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「不正競争防止法(改正草案送審稿)」を考察する

中国ビジネスレポート 法務
郭 蔚

郭 蔚

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2016年8月24日

先頃、中国国務院法制事務室は、「不正競争防止法(改正草案送審稿)」(以下、「不正競争防止法(送審稿)」という)を公布し、社会に向けてパブリックコメントを募集した。本不正競争防止法(送審稿)が最終的に発効し施行されれば、現行の「不正競争防止法」が抱えていた数多くの問題点が改善されることになる。本稿では不正競争防止法(送審稿)を考察し、改正が行われた経緯、ポイント及び事業者がコンプライアンスリスクを回避するうえでの要点などについて簡潔に紹介する。

一、改正の経緯

現行の不正競争防止法が1993年に公布、施行されてから20年余り経過したが、その間、中国の経済構造に極めて大きな変化が生じたことで、現行の不正競争防止法では、時代の流れに即さなくなっており、法律の内容が古いままで必要条項が足らず、法執行の基準も統一されておらず、罰則の程度があまりにも軽すぎるなどの問題が顕在化していた。同時に「独占禁止法」の公布や「商標法」、「広告法」の改正に伴い、他の法律条文との間で内容が重複し合うといった問題が存在していた。このような背景の下、現行の不正競争防止法をどうしても改正する必要があった。

二、改正のポイント

不正競争防止法(送審稿)の改正は、現行の不正競争防止法33条のうち30条に対して行われたが、このうち、7つの条文が削除され、9つの条文が新たに追加され、結果として、不正競争防止法(送審稿)は計35条での構成となった。

1)他の法律にすでに存在する規定を調整した。例えば、不正競争防止法(送審稿)では、「独占禁止法」で規範化されている4つの競争制限行為、即ち、「公共事業企業による独占的地位の濫用、政府及びその所属部門が行政権力を濫用し競争を排除・制限すること、略奪的価格の設定、抱き合わせ販売」を削除しており、「商標法」で規範化すべき「登録商標の詐称」行為を削除し、そして、「広告法」で規範化すべき「広告事業者による虚偽広告の代理、設計、製作、配信」行為なども削除している。

2)「不正競争行為」及び「事業者」の定義をさらに明確にした。不正競争防止法(送審稿)で規範化する不正競争行為は、「その他の事業者の適法な権益を毀損する」行為だけに限定されず、「消費者の適法な権益を毀損する」行為も同様に不正競争行為として見なすことから、適法な権益が侵害された消費者も適格な当事者となって、不正競争防止法に基づき、不正競争行為に従事し若しくは参与した事業者を相手に提訴し又は苦情を申し立て、法的責任を追及できることになる。また、不正競争防止法(送審稿)では事業者の定義が「独占禁止法」における定義とほぼ同じ内容へと調整され、不正競争行為の行為態様については、現行規定における商品の生産、経営又はサービス提供への「従事」だけでなく、「参与」も追加されたことで、適用範囲が拡大されている。

3)不正競争防止法の執行体制を統一した。現行の不正競争防止法の第3条では、法律、行政法規上、他の部門が監督検査を行うとの規定がある場合、その規定に従うよう定められている。この規定に従い実施した場合、各業種間で発生した不正競争の疑いがある行為に対する認定基準、処罰の尺度が各関係部門によって異なる場合があった。そのため、不正競争防止法(送審稿)では、工商行政管理部門が不正競争行為に対する一般管轄権を行使する(即ち、工商行政管理部門が統一管轄権を有する)ことが明確にされ、同時に、関係部門は法律、行政法規の規定に依拠して監督検査を行うことができると定めている。

4)幾つかの典型的な不正競争行為の規定を詳細化した。不正競争防止法(送審稿)では、「市場混同行為、商業賄賂、誤認を招く宣伝、商業秘密の侵害、懸賞付き販促行為、営業上の信用の毀損」という6つの行為について詳細化した規定を設けることで、係る条項の適用範囲のアウトラインが明確になり、実務上の指針を示すものとなっている。

5)2つの不正競争行為を追加した。1つは、市場支配的地位を有さないものの、取引において相対的に優位な地位を有する事業者による不公平な取引行為、もう1つは、ソフトウェアなどの技術手段を利用してインターネット分野において他の事業者及びユーザーを妨害し、制限し、影響を与える行為であり、この2つの行為が不正競争行為として追加された。また、同時に不正競争防止法は、市場競争を保護するうえで基本的な役割を担うことから、「雑則的条項」を追加し、将来発生する可能性があるけれども、現行の不正競争防止法では明確に列挙されていない新しいタイプの不正競争行為までも規範化する形になっている。

