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米国への対抗策とされる中国の事業体リストについて

中国ビジネスレポート 法務
郭 蔚

郭 蔚

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2021年8月3日

2020年9月19日、中国国務院の承認を受け、商務部が「信頼できない事業体リストの規定」(以下「『規定』」という)を正式に公布し、施行したことで、中国国内や海外、各分野からの関心を集めており、中国が米国の対中輸出規制政策に対抗する措置を講じるものであり米国又は関連国の企業に規制をかけるようとしているのではないかと疑っている企業も多い。本稿では「規定」の公布に至った背景及び「規定」の内容を読み解く。

■「規定」の公布に至った背景

2018年下半期以降、米中間の貿易摩擦が深刻化する中で、米国政府はその政治目的を実現させるために、国の安全、利益を理由に、約200の中国の事業体を輸出規制事業体リスト(Entity List)に収載した。これらの事業体は、中国国防、通信(ファーウェイ及び海外にある70社超の関連会社を含む)、スーパーコンピュータ、人工知能、原子力発電等の重要分野における企業、並びに関係する大学、研究開発機構に関わってくるものであり、さらには一部の政府機関、専門家、学者又は企業の役員個人も含まれる。米国政府から交付される許可証を取得しない限り、米国の各輸出業者はリストに収載されるこれらの事業体に協力し、米国輸出規制政策により管轄されるいかなる物資も取得させてはならない。これは事実上、当該事業体の米国での貿易機会をはく奪するものであり、また同時に、EUや日本等が米国の輸出規制に歩調を合わせることで、これら中国の事業体は技術封鎖され、グローバルサプライチェーンが切断されてしまうと同時に、その川上のサプライヤーや川下のユーザにも影響が及ぶものである。米国政府が独断専行して取っている単独行動主義、保護貿易主義の措置は、国際貿易における多角的貿易体制を著しく破壊し、正常な国際経済貿易活動を乱し、これら中国の事業体の正当な利益を損なうものである。

まさにこのような複雑な国際情勢の背景のもと、中国商務部は2019年5月に、「中国は『信頼できない事業体リスト』制度を構築し、市場規則に従わず、契約の精神に背き、非商業目的から中国企業を締め出し又は供給を停止し、中国企業の正当な権益を著しく損なう外国企業、組織又は個人は『信頼できない事業体リスト』に収載される」ことを対外的に公表した。

■「規定」の立法目的

「規定」では、信頼できない事業体リスト制度の構築は、中国の国家主権、安全、発展の利益を守り、公平、自由な国際経済貿易の秩序を守り、中国の企業、その他の組織又は個人の合法的な権益を保護するためであると明確に提起している。

中国政府は、独立自主の対外政策を堅持し、主権の相互尊重、相互の内政不干渉、平等互恵といった国際関係の基本準則を堅持し、単独行動主義と保護主義に反対し、国の核心的利益を断固として守り、多角的貿易体制を維持し、開放型の世界経済建設を推進する。

中国商務部は外部からの憶測に対し、以下の通り表明している。
一、信頼できない事業体リスト制度を構築することは、「市場規則及び契約の精神を着実に遵守している多くの企業を保護することを目的とし、本制度はあくまでも個別の外国事業体の違法行為に対するものだけであり、法律を誠実に順守している外国事業体は全く心配する必要がない」。
二、「本制度は、中国政府が外国投資家による投資を歓迎し、保護する立場が変わってしまったことを意味するものではない」。本制度の構築は、「得難い開放の成果を守るためであり、自己の市場を封鎖しようとしているのだと解釈されてはならない」。
三、「規定」は「特定の国に対するものではなく、特定の事業体に対するものでもない」。企業がリストに収載されるかどうかは、企業自身の行為が中国法律に違反しているかどうか、中国の国家主権、安全、発展の利益に危害をもたらすものでないかどうか、正常な市場取引原則に違反し且つ中国企業、その他の組織及び個人を締め出し、供給停止し又はその他不当な扱いをしているかどうか次第である。したがって、信頼できない事業体リストは米国企業に対するものではなく、「規定」に定める違法行為を実施していない米国企業は信頼できない事業体リストに収載されることはない。一方、「規定」に定める違法行為を実施したのがその他の国の企業である場合も、信頼できない事業体リストに収載される可能性がある。

