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上海F1グランプリの舞台裏 中国市場を目指す海外資本の思惑

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2004年11月6日

<各業界事情>

上海F1グランプリの舞台裏
中国市場を目指す海外資本の思惑

アジア・マーケット・レビュー 2004年10月15日号掲載記事)

 9月26日に行われたF1上海GP(グランプリ)決勝。中国政府の要人や日欧米自動車メーカーの首脳らが観戦する中、伊・フェラーリの深紅のマシンがトップでゴ一ルした。日本とマレーシアに続くアジアで3番目のF1GP開催国となった中国。ことしは新自動車政策を発表し、年間の自動車生産500万台突破もほぼ碓実。F1開催も含めて、まさに大躍進である。トヨタ、ダイムラークライスラー、フォード、BMWといった中国進出組が参加するF1GPは、いまや大資本の自動車メーカーなくしては成立し得ない。その絡みもあって中国政府も積極的なのだが、この自動車レースの最高峰イベントに中国は何を求めているのだろうか。あるいは参戦する側の思惑は何か。

幻に終わった99年珠海GP

 98年の大洪水によって施設の大部分が水没した珠海サーキットで開催される予定だった99年のチャイナGPは、F1主催団体であるFOAおよびモータースポーツイベントを統括するF1A(国際自動車連盟)の判断によって、開催地をマレーシアのセパンサーキットに移された。アジアで2番目のF1GP開催国になるはずだった中国は、予期せぬ天災によってマレーシアの後塵を拝することになったのである。
 大洪水から6年、悲願だったF1GP開催は、場所を変えて上海で実現した。「上海汽車城」と呼ばれる自動車関連施設が集結した一角に近代的なサーキットが建設され、中国国内のモータースポーツイベントも今後開催される予定だ。自動車生産が年間500万台に届こうという国なのだから、自動車を使うレジャーやスポーツが出現してもおかしくはない。急激な自動車普及の裏で、その方面はまったく手付かずだった。
 かつて、90年代後半に珠海GPの誘致が成功した裏には、欧州石油メジャーの存在があった。中国市場の将来性を知っている彼らは、石油製品の販路拡大を求めて中国側の誘致に乗り、開催への道筋を作った。天災がなければ珠海GPは開催されていた。皮肉にも、その代替イベントに指名されたマレーシアGPは、同国の国策石油企業であるペトロナス石油がFOAに対して政治的に動いたことで実現したという事情がある。ペトロナスは当時、F1有カチームであるザウバーのスポンサーも務めていた。クアラルンプール空港のそばにサーキットを作って誘致活動を積極的に展開したのは、ほかならぬマハティール首相自身だった。FOAは、景気減速で開催のうま味がなくなった日本での追加開催よりもマレーシアでの開催を選択したのである。

国家も関係した初GPの効果

 マレーシアGP自体も、イベントとしては成功している。しかし、今年初開催の上海GPが、中国という国の人口の多さが手伝って異様な盛り上がりを見せたことで、F1関係者は満足している。テレビ視聴率は高く、ある自動車メーカーでは「FlGP終了後の街頭調査については、自動車熱が再び高まったという中間報告が出ている」と期待を膨らませている。
 F1決勝レースの前座として開催されたVW(フォルクスワーゲン)やルノーの市販車を使ったレースも、自動車熱を高める効果を発揮したようだ。かつてのF1ドライバー達が運転するVWポロのレースを見て「自動車の面白さ」を感じた人は多いだろう。そこがVWのねらいだった。VW自身はF1参戦していないが、この上海でのイベントをうまく活用していた。「まったく自動車に興味を持っていなかった層」に対しても、上海GPは相当なアピール効果があったようだ。ある日系自動車メーカーの首脳は「1976年に初開催された日本GP当時の熱狂を思いだした」と語っている。
 その上海の興奮が冷めやらぬうちに「中国でのF1GP開催は上海と北京の両方になる」と言われ始めた。FOAおよびF1界周辺に転がり込むテレビ放映権収入は莫大であり、初めての中国GPがその面でも成功だったことを物語る話しだ。上海サーキットの観客席の中には、まるまる1ブロックが空席という場所もあったが、主催者によれば「チケットは完売している」という。確かに、日本円で約5万円もするグランドスタンド席は満員だった。中国がF1GP界全体にとっての「スポンサー」になったことは間違いない。
 ただし、莫大な工費をかけたサーキットの年間レース予定は、いまのところ数戦でしかない。欧州で人気が高いツーリングカー・レースの誘致には成功したが、年間たった数戦では、コース施設の維持費にもならない。香港資本の会杜がサーキット運営に当たっているようだが、ウワサにあるように「政府も何らかの援をしている」のだろう。つまり、上海GPは国家イベントとして計画されたということだ。

