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家電業界初の独占禁止法違反案件(販売店に対する再販価格拘束で処罰)

中国ビジネスレポート 法務
郭 蔚

郭 蔚

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2016年11月17日

2016年8月8日、上海市物価局は第2520160009号行政処罰決定書を公表し、ある有名な家電企業が出資設立した独立法人会社3社各自の上海分公司(以下、「H社」と総称する)が、「第三者に対する商品再販最低価格を限定する」独占協定を取り交わし且つ実施するという違法行為があったと認定し、H社に対し、違法行為の停止を命じ、合計1234.8万元の課徴金を併科するものであった。

行政処罰決定書に記載された事実によると、H社は上海地区において、販売チャネル・製品ラインごとに、各社の名義で川下の販売店と販売店契約を締結し、販売店に対して末端の最低小売価格を限定するといった規制措置を講じていた。例えば、各種の販売政策や通知を送りつけ、販売店に統一した指導価格で販売するよう要求したり、また、オンライン・オフライン販売店のいわゆる「価格設定の約束を守らない」行為をモニタリングすることで、「価格設定の約束を守らない」販売店に対しては課徴金を科し、何度も約束を守らなかった販売店に対しては、商品供給を一時的に中止したり、提携を解消したりした。上海市物価局は、H社が「独占禁止法」第十四条第一項第(二)号で禁止される「第三者に対する商品再販最低価格を限定する」独占協定を取り交わし且つこれを実施したと認定した。

上記の事実に基づき、上海市物価局はH社に対し、違法行為を停止するよう命じたうえで、各社の前年度売上高の3%に該当する課徴金を科する処罰決定を行った。

係る法執行の動向についての分析

独占協定とは、事業者間で取り交わす、競争を制限し又は排除し得る協定であり、諸国の独占禁止法では、独占協定を水平的独占協定と垂直的独占協定に分けている。前者は同一の経済次元(同一分野、同一の産業プロセス)にある、競争関係を有する事業者間で取り交わす独占協定をいう。後者は、同一の関係市場において、異なる生産経営の産業プロセスにある事業者間で取り交わす独占協定をいう。「第三者に対する商品再販価格の固定」、「第三者に対する商品再販最低価格の限定」という2種類の協定は、中国「独占禁止法」第十四条において明文で禁止される2種類の「垂直的独占協定」(注:通常、2種類の行為を「再販価格維持」Resale Price Maintenanceという)である。上記案件は、正に法執行機関が「第三者に対する商品再販最低価格を拘束した」垂直的独占協定行為に対して行った行政処罰案件である。本案件は下記の法執行の動向及び特徴を体現するものである。

1.法執行機関が家庭用電化製品業界の垂直的独占行為に注目し始めており、該当行為の取締りを強化していく

2013年に四川、貴州両地の価格法執行部門がそれぞれ2社の有名な酒類事業者による再販価格拘束行為を摘発して以来(2つの案件の課徴金額は合計4.49億元に達した)、国家発展改革委員会及び各省級の地方独占禁止法執行部門は、酒類業界、薬品、医療器械、自動車・部品、工業原材料などの分野における垂直的独占行為に細心の注意を払っており、取り締まりの対象となった案件は徐々に増え、法執行面での経験を蓄積しているが、今回、上海市物価局によるH社の取り締まりは、家電器業界初の独占禁止法に基づく法執行活動であった。

通常の見方としては、家電業界は競争が相対的に熾烈であり、独占・寡占を形成するのは難しく、個別事業者の行為が競争を制限し又は排除する効果が生じることはないとされている。しかし、実際には、家電業界の製造業者、供給業者が川下の販売店、小売業者に対して価格を拘束し、販売チャネルを統制するといった現象も普遍的に見られる。今後、法執行機関は、家電業界の事業者による独占禁止法違反の疑いのある行為に注意を払い、違法行為の取締りを強化していくであろうと思われる。

2.法執行機関が「当然違法」の原則を適用し、垂直的価格独占行為の認定を行う

独占協定の違法性の認定は、通常、2種類の認定原則がある。一つは、「当然違法」の原則、つまり、法律に定める独占協定を取り交わし又は実施する行為を行いさえすれば、その反競争的効果を分析しなくとも違法と認定するものである。もう一つは、合理の原則、つまり、独占協定を取り交わし又は実施する行為を行ったけれども、当該行為の合理性を全面的に分析し、最終的に「競争を不合理的に制限、排除した」協定であることが確定されたときにはじめて、違法と認定するものである。

本案件において、法執行機関は直接に客観的行為と現象に基づき、証拠収集、立証、認定を行ったが、これらの行為の合理性についての分析、判断は行わなかったようである。従って、「当然違法」の原則に基づき、H社が取り交わし実施した垂直的価格独占協定は違法であると認定し処罰したはずである。理論的に分析するならば、価格は市場競争におけるもっとも重要で活発な要素であり、価格を拘束することで、直接に競争を損ねるおそれがある。このため、諸国の独占禁止法実践においては、通常、価格の拘束に係る独占行為を「核心的制限行為」として、「当然違法」の原則を適用し取り締まっている。中国「独占禁止法」第十四条も同じく、「再販価格の固定」、「最低再販価格の限定」という2種類の再販価格拘束に係る協定を取り交わし又は実施することを明確な禁止行為としている。従って、本案件において、法執行機関が「当然違法」の原則で違法行為を認定したことは、独占禁止法の立法趣旨に合致している。

