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中外合弁企業の「外商投資法」に基づく会社ガバナンス構造の調整

中国ビジネスレポート 法務
郭 蔚

郭 蔚

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2021年1月21日

会社ガバナンス構造は、会社制度の核心として、主には会社組織機構の設置と手配において体現されるものであり、それにより会社の所有権と経営権等の方面における関係の均衡が保たれることで、会社の長期の能率的な運営と管理が保障される。中国の外商投資企業は長期にわたり、「三資企業法」の規定が個別に適用されていたが、それは会社ガバナンス構造における「会社法」の規定とはかなり乖離するものであり、実務運用上、外商投資企業の経営及び管理に対し潜在的な悪影響をもたらし得るものとなっていた(例えば、株主の会社に対する所有権がある程度上、弱められる等である)。

「外商投資法」が正式に施行されたことに伴い、外商投資企業が「会社法」の規定に基づき自社の組織機構を調整するためのスケジュールも正式に組まなければならなくなった。実践においては、外商合弁、外商独資企業の会社ガバナンス構造はすでにあまねく「会社法」の規定に従い調整が行われていることから[1]、「外商投資法」のもとで、会社ガバナンス構造の調整を行う必要があるのは、主に中外合弁企業である。

そこで、筆者は主に中外合弁企業(有限責任会社)の視点から、「中外合弁経営企業法」及びその実施条例(「従来の適用規定」という)を適用していた際と「会社法」(2018年改正、以下同様。「新適用規定」という)の関連規定を適用した際に、会社ガバナンス構造方面での違いを分析し、調整が必要な内容を明らかにし、そして、発生し得る紛争及びその対応策を検討する。

■ 適用規定の比較

中外合弁企業の会社ガバナンス構造における適用規定を下表に比較し、簡潔に説明する。

事項

従来の適用規定

新適用規定

最高権力機関

–  董事会

–  株主会

株主会

–  規定なし

–  株主会の職権、議事方式、議決手続き等については、「会社法」第36条-43条を参照のこと。

法定代表

–  董事長

–  董事長、執行董事又は総経理

董事会職権

–  董事会の職権は合弁企業の定款の規定に従い、次に掲げる合弁企業の一切の重要事項を検討し決定することである。

(一)企業発展計画。

(二)生産経営活動方案。

(三)収支予算、利益分配。

(四)労働賃金計画、営業停止。

(五)総経理、副総経理、総工程師、総会計士、会計監査人の任命又は招へい、並びにその職権・待遇等。

–  「会社法」第46条の規定に基づき、董事会は株主会に対して責任を負い、主に次に掲げる職権を行使する。

(一)マクロ的事項の意思決定権(例えば、経営計画、投資案など)。

(二)経営管理権(例えば、年度財務予算案、決算案の制定など)。

(三)機構と人事管理権(例えば、内部管理機構の設置、総経理の招へい/解任)。

(四)基本管理制度の制定権。

董事会メンバー及びその選出

–  董事会メンバーは3人を下回ってはならない。

–  董事会メンバーは、各合弁当事者から委任派遣し、交代させるものとし、董事の人数配分は、各合弁当事者が出資比率を参考に協議の上で確定する。

–  董事会メンバーは3人から13人までとする。株主人数がやや少ない、又は規模がやや小さい有限責任会社は董事会ではなく、1名の執行董事を設けることができる。

–  株主会は、従業員代表でない董事を選出し、交代させることができる。

董事任期

–  董事の任期は4年とし、各合弁当事者が引き続き委任派遣する場合、再任することができる。

–  董事の任期は会社定款で定められる。但し、1期3年を超えることはできない。董事の任期が満了した場合、再選された場合は再任することができる。

董事長、副董事長の選出

–  董事長及び副董事長は、各合弁当事者が協議により確定するか、又は董事会が選挙により選出する。

–  中国側又は外国側の合弁当事者の一方が董事長を務める場合、他方が副董事長を務める。董事会は平等互恵の原則に基づき、合弁企業の重要事項を決定する。

–  董事会には董事長1名を置くものとし、副董事長を置くことができる。董事長、副董事長の選出方法は、会社定款規定に従う。

董事会の議事方式、議決手続き

–  董事会会議は毎年少なくとも1回開催し、董事長が招集し主宰する。董事長が招集できないときは、董事長が副董事長又は他の董事に委託して董事会会議を招集し主宰させる。

