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【中国深読みコラム】第35回~貿易面より見た米国と中国~

中国ビジネスレポート コラム
松本 健三

松本 健三

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2016年12月5日

次期アメリカ大統領に共和党のドナルド・トランプ氏が決まり世界は慌てている。日本の安倍首相はすぐさま米国に飛び異例の「大統領就任前」の会談を行なった。日本は対米貿易で年間7兆9,500億円(723億ドル、2015年度実績)もの黒字を出し、トランプ氏より日本車に45%の関税をかけると脅かされているが、中国の対米年間黒字は42兆5,000億円(3,864億ドル)と日本の5倍以上の規模となっており、当然こちらが米国の主要な政策となる。今回はアメリカと中国の関係を貿易面より深読みします。

 新大統領の正式就任は来年(2017年)1月20日です。この就任演説でアメリカはTPP(環太平洋連携協定)からの離脱を宣言するとトランプ氏は予告しています。TPP加盟12ヶ国の国内総生産(GDP)合計の85%が契約発効の条件ですので、全体の60%を占める米国が抜ければTPPは自動的に消滅(漂流)します(日本は18%)。TPPは対中国封じ込め政策の一環としてオバマ政権と安倍政権が主導してきましたので、中国にとっては朗報であり、この面ではトランプ新大統領を歓迎しています(中国外交部報道官談話)。
 
 一方、トランプ氏はアップル社のティム・クックCEO(最高経営責任者)に対し、「アップルの工場を中国ではなく米国に戻し、米国で生産させろ」と電話で伝えた記事がニューヨーク・タイムズに掲載されています。米国の製造業復活と雇用維持を大統領選で訴えてきたトランプ氏の有言実行ぶりですが、はたしてそんなことが今更できるのでしょうか?フィンランドのノキアから始まり20年かけて、中国内で携帯電話部品の安価なサプライチェーンを構築してきた世界各国の電子部品メーカーがアメリカに移れるか?また、それらの部品を組み立てる台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業などのセット・メーカーが米国に存在するか等、トランプ氏の願望的政策を実行するにはアメリカ労働者の質とコスト面でも大きな課題がありそうです。
 
 冒頭で述べた通り、中国の対米貿易黒字は巨額ですが、中国にとって対米貿易黒字はそのまま100%利益として得ているわけではありません。中国がアメリカに輸出している高付加価値製品・部品について、中国で生産できない素材および原材料は輸入に頼っています。例えばアップル社のアイフォーンは中国で組み立てられ米国へ輸出されていますが、そのキーコンポーネント(コアな部品)は部品全体の50%以上に上り、ほとんど欧米・日本・韓国などの先進国から輸入されています。また多くのアジア諸国にとって最大の輸出先である中国を経由して、最終需要地である米国に輸出される分も合わせれば、トランプ氏の保護主義的な通商政策が実行に移された場合、アジア経済に及ぶマイナスの影響は計り知れない規模になります。

 一方、中国の対米サービス貿易をみると、中国にとって大きな赤字になっています。特許などの知財権の利用料(ロイヤルティー)は中国の大幅な赤字。そして、最近では旅行収支も中国の赤字となり立場が逆転しました。更に留学生収支についてですが、アメリカに滞在する100万人の中国人留学生は毎年米国の大学に約100億ドル(1兆1,000億円)の授業料を支払っており、家賃や生活費なども含めると数兆円の持ち出しとなっています。
よって、米中貿易の損得勘定を考えた場合、米国の対中経済関係は相互の産業構造が補完的であることから、ウィン・ウィンの関係が既に出来上がっていると言えるでしょう。

 もしトランプ新政権が対中貿易政策を大きく変更した場合、世界最大である130兆円の米国債を保有する中国がその一部でも売りに出すと、国際金融市場は大混乱に陥る恐れが出て、日本にも大きな影響を及ぼすことは必定となります。この意味でも、2017年のトランプ政権の誕生で米中二大国が対立しないように祈りたいと思います。

以上

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