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これだけは知っておきたいリスクマネジメント(3)

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2005年12月18日

<投資環境>

これだけは知っておきたい! 中国リスクマネジマント(3)

前回まで、マクロの中国リスクと日本と中国の交渉の意味の違いについて話してきましたが、リスクマネジメントと交渉に意味とどの様な関連があるのか?と疑問を感じている方もいるかと思います。

通常、リスクマネジメントとは「企業をとりまくさまざまなリスクを予見し、そのリスクがもたらす損失を予防するための対策や不幸にして損失が発生した場合の事後処理対策などを効果的・効率的に講じることによって、事業の継続と安定的発展を確保していく企業経営上の手法」と定義されています。また、「リスクマネジメント」の対象となるリスクは「顕在化した時には、常に損失のみが発生しうるリスク」であり、これを「純粋リスク(Pure Risk)」と言います。また保険の対象となりうるということから「保険付保可能なリスク(Insurable Risk)」とも言われています。

それらのリスクをコントロールするためのリスクマネジメントの手順としては〔1〕リスクの洗い出し〔2〕リスクの分析・評価〔3〕リスクの優先順位の決定〔4〕リスク処理方法(a.移転、b.回避、c.低減、d.保有)の選択・実施が挙げられています。これらの教科書に出てくるようなことは、ご存知な方も多いかと重います。

中国におけるリスクマネジメントで重要な事は、これら教科書に書かれているようなことが、如何に中国の実情に合ったリスクマネジメントの考え方・手法になっているのか?という点でしょう。その観点から、中国という場所でビジネスを行っている方々にとり最も重要なのは、「中国とはなんぞや? その特徴の中で自社をどの様に位置づけるのか? その位置づけに沿った形でどの様に経営戦略を立てるのか? そのためにどの様な交渉戦略でのぞむのか?」という中国の実情に合ったフローを自社の中で、確りとおさえることです。

 

 この観点から、今回は、前回に続いて、中国での交渉の基本原則及び日本企業の取るべき交渉戦略を、リスクマネジメントを考える上での外部経営環境リスク認識として考えてみたいと思います。

 

1.中国交渉の基本原則と交渉戦略

(1)  中長期戦略の確立の重要性

 中国は中長期戦略を構築することが得意です。従って、日本側も対抗上中長期事業戦略を確立する必要があります。中長期事業戦略が無いままに交渉に臨んだ場合、その場限りの対処に終止し、結果的に全てが後手に結果となります。本社に帰ってから結論を出すという態度は相手のこちらの戦略不在を教えるようなものですので、注意が必要です。

 

(2)「遠交近攻戦略」への対抗

 「遠交近攻戦略」とは、遠い国と手を結ぶことで(遠交)、近い敵を包囲しながら攻める(近攻)戦略のことです。中国企業との交渉においても、日本のライバル企業とのアライアンスをちらつかせる等で良く採用される戦略で、交渉当事者の日本企業としては、交渉前に中国に先んじて「遠交近攻戦略」を採るなどの方策を事前に考えておく必要があります。

 

(3)「遠交近攻戦略」と「多勢に無勢戦術」への対抗

 中国の交渉では、「遠交近攻戦略」が効を奏す形で、日本にとり多勢に無勢の状況が作り出されることが多いようです。

 企業交渉においても前述したようなライバル企業への接近等を通じ、交渉がしにくくなることが良くあります。対抗手段としては、「多勢に無勢」にならないよう、早い時期に「遠交近攻戦略」に対して日本企業が対処することが求められます。

 

(4)「誘敵深入戦術」とリスクマネジメント

 「誘敵深入戦術」とは、毛沢東が抗日戦争時に人民戦争論の中核思想として打ち立てた戦術で、「敵の侵攻に対して、人民の海に敵を誘い込み、包囲して殲滅する」という意味です。

 今回の反日デモでは、残念なことに、中国に進出した日系企業の製品がボイコットされました。3万の日系企業及び8万人の邦人が、「中国深入」の形として位置づけられた場合、日本はこの戦術に陥ることになります。企業としては、経営の現地化や現地での広報戦略、CSR活動など、企業リスクマネジメントの準備と自己防衛が重要でしょう。

 

