深セン・平湖にある、華南城という開発区を訪問した。

ここを開発区と称してよいか疑問が残るが、ともあれ、正式名称を「華南国際工業原料城」という、巨大な交易センターである。

2004年末に正式稼動を始めた開発区であり、完成時には、香港・華南のメディアが盛んに紹介していた。この為、個人的にはずいぶん興味を持っていたが、なかなか訪問する機会がなかった。というのも、華南城が交易センターという、僕の専門分野（対日系企業コンサルティング・日系企業誘致）を少々離れた施設であるため、訪問の選択順位が落ちてしまった為である。

今回は、華南城の出資者で、力嘉国際集団の創業者である馬偉武氏の招待を受ける機会に恵まれ、遅ればせながら訪問が実現した。

華南城は深セン市内から車で40分の距離にあるが、会場に到着すると、その近代的な設備に若干の違和感を受ける。これは、会場に到着するまで延々と続く、古い町並みとのコントラストが激しいためである。

華南城の敷地面積は0.5平方キロメートル（拡張予定有り）で、生産型企業用の開発区（工業団地）と比べれば、決して大きなものではないが、展示場・商談会場だけでなく、ホテル、倉庫等の商業施設の充実振りは、特筆すべきものがある。一部では、華南城は保税区域であるという誤解が見受けられるが、これは間違いで一般区域。但し、開発区内に保税倉庫が完成すると、更に付加価値が高まるようだ。

華南城の出資者は、5つの香港企業集団（佳寧娜集団、民生集団、Kinox、力嘉国際集団、京暉国際）である。華南城内の展示場も、これらの出資者の事業内容に合わせて、合成樹脂・繊維・皮革・印刷用紙・金属の、５つの区域に分かれている。

各区域には、2〜3階建ての店舗がずらりと並んでおり、ここを、企業に賃貸・売却している。入居は、内資・外資・外国企業を問わないので、先ずは商品を展示してみたいという外国企業にとっては便利であろう。つまり、中国にまだネットワークの無い外国企業が、ここに商品を展示する、若しくは、もう一歩進んで出張所登記をすれば、華南城に出展している企業、若しくは、訪問客と商談を行う事が出来、一般の商業ビルに進出するよりも、容易に顧客開拓ができる事が期待できるためである。更に、入居企業は会場内の会議施設や管理スタッフの利用ができる点も有り難い。

華南城を使用する際に、ネックとなるのは問題となるのはロケーションであろう。

華南城は交易センターなので、施設内に多くの企業が入居し、バイヤーが訪問してこそ、十分な機能が発揮できる。

但し、この開発区は、高速道路からのアクセスは良いものの、深センの市街地からの距離は近いとは言えない。バイヤーの足をここに足を向けさせるには、一層の入居率の引き上げ（店舗数）が必要で、これには、もう少しの努力が要りそうである。入居率の向上が、この開発区の付加価値を生む構造になっており、これが上がらなければ、立地に劣る華南城の魅力も失われる。外国企業にとっては、深セン・広州の市街地に出展した方が良いと言う状況に繋がってしまう。

現時点では、施設の華やかさの反面、若干、さびしい感じも受けるが、移り変わりの激しい中国の開発区は目を離せない。今後、計画通りに展示区域の拡張、生活区の整備等を行っていく予定のようであり、2〜3年後には、一大交易タウンとなる可能性も秘めている。

華南城の説明を受けた時に、その収益構造に付いて疑問が生じてきた。

職業柄、どの開発区に行っても、事業採算性が気になってしまうのであるが、特に、華南城の場合、設備の維持コストが大きい為、展示施設の賃貸・売却収入だけでは、十分な収益を確保できないように見受けられる。

これを解決するのが、場内にある2つのホテル、倉庫（保税倉庫を含む）、物流センター、B to Bセンターの様である。全て華南城の子会社となっている。

つまり、展示施設に関する不動産収入で最低限のランニングコストをカバーし、これらのサービス収入で儲けるというのが華南城のビジネスモデルという事になる。

中国には、全国で数千の開発区があるが、その中でも華南城は、交易・物流・ＩＴというサービス機能に特化した、新しい種類の開発区と言える。

中国が積極的な外資誘致を開始してから20数年が経過し、開発区の内容も多様化してきている。華南城を訪問して、その感を強くした。　　　　　　　　（本記事は2005年11月に読売新聞で掲載された内容を加筆）