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中国で独自の市場を開拓したノーリツ~国営企業を変革させ、ガス湯沸器販売に成功~

中国ビジネスレポート 各業界事情
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2003年2月15日

<業界分析>
中国で独自の市場を開拓したノーリツ
〜国営企業を変革させ、ガス湯沸器販売に成功〜

増田辰弘
アジア・マーケット・レビュー 2003年2月15日号掲載記事)


大手国営企業と合弁

中国13億人マーケットをどう捉えるか。これがなかなか難しい。確かにボリュームは多いが、面積もやたらと広い。中国特有の悪しき商慣習もある。WTO加盟とともにやり易くなったとはいえ、苦労やトラブルが減っているわけではない。

中国でガス湯沸器、厨房機器、洗面台、浴槽などを製造、販売するノーリツの事例を取り上げ、この中国市場で売る工夫、苦労について見てみる。

ノーリツの中国進出は、この分野ではかなり古く、1993年に現地の国営企業と合弁会社を作ったことに始まる。中国に進出してもすぐに販売するのは難しい。そこで、相手側からのアプローチがあったこともあり、地場の上場している国営企業とタイアップした。

中国では製品は売っても資金回収ができない。独自に流通機構を作り上げるのも大変である。そのためには国営企業と組むのが得策のはず。幸い同業種はまだ出ていない。これはチャンスではないか。こんな気持ちもあって現地進出した。もちろん、中国でガス湯沸器が普及期に入り、日本のメーカーのものは飛ぶように売れる。こんな手応えを感じた。

しかし、御多分に漏れずそんなにうまくは運ばなかった。まず、合弁会社の日中の役割分担であるが、日本側が生産と開発、中国側が販売、財務、人事、総務で分けた。しかし、これがいけなかった。合弁会社は完全に中国の会社でスタートした。権限を持っている中国側が最終的には決めてくる。実質経営権が中国にある。どうにもならない状況が続くことになる。

パートナー国営企業が民営化

第2は、販売した製品の資金回収が得られなかった。現地の大手国営企業であるから、販売ではそれなりの成果を上げると思ったが、そうは問屋が卸さなかった。売った製品のうち30%が資金回収できない。これはパートナーに能力がないというよりも、日本と中国との常識の差があまりに大きかった。そして中国側は従来パターンでやっていた。

日本側から見るとどこに売ったか分からない。金も貰えない。彼らはいったい何をやっているのだ。もちろん、日本側から苦情、抗議はするものの、彼らが実質経営権、最終決定権を持っている。歯ぎしりをする日々が続いた。同社が国営企業の持つ恐ろしさをしみじみ味わった時期である。

第3は、中国での過当競争である。当時、ガス湯沸器メーカーは、ローカル企業が140社ひしめいていた。特に、広東省はメッカで50〜60社がひしめいていた。そして彼らが信じられないような低価格で売り出してくる。

今でこそ地域ごと、市場ごとの棲み分けができているが、当時そんなものはない。まして、同社のモノマネ製品を信じられないような低コストでやってこられてはかなわない。

こんな苦い味でスタートしたノーリツの合弁会社であったが、大きな転機が訪れる。パートナーである当の国営企業が、開放経済下の構造調整に遅れ、国営企業の上場廃止第1号で廃止されることになったのだ。そこで、合弁会社をノーリツが買い取ることになった。

ここで、日本企業が中国の国営企業を民営化するという前代未聞のプロジェクトが始まる。中国側は売ることに対しては、国営企業の敗戦処理、リストラの原資とするため反対はなかった。結果的に株式を95%買い取った。ただ、値段の交渉は想像以上に厳しかった。

中国側との交渉を一貫して行ってきた上海能率有限公司の小原文雄副総経理は、「相手側は終始早く売って資金を確保せよ、という姿勢であったから、そう問題はなかった。むしろ、問題はその後のリストラでした。それまで、あまりに社員が多すぎました。これを本来の規模にしました。

当然、今まで通り国営企業のスタイルでやりたいという社員は辞めていき、新しい体制の方がやりがいがあるという者が残りました」と語る。

販売体制を一新させる

同社が、この国営企業の民営化にあたり、もっとも大きく変革させたのは販売体制である。それまでの販売ルート、販売方式をガラリと変えた。諸悪の根源であった掛け売りを原則としてやめ、現金(前金)売りとした。