(5)「羞恥心戦術」に対する態度

 中国では、妥結のための代替案を提示する代わりに、道徳的な告発や非難を通じて相手に恥をかかせる交渉戦術をとる事が多く、相手を恥じ入らせることで交渉の影響力をコントロールする戦術として使われます。

 企業交渉においても、中国企業から「交渉のスケジュールが遅れたのは全て日本企業側にある。」と批判されることがあります。その様なときには、毅然とした態度を採り、明確に反論することが「羞恥心戦術」に陥らないための対抗手段になります。

 

(6)交渉の最終目標の明確化

 日本人は、「交渉ではなるべく相手を怒らせず、合意を最終目標に掲げる」という交渉姿勢をとりがちです。これでは、交渉での勝利はおぼつかないと思われます。

 交渉当事者に対し交渉の最終目標が「勝利」である事を明確に示し、本社側からは、交渉当事者に100%の権限委譲をする事が重要です。

 

2.代表的な事業リスクマネジメント

 以上、中国固有のリスクをマクロ的・文化的に概観してきました。「リスク」という言葉はアラビア語を語源とし、「明日への糧」という意味を持ちます。企業も13億人という巨大かつ可能性の大きい中国を「明日への糧」として捉え、どの様にビジネス上のリスク・マネジメントを行っていくかが重要となりますが、今度は、具体的な事業リスクマネジメントの観点から、経営に直接関係ある業務プロセス・リスクを概観してみたいと思います。

 

(1)  会社の組織形態の選択

 中国に現地企業を設立する場合、良く知られているように合弁、独資、合作という3つの形態があります。形態の選択時に重要な点は、経営権の支配の問題と企業として地元対策をどう折り合いつけるかにあります。独資の場合には、経営権の問題はないが、現地政府への許認可などで問題が無いのか?が重要なポイントになります。また、逆に合弁の場合には、地元対策に余り神経を使わなくても良いのですが、経営権を如何に日本側が持つか、その為の定款、董事会規定などのあり方をどの様に作成するか?が重要になります。これらの点を現地の実情に合わせて、事前に検討しておく必要がある訳です。この点から、中国の経営リスクマネジメントは進出する会社組織形態を考える時から既に始まっているといえます。

 

(2)  現地労務管理

 会社を設立した後、次のステップで重要になるのが労務管理です。中国では、労働法が基本法として存在しますが、各地方にそれぞれ法規があるために、労務管理の実態は各省様々であると考えた方が正解です。各省の実情にあった、採用、訓練、雇用契約、解雇、就業規則、労働組合(工会)対策のあり方、など進出する地域の実情に合わせた対応が重要になります。労務管理の面で、最近の日系企業で最も頭の痛い問題が中間管理職の離職と優秀な中国人材の不足です。この点を意識した給与設計や昇進制度ができるかどうか、所謂リテンション・マネジメント力が重要なリスクマネジメントとなります。

 

(3)債権管理

 現在進出している日系企業にとり最も大きな問題が売掛債権の回収です。その為の、債権確保のマニュアル作りや中国人スタッフへの徹底がリスクマネジメントとして重要になります。マニュアルを作るだけでは無く、信用調査方法、代金決済方法、契約書のあり方、保証のとり方、相手先倒産時の対応など、をきめ細かく事前に決め、教育を通じての徹底を図ることが特に重要になります。

 

(4)知財の問題

 この問題も債権管理同様に頭の痛い問題です。中国では、最近とみにその隠蔽工作が高度化しつつあり、その対応が難しくなっていると言われています。企業内における専門部署の設置など組織的対応、情報管理体制、代理店などの第三者管理、防衛技術管理などを組織的に考えることがリスクマネジメントとして重要になってきています。

 

 経営に近いミクロ面から見てみた業務プロセスリスクの代表的なことは、以上のようなことです。これらの点以外の業務プロセス上のリスクについては次回以降の連載の中で更に詳しく述べさせて頂く予定です。

 また、これ等リスクへの対抗上重要な点は、リスクを回避するための内部統制システムの構築にあります。その点についても、今後連載の中で述べさせていただく予定です。

以上

(2005年12月記・3,378字)
コンサルビューション・代表
高原 彦二郎

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