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誰が「独占禁止法」における「集中に参加する事業者」に該当するか

中国ビジネスレポート 法務
郭 蔚

郭 蔚

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2013年2月5日

「事業者集中を制限する」ことは、中国現行の「独占禁止法」上の一つの重要な制度である。「独占禁止法」およびその関連法規、規則の規定に基づき、申告基準に適合する事業者集中について、「強行的事前申告制度」を実施する。即ち、ある事業者集中が国務院が定める申告基準[1]に達している場合、事前に国務院独占禁止法令執行機関(商務部独占禁止局)に申告しなければならず、独占禁止法令執行機関が審査を行い、且つ当該集中を認めるかどうかを決定する。

従って、上記の制度の実務取扱いにおいて、事業者が先ず解決しなければならない課題は、「取引が申告基準に適合するかどうか、申告する必要があるかどうか」ということである。通常、当該問題を解明するために、以下の三つの方面について分析し、確認を行わなければならない。
問題一、当該取引が「独占禁止法」に定める「事業者集中」を構成するかどうか。問題二、誰が「集中に参加する事業者」に該当するのか。問題三、集中に参加する事業者が定められた売上高基準に達するのかどうか。

上記の問題一、問題三については、「独占禁止法」およびその関連法規、規則において、かなり明確な規定がある。問題二については、現在、法律上具体的な規定および解釈はまだ存在していない。しかしながら、上記の三つの問題は、ロジック上において必然的な前後の順番があり、誰が「集中に参加する事業者」であるかを判明することは、一つの取引が申告基準に適合するかどうか、申告する必要があるかどうかを判断するための必要なステップとなる。このステップは、事業者集中申告/審査手続を開始する必要があるかどうかの判断にとっては、重要な意味がある。

下文では、筆者は事業者集中審査の代理申告を取り扱ってきた経験および商務部独占禁止局との確認を通じて把握した情報に基づき、且つ「独占禁止法」の関連する理論を踏まえ、「集中に参加する事業者」に該当するかどうかを判断する方法とルールを検討する。

一、「集中に参加する事業者」に該当するかどうかを判断する基本方法および留意点
「集中に参加する事業者」に該当するかどうかを判断する基本方法は、以下の通りである。
1. まず、当該取引が「独占禁止法」第二十条に定める三つの「事業者集中」の状況に適合するかどうかを判断しなければならない。
2.次に、法律に定める事業者集中の状況に適合する場合、当該集中取引により発生する可能性のある結果に基づき、当該集中取引の過程において関連する事業者(対象会社を含む)間の支配権の変動状況を分析し、その分析結果を踏まえて、どの事業者の市場影響力に結合が生じたかを判断しなければならない。

「事業者集中」の本質は、互いに独立した事業者が集中取引を通じて、それぞれが有していた市場影響力を結合させるという目的を実現させることである。従って、一つの集中取引において、市場影響力の結合が発生した事業者のみが集中に参加する事業者に該当する。「独占禁止法」第二十条に定める三つの「事業者集中」の状況と合わせて、筆者の認識では、市場影響力が結合した事業者は、具体的に以下の三種類がある。
● 合併に参加する事業者。
● 支配権を取得する事業者および支配される事業者。
● 共同で同一の対象会社に対する支配権を取得する事業者。

判断する過程において、以下の三つの方面の問題に留意しなければならない。

一、「市場影響力の結合」の具体的な表現としては、「事業者がその他の事業者に対する支配権を取得しまたはその他の事業者に対する決定的な影響を与えること」である。

中国現行の「独占禁止法」において、「支配権を取得しまたは決定的な影響を与えること」に関する定義付けは明確ではなく、実務取扱において容易に把握できない。実務取扱において、通常、議決権付株式または資産の50%以上を取得した場合、支配権または決定的な影響力(通常、「絶対的な株式支配」という)を取得したとみなす。但し、当該見解は、法律上確定されていない。実際、場合によっては、事業者が保有する持分または資産が50%に達していない場合においても、その持分比率がその他のいずれか一つの株主を上回った場合、または会社の定款において当該株主には1票否決権がある旨を定めるなどの形を通じても、「支配権を取得しまたは決定的な影響を与える」という状態になることも可能である。従って、「支配権を取得しまたは決定的な影響を与える」という概念は、実践において依然として非常に曖昧である。この問題を解決するためには、商務部が「事業者集中申告暫定弁法(意見募集稿)」を作成し、当該弁法には、以下の通り規定している。