–  3分の1以上の董事の提議があれば、董事長に董事会の臨時会議を招集させることができる。

–  董事会会議は3分の2以上の董事の出席がなければ開催できない。董事は出席できない場合、委任状を提出して他者に出席及び表決を代行させることができる。

–  董事会会議は、通常、合弁企業の法定住所の所在地で開催しなければならない。

–  特別事項以外の事項は、合弁企業の定款に明記される議事規則に従い決議するものとする。

–  董事会会議は、董事長が招集し主宰する。董事長が職務を履行できない場合、又は職務を履行しない場合、副董事長が招集し主宰する。副董事長が職務を履行できない場合、又は職務を履行しない場合、半数以上の董事が共同で推薦する1名の董事が招集し主宰する。

–  董事会の議事方式及び議決手続きは、「会社法」に定めのある場合を除き、会社定款の定めによる。

–  董事会は、議事の決定について議事録を作成し、会議に出席した董事は、議事録に署名しなければならない。

–  董事会決議の議決は、一人一票により行う。

事項の決議

–  次に掲げる事項は、董事会会議に出席した董事の全員一致により決議するものとする。

(一)合弁企業定款の改正。

(二)合弁企業の途中終了、解散。

(三)合弁企業登録資本金の増加、減少。

(四)合弁企業の合併、分割。

–  株主会会議において次に掲げる事項について決議する場合は、3分の2以上の議決権を代表する株主によって採択しなければならない。

(一)会社定款の改正。

(二)登録資本金の増加又は減少。

(三)会社合併、分割、解散又は会社形態の変更。

経営管理機構

–  経営管理機構には1名の総経理、複数名の副総経理を置くことができる。副総経理は総経理の業務を補佐する。

–  有限責任会社には総経理を置くことができる。

総経理の選任、解任

–  総経理、副総経理は各合弁当事者が分担して務めるものとする。

–  総経理、副総経理は、合弁企業の董事会が招へいするものとし、中国公民に担当させることができるほか、外国公民に担当させることもできる。

–  董事会の招へいを経て、董事長、副董事長、董事は合弁企業の総経理、副総経理又はその他高級管理職を兼任することができる。

–  総経理は董事会によって招へい又は解任を決定される。

–  執行董事は会社総経理を兼任することができる。

総経理の職権

–  総経理は董事会会議の各決議を執行し、合弁企業の日常的経営管理を組織し指導する。

–  董事会から与えられた権限の範囲内で、総経理は社外に対しては合弁企業を代表し、社内では部下を任免し、董事会から委任されたその他の職権を行使する。

–    総経理は董事会に対して責任を負い、次に掲げる職権を行使する。

(一)会社の生産経営管理を主管し、董事会決議の実施を組織する。

(二)会社の年度経営計画及び投資案の実施を組織する。

(三)会社の内部管理機構の設置を立案する。

(四)会社の基本管理制度を立案する。

(五)会社の具体的な規則を制定する。

(六)会社の副経理、財務責任者の招へい又は解任を提案する。

(七)董事会が招へい又は解任を決定すべき者以外の管理責任者の招へい又は解任を決定する。

(八)董事会により与えられたその他の職権。

会社定款に総経理の職権について別途規定がある場合は、その規定に従う。総経理は董事会会議に列席する。

総経理の職務履行に対する要求

–  総経理は重要問題を処理する場合、副総経理と協議しなければならない。

–  総経理又は副総経理は、その他経済組織の総経理又は副総経理を兼任してはならず、その他経済組織の当該企業に対する商業的競争に参与してならない。

–  総経理、副総経理及びその他高級管理人員に不正行為又は重大な業務怠慢があった場合、董事会の決議を経て随時解任することができる。

–    「会社法」ではもっぱら1章を設けて、会社董事、監事、高級管理人員の資格と義務を規定している。これについては、「会社法」第146条-152条を参照のこと。