6)行政法執行手段及び法的責任を強化した。不正競争防止法(送審稿)では、行政法執行手段として、行政法執行部門が調査対象行為と関係のある営業場所若しくは他の場所に立ち入り検査すること、不正競争の疑いがある行為の財物に対する封印及び差押え、違法資金を移転し若しくは隠匿したことを示す証拠がある場合、司法機関に差押えを申請することなどが新たに認められている。このほか、不正競争防止法(送審稿)では、全ての不正競争行為に対して、行政上の法的責任を規定し、同時に過料の最高金額(最高金額300万元)を引き上げている。

三、「商業賄賂」行為の画定に重点的に注意を払う

不正競争防止法(送審稿)で現在、明確に列挙し禁止されている不正競争行為は合計で8種類ある。このうち、最も注目されているのは、「商業賄賂」の画定であると思われる。実務において、商業賄賂は各事業者が日常経営において最も犯しやすい違法行為でありながらも、その認識と回避が難しい違法行為でもある。

不正競争防止法(送審稿)の第七条では、次のように定められている。
「事業者は以下に列挙する商業賄賂行為を行ってはならない。
(一)公共サービスにおいて、又は公共サービスに頼って当該組織、部門又は個人の経済的利益を図ること。
(二)事業者間において契約及び会計証憑上でありのままに記載せずに、経済的利益を供与すること。
(三)取引に影響を及ぼす第三者に対して、経済的利益を供与し又は供与を約束し、その他の事業者又は消費者の適法な権益を毀損すること。
商業賄賂とは、事業者が取引相手又は取引に影響を及ぼす可能性のある第三者に対して、経済的利益を供与し、又は供与を約束し、事業者のために取引機会又は競争上の優位性を獲得するように仕向けることを言う。経済的利益を供与し又は供与を約束した場合には商業賄賂となり、経済的利益を収受した又は収受に同意した場合には商業賄賂となる。
従業員が商業賄賂を利用し事業者のために取引機会又は競争上の優位性の獲得を図った場合には、事業者の行為であると認定しなければならない。従業員が事業者の利益に違背して賄賂を収受したことを証明する証拠がある場合には、事業者の行為とはみなさない。」

現行の不正競争防止法と比べると、不正競争防止法(送審稿)では、「列挙+定義」の形で商業賄賂行為の特徴的概念と該当事例をさらに明確にしており、理論的には、当該改正内容は、事業者が商業賄賂リスクを回避し、商業賄賂防止措置を適切に講じるうえで、これまで以上に指導及び注意喚起の意味合いの強いものになっている。以下、いくつかの方面から今回の改正内容について考察する。

1)賄賂の対象が「取引相手」から「取引相手又は取引に影響を及ぼす第三者」へと拡大された

現行の不正競争防止法と比べて、不正競争防止法(送審稿)では、賄賂の対象を「取引相手」から「取引相手又は取引に影響を及ぼす第三者」へと拡大している。従って、実務において事業者が第三者に対して、経済的利益を供与し又は供与することを約束し、かつ当該第三者が取引価格、取引条件などの実質的内容に影響を及ぼすことができる場合、商業賄賂と認定される可能性がある。

不正競争防止法(送審稿)では、「第三者」について明確に定義されていないため、実務上、行政法執行検査機関にやや大きな自由裁量権が与えられる可能性があるが、本法の文脈及び立法の目的から解釈するならば、当該第三者には代理入札機関、評価機関、又は格付け機関、監査機関、取引の場となるウェブサイト、取引相手の関連会社、代理店、取次販売店、取引相手の政策決定者の近親者などを含む主体が含まれると考えられる。当該第三者が取引価格、品質、数量などの方面で実質的影響を及ぼす可能性があり、事業者が当該「第三者」に対して、経済的利益を供与し又は供与を約束した場合、商業贈賄と認定される可能性がある。

不正競争防止法(送審稿)の後期における審査過程において、立法機関は「第三者」の特徴的概念と該当事例をさらに明確にしていくであろうと思われる。不正競争防止法(送審稿)が可決され、発効し施行された後、法執行の実践経験を豊富に積むにつれて、「第三者」の判断基準もさらに明確にされることが期待される。不正競争防止法(送審稿)の意見募集期間中、筆者も関係ルートを通じて意見を提出し、不正競争防止法(送審稿)の後期における審査過程で「第三者」の定義が明確にされるよう立法機関に要請している。

