の機能を十分に果たせなくなった。分類税制は応能課税の原則に符合せず、憲法上の生存権保障の要請(基本的な生活物資には課税しないという原則)を満たすことができない。個人所得税制改革で解決を要する第1の問題は、納税主体を確定することである。家庭を納税主体とするか、或いは納税者に個人ないし家庭を主体とすることを自ら選択させる方法を採用すべきである」とする。
国家税務総局所得税司の官員は、「現行の個人所得税制度は、すでに解決すべき問題が明らかになっている。①所得項目に分類してそれぞれ課税する方法は、各所得を総合して年ごとに課税する方法に比べ、個人所得分配を調節する程度に限界があり、公平・合理的な税負担の原則を十分体現できない、②異なる所得に異なる税率・控除方法を採用することにより、納税者が所得を分解し控除制度を複数利用することが容易となっており、かなり多くの脱税・租税回避・課税漏れが存在する」と指摘する。また、どの所得を総合所得・分類所得とするかについて「改革の方向は、家庭生活において比較的安定した所得を総合所得とし、生計・扶養費用を控除対象として考慮する」としている。
(2)税率の体系
劉剣文は「現在、わが国の税率は比較的複雑であり、改革を要する」と指摘する。給与所得は最高税率45%で9段階の超過累進税率を採用しているが、労働報酬は3段階の超過累進税率であり、生産経営所得は5段階の累進税率となっている。
国家税務総局の官員も「現在わが国の税率は階層が比較的急になっており、異なる税率の間隔の幅が比較的小さい。改革の方向としては、最高税率を引き下げ、異なる税率の間隔を広げ、現行の9段階を5段階ないし6段階に減少し、階層をなだらかにすることである」としている。
(3)個人の税情報システムと申告納税制度の確立
劉剣文は「西側の国家の制度を参考にし、個人経済身分証制度を確立し、これに納税番号と社会保障番号をリンクさせ、納税者の申告への積極性を高めるのがよい」とする。
2.物業税
物業税は日本の固定資産税類似のものであるが、かねてから検討されていながらその導入については依然見通しが立っていない。ここでは、関係者の説明を紹介したい。
2.1 国家税務総局地方税司 楊遂周副司長
1月10日に行われた記者会見で、次のように説明している(新華社2008年1月10日)。
「現在、わが国の物業税は路線価判定模擬テストの範囲を徐々に拡大しているところであり、今年はテストを5都市増やす計画である。物業税は政策性が比較的強く、しかもわが国の地域の発展格差が大きく、不動産の財産権管理の状況が複雑であるため、立法前に更に多くの研究を要し、技術面から物業税の課税をうまく行う準備を行わなければならない」
国家税務総局の関係者の紹介によれば、物業税改革のカギは税額計算を何に依拠するかであり、国家税務総局は2003年から北京・江蘇・深圳等6省市で路線価判定模擬テストを先行的に実施している。2007年は河南・安徽・福建・大連等を追加し10省区の一部地域にテスト範囲を拡大した。
1月22日、北京市の王紀平地方税局長は、北京市の人代・政協会議において「北京市は率先して国家税務総局に物業税の実施を申請しており、最も早ければ今年6月に北京で物業税の課税を開始することになろう」と発言した(東方網2008年1月25日)。東方網の調べでは、北京以外の多くの都市が国家税務総局と財政部に対し物業税の実施を申請している。しかし、国家税務総局弁公庁ニュースセンターの牛新文主任は、「北京市で6月にも物業税を課税するというのは根拠のない話である。わが国の現段階は、物業税という税目がないばかりか関連法律もない」と全面否定した(華夏時報2008年1月27日)。
2.2 中央財経大学税務学院 劉桓副院長
東方早報2007年12月27日において、次のように説明している。
「国家税務総局は現在10の省市で模擬テストを行っているが、外部条件が成熟しておらず、結果は決して理想的とはいえない。物業税を実施するには、3つの条件が欠けている。①建物の財産権の帰属を有効に確認することができない、②庶民の唯一の住宅に物業税を課税するのは適切でないが、庶民が何軒の住宅を所有しているのか確認する方法がない、③わが国には経験を有する不動産鑑定士が不足している。また、現在累進制による課税方法も検討中である」