監事

–    規定なし

–    監事会の職権、議事方式、議決手続き等については、「会社法」第51条-56条を参照のこと。

■ガバナンス構造の調整

上述の内容を踏まえ、中外合弁企業会社におけるガバナンス構造の調整及びそれに伴う会社定款の改正に関しては、以下のようなやや「穏便な」移行方式を採用することが考えられる。

(一)「株主会」部分の新規追加

(1)最高権力機関を株主会へと変更する。

(2)株主会の職権を明確にする。

①董事会の一部職権を株主会の職権へと変更する。旧定款で定めた董事会の行使する職権を株主会の職権へと調整する。それには「会社法」第37条に定める職権の内容は株主会が行使することが含まれる。

②「会社法」の規定に基づき、且つ会社の実情を踏まえ、株主会の職権内容を補充する。

(3)「会社法」の規定に基づき、且つ会社の実情を踏まえ、株主会の議事規則、議決手続き等の内容を補充し確定する。

(二)「董事会」部分の調整

(1)董事会の職権の調整:

①董事会職権を一部残し、上記した株主会へ移管すべき職権内容のほか、旧定款で定めた董事会職権の残りの内容はそのまま残しておくことができる。

②「会社法」の規定に基づき、且つ会社の実情を踏まえ、董事会の職権内容を補充する。

(2)董事会のその他内容の調整:

①調整しなければならない内容(例えば、董事の任期、董事の選出方式、董事会メンバーの人数等)。

②調整することができる内容(例えば、董事会の議事方式、議決手続き等)。

(三)「総経理」部分の調整

総経理、副総経理は、それぞれ各株主が担当することではなく、会社は経営の必要に応じて、総経理の人選を決めることができる。

(四)「監事会」部分の新規追加

「会社法」の規定に基づき、且つ会社の実情を踏まえ、監事会(監事)の職権、議事規則、議決手続き等の内容を確定する。もとの定款で監事会(又は監事)部分を設けている場合、調整又は新規追加は行わなくともよい。

(五)その他方面

例えば、持分譲渡、董事・監事・高級管理職の義務、会社解散、利益配当、税収、外貨監督管理等の方面については、「会社法」等の関連法律の規定に基づき調整する。

■ 発生し得る紛争

最高権力機関を董事会から株主会へと変更することは、中外合弁企業がこの度のガバナンス構造を調整する過程での重要な部分である。一部よく見受けられる、生じ得る紛争を選び、差し当たりの考察を行う。

(一)筆頭株主と少数株主との間の権力の分配

株主間(とりわけ、筆頭株主と少数株主との間)の権力の分配問題も非常に重要なテーマである。例えば、もしも株主が中外合弁企業において絶対的な支配権(例えば、持株比率が3分の2を超える)又は相対的な支配権(例えば、持株比率が2分の1を超える)を有する場合、通常、当該株主は重大事項又はその他一般事項に対する决定権を有する。この前提において、企業の重大事項又は一般事項に関しては、大株主が一方的に可決してしまわないよう、少数株主は如何にして自身の権益を保障すべきかが、筆頭株主と少数株主との交渉時の焦点になるものと考えられる。筆頭株主の立場から見ると、通常、多数決(持株比率ベース)の方式にて重大事項を決定したいと考え、少数株主の立場から見ると、通常、全会一致決定(自己の少ない持株比率をもってして一定の役割、ひいては決定的な役割を果たす)方式にて重大事項を決定したいと考える。