IT企業が続々とF1スポンサーに

 中国でのF1GP追加開催が現実味を帯びつつある背景には、F1GPの主戦場である欧州でタバコ広告の規制が厳しくなり、F1GPの重要なスポンサーであるタバコ会杜が「広告規制のない地域での開催」を望んでいるという理由がある。
 サーキット場内の広告塔、マシンやドライバーのスーツおよびヘルメットなどに書かれたタバコブランドのマークやロゴは、テレビ電波に乗って不特定多数の視聴者に届いてはいけない。タバコの看板は幕で覆われ、レーシングスーツとヘルメットは欧州シリーズ用の「タバコブランド名なし」が使われる。それでは、巨額のスポンサー費用を払う価値がない。広告規制によってタバコ消費量そのものが落ち込んでいる欧州よりも、アジアでF1GPを開催するほうが宣伝効果はずっと高い。上海はFOAとの問で7年間の開催契約を結んでいるが、タバコ企業側も「中国での追加開催」を歓迎しているようだ。北京GP開催への動きはすでに始まっている。
 つまり、アジアでは日本とマレーシアで1戦ずつ、中国で2戦、合計4戦がスケジュールに組まれる可能性が高いということだ。以前は歓迎された白人国家オーストラリアとニュージーランドでの開催よりも、現在は「アジア」なのだ。ここにF1界の変化が見て取れる。
 もう一点、F1チームの有カスポンサーにIT関連企業が参入してきたことも、F1GP界の「ルック・イースト」政策に影響を与えている。携帯電話加入台数3億台の中国に勝てる国などない。ボーダフォンやマイクロソフトに続いて、今シーズンからはNTTドコモがルノー・チームヘのスポンサードを開始した。海外進出を狙うiモードの知名度向上が目的である。IT企業のスポンサーはさらに増えると言われている。そして、中国で年間2戦のF1GPを開催するメリットを感じているのは、スポンサー企業側も同様だ。

 自動車メーカーの思惑

 もちろん、F1GPをハードウェア面で支えている自動車メーカーも、中国開催のメリットは大きい。F1にシャシー(車体)あるいはエンジンを供給している自動車メーカーは現在8社ある。そのうちトヨタ、ホンダ、フォード、ダイムラークライスラー、BMWの5社が中国に工場展開しており、ルノーは2006年からの現地生産計画を進めている。スポーツカー専業のフェラーリと高級車専門のジャガーだけが工場進出計画を持っていないが、そのブランド力を背景に完成車輸出を増やそうとしている。つまり、F1参戦全社にとって中国は、重要市場である。 かつてはレース専門の小規模技術集団が幅を利かせていたF1界も、いまや自動車メーカーがチームを牛耳っている。ルノーとトヨタは完全なメーカーチームであり、来シーズンからはホンダもそうなる。知名度アップに直結したイベントとして、F1の意義は大きい。例えば、ブリヂストンはF1タイヤの供給を始めたことで欧州でのブランド認知度わずかが2年で1O%から30%台へと跳ね上がった経験を持っ。テレビヘの露出も含めると、その宣伝効果は非常に大きい。
 また、F1に参戦していないVWやアウデイ、アルファロメオといつた欧州メーカー勢は、欧州で人気のあるツーリングカーレース(市販車を改造したマシンで争われるレース)を中国へ遠征させることを狙っている。同レースは、WTO加盟時に公約した輸入関税の引き下げに合わせたPR活動の一環でもある。面白いことに、中国政府が発表した「新自動車政策」では、自動車消費促進のための施設整備が初めて政策として掲げられた。駐車場や自動車レジャー施設の整備だ。北京にも4輪レースが可能なサーキットがあるが、近くF1誘致に向けた施設拡張が行われるという。自動車を使ったレジャーの基盤整備が国家方針として始まるのだ。

偶然の一致か、あるいは...

 トヨタF1チームのメインスポンサーである松下電器は、中国で2006年から生産開始されるハイブリッド車「プリウス」のバッテリー供給を担当している。トヨタは現地提携先の第一汽車に対しても、ハイブリッド技術を供与する方針。また、ホンダは資本比率50%を超える輸出専用の合弁工場を立ち上げ、中国政府の悲願に答えようとしている。工場進出で後発のフォードは、長安汽車とのプロジェクト拡大の認可を異例のスピードでまとめた。
 これらはすべて、F1参戦メーカーである。穿った見方をするなら、中国でのr文化的な自動車発展」に寄与すると思われるF1に参画している自動車メーカーは、何事もスムーズに進む。政府の認可も早い。ほとんど中国での実績がないルノーにも日産の合弁とは関係のない単独での進出に認可が下りた。……状況証拠でしかないが、中国政府が自動車文化の面でも「欧州並み」を目指している現在、F1参戦企業はステイタスなのかもしれない。そして、F1をやる余裕のある自動車メーカーが業界再編の中心になる可能性も高いのだ。

(牧野茂雄/William Marr)

本記事は、アジア・マーケット・レヴュー掲載記事です。

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