これで販売先は一新された。同社の現在の販売先だが、量販店が40%、個人商店および家電量販店が各々20%、百貨店が10%、その他が10%となる。

このうち、個人商店は前金あるいは当初の方針通り現金取引だが、量販店や百貨店はそうは行かない。1回の買付量が多いだけに当然手形払いとなってくる。現在、上海の量販店は大きく3つの企業によって支配される。いずれの店もここ10年で小さな個人商店が大きくなったものである。大量に買い付けて大量に売る。当然、消費者の流れも百貨店、個人商店から量販店へと動いている。

特に、中国一の量販店となったA社は同社の全販売量の10%を引き受けてくれている。1回の購入量も1,000台と桁外れである。この実績から一昨年より信用取引している。もちろん手形はきちんと落としてくれている。

このA社は、とにかく売って、売って、売りまくり、シェアを取ることに熱心。上海能率有限公司は、どちらかといえばローカル企業との棲み分けを考え、現地の高所得者層を中心に売り込んでいく考えだが、その大きな力になっているのがA社だ。代金は手形払いにせよきちんと払ってくれ、大量に売ってくれるA社は、やはり得がたいパートナーのひとつである。

ガス爆発事故が追い風に

現在、同社は追い風にある。それは、現地でガス爆発事故が多発し、150人もの死者が出た。そのためガス機器について上海市当局が厳重なチェックをし始めたからだ。これは、ローカル企業のガス湯沸器や風呂が悪かったからではない。取り付け工事に問題があったからである。

中国では、マンションや建て売り住宅を販売する際、内装工事はまだ行われていない。住宅を購入した後、自分で工事業者を選んで発注する。これも中国人らしいが、丸投げで内装業者に発注などしない。照明業者、水道業者、ガス業者と各々に分けて発注する。この時になるべくコストの安い業者に発注した。これが結果として粗雑工事となり爆発事故につながった。

中国のガスは、まだ日本と異なりガス圧が安定していない。ガス爆発事故が起こり易い環境であることに加えて、工事が粗雑であるから、事故はどうしても起こり易くなる。こうなると上海能率有限公司の工事付きのガス湯沸器や風呂は少し価格は高いかもしれないが、安全であることは大きな売りとなる。

それにしても上海市政府の対応は厳格である。ガス爆発が起きるとテレビのニュースで大きく取り上げる。それも工事をした会社名は実名で流す。悲惨な事故を見せつけられ、会社名を出されるともういけない。その会社の命運は尽きてしまう。この措置によりついに上海地区のガス爆発事故はゼロになった。

ユーザーを主要20都市に絞る

上海市政府としては、中国近代化の象徴である上海で、ガス爆発事故が多発して多くの死亡者をだしては沽券にかかわる。そこで、メディアを使って徹底的に追い込む。一方、工事業者にとっても粗悪工事、手抜き工事をやることは命取りとなってきたから十分注意するようになってくる。

上海能率有限公司の場合は、ガス湯沸器などの取り引きを行う場合、工事を付帯事業としてやってきた。これは万にひとつも同社の製品でガス爆発事故を起こしたくなかったからである。それだけ現地のガス配管環境と工事業者に不安を持っていた。

現在、同社ではガス湯沸器が1台150元、その取付け工事費が50元、こんな形でやっている。これは確かにローカル企業よりも高いが、やはり安全というのは魅力で同社の製品に対する評価は高まった。ただ問題は、場所によりこれ以上の工事コストがかかっても、実費を上乗せできないことである。

また、同社は主要な製品の販売先にメンテナンス隊を派遣し、ガスに関する相談や苦情、故障に対応している。このメンテナンス隊も同社の社員に対応させるのではなく、地域にいるガス機器の技術者に一定の教育を行った後、1件の処理費がいくらという出来高払いでメンテナンス業務を行っている。

同社の営業戦略は大変シンプルである。それは主たるユーザーを、上海、北京、大連、深センなど主たる20都市とその都市近郊に絞っているからである。前出の小原副総経理は、「消費者が望んでいないところに出ても効率が悪い。ローカル企業とは地域別の棲み分けをします」と語る。

上海能率有限公司のエントランスに大きなショールームがある。そこには同社の各種ガス湯沸器、バスルーム、洗面台などが並んでいる。もはや近代化されてきた日本の住宅とほとんど変わらない。中国のマーケットは本当に大きく、また重層的である。自社に得意なところを狙うなら、どんな業種でもまたどんな製品でもビジネスチャンスは大いにある。

産能大学経営学部教授 増田辰弘

本記事は、アジア・マーケット・レヴュー掲載記事です。

アジア・マーケット・レヴューは企業活動という実践面からアジア地域の全産業をレポート。日本・アジア・世界の各視点から、種々のテーマにアプローチしたアジア地域専門の情報紙です。毎号中国関連記事も多数掲載されます。

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