2.3 物業税の抱える難題
上海証券報2007年12月18日は、税務部門関係者の談として、物業税が容易に実施できない事情を次のように報道している。
(1)立法計画
いわゆる物業税は不動産税であり、土地・建物等の不動産の所有者・使用者に対し、毎年の財産評価額に基づきその一定比率を課税するものである。これは不動産業の健全な発展促進と地方財政収入の持続的安定増に資する。
しかし、物業税は新たな税目であるから、まず立法プロセスを経なければならない。全人代は未だ物業税を立法計画に入れておらず、関係の準備に2年前後を要することからすれば、物業税を2008年から課税することは不可能である。
(2)重複課税の問題
物業税が今まで立法計画に入っていないのは、わが国の現実条件と関係がある。現在の物業税のおおまかな枠組みによれば、現行の不動産税・都市不動産税・土地増値税及び土地譲渡金に係る費用を併合して物業税にすることとしている。しかし、このプロセスは非常に複雑であり、執行の難度が非常に大きい。深刻な問題は、ある税費用が物業税と重複していることである。
現在の分譲マンションは、ディベロッパーが70年分の土地譲渡金を一度に納め、これを住宅価格に含めマンション購入者に転嫁している。しかし、物業税の効果は、土地譲渡金を一時納付から将来何年かに分割して納付させることになる。マンション購入者は既に1度に70年分の土地譲渡金を支払っているのであり、これを物業税の対象とすると重複課税が生じてしまうことになる。
(3)地方政府と住宅購入者の利害調整の問題
建物の価値はかなりの程度地価により決まる。建物は価値が減価していくので、地価上昇のみが建物価格を上昇させることになる。現在、世界で物業税を課税している国家は住宅価格に地価を含めている。それは、住宅を購入すると同時に不動産所有権を所得することになるからである。
しかし、わが国の土地所有権は国家に帰属し、地価上昇分も国家に帰属するのであり、住宅購入者に帰属するのではない。住宅購入者は暫時シンボル的に所有するに過ぎない。このような状況下で、家屋の価値をどのように計算し物業税を課せばいいのか?世界的には、物業税を課している国家は地価と住宅価格を分けて計算している。だが、物業税は地方税であり、地方政府はこのような方法を望まない可能性がある。地方政府と住宅購入者の間にどのような妥協が成立するであろうか?どのような方法をとれば妥協に達するであろうか?折衷的な方法は容易に見つからないと思われる。
(4)情報の問題
物業税の課税対象は1軒1軒の家屋である。物業税は一般的に税務部門が課税するが、家屋に関する情報は3つの問題に直面している。
①情報が不完全である
財産の登記制度が不健全なため、情報収集活動の難度は非常に大きく、コストが高い。
②現在の不動産と土地情報は、それぞれ建設部門と国土部門の手中にあり、税務部門は共有していない
③物業税課税前に、都市と農村の不動産制度と不動産情報をどのように照合するのか
2.4 財政部財政科学研究所 賈康所長
人民日報のインタビューに次のように答えている(人民日報2008年1月8日)。
(1)物業税の必要性
中国の不動産の税費用の基本的現状は「2つの異なる制度」と「1つの不規範」で概括できる。
まず、中国の不動産に関する課税は、内資と外資の「2つの異なる制度」がある。外資企業には統一した不動産税があるが、内資企業にはない。また都市と農村の間で「2つの異なる制度」がある。不動産税の規定は主として都市をカバーするものであり、農村地域は対象とならない。また、税以外に非常に複雑な費用徴収があり、規範の程度が低い。
このほか、長年土地収入の絶大な部分は地方政府の掌中にあった。客観的に言えば、地方政府はこの資金を手にすると現地の社会経済の発展を支援してきたが、資金の運営において紊乱・無秩序を生み出し、短期的な行為を助長することになった[4]。
不動産の税費用改革は必ず行わなければならない。すなわち、税費用改革を同時に考慮し、不合理な費用徴収を取り消し、統一的な物業税を課税しなければならない。物業税を実施することは、省以下において市場経済に見合った分税制・財政体制を実施することになり、地方政府の機能・事務の履行メカニズムを合理化する、重大な改革措置である。