「独占禁止法」第二十条第二、三項にいう「その他の事業者に対する支配権を取得すること」には以下の状況が含まれる。
(一)  その他の事業者の議決権付株式または資産の50%以上を取得する。
(二) その他の事業者の議決権付株式または資産の50%以上を取得していないが、持分または資産の取得および契約などの方式により、その他の事業者の1名以上の董事会の構成員および主要管理人員の任命、財務予算、経営販売、価格の決定、重大な投資またはその他の重要な管理および経営の戦略などを決定できる。

二つまたは二つ以上の事業者が共同で一つの新しい企業を設立することは、「独占禁止法」の第20条にいう事業者集中を構成する。

当該規定は、「支配権を取得しまたは決定的な影響を与える」の意味を明確にし、「独占禁止法」の関連規定が実行可能性を具備するようにした。残念ながら、商務部が正式に公布した「事業者集中申告弁法」においては、上記の規定が削除されたため、「支配権を取得しまたは決定的な影響を与えること」に対する具体的な判断基準が明確ではなくなってしまった。しかしながら、筆者の認識では、上記の基準は、誰が「集中に参加する事業者」であるかを判断する際に、依然として一定の参考価値があると思われる。現段階において、具体的な法律法規が公布されることによって、それが明確になるまでは、上記の基準を参考にし、「支配権を取得しまたは決定的な影響を与える」状況を判断することができる。

二、必ずしも全ての「取引に参加する事業者」は「集中に参加する事業者」であるとは限らないため、「集中に参加する事業者」と「取引に参加する事業者」を区別する必要がある。
● 「集中に参加する事業者」とは、通常、集中を実施するまで支配関係がなく、集中の実施により互いに支配関係があるようになった事業者をいう。
● 「取引に参加する事業者」とは、通常、集中を目的として取引に参加した買取側、売却側および対象会社などの事業者をいう。

通常、一つの事業者集中は、独占禁止法上の「市場影響力の結合」として現れ、同時に、民商法、契約法上の一つの「取引」としても現れてくる。よって、場合によっては、「集中に参加する事業者」と「取引に参加する事業者」が同一のものであることもある。但し、これは絶対的なことではない。従って、誰が集中に参加する事業者であることを判断する際に、具体的な取引の状況を分析し、取引過程における「支配権」の変更および市場影響力の結合状況を重点的に検討することを通じて、「市場影響力の結合のかかる主体」を「集中に参加する事業者」として確定するものとする。一方、取引に参加したが、事実上かかる市場から撤退し、またはその市場影響力がその他の事業者と結合していない事業者については、取引の参与者に過ぎず、集中に参加する事業者を構成していない。

三、同一の事業者集中取引において、関連会社関係のあるグループ会社間に、集中に参加する事業者は一つしかありえない。その理由としては、集中の本質は、従来互いに独立した事業者同士の結合であるが、同一のグループ内の異なる事業者は、互いに独立した事業者ではないためである。

二、    実例分析
「独占禁止法」第20条の規定[2]および前述の判断方法と原則を踏まえ、実務取扱においてどのように「集中に参加する事業者」に該当するかどうかを判断することについて、以下の通り例を挙げて説明する。
         