上述した解釈を踏まえるならば、「規定」を簡単に「米国への対抗策」とみなすべきではなく、客観的な結果から見た場合、「規定」が公布され、実施されたのは事実だが、少なくともこれまでのところ中国政府は、中国事業体を締め出し、供給停止措置を講じた外国企業を「信頼できない事業体リスト」に加えてはいない。また、中国は「輸出規制法」を公布したが、輸出を規制する技術と物資リストはまだ正式に公布されておらず、米国企業に対する具体的に「対等の措置」を講じることでの「反撃」も行っていない。むしろ「規定」は、中国政府の態度を公に表明しているものであり、「事業体リスト」の影響を受ける外国企業を通じて、関係国に対して、中国としては平等な協議により貿易紛争を解決し、多角的貿易体制を維持したいという意向を伝え、係る中国企業、機構及び個人が早急に「事業体リスト」から外してもらえるようにし、また、中国企業に対する締め出し、供給停止措置をすでに講じている、又は講じようとしている外国企業に対しても「和則両利、闘則倶傷」(和すれば両方に利があるが、闘えば共に傷つく)との注意喚起を行っている。

■「規定」の適用範囲

「規定」は、外国事業体の国際経済貿易及びそれに係る活動における行為のみに適用されるものであり、外国事業体には外国企業、その他の組織が含まれるだけではなく、個人も含まれる。原則として、中国国内の外商投資企業は含まれないが、実際には、多くの外国会社が中国で現地法人企業(外商投資企業)を設立し、自己のグローバル生産拠点、貿易又は技術研究開発センターとしており、もしも外国事業体が信頼できない事業体リストに収載された場合、必然的にその中国で投資した関連企業又はそのサプライヤー(輸出業者)の技術又は貨物輸出業務に影響を与えることになり、これらの企業は実際に「規制」対象となる。

次に、「規定」は特定の国又は特定の事業体に対するものではなく、中国の法律に違反し、「規定」に列挙される違法行為を行った外国事業体のみに適用される。「規定」では、適用対象となる外国事業体行為には主に以下に掲げる3つの状況が含まれることを明確にしている。
(一)中国の国家主権、安全、発展の利益に危害を及ぼすもの。
(二)正常な市場取引原則に違反し、中国企業、その他の組織又は個人との正常な取引を中断させるもの。
(三)中国企業、その他の組織又は個人に対し不当な扱いをし、中国企業、その他の組織又は個人の合法的な権益に深刻な損害を与えるもの。

中国の法執行機関は以下の要素を総合的に考慮し、係る外国事業体を信頼できないリストに収載するか否かの決定を行う。
(一)中国の国家主権、安全、発展の利益に及ぼす危害の程度。
(二)中国企業、その他の組織又は個人の合法的な権益に与える損害の程度。
(三)国際的に通用する経済貿易規則に合致するか否か。
(四)その他考慮すべき要素。

「規定」の目的は明確だが、現時点では具体的な運用方法はまだ明らかになっていない。施行にあたり、中国政府はとりわけ慎重な態度をもって、どのように適用するかを決めるはずであり、これは、法執行機関による「規定」の具体的な実施を待たねばならず、その後、具体的な取扱規範又は係る細則が公布されると考えられる。

■「規定」に定める執行メカニズム

「規定」第四条によると、中央国家機関の関連部門が執行メカニズムを構築し、信頼できない事業体リスト制度の実施を取り扱い、執行メカニズム弁公室を国務院商務主管部門に設置するとしている。「規定」により確定される執行メカニズムは「複数の部門による共同の法執行」であり、「規定」第十条によれば、信頼できない事業体リストに収載された外国事業体に対し、講じられる規制措置には以下のものが含まれる。
(一)その中国に関連する輸出入活動に従事することを制限又は禁止する措置。
(二)その国国内における投資を制限又は禁止する措置。
(三)その関係者又は交通輸送手段等の中国への入国を制限又は禁止する措置。
(四)その関係者の中国国内における就労許可、滞在許可又は居留資格を制限し又は取消す措置。
(五)情状の軽重に応じて、相応金額の過料を課す措置。

輸出入貿易、国内投資、入国の制限又は禁止、並びに過料といった規制措置は商務部、税関、人民銀行、外貨管理局、移民局、公安部門、市場監督管理局等の法執行部門がそれぞれ職権に依拠し実施する。

