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「危険化学品安全法(意見募集案)」を簡潔に読み解く

中国ビジネスレポート 法務
郭 蔚

郭 蔚

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2021年2月10日

概要:2020年10月2日、中国応急管理部が「危険化学品安全法(意見募集案)」(以下「『意見募集案』」という)を公布し、社会に向けてパブリックコメントを募集した。中国の危険化学品安全分野における最初の「法律」という形式での立法として、「意見募集案」は危険化学品安全を監督管理する上で重要な意味をもつ。本稿ではこれを簡潔に読み解く。

本文:

■ 「意見募集案」の制定に至った背景

 周知のように、危険化学品が危険性を有することから、危険化学品の生産、貯蔵、輸送等に係る事業を取り扱う企業に対し特別な監督管理措置が実施されることは必須である。しかし、長きにわたり、中国の危険化学品安全管理方面においては、「危険化学品安全管理条例」(以下「『管理条例』」という)を主とし、「安全生産法」、「危険化学品登記管理弁法」、「危険化学品生産企業安全生産許可証実施弁法」等といった異なる法律、法規、規則が互いに付帯する法律上の監督管理体系がすでに形成されている。なお、ここ数年、中国では重大・特大事故が複数回発生し、中国の危険化学品安全管理における多くの問題が顕在化されてきたため、現法律を急ピッチで見直さざるを得なくなっている。中国危険化学品の安全対策を講じた生産作業の規範化、厳格化を図るために、現有の監督管理法律の立法の次元を引き上げると同時に、危険化学品の安全対策において統一した立法がなされる必要がある。

今回、「意見募集案」の公布は、上述した背景の下で「管理条例」を改正し最適化を図り、且つ法律へと格上げすることになる。また、「意見募集案」は係る法律、法規、規則における規定を組み込むことにより、同法の方向性及び実行可能性は一層濃くなっている。これは、中国における現在の危険化学品監督管理作業を一度全面的に見直すものであり、この「危険化学品安全法」は必ずや中国危険化学品安全分野の基礎法となり、中国化学工業業界の安全対策及び秩序正しい発展のために強力な法的サポートを提供することになるに違いない。

■「意見募集案」の主な内容

 「意見募集案」には総則、登記・鑑定、計画・配置、生産と貯蔵の安全対策、使用上の安全対策、販売取扱上の安全対策、輸送上の安全対策、廃棄処分上の安全対策、事故の緊急救援、法的責任及び附則が含まれており、計11章、137条から成る。

その構造を見てみると、「管理条例」と比べ、「意見募集案」では、危険化学品登記に係る内容を前方に入れ替え、第二章として個別に規定しており、危険化学品の生産、貯蔵方面における計画・配置に関する内容について個別に章を設け、また危険化学品に係る「廃棄処分の安全対策」という章を新たに追加している。このように構造上の調整が行われたことは、根本からリスクマネジメントを図り、危険化学品についてライフサイクル全体及び全過程にわたる管理を行うという今回の立法の特徴を表している。

内容の規定については、「意見募集案」の全文及び応急管理部による起草の説明を踏まえ、危険化学品企業の主体責任の観点から、以下の内容を抜き出し、重点を置いて考察する。

項目

内容の概要

簡潔な考察

行政許可事項に関して

● 危険化学品安全生産許可証、経営許可証、安全使用許可証という3つの証書を「危険化学品企業安全生産許可証」へと一本化し、且つ許可証上に企業の形態(生産、販売取扱、使用という3つの形態を含む)を明記するようにした。

● 危険化学品建設プロジェクトの安全条件審査及び安全施設の設計審査を建設プロジェクト安全審査へと一本化し、且つ応急管理部門は報告を受けた日から20業務日以内に審査決定を行わなければならないと規定している。