取引に参加する事業者 取引完了後の支配権の変更 集中に参加する事業者 説明と解釈 事業者の統合 吸収合併:
(A社の子会社であるA1がB社の子会社であるB1を吸収合併する)
新設合併:
(A社の子会社であるA1とB社の子会社であるB1が新設合併を行い、合併によりC社を設立する) A社
B社 吸収合併:
A社が単独A1社を支配する。 A1社
B1社 取引完了後、B社はB1を支配しなくなるため、売上高を計算する際に、以下の通り取り扱う。
● A1社の売上高は、A1社およびA1社との間において支配関係または被支配関係がある全ての会社(A社を含む)の売上高の合計額である。
● B1社の売上高は、B1社およびB1社が支配している全ての会社(B社を含まない)の売上高の合計額である。
新設合併:
A社とB社はいずれもC社の株主になり、共にC社を支配する。 取引完了後、B社は依然としてB1社に対する支配に参与しているため、売上高を計算する際に、以下の通り取り扱う。
● A1社の売上高は、A1社およびA1社との間において支配関係または被支配関係がある全ての会社(A社を含む)の売上高の合計額である。
● B1社の売上高は、B1社およびB1との間において支配関係または被支配関係がある全ての会社(B社を含む)の売上高の合計額である。
A社がB社の100%出資子会社であるC社の持分を買取することにより、C社に対する単独支配権を取得する。 A社
B社 A社が単独でC社を支配する。 A社
C社 取引完了後、B社とA社、C社の間において、法律上の関連会社の関係がなくなり、B社は、集中に参加する事業者に該当しない。
A社とB社は、C社の100%出資子会社であるD社の持分を買取する。取引完了後、A社およびB社は、共にD社を支配する。 A社とB社(買取側)
C社(売却側)  取引完了後は、A社とB社はともにD社を支配し、C社が撤退する。 A社
B社
D社 取引完了後、A社、B社、D社の市場影響力の結合が発生するが、C社の市場影響力はA社、B社、D社の市場影響力との結合が発生しておらず、且つD社との法律上の関連会社関係がなくなるため、C社は、集中に参加する事業者に該当しない。
A社は、B社からその100%出資子会社であるC社の持分の一部を買取する。取引完了後、A社とB社はともにC社を支配する。 A社
B社 取引完了後、A社とB社は、ともにC社を支配する。 A社
C社 B社とC社は同時に「集中に参加する事業者」とすることはできない。
取引前、B社は単独でC社を支配し、B社とC社は、支配と被支配関係のある会社に該当する。競争法から見れば、B社、C社は、単一経済実体(事業者)とみなす。
取引後、A社とB社は、共にC社を支配する。B社とC社の関係は、単独支配関係から共同支配関係になる。実際はB社とC社の結合体の市場影響力はA社の市場影響力と結合した。
取引において、A社はC社に対する共同支配権を取得し、A社とC社の間において、市場影響力の統合が直接に生じる。即ち、A社とC社の間において、集中が直接に発生するわけである。よって、C社は集中に参加する事業者を構成する。B社は、C社と支配関係のある会社として、C社とともに集中における事業者の一方とし、その売上高はC社に計上される。
資産を取得する方式を通じてその他の事業者に対する支配権を取得する A社がB社の保有しているC資産を買取する。
取引完了後、A社がC資産の所有権を取得し、C資産がA社に組入れられる。
従って、集中に参加する事業者は、それぞれA社とC資産である。 A社
B社 取引完了後、A社がC資産の所有権を取得し、C資産がA社に組入れられる。 A社
B社 取引の実質は、A社とC資産の市場影響力が結合したことである。
取引完了後、B社はC資産に対する所有権を喪失し、B社とA社、C資産の間において、法律上の関連性がなくなる。よって、売上高を計算する際に、B社については、B社がC資産を運営することにより生じた売上高のみを計算するものとする。
合弁企業の設立 A社とB社はC社を新設し、且つ共同でC社を支配する。 A社
B社 A社とB社は共同でC社を支配する。 A社
B社 A社とB社は、新設された合弁企業に対する共同支配権を取得し、合弁企業を通じてA社とB社の市場影響力の結合を実現する。

備考:「独占禁止法」第20条に定める事業者集中の(三)の状況は以下の通りである。
事業者が契約などの方式を通じてその他の事業者に対する支配権を取得しまたはその他の事業者に対する決定的な影響を与えることができること。
―実践において、通常、合弁企業の設立を当該規定の代表的な状況とみなす。

集中の状況

持分を取得す
るという方式を
通じてその他の
事業者に対す
る支配権を取
得する

         
最後に、中国では、独占禁止分野での法的な歴史がまだ浅いため、独占禁止に関する立法、法律執行および司法の経験はいずれも充分ではないことに注意したい。従って、現在および今後、事業者集中申告、審査制度を含む独占禁止に関する諸法律制度は整備されていくものと思われる。本文は、あくまでもかかる実務取扱経験および商務部独占禁止局との確認により把握した情報を踏まえてまとめたものであり、今後、新しい法令または法律解釈が公布されるにともない、上記の見解に対して調整を行う必要がある可能性も否定できない。筆者は引き続き中国のかかる立法および法律執行の動向に注目し、その都度迅速な調整を行うようにしたい。

(里兆法律事務所が2012年10月付で作成)

[1]2008年8月3日国務院令第529号「事業者集中申告基準に関する規定」。
[2]「独占禁止法」第20条 「事業者集中」とは次の状況をいう。
(一)事業者の統合。
(二)事業者が持分または資産を取得するという方式を通じてその他の事業者に対する支配権を取得すること。
(三)事業者が契約などの方式を通じてその他の事業者に対する支配権を取得しまたはその他の事業者に対する決定的な影響を与えることができること。

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