3.法執行機関は独占禁止法のリーニエンシー制度を通じて、事業者に対し独占行為の通報を奨励する

通常の見方としては、家電業界の川上・川下の事業者間では共同の利益を有しており、ひいては多くの川下企業は、川上の供給業者に対し、再販価格の拘束、供給販売チャネルの統制をしてもらいたがっていると思われる。従って、実践ではこのような独占行為は摘発されにくい。実際には、現在、法執行機関が取り締まった独占協定案件の多くは、協定に関与した当事者である企業の通報をきっかけに摘発されたものである。法執行部門は、独占禁止法の関連規則でリーニエンシー制度を設けており、つまり、事業者による独占協定の関係情況を自主的に独占禁止法執行機構へ申告し、重要な証拠を提供した場合、当該事業者への処罰について、法執行機関は情状を酌量して課徴金を減額し、又は免除するとしている。確認される限りでは、一部事業者が供給業者による制限、ひいては処罰を受けた後、供給業者に対して不満を抱くなどし、それにより自主的に法執行機関へ通報すれば、これによって、供給業者の独占行為を抑止できるとともに、自身に対する課徴金が減免される。情報筋によれば、今回H社が摘発された原因は、価格監督管理部門が「12358価格監督管理ホットライン」により通報を受け、尚且つ通報者から証拠と手がかりを入手したうえで調査を開始したからである。よって、如何にして川上・川下企業と公正な取引を行い、適法で良好な関係を維持するかが、企業コンプライアンス管理における重要な課題になる。

4.法執行機関が「寛大な処理」措置を運用し、事業者が自主的に違法行為を是正し、独占による影響を取り除くことを奨励する

本案件の行政処罰決定書によれば、H社は、調査を受ける前に、関係契約における違法となる条項をすでに削除しており、調査の過程で積極的且つ自主的に是正し、社内コンプライアンス研修と考査を実施し、販売店に対して科した「罰金」を積極的に全額払戻すなどしたため、情状酌量し、軽きに従い処罰されることになった。従って、独占禁止法調査の実施前、実施過程において、企業が係る政策を把握して一定の救済措置(独占禁止法の関係規定に従い、取り交わした独占協定の関係情況を自主的に独占禁止法執行機構へ申告し、重要な証拠を提供するなどを含む)を講じれば、独占禁止法執行部門は免責し又は寛大に処理する可能性があることがわかる。

企業コンプライアンス管理上の対応策

上記案件についての分析を踏まえ、企業コンプライアンス管理の実践上の特徴に沿って、その対応策を以下の通り整理する。

1.事業者は供給契約、販売店契約などの契約について独占禁止法に基づく適合性審査を行い、販売店契約における価格維持、価格拘束に係る「不適切な条項」をできる限り削除し、調整しなければならない。また、販売店契約の「販売地域の画定」、「商品横流し禁止」などの条項についても慎重に分析する必要がある。
もしも販売店を対象とした「商品横流し禁止」条項に垂直的価格拘束が含まれ、又は直接に垂直的価格拘束(係る措置が価格管理に関係している)のために使われ若しくは実質上そのように理解できる場合、これらの「商品横流し禁止」条項は「垂直的価格独占協定」を構成すると認定され、法執行機関からは「独占禁止法」違反と認定されることで取り締まりを受ける可能性がある。

2.経営管理職者向けの独占禁止法に関するコンプライアンス研修を行い、従業員の業務方式、方法を規範化する。
注意すべき点として、本案件では、H社の管理職がWechatなどのインスタントメッセンジャーを通じて川下の販売店に対し、価格の監視、価格の指示、「価格設定の約束を守らない」行為の「処罰」を行っていた。係るWechat記録が法執行機関に入手された後、初めて違法事実を認定する証拠とされた。今後、Wechat、QQでの会話履歴など、インスタントメッセンジャーでの会話履歴は独占禁止法執行における調査の重点対象となる可能性があるであろう。このため、従業員のWechat又は係るWechatでのグループでの発言は、独占禁止法コンプライアンス管理の対象範囲に組み入れられる必要がある。例えば、同業界の事業者同士がWechatグループを作り、センシティブな競合情報について意思疎通を行ったり、Wechatグループ、朋友圏(「モーメンツ」)などを利用して川下の販売店を管理したり、再販価格を限定したり、「価格設定の約束を守らない」行為などを糾弾したりする場合、独占禁止法違反の法的リスクがきわめて生じやすい。よって、コンプライアンスリスクの低減策として、従業員が係る競合情報を不当に開示し又は公表してしまわぬよう、条件が整った企業であれば、専任チーム又は専任者を指定し、これらの情報を監視し、管理する必要がある。

3.合理的な市場秩序を維持するために、川上の供給業者/製造業者は、川下の仕入先に「希望小売価格/指導価格」を開示し提供する方法を採用するとよい。
双方は、「川下の仕入先が『希望小売価格/指導価格』の実施状況(例えば、実際の商品再販価格など)を川上の供給業者/製造業者に届け出る必要がある」ことを供給契約、販売店契約で定めることができる。届出義務を履行しなかった川下の仕入先に対して、川上の供給業者/製造業者は供給契約、販売店契約の約定に基づき、係る違約責任を負わせることが可能である。但し、川上の供給業者/製造業者は、当該「希望小売価格/指導価格」を違反し、商品の再販売を行った川下の仕入先に対して、処罰などの実質的な価格拘束行為をしないように注意しなければならない。さもなければ、前述した通り、垂直的独占協定を構成するリスクに直面することになる。

(里兆法律事務所が2016年9月23日付で作成)

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