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ログイン2003年1月1日
<投資環境> −華東・華南の華々しさの陰で起きていること− インターネットを使って中国語でキーワード「検索」してみると直近の中国の有象無象を垣間見ることができる。有象無象という言い方に語弊があるのであれば、様々な切り口から見た有り姿と言っても良い。インターネットのいわゆる「光と影」の「影」の部分がもたらす悪影響をおそれ、政府は様々な規制を加えていると伝えられるが、どっこい、中国のインターネット世界は、健在である。中国の国土と社会同様、広がりと奥深さを探索者に感じさせつつ、中国のいろいろな面を開示してくれている。一つ具体例を挙げてみよう。 ここ数年流行りのスローガンの一つ、「引資者是功臣,投資者是上帝」をGoogle中文検索にインプットしてみると、例によって、わんさとサイトが湧き出てくる。その中で、主流を占めるのは、中国各地の「投資呼び込み」のサイトである。当然ながら、どのサイトにも、このスローガンがちりばめられている。 さらにこれらのサイトをつぶさに見てみると、 「引資者是功臣,投資者是上帝(投資家を連れてくる者は、功労者であり、投資者は、神様である)」 にとどまらず、 「機関幹部是公僕,損害投資者利益是罪人(政府機関幹部は公僕であり、投資者の利益を損なう者は罪人である)」 と強い調子で続けているものも多い。ちょっと余談になるが、「公僕」などという日本人にはなじみ深い言葉が出て来るようになったのは、中国各地の投資促進団が日本を訪問した際に、その言葉を耳にし、日本語におけるその言葉の意味合いを知りかつお気に召したからではないだろうか。以前は余り耳にすることがなかった言葉だ。もしそうだとすれば、日本企業の対中投資拡大がもたらした副産物ということになろうか。 それはともかく、これらの言葉の前後には、これら各地の地理的地政学的優位性がどこにあるか、いかにインフラが整っているか、投資面の優遇策をどれ程積極的に行っているか、投資の手続きをいかに効率的に行っているか、政府機関等の職員の教育にどれだけ力を入れているか、多大な貢献をした者にどれだけ特別手当や報奨金を出したか、といった、見る者のみならず、自らをも鼓舞するような内容がびっしりと並べられている。また、面白いことに、それらは、中国は、「南船北馬」、「百里離れれば習俗がまるっきり違う」などの中国語の諺の与えるイメージとはかなり様相を異にし、千篇一律なのである。 このスローガン自身は、平易な内容ゆえ、どうということはなく、「海外からの投資者を呼び込もう!」と気炎を上げているものと解釈できるし、事実、筆者もそう解釈して来た。ところが、ここに来て、中国に住む中国人の知り合いから次のような内容の手紙が届いてから、これらのサイトを見る目が変わって来た、というか、変えざるを得なくなって来たのである。 「『引資者是功臣,投資者是上帝(投資者を呼び込むものは功労者であり、投資をする者は神様である)』というスローガンが流行っていることはご存知でしょう。このたび私は、この上帝(神様)になるべく、投資をすることを決めました。会社を起こすのです。場所は、XX市にしようかと考えています。なぜXX市に決めたかと言えば、それは、そこは沿岸都市で、そこの地方政府は投資環境整備にいたく熱心で、インフラが良く、投資面の手続きが簡単で、・・・・・・・だからです。特に私の知人がいるとか、青春時代をすごした思い出の土地という訳ではありません。中国各地の投資環境に関する資料を集め比較検討した結果、この都市が私の起業に最も適していると考えたからなのです。・・・・・・・」 この手紙の主は、件のスローガンをこのように解釈している。つまり、誰であっても、外国人であっても、中国人であっても、投資者こそ神様、投資者こそ主役である、と。これは、筆者にとっては、新鮮な解釈と言わざるを得ない。なぜなら、筆者は、スローガンの意味を、「外国の投資者を探し出して連れてくる者は、偉い、ご褒美を上げよう。しかし、それよりも偉いのは、投資してくれる人で、その人は神様のように、大事にしなければいけない。その外国の神様が逃げ出してしまうようなことをする奴は罪人だ」だと信じて疑わなかったからである。もしかしたら、彼は、XX市に投資したら、XX市は自分を外国の神様扱いし、上にも下にもおかない扱いをしてくれる、だから投資すると言いたかったのだろうか。いや、何度読んでも、筆者にはそのようなニュアンスは伝わってこない。やはり、自分は、投資呼び込みの功労者になるだけではもはや満足できない、自らが投資者という主役になりたい、という気概がしか感じられない。 一葉落ちて天下の秋を知る。この手紙を読み終えてから、もう一度中国各地の投資呼び込みサイトを読んでみると、面白いことに気がつく。それは何かと言えば、どのサイトも、これまた異口同音に、 「・・・・・吸引海内外客商来投資興業,共同発展(海外・国内の企業を誘致し、投資・起業をしてもらい、共に発展しよう)」 と謳っているのである。逐字的に解釈すれば、海外の企業に限定せず、国内企業にも来てどしどし投資をやって欲しいと言っているのである。