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ログイン2006年3月2日
<労務・人材>
幹部従業員の事例・その対応策(1)
従業員の責任・義務は納得させてから守らせることが効果的
中国でビジネスを展開する以上、現地の事情に詳しく、できれば日本語も堪能な現地の中国人従業員が現地法人の中ではキーパーソンになることが多い。その中国人幹部従業員がまじめに仕事を行えば、日本人総経理は毎日雑務に追われることなく、取引先対応その他重要な事項に専念することができる。
ただし、この従業員と会社との間の雇用関係から見れば、日本における雇用関係とは大きく違う一面を有し、日本本社のやり方をそのまま持ち込んでいる場合、トラブルに繋がるケースが多々ある。(本文における事例は、守秘義務により、実例に応じて若干編集したものである。)
【事例1】
本社採用して現地に派遣してきた幹部従業員が、最近上司の指揮命令に従わなくなり、正したところ、いきなり「切れて」辞職すると言い出した。長年労務管理も任されていただけに、当該幹部従業員経由で採用された2名の営業担当も、翌日には当該幹部従業員の処遇に対する不平を理由に、辞職願いを提出し、通常貿易業を僅かの人数でカバーしていたのでいきなり戦力の半分を失うことになった。
<コメント>
任せ切りが問題となった。後から同情辞職した2名の従業員は、会社に所属している意識よりも、その幹部従業員の恩義に惹かれて、行動を共にしなければならない意識が強かった。
【事例2】
ある日系メーカーのオーナーは、新卒者のみ採用し、中でも能力のある従業員に対してはさらに日本研修をさせ、実績を積ませてから、工場の運営管理全般を任せる運営を行っていた。その上で、念のために、日本人幹部を置き監督管理させ自分も1ヶ月一週間のペースで工場に来ていた。
本社は日本で受注した製品を全て現地工場へ発注することによる単価引き下げが寄与し、業績も極めて良くなっていた。現地工場は本社からの発注をこなすことでコストダウンはもとより、工場も順調に業績をあげていた。そのような状況で、オーナーはそろそろ引退し、 その持分を幹部従業員にも持たせることを考えた矢先に、メインだった幹部従業員は、中堅の幹部を率いて一斉に辞職願いを提出してきた。その理由を問い質したところ、待遇などに不満があることではなく、どうも自分たちが別途投資家を見つけて、同業の工場をすでに作ったとのことであった。
<コメント>
癖のない新卒者を採用し、技術や日系企業のやり方を教え込んだことは良かったが、従業員としての会社に対する責任・義務、とりわけ競業避止義務、服務期間についての義務など、中国の労働法でも認められている従業員義務を教えて込んでいなかった。長年手塩にかけてきたというオーナーに対して、幹部従業員たちは何もオーナーに悪いという意識がなかったようだ。
【事例3】
初期投資で工場を作り、5、6人でスタートした。軌道に乗ったため、大学卒の者を数人雇い入れた。ところが、数ヵ月後、大学卒の者が資本家たる会社に搾取されているため、賃上げ交渉に乗り出し、現地の管理者が本社の指示を待っている間に、全員ストライキに発展した。
<コメント>
中国は、「和諧社会」(調和した社会)を目指すとスローガンを打ち出したものの、学校教育の段階では、まだイデオロギーの色彩が強く、昔の名残りとしての「資本家」、「搾取」などをそのまま学生に教えている。一方では学生に社会人である責任・義務、そして法治国家の市民たる責任・義務をあまり教えていない。そのために、社内運営管理上当然必要となる指揮命令の遵守や給料の支給などが、まさに現代社会の「資本家」を証明する格好の材料となった。
上記のいずれの事例の中でも、その従業員と接触したところ、一致しているのは、皆がよく労働法の規定を研究していることだ。そして、労働法の従業員権利規定をよく研究しておきながら、会社の権利規定およびその理由には全く目を向けていない点も一致していることは、興味深い。
中国人の従業員は、親、学校そして社会から、会社に雇用される従業員としての責任・義務について教わることが少ない。会社による雇用確保の対価として、従業員が何を守らなければならないのかについての意識が非常に薄い。これは、中国の歴史、中国のイデオロギーなどのゆえに生じた現象ではあるが、これに嘆くことより、この現象をよく理解し、対応策を打つことがが、幹部従業員にかかわるトラブルを減らすことができるであろう。
日系企業は、よく現地の幹部従業員に技術の研修や礼儀作法の研修をさせている。自分がレベルアップしたので、研修が終わってすぐ他社に「跳槽」(転職)した者も後を絶たないぐらいだが、弊所の経験では、幹部従業員に対して、従業員の権利・義務を説明し、心底からその合理性について納得してもらうことが、効果が大きいと思っている。
労働法、各地方の労働契約条例や賃金条例ならびに会社設定の労働契約、就業規則などにおいては、従業員権利や義務などが多く書かれているが、その各条文の法的由来、合理性の由来について納得させその上で、遵守を求め、違反行為に対して処罰をすることが肝要である。
たとえば、以下のことについて説明を行う。
※
なぜ「ホウレンソウ」が必要か。
※
なぜ会社に在籍中開拓したお客さんが自分のお客さんではなく、会社のお客さんなのか。
※
なぜ経費の精算を厳格にしなければならないのか。
※
なぜ会社に対して、秘密保持義務、競業避止義務、服務期間規定などを遵守すべきか。
※
なぜリベートを禁止するのか。
※
なぜ離職の際に、きちんと引継ぎをしなければならないのか。
※
なぜ会社が一方的に作った就業規則など社内の規則制度も、法的効力を有し、従業員がこれに従わなければならないのか。
日本の従業員なら当たり前のことだが、今までまったくそのような教育を受けていない中国人従業員については、これらの教育をすることによって、従業員の忠誠心に亀裂が生じたり、、或いは労務トラブルに発展してから対応することより、コストパフォーマンス的に断然よいであろう。
(つづく)
(2006年3月記・2,428)
上海ジョイハンド(慧元)法律事務所
弁護士
独立行政法人 中小企業基盤整備機構 海外支援 アドバイザー
王 穏
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