■「規定」に定める信頼できない事業体リストへの収載・削除の手続き

1. リストに収載される前の調査手続き
●「規定」によれば、執行メカニズムにおいて職権に依拠し外国事業体に対する調査を行うことができ、また、外国事業体による締め出し、供給停止、不当な扱いといった法に違反する疑いのある行為の影響を受けた主体が自身の合法的な権益を守るために、提案、通報といった手段を通じて係る部門に注意を払うよう要請し、且つ係る部門に調査を実施するよう求めることができる。執行メカニズムにおいて調査を実施することを最終的に決定した場合、その旨を公告しなければならない。
●「規定」は調査対象となる外国事業体に対し手続き上の権利を与えている。つまり、調査期間において、係る外国事業体は陳述、弁明の権利を有する。
●「規定」では、執行メカニズムが実際の調査状況に応じて、調査を中止、又は終了することができるだけではなく、調査の中止決定をなした根拠となる事実に重大な変化が生じた場合、外国事業体に対する調査を再開することもできるとしている。

2. リストへの収載手続き
調査は、外国事業体をリストに収載するための必須の手続きではない。執行メカニズムは、外国事業体の行為に対し調査を実施してから、外国事業体の行為の中国の国家利益及び私的主体の利益への危害程度を総合的に考慮の上、リスト収載の是非を決定することができ、また、係る外国事業体の行為に係る事実が明白である場合、執行メカニズムは直接、係る要素を総合的に踏まえて、リスト収載の是非を決定することもできる。最終的にリストに収載することを決定した場合、その旨を公告しなければならない。

3. リストからの削除手続き
削除手続きは、執行メカニズムが職権に依拠し、開始することができ、係る外国エンティテが自ら申請し、開始することもできる。リストに収載されている外国事業体は以下に掲げる状況を満たす場合、執行メカニズムは当該事業体をリストから削除することができる、又は削除しなければならない。
(1) 実情に基づき、リストから削除することができる場合。例えば、当該事業体が「信頼できない事業体リスト」に収載された際に根拠となっていた事実に重大な変化が生じた場合。
(2) 法定の状況に合致し、リストから削除しなければならない場合。例えば、外国事業体が違法行為を是正し、且つ措置を講じ係る行為の結果を白紙に戻した場合。

以上の手順から、「規定」の公布は、特定の国又は事業体に対するものではなく、多角的主義を支持し、実行していることの表れであることがわかり、外国事業体のリスト収載は、係る要素(例えば、国家主権、安全)を十分に考慮した上で、法に依拠し相応の手続き(例えば、調査、公告の手続き)を履行し、法に依拠してしかるべき措置を講じた結果であると同時に、「規定」は、信頼できない事業体には是正する機会を与え、制度の仕組み(例えば、適用範囲の限定、手続きの透明性の保障、外国事業体への陳述、弁明の権利の付与)を通して、外国事業体の合法的な権益を保障するものである。

■「規定」が設ける免責制度

「規定」は特定の状況について、個別の免責制度を設けている。中国の企業が特別な状況下において、中国に関連する輸出入活動に従事することを制限又は禁止されている外国事業体とどうしても取引する必要がある場合、執行メカニズム弁公室に申請し、同意を得た場合、当該外国事業体は個別に免責扱いとされ、申請者と特定の取引を行うことができる。

■ 係る対応策

現在、「規定」は正式に実施されたが、「規定」の内容の多くは指針的な条項であり、実施細則等多くの内容がまだ明確になっておらず、外国事業体及びその在中国の関連会社、並びにそれらと取引する中国企業にとっては不確実性が高くなり、今後、どのように法令を順守し、商取引を展開していくのか、多くの企業が関心を寄せている問題となっている。企業は係る法規及び関連政策、措置の公布に引き続き注意を払い、弁護士等の専門機構に相談することによって、信頼できない事業体リスト制度の規定及びその実施状況を把握し理解できるよう準備をしておくのがよい。万が一、外国の関連会社等の事業体が調査対象になった場合、弁護士等の専門家に陳述、弁明を依頼する必要がある。もしも外国事業体が事業体リストに収載された場合、その影響を受ける中国国内の関連機構、サプライヤーは、速やかに中国の輸出規制措置、経営コンプライアンス措置に基づきチェック及び調整を行い、損失を押さえる必要がある。

終わりに

「規定」の公布は、中国の信頼できない事業体リスト制度に実質的な進展があったことを意味しているが、関連する実施細則は今後、明確にされていく必要があり、筆者は立法の進捗に注意を払い、専門家としての意見や経験の共有を適宜行いたい。

里兆法律事務所が2021年2月28日付で作成

共同執筆者:秦聖強 氏

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