「それは、言葉の『あや』っていうもんですよ。彼等が狙っているのは、外国企業に決まっているじゃないですか。でなけりゃ、『二免三減』なんてことを大声で宣伝する筈がないじゃないですか」と反論される向きもあろう。だが、果たしてそうだろうか? さらに詳しくこれらのウェブサイトの文章を読んでみると、驚いたことに、かなりのサイトにおいて、『二免三減』はおろか、外国企業に対する特別優遇策という字句すら出て来ないのである。「外来投資者(外から来る投資者)」「招商引資(事業投資誘致)」といった表現しか出て来ないのである。中国各地が日本やアメリカや韓国企業の誘致を狙って争奪戦を繰り広げているというイメージが強いためか、とかく、我々は中国各地の争奪戦を外国企業に限定した局地戦のごときイメージを抱いてしまうが、以上に述べた事実を踏まえ、少し深読みしてみると、少し別の実態が見えて来る。中国各地、とりわけ「もう腹いっぱいだよ」と贅沢なことを言える華東地区、華南地区を除いて、ほとんど地方の本音は、「誰でも良い。どこからでも良いから来て欲しい」なのではないだろうか。中国には666の都市があるが、そのかなりの部分が、このような「心情」で、事業投資誘致を行っているのではないだろうか、と思えてくる。 ジェトロの統計によれば、2001年の全世界の対内直接投資は次のようになっている。 全世界 6,948億ドル 中国の対内直接投資は、日本の10倍以上である。この一事を以ってしても、中国における投資の流れというものは、日本のそれとはかなり異なったものであることが容易に想像できる。そして、それゆえに、日本人にとっては案外このあたりが、即ち、中国においては対内直接投資の比率が断然大きいという点が「死角」として見えていないのではないだろうか。 「西部大開発」地域を含む多くの、海外企業が直接投資に二の足を踏んでいる地域は、今や、「笛吹けど踊らず」で、いくら日本や海外への直接的な働きかけをしても効果が薄いということを痛感しているのではないだろうか。そして、「企業誘致」における攻撃の的を徐々に、あるいは急激に中国国内の合弁企業・独資企業や国内の新進企業へと転換して行くのではないだろうか。従来のように日本へわざわざ出かけて行って投資促進のためのセミナーを開くことを控え、その代りに中国に進出済みの海外企業またはその下請け企業、裾野産業への投資勧誘の働きかけを強めて行っているのではないだろうか。そしてやがては各地のトップが、「我が市が今年勝ち取った成果は、国内企業投資XXX万ドル、外資による投資XXX万ドル」と胸を張るのではないだろうか。いや、既にこのようなスタイルでの成果発表が広くなされているかも知れない。 しかし、良く考えてみれば、中国が世界最大の対外直接投資受入国となった現在、中国全土においてこのような状況が生まれたのはごく自然な流れというべきかも知れない。いくら「投資を呼び込んだ者には多額の報奨金を払う」と言っても相手が乗ってこなければその効果は限定的であり、外国企業は、「投資熱土(ホットスポット)」に向かって行ってしまうとなったら、担当者も智慧を絞るに違いない。その結果、上帝(神様)は国内にいる、ということに気がついたら、釈迦力になって国内に投資者を探すはずだ。いやそれどころか、灯台下暗し、まさに自分自身こそが上帝(神様)だということに気付くなどということもないとは言えまい。先にあげた私の友人も、中国国内の各地のサイトを検索し、資料を得て投資の方向性を決めたのである。こういう形で、あの広い国土の北から南へ、西から東へと「ラブコール」が送られているとしても何の不思議もあるまい。 以上述べた状況をまとめていえば、外国企業のホットスポットへの投資が、国内投資を次々と呼び起こし、それが中国全土へと波及しているということになる。世界最大の投資受入国中国では、未曾有の変化が未曾有の速さで起きている。外国企業の対中直接投資への期待が、その波及効果である対内投資への期待を誘発していることも、その一例である。 では、このことが日本企業、日系企業にとっては、どういう意味を持つのだろうか?余り関係ないと感じられる方もいらっしゃるだろうが、それがそうとは言い切れないのである。 紙幅の関係で、ここでは詳しく論じることは差し控えるが、先ず、外資企業に対する税制上の優遇政策を撤廃するか否か、どういうタイミングで撤廃するか、といった外資企業の死活に関わる国のマクロの政策立案に大きな影響をもたらすものであることを忘れてはならない。次に、対内投資の前線上にビジネスチャンスが転がっていないとは限らないことを想起すべきである。特に、驚異的な高成長を遂げつつある中国国内市場への参入・事業拡大をめざす日本企業・日系企業にとって、もしかしたら「ビジネスチャンスの宝庫」かも知れないのだ。このあたりの事情を見ずに、「外と中」の関係のみに目を奪われていると他社に遅れをとることになるのは必定である。その意味からして、対中直接投資前線の延長線上にある国内投資前線を、対岸の火事と見ずに、常にウオッチして行かねばならないということは言を待たない。 (1月19日記・4,383字) |
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