2)従業員による商業賄賂は、原則として事業者の行為とみなされ、事業者は従業員の行為に対し法的責任を負う必要がある

不正競争防止法(送審稿)の第七条第三項の規定によると、従業員による商業賄賂は、原則として事業者自身の行為であると認定され、事業者はその行為によってもたらされる法的責任を引き受けなければならない。事業者の責任を免除し、従業員の行為が企業と無関係であることを明確にするには、従業員の行為は「事業者の利益に背く」ものであることを事業者が立証する必要がある。

しかし、実務では、事業者が従業員による贈収賄行為について反対事実の証明を提出し、当該行為が「事業者の利益に背くものである」ことを証明することはやや困難である。これまでの実務経験から言えば、事業者は社内のコンプライアンス制度を制定、整備し、日頃から従業員に対して、取引の記録を残し、取引過程で定期的に報告するよう求め、財務上の承認手続きを厳格に行うなどして対処できるようにしておくことが望ましい。前述の制度に基づき形成された係る証拠は、従業員個人の行為により引き起こされるコンプライアンスリスクの軽減、免責強化、抗弁理由の強化などに有益である。

不正競争防止法(送審稿)の意見募集期間中、筆者は関係ルートを通じて、立法機関に意見を提出し、「事業者の利益に背く」を「事業者の意志に反し又は事業者の利益に背く」へと変更するよう立法機関に提案している。本意見が最終的に採用されれば、従業員が商業賄賂を行ったという状況が発覚した場合でも、事業者は(例えば、社内でコンプライアンス制度を制定していることなどを)立証を通じて、従業員が商業賄賂を行ったことを事業者は主観的に知らなかったこと、従業員に商業賄賂を示唆していないこと、事業者は一貫して商業賄賂行為に反対し当該行為を禁止しており、従業員が行った商業賄賂は事業者の意志に反するものあることを証明できれば、事業者の責任が免除されることになる。

3)明確に列挙されていないが「不正」の性質を有する行為も商業賄賂に認定される可能性がある

不正競争防止法(送審稿)の第七条では、第一項で具体的に列挙している3つの具体的行為と第二項で概念化されている法的定義との間の関係を明確にしていない。この概念化された定義は、はたして第一項で列挙している3つの具体的行為の雑則的なものであるのか(生じ得る他の違法行為についても規範化するため)、それとも3つの具体的行為がもつ違法性の特徴と性質に着眼して規則性を説明したものなのか、それとも両者の意味合いを兼ね備えたものなのかについて、現時点では明確にされていない。

この点については、筆者の認識によれば、不正競争防止法(送審稿)の改正の経緯、背景などを踏まえると、上述した第七条第二項の概念化された定義は、第一項で明確に列挙されている3つの具体的行為の規則性の説明でもあり、また雑則的な役割も有すると考えられる。しかし、この雑則として括られる行為は、「不正」の性質を有したときにはじめて、商業賄賂と認定することができるものである。

不正競争防止法(送審稿)の意見募集期間中、筆者は関係ルートを通じて、立法機関に意見を提出し、不正競争防止法(送審稿)の第七条第二項の「概念化された定義」を次のように改めるよう提案している。つまり、「商業賄賂とは、事業者が取引相手又は取引に影響を及ぼす可能性のある第三者に対して、経済的利益を不正に供与し、又は不正供与を約束し、事業者のために取引機会又は競争上の優位性を獲得するように仕向けることを言う。経済的利益を不正に供与し又は不正供与を約束した場合には商業贈賄となり、経済的利益を不正に収受した又は不正に収受することに同意した場合には商業収賄となる。」本意見が最終的に採用されれば、商業賄賂の「不正」という性質を明確にできる一方で、行政法執行検査機関が現時点における概念化された定義を任意に拡大解釈し、事業者間で行われる正当な経済的利益の供与行為(例えば、明示的方式で取引相手に割引きを行い、取引の実態に即して記帳している場合、取引の仲介人に明示的方式でコミッションを供与し、取引の実態に即して記帳している場合など)までもが商業賄賂に認定されてしまうことを防ぐことができる。

不正競争防止法の改正は中国の第十二期人民代表大会常務委員会(任期は2013年3月から2018年3月まで)の立法計画に組み入れられており、「作業を急ぎ、条件が整い次第、審議にかける法律草案」に該当する。中国法律の立法手続きによれば、国務院法制事務室による不正競争防止法(送審稿)の意見募集が完了した後、国務院の審議にかけられ、国務院が全国人民代表大会常務委員会に提出し、全国人民代表大会常務委員会で審議されることになる。現状を見る限り、立法手続きは比較的順調に進められている。筆者は引き続き本件動向に注意を払いたい。

(里兆法律事務所が2016年4月29日付で作成)

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