● 危険性が相対的に低く、工順が簡単であり且つ化学反応が生じない危険化学品生産企業に対しては、届出管理を実施する。

● 「3つの証書一本化」を実施したものの、現在の「意見募集案」の規定を見る限りでは、具体的な行政許可申請事項については実質的な変化はない。

● 建設プロジェクト安全審査の方面では、今回、「意見募集案」での規定は「危険化学品建設プロジェクト安全監督管理弁法」での係る規定を追加し、行政審査許可の所要時間も短縮した(現行の「管理条例」規定によると、審査決定がなされるまでの時間は、報告を受けた日から45日とされている)。安全審査の手順がある程度は簡素化され、許可取得の効率が向上した。

● 危険化学品生産企業について、画一的許可管理は実施せず、安全リスクに応じて等級別管理を実施し、監督管理のサービス能率の向上において有益である。

危険化学品の生産、貯蔵、使用、販売取扱、輸送に係る安全管理に関して

● 危険化学品建設プロジェクトの安全対策施設は主体工事と同時に設計し、同時に施工し、同時に生産と使用に投入しなければならない(「3つの同時」要求という)。

● 危険化学品生産・貯蔵企業は安全リスク研究判定及び承諾公告制度を構築しなければならず、淘汰されるべき、安全生産に危険をもたらす工程、技術及びそれらに係る設備・施設を使用してはならない。

● 生産・貯蔵企業は工程・操作、特別な作業、稼働・稼働停止及び点検・メンテナンス等全ての生産作業の節目を含むプロセス安全管理制度を構築し、プロセス安全管理を強化しなければならない。

● 危険化学品研究開発組織に対する安全管理要求を厳格化し、危険化学品の新工程、新技術を研究開発する過程に係る安全管理規定を新たに追加した。

● 危険化学品使用組織は危険化学品の安全技術説明書を従業者へ提供しなければならず、危険化学品が盗難、強奪又はその他により紛失した場合、これらに遭遇した組織及び個人は速やかに公安機関へ報告しなければならない。

● インターネットを通じて劇毒、起爆性危険化学品を販売することを禁止する。

● 危険化学品を道路上輸送する場合、輸送請負業者及び充填包装業者は輸送車両、タンクに安全技術検査の有効期限があるかどうか、注意喚起マークを掲示し又は吹き付ける必要があるかどうかについて検査、確認を行わなければならず、また運転手の日中の連続運転時間は3時間を超えてはならず、夜間の連続運転時間は2時間を超えてはならない。

● 「3つの同時」の要求は、主に現行の「安全生産法」第28条規定に由来する。

● ここでの規定は、危険化学品組織の主体責任をさらに強化するものであり、とりわけ生産、貯蔵、販売取扱、使用等の重要な節目、重要組織の安全対策を講じた生産責任に対して根本から管理・コントロールするという今回の立法の趣旨を強調するものである。

● 係る危険化学品活動に従事する企業は安全対策を講じた生産の自律及び自己整備体制を構築し最適化し、企業の安全管理水準を向上させなければならない。

危険化学品の廃棄処分に関して

● 廃棄危険化学品の発生する組織は、国の関連規定に従い、廃棄危険化学品管理計画を制定し、廃棄危険化学品管理台帳を作成し、係る情報を事実通りに記録し、国家危険廃棄物情報管理システムを通じて、所在地の生態環境主管部門に対し廃棄危険化学品の種類、発生量、送付先、貯蔵、処分等に係る資料を申告しなければならない。

● 廃棄危険化学品の発生する組織は、国家基準を満たす貯蔵施設を具備していなければならず、廃棄危険化学品が発生する節目、種類、数量、性質等について分析し、リスクマネジメント措置を講じ、安全対策方案を制定しなければならない。

● 許可証を有しておらず、又は許可証の規定に従わずに、危険廃棄物の収集、貯蔵、利用、処分等の経営活動を行うことを禁止する。

● 危険廃棄物を許可証を有していない組織に提供し、又はそれらに委託してその他生産経営者に提供し、収集、貯蔵、利用、処分活動に従事することを禁止する。

● 「管理条例」では危険化学品の廃棄処分について明確に規定していないが、今回、「意見募集案」に「廃棄処分安全」という章が新たに追加されたことは、危険化学品廃棄処分の安全管理を強化するうえで有益である。