(二)株主会と董事会の議決権の割合が一致しない問題

もとの董事会を最高権力機関としていた期間においては、通常、董事会人数に基づき議決を行い、株主から委任派遣される人数(端数処理を要する)の割合と株主の持株比率とは一致していない場合が多く、仮に株主Aと株主Bの持株比率及び董事会人数がいずれも変化しなければ、次の通りになる。

株主

(旧)最高権力機関は董事会

(以降)最高権力機関は株主会

株主A

3名を委任派遣

議決権の割合75%

持株70%

議決権の割合70%

株主B

1名を委任派遣

議決権の割合25%

持株30%

議決権の割合30%

かりに当該企業の最高権力機関の議決に関して、4分の3以上の議決権で重大事項を決定できるという規定があった場合、株主Aは、従来は重大事項を一方的に決定することが可能であったが、以降は、株主Bの同意も得なければならないことになる。この場合、株主Aと株主Bは議決権及び議決事項をどのように定義するのか、議決権は据え置きとするのか(株主の決定能力が変わることになる)、それとも株主の決定能力をそのままにするのか(議決権が変わることになる)をめぐり、株主間での重大な駆け引きに直面することになると考えられる。

(三)株主会及び董事会における権力の分配

中国「会社法」では、株主会(最高権力機関)及び董事会(経営の意思決定機構)の権力の分配について、概要を列挙しているだけであり、各社は実情を踏まえて具体的に詳細化することができる。従って、より多くの権力を株主会に集中させるのか(理論上、能率の低下につながる)、それとも株主会で基本事項を決めた後で、より多くの権力を董事会に与えるのか(理論上、能率の向上につながり、ひいては一部の権力を総経理に委譲することになる)についても、株主間で検討し、決定しなければならない。また、より多くの権力を董事会に与えるという前提において、最終的に決定する際に、株主会での可決を要するかどうかについても、考察と均衡が必要となる。とりわけ、董事会で可決された事項(例えば、当該事項が方案制定レベルのものであり、董事会は多数決をもって可決できる)が株主会で否決される(例えば、当該事項が方案の審議レベルのものであり、株主会の全会一致決定が必要となる)ような状況は可能な限り回避しなければならず、さもなければ、対立を誘発しやすくなり、ひいてはデッドロックが発生するおそれがある。

前述した中外合弁企業における調整は、董事会を最高権力機関としていた期間における手配をそのまま維持するのか(細部のみ微調整するのは、相対的にみて、穏便な考え方である)、それともこれまでの合弁経営状況を踏まえ、株主間で改めて交渉の上確定するのか(全体的な枠組みに変化が生じることになり、相対的にみて急進的な考え方である)、考え方次第で異なる紛争の焦点が生じ得る。上述の発生し得る紛争又はトラブルについては、株主間で中外合弁企業の実情を踏まえ、積極的に話し合い、協議の上、合意に達することで、なるべく合理的な方式での穏便な「移行」措置を選択し、互いに誠意をもって提携を維持していくのがよいと思われる。

中国法律では、外商投資企業が組織形態、組織機構を調整するうえでの5年間の移行期間を設けているが、外商投資企業(とりわけ、中外合弁企業)は速やかに自社のガバナンス構造を調整し、発生し得るトラブルを早期に発見して遅滞なく解決し、「会社法」の規定を統一し適用するようにし、ガバナンス構造を一層科学的に整備していくのがよいと思われる。

(里兆法律事務所が2020年6月28日付で作成)

[1]「外商投資会社の審査許可・登記管理法律適用の若干事項に関する執行意見」の実施についての国家工商行政管理総局による通知(工商外企字[2006]102号)によると、「中外合弁、中外合作の有限責任会社は、関連規定に従い、董事会を権力機関として設置し、会社のその他組織機構については、会社意思自治の原則に従い、会社定款にて法に依拠して規定するものとする。外商合弁、外商独資の有限責任会社及び外商投資の株式有限会社の組織機構は、「会社法」の規定に合致し、会社の組織機構を構築し健全化を図らなければならない。」とされている。

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