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ログイン2006年4月20日
第3回 香港ドルと人民元
1.香港ドルと人民元
ここ数年、人民元切り上げの話題が尽きないが、この様な人民元切り上げ圧力は、香港ドルの相場にも影響を及ぼしている。
香港ドルは、1983年以降、US$ 1 = HK$ 7.8でペッグされてきたが、為替制度が微調整され、若干の変動幅が設定された(7.75〜7.85の間)。
為替制度を調整した目的は、人民元にひかれて香港ドルにも切り上げ圧力が高まった為、変動幅を設定する事によって、却って、切り上げ上限を意識させ、通貨の安定を図る事が目的と言われている。
通貨・為替制度に関しては僕の専門を外れるので直感的なコメントになってしまうが、先ず不思議に感じるのは、「人民元が切りあがると、香港ドルも切り上がると考える人が多いのは何故だろう」という点である。
確かに、現在では、香港の経済が大きく中国内地に依存している事は否めない。但し、香港と中国では、個別の為替制度が採用されており、両地域では、経済制度も物価水準も異なっている。
中国で生活している実感では、人民元が過小評価されているのは確かと思われるし、この意味で、人民元に対する切り上げ圧力が強いのは「あるべき論」として理解できる。然しながら、香港ドルが過小評価されているという実感は、僕自身全く持っていない。
却って、香港ドルを円換算した物価の高さに辟易するくらいである。
この様な状況を考えると、人民元と香港ドルを巡る環境は全く別であり、人民元と香港ドルを連動させるような投機的な動きは、経済の実態を踏まえたものとは、とても思えない。
現在、香港ドルの相場は、人民元の+4%程度であり、大雑把に言えば、「ほぼ同じ」通貨価値である。
全くの私見であるが、両通貨がこの様な関係である事が、香港ドルに対する間接的な切り上げ圧力に繋がっているのではないかとも思う。
つまり、事由兌換が可能な香港ドルと、兌換制限がある人民元が、ほぼ同水準で存在している状況に、かつての兌換券と人民元の関係を重ね合わせる向きが多いのではないかという事である。 もし、香港ドルが、人民元の二倍以上であれば、両通貨に関して人々が持つイメージは随分違うのではないか。
2.両通貨の関係の推移
今でこそ、両通貨は、ほぼ同水準となっているが、以前は、全く別の動きを見せていた。
香港ドルは、ペッグ制が採用される直前に、1米ドル当たり 6〜9.5程度という荒い動きを見せていたし、人民元相場も、1994年の為替改革で、1米ドル当たり、 5.7から8.8程度に調整されている。その後のゆるやかな調整によって、現状の水準(1米ドル当たり、人民元は8.07、香港ドルは7.75)になっているが、これは、計画されたものと言うよりは、偶然の状態であると考えている。
僕が福建省で暮らした1990年は、人民元の方が香港ドルより高かった訳で(1米ドル当たり、人民元は5.7、香港ドルは7.8)、それから暫く、人民元の方が強いというイメージが強かった。 その為、1997年に香港赴任し、初めての中国出張をした際に、経費精算でレートを逆に計算して、同僚から笑われた事が有る。
3.香港ドルのイメージ
僕が福建省で暮らした1990年は、まだ、華南の活気が、中国の中で飛びぬけていた時期である。
中国での実務研修を終えた僕は、帰国前に、深セン・香港を訪問したが、その折、華南の活気を目にして、そのパワーに圧倒された。
また、深センで、(香港ドルが流通しているが為に)兌換券が全く歓迎されない状況からも、香港の影響の大きさを実感した。
その時の香港は、中国経済を牽引するかのイメージが有ったし、香港ドルは、中国の中では強さの象徴に思えたものである。その印象を、僕は日記に、「中国に主権返還される事により、香港の中国化が進むと言われているが、却って中国、少なくとも華南は香港化が進むのではないか」と記している。
それから15年が経過した。
現在の香港と中国内地の関係は、僕が香港・華南の経済の活気に驚いた時と比べると、大きく変わっている。当時の僕の予想とは比べ物にならない程に、中国内地の経済は存在感を増している。2000年代中盤には、CEPA(香港・内地の自由貿易協定)等の手段によって、香港を支えるようになっているし、人民元の切り上げ圧力が、香港ドルに恒常的な影響を与えるようにもなっている。
この様な激しい変化に、時の流れをつくづく感じるのである。
(本記事は2005年に読売新聞で掲載された内容を加筆)
(2006年4月20日掲載・1,741字)
丸紅香港華南会社コンサルティング部長・広州会社管理部長
水野真澄
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