● 「意見募集案」では、生態環境主管部門の危険化学品廃棄処分に対する監督管理の職責を明確にしており、関連規定を通じて、安全管理を規範化するよう企業に対し一層はっきりと指導することができる。

● 本章節の内容のほか、企業は危険化学品の廃棄処分において、「固体廃棄物汚染環境防止法」における関連規定に従い処理する必要もある。

企業の主体責任に関して

● 不法な活動に従事するための係るツール、設備、原料を没収し、且つ貨物価値額の5倍以上10倍以下の過料等20種あまりの行政処罰に処するという規定を新たに追加した。

● 重大な違法行為に対して「両罰」措置を実行し、違法組織に対する過料だけでなく、その主要責任者、主管人員及びその他直接責任のある人員に対しても過料ひいては行政拘留に処することを明確にした。

● 関連部門が共同制裁を実行する具体的な方式を定めた。

● 法的責任の観点から、「意見募集案」では不法・違法行為に対する制裁の度合いを強化した。係る責任規定は、対象としている範囲が相対的に広く、危険化学品の生産、輸送、保管、使用、販売取扱、廃棄処分という6つの節目に対して規制だけではなく、関連する産業チェーン等各方面(例えば、設計、評価、アセスメント等)に対する監督管理も含まれる。

上述した内容のほか、危険化学品関連活動に従事する企業は、以下の方面にも関心を払うようにするとよい。

(1)危険化学品登記に関して。例えば、以下の通りである。

危険化学品生産企業、輸入企業は、自己が生産し、輸入する、危険性がまだ明らかになっていない化学品について鑑定を行い、さらには、自己が生産し、輸入する危険化学品と一致する中文の化学品安全技術説明書を提供することに責任を負う。

(2)化学工業園区における計画、配置及び安全管理に関して。例えば、以下の通りである。

新規の危険化学品生産建設プロジェクトは、化学工業園区以内に実施しなければならない。危険化学品生産装置又は貯蔵数量が重大な危険源を構成する危険化学品貯蔵施設と特定の場所・施設・区域との安全上の距離は、国の関連規定に適合しなければならない。

(3)危険化学品安全監督管理に係る情報化手段の整備に関して。例えば、以下の通りである。

危険化学品生産、貯蔵、使用等企業は国家基準又は業界基準の規定に従い、オート制御システム及び安全計器システムを装備し、安全生産情報モニタリングシステムを構築し、情報化セキュリティの監視測定、モニタリング及び早期警報を実現しなければならない。

(4)事故緊急救援に関して。例えば、以下の通りである。

危険化学品組織は法に依拠し、専任又は兼任の緊急救援チームを結成しなければならず、生産規模が小さめである場合、緊急救援チームを専ら結成しないこともできるが、専任又は兼任の緊急救援人員を配備しなければならない。

 終わりに:

 上述した内容から、「意見募集案」は構造及び内容等において、現行の「管理条例」に対し多少の最適化及び充実化を行っている。また「意見募集案」は、危険化学品に対して全過程、全方位から監督管理を実施することに一層注力するものであり、これは危険化学品のライフサイクル全体及び全過程に対するシームレスなマネジメントにおいて体現されるだけでなく、危険化学品安全監督管理部門の明確な職責分担にも体現される。「意見募集案」全文を通して、危険化学品安全管理を一貫して反映しており、「業界の管理者が安全の管理者であり、業務の管理者が安全の管理者でもあり、生産経営の管理者が安全の管理者でなければならない」及び「主要管理者が責任を負い、審査許可者が監督管理を行い、建設者が責任を負う」という原則が堅持されることになる。

なお、「意見募集案」は、現在まだ立法機関による正式な審議を経て可決されているわけではなく、意見募集段階において、専門家、学者等の関係者が「意見募集案」に対して異なる意見を唱えてもいることもあり、最終的に可決される「危険化学品安全法」は内容において一定の調整が行われる可能性もあり、筆者は同法の立法の進捗状況について引き続き関心をを払いたい。

(里兆法律事務所が2020年11月5日付で作成)

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