(2)住宅価格抑制の効果
物業税は、確かに住宅価格を抑制する一定の効果がある。物業税が実施されれば、一般庶民は不動産保有に税負担がかかるので、自己の支出予想や住宅購入決定を調整し、小型住宅の選択をより考えるようになるだろうし、投資として住宅を購入している者は多く投資して多く保有することから少なく保有する方向に改めるだろう。このように需要構造・需要量が変化すれば、ディベロッパーもこれに対応し、小型・低価格の不動産をより多く供給するようになるだろう。しかし、これは総体として中長期のプロセスである。税制の不動産に対する調整は、一般的に補助的な効果しかなく、「税制万能論」に陥ってはならない。
物業税のより大きな意義は、主として地方税体系の変革と財政管理体制の改善にある。地方政府はこの税目を手にしたならば、「土地の転売で財をなす」短期的行為の開発モデルを改め、非理性的な投資を抑制し、不動産による安定的な長期収入を生み出すことになるのである。このほか、物業税には、不動産の費用徴収を規範化し、公共財政を簡素・透明・規範化する効果がある。
(3)外国の経験
物業税は、米国・日本・メキシコ等多くの国家で実施されているが、財産の評価が公平か、税負担が高すぎるのではないか等の多くの議論がある。物業税は国により特色があり、各国の発展段階によっても異なる。したがって、外国の経験を参考にして政策を決定する際は、十分慎重でなければならない。外国の経験が漠然としている場合には、多くの角度から詳細に検討し、軽々しく実践に移してはならない。
(4)物業税課税に必要な条件
物業税のテストは漸進的に行われているが、できる限りもう少し歩みを速めるべきだ。現在実施が困難な理由としては、関係の管理人員の訓練、関連技術、実名による財産登記制度、財産保護制度等が不十分であることが挙げられる。不動産登記制度の整備、小口の財産権登記の処理の問題も物業税実施の障害である。路線価をどのように評価すれば公平になるかも、適切な解決を要する問題である。
3.その他の税制改革
国家税務総局地方税司の楊遂周副司長は、次のように説明している(新華社2008年1月10日)。
(1)資源税
楊副司長は「資源税改革案は2008年の公布が期待される。具体的な実施条例も2008年に出すことになろう。現在、国家税務総局は国務院の要請に基づき、関連問題について研究論証を行い、改革案を更に改善しているところである」とする。
専門家の指摘によれば、現在資源税の税率は低すぎ、これが市場価格の歪曲をもたらし、経済の持続可能な発展に不利となっている。このため、現在の従量課税を従価課税に改めるとともに、資源税目を拡大し希少資源を対象に含めるべきだとする[5]。
(2)環境税
楊副司長は「省エネ・汚染物質排出削減を順調に実施することを保障するため、国家税務総局・環境保護総局等関係部門はすでに環境税の研究を開始しており、国外の先進的な経験を参照しながら税目の設計案を整備していく。環境税の課税には、なお1つのプロセスが必要である」としている。
専門家は「環境税の具体的な課税方法はなお未確定であるが、環境保護を強調することは政策の核心である。製品に存在する潜在的汚染あるいは直接汚染物質を排出している企業は、政策的に課税対象となる可能性がある」としている。
(3)燃料税
楊副司長は「燃料税は科学的発展観を体現しているが、実施は複雑な問題であり、現在関係部門が研究中である。実施のタイムスケジュールはない」とする[6]。
国家発展・改革委員会エネルギー研究所の韓文科所長は、「石油使用の節約奨励と負担の公平の観点及び財政・税制手段を増強し石油消費を調節する観点からすれば、わが国はできるだけ早く燃料税を実施すべきである。ただし、わが国の燃料税は費用を税に改める改革、国家の基本国策の体現、人民の生活水準が向上するなかでの社会公平の一層の体現に関わる問題である。このため、実施時期は具体的な研究が必要である」としている。
(2008年1月記・7,659字)
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